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第43話 回収

 さて、何とかカニバルズスライムの討伐が終わりましたか。

 しかし……それで冒険者の仕事は終わりではありません。

 むしろここからが本番とも言えるでしょう。


「ん~……随分と数があるわね。何だったのかしらね、あのスライム」


「さぁ、一つだけ色の違う核があったけど……それ以外は全部普通のスライムの核とまるで同じだよね?」


「そう、ね……ふぅ、面倒くさい」


 ランちゃんが辺りを見回して、ぼやくように言っています。

 まったく、ここからが肝心なところだというのに仕方のないことですね。

 幾つも散らばるスライムの核。

 これらは全てカニバルズスライムが吸収していたもの。

 これを回収して届けなければいっぱしの冒険者とはいえないでしょう。

 冒険者というのはそうして報酬を受け取って生活をするものですから。

 まぁ、とはいえ回収の出来ない事態というのもあるにはあるのですが……今回はそれには当てはまらないでしょう。

 数は多いですが、普通に回収すればいいだけですからね。


「……これだけでギルドで受けた依頼は達成できてしまいそうね。うんざりするくらいあるわよ……」


「あ、はは、まぁ、それは僕も思うけどさ……ランも手を動かしてよ、一人じゃ回収しきれないって」


「そうね……気は進まないけど……あ~ぁ、一度で指定個数以上を獲得するのも楽じゃないわね。面倒くさい」


「いいじゃん、別に。こっちの方が戦う時間が短いぶん手間も省けてさ」


 ランちゃんの渋々といった様子にレンくんが苦笑をしていました。

 うんうん、二人で協力して拾うのですよ。

 こういう光景……なんと微笑ましいのでしょうね。

 こうやって二人で協力してモノを拾い集めていく……幼い頃の姿を思い出すかのようです。

 とはいえ、この状況、冒険者として考えると少し危ないものではあるのですけどね。

 この辺にレンくんとランちゃんを害するほどの魔物が……カニバルズスライム以上のものが居るとはもう考えづらいことではあるのですが。

 

「……随分ありそうだな、師匠」


「ええ、カニバルズスライムとはそういうものですからね」


 疲れたように話しかけてくるコウガ君に適当に返事をしながら、見守っていく。

 今回は特に多くの核を回収できる戦法を取りましたからね。

 カニバルズスライム本体の核を一撃で射貫く。

 勝ち方としては最上といえるでしょう。

 その分、回収をする核も増えるのは道理。

 他の核はカニバルズスライムの制御下に置かれているだけですからね。

 しかし、言うのは簡単ですが、実行をするのは意外と難しい。

 何故なら液状の身体にあのように夥しい量の核があるわけですからね。

 それも体内に隠れているので、色が違うとはいえそれだけで戦闘中に判別するのは難しい。

 回収時間の方が長い、というのはそれだけ楽に勝てたという証拠でもあるわけです。


「はぁ、疲れた。もうこれを回収するだけだと思うと急にやる気がなくなってきたわね……レン、わたしちょっと休憩してもいいかしら? 戦闘で疲れたし、交代で休みましょうよ」


「駄目だよ。この状況を早くどうにかしないと、帰るまでが仕事だって昔先生も言ってたじゃないか。依頼の達成を報告するまで気を抜いてはいけませんってさ」


「っ……それを言われるとわたしもちょっとつらいけど……でも、所詮はスライムの核じゃない?別に他の魔物に襲われてどうにかなろうと、誰かに少しくらい取られようとその程度ならどうでもよくない?」


「いやいや、駄目だよラン。そういう考えはさ。自分たちで倒したんだから、自分たちでしっかりと管理しなくちゃ」


「……ま、そうね。今はレンの方が正しいわね」


 といいつつ手が遅いのがランちゃんのやる気のなさを物語っていますね。

 腰に付けた鞄から疲労回復の薬を取り出して、それからもう一つをレンくんの方にも投げ渡していく。

 これで疲労は回復するはずですが、ね。

 ランちゃんの速度はあまり早くなりませんでした。

 やる気の問題ですね。

 ただまぁ、核の周りにはカニバルズスライムの体液が大量に付着しているのでそれも問題なわけなのですけどね。

 体液を処理して、丹念に核だけを乾燥させて、と……これがなかなか手間のかかる作業なわけです。


「…………なぁ、師匠」


「今度は何ですか?コウガ君」


「いや、これもずっと見守ってるわけ?」


「当たり前ではないですか。私は二人を見守るためにここに居るのですよ?」


「いや、そうじゃなくて……」


 何でしょうね?

 コウガ君は何だか呆れ顔でした。

 私としてはどうでもいいので、そんなことは気にしないわけですが。


「俺、ちょっと行ってこようか?」


「行ってくる、ですか?それはどうして?」


「いや、だって」


 レンくんとランちゃんはまだ回収作業を続けていました。

 多少は慣れてきたみたいですね。

 早くなってきましたが、それでもまだまだ数がある。

 それを見てコウガ君がまた疲れたように小さく頷いて……


「……師匠は手伝う気、ないんだろ?」


「ええ。二人の手に負えないことではありませんからね。これで出て行くのは過干渉というものでしょう」


「……こんなところに居る時点で過干渉な気がするんだが」


「おや、それは不思議なことですね。私はまるで手を出していないではないですか?今は何も干渉していないのに何が過干渉なのですか? それはまぁ、あの時は私が手を出しましたけどね。あれはやむにやまれぬ状況でしたし」


「あぁ、それは分かってるよ……で、まぁここまで見てたんだから師匠の理屈ももう大体分かってる。仮にここで俺が手伝うと言って出て行っても止める気はないんだろ?」


「まぁ、そうですね。好きにしたら良いのではないですか?」


 ここでコウガ君が出て行っても通りすがりの人が善意で手伝ってくれた、とただそれだけの話になりますからね二人にとっては。

 レンくんとランちゃんの初めての依頼に関しては特に大きく影響することではありませんし、やりたいなら好きにしてよいのではないでしょうかね。

 まぁ、この善意の一回が毎回毎回続くようになったら流石に私はコウガ君を止めますけど。


「このまま見てるってのも暇だし、時間がかかるからな。ちょっと行ってくるわ」


「そうですか。二人の元を離れるときには尾行で戻ってきたときにも気づかれないように気を付けてくださいね。ふむ、自分から訓練の難易度を上げるとはコウガ君も熱心ですね」


「……それは不本意だけども。見てるだけってのも嫌なんだ」


 コウガ君が私の元から離れていきました。

 方向としてはレンくんとランちゃんから正反対の方向になりますね。

 ふむ、まぁ私もよくやる手なのですが偶然を装って上手くやるつもりなのでしょうね。

 ここから出て行ったら流石に距離が近すぎる。

 少し遠くからの方が自然というものです。

 これなら隠密の修行としても良いものになると言えましょう。

 

「……ん?これは」


 と、そこで妙な気配が私の感知にかかりました。

 微かな瘴気。

 人なのか、魔族なのか、それすら定かではない奇妙な反応。

 この反応は……


『コウガ君、少し待ちなさい。待機です』


「はぁ?いや何でそんなこと」


 声が聞こえてきましたが、これは無視します。

 遮音結界は未だに有効ですからね。

 とにかく待つように念話で言い含めて前方を注視する。

 気配が急に現れましたね。

 私の感知ミスなら良いのですが……

 そこには、レンくんとランちゃんの友達であるというユリィの姿がありました。


「あれ~?レンくんとランちゃんだ、こんなところで何してるのかなっ?」


「あ、ユリィだ。今日はよく会うね」


「うんっ、三回目~。ランちゃんもほらっ!お友達のユリィが来たよっ、挨拶挨拶っ」


「はぁ、やかましいわね。前にも言ったでしょ?事あるごとに友達であることを強調するんじゃないっての」


「ええ~、でもお友達だよ~?お友達だよね?」


「あ~、はいはい、そうね……ったく、鬱陶しいわね。で、何で居るわけ?」


「えへへ~、ちょっと暇だったから様子見に来よっかなぁって」


「あっそ」


「わぁ、ひど~いっ」


 楽しそうに会話をしていますね……

 しかし、これは奇妙です。

 コウガ君の情報では彼女は街の雑貨屋に向かったとのことでした。

 ここの場所を彼女は知らないはずなのです。

 それなのに、こうも容易く……タイミングを図ったかのように現れるなど私には作為的なものとしか思えませんが。

 私の制止を聞いて横に戻ってきたコウガ君も目を丸くしていました。


「……あれ? あの子、わざわざ追って来たわけか?律儀な子だなぁ」


「律儀、ですか? それはつまり?」


「ああ、依頼達成の報告をするときにさ。張り出されている依頼を見て確認してたんだよ。どの依頼がなくなっているのか、そんでその討伐対象はどのあたりに居るのかってさ」


「……」


「まぁ、大体は予想が付いてたみたいで「やっぱり」なんて調べ終わった時に言ってたけど」


「……そうですか。それはそれは」


「?何さ、師匠。俺の方を見て」


「いえ、これは後にしましょう。とりあえずコウガ君の訓練を少し厳しくすることが今決まりましたからね」


「なんでっ!?」


 理不尽だと言いたげに目を見開くコウガ君に、シーと黙るように手ぶりで告げる。

 何やら聞いていない情報がたくさん出てきましたね。

 調査を頼まれたらどんな些細な事でも自分の中で消化せずに報告することをまず教えなければいけない様子。

 これは隠密として雇われて情報を収集する際には最も基礎的なことになりますから、最初から言い含めていなかった私の落ち度でしょうかね……

 まぁ、それはそれとして今は正面のことです。

 とりあえず、今新たにコウガ君の口から出た情報を総合すると……この接触は偶然ではない可能性が非常に高いといえるでしょう。

 これは彼女の意志でやったこと。


「ふわぁ~、それにしてもすっごいね~。これ全部スライムの核なのっ? レンくんもランちゃんもいっぱい倒したんだね~」


「あ、はは、いや実はそういうわけじゃなくてさ。うん、倒した数はそんなじゃないんだ、僕とランで二十いくかどうかってくらいで」


「でっかいスライムが出たのよ。核を何個も取り込んでるようなでっかいスライムが、ね」


「ほぇ~、で、倒したからこんなにいっぱい?」


「そうよ。随分と核を溜め込んでたみたいね」


 拾いながら会話を進める、レンくんは苦笑気味でランちゃんはいやいやなのが見て分かるゆったりとした動きで。

 それに対して彼女は珍しそうに地面に散らばる核を見渡して……一通り見たところで小さく頷いていました。


「へぇ~、変わったのが居たんだねっ。ねぇねぇっ!そのスライムって強かった?」


「うん、まぁ強かったよ。普通のスライムとは比べ物にならないくらいに厄介で」


「へぇ、そうなんだっ。じゃあじゃあ、怪我とか?」


「してないわよ。わたしもレンも無傷、まぁ少し疲れたけどね」


「は~、そうなんだぁ~。二人ともすごいんだねぇ~」


 ……怪しいですね。

 私はすでにいつでも介入できるように魔力を収束させていました。

 ユリィ、彼女はレンくんとランちゃんの友達。

 ですが……例えそうであろうと、私は気を緩めません。

 彼女からは不穏な空気がする。

 いつでも動けるように……不意打ちなどしようものなら光線魔法で射抜いてやるつもりです。

 ただまぁ……これは万が一のための備え、というだけですが、ね。

 私が介入するような事態にはならなければ良いのですが……

 落ちている核を拾うレンくんとランちゃん。

 それをただ見て頷いてるユリィ。

 その表情は……不思議なものでした。

 嫌そうでありながらもどこか満足そうで、嬉しそうに笑みまで漏らしていて……


「何よ?妙な顔でわたしとレンを見比べて」


「ううん、べっつに~。ただちょっと……へへぇ~」


「含みを持たせた笑いをするんじゃないわよ。一体何だってのよ?もったいぶってないで言いなさいよね」


「あっはっはっは、ぷくくくっ、えっと、ごめんねぇ。ただちょ~っと、ね」


「ちょっと……何よ?」


「うん、あたし二人みたいな強い人と『お友達』になれてよかったな~って」


「はぁ?何よそれ?」


「んっふっふっふ~、言った通りの意味」


 じゃあね、と告げてあっさりと去っていく。

 楽しそうに身体を弾ませながら帰っていく姿は非常に機嫌が良さそうで……その姿にランちゃんが眉をひそめていました。


「……何しに来たのよ、結局。友達だって言うんなら手伝っていきなさいよ」


「あっはは、まぁまぁ、こういった拾得物は当人たちが拾うのが義務だからさ。っていうか、ランも手が遅いよ?話すよりまず手を動かしなってば」


「あんたはあんたでよくこの作業に集中できるわね。わたしが話してる間ずっと拾い続けてたじゃない? わたしのぶんも拾ってくれない?」


「いいけど、僕一人に拾わせるなんて終わる頃には日が暮れてるよ?きっと」


「…………わたしも拾うわ」


 また渋々といった様子で核の回収を始める。

 どうやら、何もする気はなかったようですね。

 感知にも引っかからないほどの距離に行ったことを確認して、収束させていた魔力も霧散させる。

 お友達……ですか。

 彼女は私とコウガ君の存在に気付く様子はありませんでした。

 妙な素振りを見せることも。

 会話に、明らかに怪しいところも……

 普通であれば、大丈夫だと判断したくもなるのですけど、ね。

 しかし、言葉の端々に普通でない意味が隠れているような気がしてならない。

 嘘は吐いていない、というただそれだけな気がしてならないのです。

 こちらで捉えているものと、彼女が発しているものとで意味が大きく異なるだけで。


「考え過ぎなら良いのですが、ね」


 本当に……ただのお友達でいて欲しいものですが、ね。

 何も証拠がない今は祈っておくとしましょうか。

 二人に悲しいことが訪れないように、と。


「…………なぁ、師匠」


「……ん、何ですか?コウガ君」


「あの子も行ったみたいだし、もう行っていいか? 手伝わないと時間かかるだろう?」


「あぁ……そうですね。構いませんよ」


「あぁ、それじゃ」


 二人を見守る横で、コウガ君がお手伝いのために再度出て行きました。

 今度こそ大丈夫でしょう。

 可笑しな反応は感じられません。

 そしてそのまま遠回りをして、偶然を装って、と。


「……ふむ」


 しかし、そういえばコウガ君はレンくんとランちゃんに調理器具屋さんで会っていますね。

 今まさにユリィと別れた直後なわけですから……ここでまた知っている人と会うのは不自然な気がしなくもありませんが。


「……まぁ、そのあたりはコウガ君の腕の見せ所ですかね」


 私が関与することではないでしょう。

 しかし、二人とも……どうせならコウガ君のような子を友達にしてくれれば私としても安心だったのですけど、ね。

 人生というのはままならないものですねぇ。


「お、よお、お前たちまた会ったな。へぇ、大変そうだな」


「は?今度は誰……あぁ、えっと、本当に誰だっけ?出てこないわね。会ったことは覚えているのだけど」


「あっ、調理器具屋さんの……こんにちは。そちらも依頼ですか?」


「ああ、そんなとこだな。今終わったとこだ。で、そっちは……」


 ほう、中々やりますね。

 違和感なく話しています。

 あっさりと溶け込んで、核の回収を手伝う姿に若干感心。

 本当に……ユリィではなく、こっちなら良かったのですが、ね。

 巡り合わせが悪かった、と諦めるべきでしょうか……

 まぁ、コウガ君はコウガ君でレンくんのお財布を盗み取った泥棒なわけですからその点を考えるとどっちもどっちな気もしなくはないですが……

 やはり、私が見守っていくしかないでしょうね。

 核を回収していく。

 その速度は三人になったおかげで大分速いものとなっていました。

 二人とも、良かったですね。

 通りすがりの優しい人が居て。

 これがあるのは毎回ではないことを肝に銘じるのですよ?


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