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第42話 カニバルズスライム

 スライムの身体から発射される体液が地を溶かし、嫌なにおいを辺りに漂わせる。

 通常のスライムとは比べ物にもならないほどの強力な酸性。

 当たれば、無事では済まないことでしょうね。

 カニバルズスライム……こんなものがこの場所に居るはずがないのですが、ね。 


「っ、わわ、地面が、溶けっ」


「レンっ!気を付けなさい!この体液、ただのスライムの物じゃないわ!っ、この」


「分かってるっ、ランも気を付けてっ」


 叫びながら回避をしていく。

 その姿は、中々上手く立ち回れていると言えるのではないでしょうかね?

 うんうん、流石はレンくんとランちゃん。

 カニバルズスライム……この魔物は中々に厄介なのですよね。

 通常であればちょっと肌があれる程度で済むその体液も、カニバルズスライムの物と鳴ればそうはいきません。

 恐らく、人が居た痕跡すら残らないことでしょう。

 生身で受けては駄目な攻撃なのです。

 それが特に何の予備動作もなく何発も発射される……私の教え子でなかったら危なかったところでしょう。


「ふむ、見た感じ……・どうやらそれなりに成熟した個体のようですが」


 まず目を引くのがその大きさ。

 そして次に内部にまるでイボのように大量にあるスライムの核。

 嫌悪感を催す見た目もあれの厄介なところなのですよね。

 一般人であれば見るだけで戦意を喪失すること間違いなしといえましょう。

 その上で戦う上でまず厄介といえる点は……あれがスライムの特性をしっかりと引き継ぎ、しかもそれを体内に取り込んだ幾つもの核で強化をした個体であるというところにあります。

 強酸性の体液もそうですが……内部の液体の精製能力、これも比べ物にならないほど上昇し、ちょっとやそっとではその身体をしぼませることすら出来ないのです。

 幾つも体液を発射しているからといって、避け続けていれば中身が無くなって勝てると言うものではないのです。


「さて、二人はどのように戦うのでしょうかね?」


 一般的なスライムとの戦い方としては、先ほども二人がやっていたように斬撃で核以外の全てを散らす、魔法でその構成する体液を蒸発させるというもの。

 しかし、カニバルズスライムの再生能力を鑑みると現実的とは言えないでしょうね。

 イタチごっこに陥る可能性が高いと言えましょう。

 普通に考えれば核さえ破壊してしまえばそれで終わりなのですが。


「ふぅむ……それもまた」


 どうやらかなりの数のスライムを捕食した個体のようですね。

 身体に浮かぶ核の数が尋常ではない。

 しかし、この中で本体たるカニバルズスライムの核は一つしかありません。それ以外は能力の増幅器に過ぎないのです。

 これを一体どうするのか?


「っ、呑気だなっ、師匠!こっちにも飛んできてるぞ!」


「ん?あぁ、それはそうでしょう。核が大量にある分、その感知能力もかなりの物ですからね。それにスライム相手に通じる気配遮断をしていませんし」


「おわっ、危なっ」


 こちらに飛んでくる体液をコウガ君が必死に避けている。

 前で戦っている二人は、カニバルズスライムが無差別に広範囲攻撃をしていると思い込んでいるのでしょうね。

 もしくは、ただの流れ弾か……我々のことに気付いた様子はありません。

 実際、広範囲に飛ぶことでその移動が制限されていることですからね。

 無理もないでしょう。


「くっ、ぐぐぐ、ちょ、ちょっと師匠!なんで師匠は避けなくても平気なんだよ!何か、師匠の手前の空間で止まってるように見えるんだけど!」


「それは、魔法障壁で防御していますからね。避けなくても問題はありません」


「なっ、ズルっ!」


「ズルくはありませんよ。真正面から魔法で受け止めているだけなのですから」


「なら、俺の方にも障壁を張ってくれよ!」


「駄目です、これも修行です」


「ぐ、ぐぬぬ……なら、師匠の後ろに隠れれば」


「ふむ、やるというのならそれも別に構いませんが。この障壁は私だけを守るように展開しているので流れ弾に当たっても知りませんよ?」


 またスライムの飛ばした体液がコウガ君の付近に着弾する。

 それを大げさに飛び退いて避けて、嫌な音を立てて溶けていく地面に顔を引きつらせて、私の方を見る。

 泣きそうな顔をしていました。


「あの、ちなみにこれ、当たったら?」


「跡形も残らないのではないでしょうかね?そうでなくても重傷は間違いなしでしょう。自分で緊張感をもって避けた方が良いのでは?」


「ち、ちくしょ~っ!」


 なんだかヤケクソじみた叫びでした。

 ただまぁ、コウガ君のことはあまり心配しなくていいでしょう。

 そもそもが前線で戦う二人に比べて数が少ないですし、コウガ君の能力もこういった回避に必要なものは備えていますしね。

 頑張るのですよ~

 軽く心の中だけで応援をして、前方を見やる。

 二人の方も慣れてきたみたいですね。

 最初にあったような驚きは鳴りを潜め、落ち着いた戦いぶりを見せ始めていました。


「っ、このスライム、強いっ!どこに避けても触手が攻撃を仕掛けてくる!」


「ん……でも、そうね。この体液、魔力で身体全体を覆えば防ぐことが出来るわね。対処は楽な部類に入るわね」


「でも、ランっ、このままじゃこっちの攻撃も!」


「そうよね、そこが問題なのよね」


 強いと、そう認めてランちゃんが得意の風魔法をスライムの身体に叩きこんでいく。

 しかし、放たれた風の刃は効果を為しませんでした。

 ただ、その身体を通り抜けるように抵抗もなく通過していき……何事もなく断面が再生をし攻撃を繰り出してくる。

 あのときのゴブリンよりも苦戦しているかんじですね。

 まぁ、スライムということでゴブリンよりも戦い方が制限されますからね。

 無理もない。


「たああああっ!」


 剣に魔力を収束。

 レンくんが持つ固有の魔力の色に輝いた光の斬撃がスライムを襲う。

 しかし、それはなんら意味もないことでした。

 斬撃系の攻撃では駄目なのです。

 すぐさま元に戻り、まるで何事もなかったかのように攻撃を再開する。

 無論、その脅威に一番に晒されるのは攻撃を繰り出すために至近距離に居たレンくん。


「くっ、再生が早いっ、これじゃ身体だけ散らすなんて出来ないよっ」


 幾重にも襲い掛かる触手と体液を綺麗に避けて、距離を取る。

 その姿に観戦を続けるコウガ君がポツリと漏らしました。


「あの二人……勝てるのか?」


「問題ありません。仮に勝てなければ私が消し飛ばしますから」


「……簡単に言うなぁ、師匠は」


 引きつったような笑みでコウガ君が私の方を見ていましたが……

 実際、そんなに難しいことではないのですよね。

 あれを倒すのは。

 スライムですから、核を壊せばいいのです。

 まぁ、冒険者としての報酬を鑑みればそれをやるのは悪手なわけですが。

 まぁ、戦いの際に無理に危険を冒してまで報酬を得ることもないでしょう。

 いざとなればあそこにある核を全部射貫けばよいだけです。

 核を壊す……こんなことは当然、レンくんとランちゃんも気付いているとは思いますが。

 ふむ、私の方へ飛んでくる体液が減りましたか。

 代わりに攻撃の比重が増えたのが、レンくんとランちゃんと……それにコウガ君。


「あ、あの、師匠?なんかこっちに飛んでくるのがやけに多くなってきた気がするんだが」


「どうやら倒せそうにない私を攻撃するのは止めて、攻撃の効きそうな相手に比重を偏らせたみたいですね」


 ちなみに三人の中で今最も攻撃が激しいのがコウガ君です。

 この中では当然、一番弱いですからねぇ


「そ、そんな呑気なっ!俺が死んだらどうしてくれるんだっ!」


「あっはは、大丈夫ですよ、コウガ君なら。避けられます避けられます」


「くっ、くっそ~っ!避けられなかったら死ぬんだからなっ!」


 いやはや遮音結界を張っていてよかったですね。

 二人もスライムとの戦闘に手一杯でこちらに気付く様子はありません。

 余裕が無いのか、コウガ君ったら雄叫びを上げながら避けてますし、さっきからやたらとうるさいですし。

 こうしなかったら気付かれていたことでしょうね、きっと。


「くっ、いったい、どうしたら……」


 レンくんの口の端が吊り上がっていくのが見て取れる。

 あれは、レンくんが焦りを感じ始めている証拠です。

 レンくんは戦いにおいて苦しい状況に陥った時、相手にそれを悟らせないために笑顔でそれを覆い隠す癖がある。

 まだ、レンくんはどうすればよいのか探り探りのようですね。


「これは、どうだっ!」


 息もつかせぬような連撃。

 斬撃の嵐がスライムの身体を大きく散らし、その体液を辺りに撒き散らす。

 だが、それでもその攻撃はカニバルズスライムには効果の無いものでした。

 切れた端から繋がり、飛び散った体液もその再生力によりすぐさま補填されて……お返しとばかりに触手と体液がレンくんを襲う。

 しかし、それはレンくんも予期していたことのようで。

 大きく飛び退り、跳躍。

 向かってくる触手を手に持つ剣で二、三切り払い、障壁を張るランちゃんの後ろへ。


「疲れた?」


「あ、はは、まぁ、ちょっとひやりとしたけど……うん。でも、そうだね、このままじゃちょっと倒せそうにないよね。どうしよっか?」


「そうね……」


 考えるランちゃんの正面、魔力障壁を迂回するように触手が放たれる。

 動きに少しばかりの変化がありました。

 それを認識して、ランちゃんが風の刃で迂回してくる触手を切り飛ばし、それまでと同じように正面からも来る触手を魔力障壁で受け止め……小さく溜息。

 

「このスライム、馬鹿じゃないわね」


 どうも、学習しだしているようですね。

 恐らくは知性はない。

 本能のままに攻撃をしている、それは傍で見ている私からすれば一目瞭然なわけですが。

 戦いの中で成長を遂げている。

 どうするのが、効果的な攻撃方法なのか絶えず模索している。

 時間をかけるのはあまり得策とは言えないでしょうね。

 ただ……それもまだ拙い。

 まだまだ未成熟な個体である証拠です。


「……うわ、なぁおい、師匠?これは、不味くないか?」


「不味い、とは?」


「も、もうこれは師匠が助けるとこなんじゃないかってことだよっ。そのために追いかけ回してたんだろ?」


「うぅん、まぁ厄介と言えば厄介でしょうけどね」


「っ、何だよ!スライムの小っちゃい飛沫は始末してたくせにこっちは渋るのかよっ!大切なんじゃないのかよっ!」


「もちろん大切ですよ」


「それなら」


「でも、これはどうにも出来ない範囲ではないですからね」


「…………は?」


 この程度ならレンくんとランちゃんならどうにかなります。

 その信頼が私にはありました。

 だから私には手を出す気は一切ありません。

 そもそも、二人に戦いの技術を教え込んだのはこの私ですからね。

 あのスライムも戦いの最中に戦術を模索する能力はあるようですが……それはレンくんもランちゃんも同じこと。

 例えば、先の一撃。

 スライムがランちゃんの魔力障壁を迂回するように攻撃を放ちましたが……あれは、触手を地面から通して足の下から攻撃をすれば不意の一撃になったはずなのです。

 そんなことも考えつかずにただ稚拙な戦闘方法を模索している。

 これだけを切り出して考えても、二人が負ける要素はありません。

 この程度の状況、私が教えた戦闘の範囲でどうにかなるものですからね。

 それに、仮にこれを私がどうにかしたとして、その先が一番の問題になるのですよね。


「確かに強力ではありますが……これを私がどうにかしてしまうと、二人は戦わずに済んでしまいます」


「……は?それが、何だっていうんだよ? 駄目なのか?」


「駄目に決まっているでしょう」


 自分で戦いを始めた以上、極力自分以外の力に頼るべきではありません。

 大切な時に自分の力ではなく、誰かの助けを求めるようでは生き残れなくなってしまいます。

 例えば、コウガ君が先程引き合いに出したスライムの飛沫。

 あれは別に私が消してもなんら問題はないのです。

 二人には特に影響がないことですからね。

 肌荒れや、怪我、それからちょっとしたシミとか……そういったものが消える程度でしょう。

 この程度なら躊躇なく消し去ってしまってもいいでしょう。

 スライムとの戦い、その大筋になんら影響はないのですから。

 しかし、戦い自体に私が介入すること……これは二人のためにはならないから。

 そりゃもちろん危ない目にはあって欲しくない。

 幸せに暮らして欲しい。

 でもそれはそれです。

 二人が選んだ道がこれなのですから、安易な助けは長期的に見ると助けにはならない。

 二人の成長の機会を奪うことになる。

 それが一番良くない。

  

「コウガ君、レンくんとランちゃんは強いのです。二人を信じましょう」


「……今までの師匠の行動を見る限りまるで信用が出来ないんだけどな」


「そりゃ確かに本当の本当に非常事態になったら迷わず介入します。ですがね」


 これはまだ非常事態の範疇に入らない。

 助けようともしない私をむしろ責めるような目で見始めているコウガ君に、改めて言いましょう。



「大丈夫です、あれくらい二人なら勝ちますよ」


「……」


 不満そうな視線でした。

 ただ、私があまりにも自信満々だったので何かを言うのはやめたみたいですね。

 レンくんとランちゃんを見ることに戻るコウガ君。

 そこで、ちょうど動きがありました。

 ほら、やはり二人は二人で戦い方を模索しています。


「所詮はスライムよね……身体を蒸発させるのはどうかしら? いきなさい、ファイアボール!」

 

 鈍い音と共に飛んでいった火球がスライムの身体に着弾。

 その身体を炎で包み込む。

 しかし、その身体は炎の中にあって燃え尽きるようなことはありませんでした。

 それどころか炎の方が次第に力と勢いを失っていき……鎮火。

 あとには何ら影響のなかったカニバルズスライムの巨体のみが場に残る。

 無傷、といっていい結果でした。


「……ラン、どう?何か手応えはあった?」


「駄目ね、まるで効いてないわ。外側に阻まれただけよ」


 お返しとばかりにカニバルズスライムが液体を飛ばす。

 触手も弾幕のごとく放たれる。

 それを障壁で阻み、飛ばしてきた液体は火魔法で焼き尽くし……その結果にランちゃんはすっかり苦り切った顔をしていました。


「……どうやら中身そのものに効かないわけじゃないようね。当たれば、炎で蒸発させることは出来る」


「? それって、つま、り!? っ!」


 障壁を迂回し、飛び掛かってきた触手をレンくんが切り払い、その勢いで斬り飛ばされた触手が遠くまで飛んでいく。

 今のは、ただ迂回してきたものとはわけが違いました。

 地面を通り、ランちゃんの張る魔法障壁を避けて放たれたもの。

 確実に学習をしている。

 今はまだいいですが、その内に狡猾になり知恵をつけだすことでしょう。

 塞がれるから違うルートでの攻撃を試みている。

 さてさて、それほど時間をかけられる状況でもなくなってきましたが……

 レンくんとランちゃんは冷静そのものでした。 

 触手を魔法障壁で防ぎ、飛んでくる液体を魔法で防ぎ、迂回してくる触手は剣と魔法で防ぎ……分析を続けていく。

 

「多分、一番外側の膜は魔法に耐えられるほどの防御力を持っているのよ」


「……成程、外側は、ね。ってことは」


「ええ、そう」


 レンくんの目の前で飛んできた液体がランちゃんの火炎魔法によって焼き尽くされる。


 内側からならどうとでもなる。


 そのことに気付くと同時、レンくんが飛び出して行きました。


「わかったっ!!」


 スライムの元へと駆け抜けいく。

 それは電光石火のごとくでした。

 ランちゃんの魔法障壁が触手を防いで一瞬の隙が産まれたの同時、空へと跳びあがる。

 それを受けて、カニバルズスライムの攻撃がレンくんへと集中砲火。

 しかし、これをレンくんは液体を魔力を纏わせた斬撃にて切り払い、触手を魔力にて一時的に押し固めて作って足場で回避を行い……ついにカニバルズスライムの巨体の前へ。

 そして


「はああああああああっ!」


 刺突、魔力を纏わせた剣がスライムの巨体へと埋没した。

 ふむふむ、中々面白い攻略方法ではないですかね?

 赤熱化、スライムの身体が剣から注ぎ込まれる魔法によりその身体を炎の色に染めていく。

 ただ、この状況。私は見るだけで分かったのですが、隣に居るコウガ君はそうでもなかったみたいで。


「っ、攻撃が……止んだ?これってどういう?」


「どういうもこういうも見ての通りですよ」


「見て、の?」


 直後、カニバルズスライムの変化が始まりました。

 カニバルズスライムの巨体が波打っている。

 その内部ではボコボコと気泡が幾重にも発生していって……沸騰している。

 内部から構成する液体を焼き尽くす作戦のようですね。

 状態変化、熱による内部の膨張……それにより体表面の結束も緩んできた模様。

 カニバルズスライムの、至る所から体液が漏れはじめ、それがレンくんの身体へと降りかかっていく。

 

「……なぁ、師匠?あの液体ってかかったらやばかったんじゃ?」


「生身で受けたら、ですね」


 レンくんの全身に張り巡らされた魔力がその強酸性の液体を防いでいる。

 ちゃんと防御策を取ってから攻撃をしたわけです。

 ただ、まぁ……ちょっと液体の量が多めですね。

 全身にあれを防ぐほどの魔力を注ぎつつ、内部への攻撃をぞっこするにはかなりの魔力を要する……長くはもちませんね。

 しかし、この場に居るのはレンくんだけではないのです。

 そのような心配は無用でした。


「!見えた、そこっ」


 ランちゃんが指先から一筋の光を発射する。

 純粋な魔力の身を収束させた光線魔法。

 それは、先ほど私がスライムの飛沫を消し飛ばすのにも使っていた魔法と理論は同じです。

 一点集中のその魔法は、火炎魔法すらものともしなかったスライムの体表を容易に貫き、その巨体の中で唯一どうにかしようともがくように蠢いていた一つの核を貫通する。


「ふふっ、当たりみたいね」


 瞬間、カニバルズスライムの身体がその構成を保てなくなり崩壊を始めていきました。

 レンくんの内部攻撃でランちゃんの核狙いの二段構えだったようですね。

 崩壊する身体を見て、レンくんがその身体から剣を引き抜き、ゆっくりと後退をする。

 魔力も大分使ったでしょうからね……いつもとは違い、疲労困憊といった有様でした。

 

「はぁ、はぁ……やった、かな」


 崩壊するカニバルズスライムを少し離れた位置で眺めて一息。

 スライムの液には触れないように、そっと座り込んで身体を包む魔力を解いて……

 あぁ、これはいけませんね。


「っ、レン!離れなさいっ」


「……へ?」


 しかし、ランちゃんの声は間に合わいませんでした。

 疲労と勝利を確信した緩み切った緊張感では即座に動くことも出来ず、レンくんの身体に、道連れにせんとカニバルズスライムより放たれた最後の体液が降り注ぎ……


「…………え?これって、どういう?」


 光となって消えていく

 その光景にレンくんが呆然と呟き、直後ランちゃんが駆けつけてきました


「レンっ!無事なの!?」


「あ、うん、無事、だけど……さっきのは、ランが?」


「ううん、わたしじゃないわ。今のは、いったい?」


「……さあ?もしかして、やられたらあんなふうに身体が消える類のスライム、だったとか?」


 スライムの巨体が嘘のように消えていく。

 残されたのはその身体に取り込まれていた大量の核と……ランちゃんが射貫いた穴の開いた色違いの核が一つ。

 ふぅ、よかった。

 さっきのは少しばかり、ヒヤリとしましたね……


「今の……師匠が?」


「はい、流石にあれを受けてはどうしようもありませんからね。消し飛ばしました」


「…………ってことは、あれは師匠がどうにか出来るって言ってたスライムの戦いとは違って?」


「ええ、流石にどうにかしないとどうにもならないことでしたよ」


 勝ったと思って気を緩める。

 命を落とすパターンとしてはよくあることですが、二人にはこれを肝に銘じて次からはこんなことはないようにして貰いたいものですね……

 座り込むレンくんの横に、ランちゃんがそっと腰を下ろす。

 それから恨めしそうな、気の強い顔でレンくんを見つめて……・


「レン……あんた、油断したわね?」


「………………うん」


「勝つまで気を緩めてはいけませんよ、って先生が言ってたじゃないのよ……」


「うぅ、あの時はあれで確実と思ってたから……うぅ、油断大敵、かぁ」


「まったくよ。今回は運よくどうにかなったみたいだけど………次からは気をつけないよ? わたし、あんたの死を見届けてから一人で旅を続けるなんてごめんだからね


「うぅ……はい、気を付けますぅ」


「ふん、何よ?その変な口調は?」


「いや、だって……」


「立っても何もないわよ。次は気を付ければいい、それだけの話よ………まぁ、わたしもあんたのこと言えないけどね」


 落ち込んでいますね、二人とも。

 揃ってため息を吐いて、それから呆然と目の前の光景を反省でもするかのように見つめて……

 確かに最後はちょっとお粗末でしたけどね。

 それでも二人は自分たちの力で戦い、勝利を収めたのです。

 誇っていいことではないですかね?

 これも含めて、きっといい経験になったことでしょう。

 勝った後でも気を緩めてはいけない。

 このことはとっくに教えてはいましたが、今回のことで更に身に染みたことでしょうし、ね。

 二人とも、これからは気を付けるのですよ?


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