第39話 ギルドの受付になった元教え子ラフィちゃんは過去を思い出す
今回は元教え子の話です
私はその日、ギルドで働くことになって一番の驚きを経験した。
事の始まりはそう……ギルドマスターが受付を不在にして代わりに私が行くように頼まれたこと。
ダルーカに折檻をするから代わりに頼む、なんて言われたときは「あぁ、はいはい、またなのね」なんていつもみたいに思ったものだけど……
代わりに受付に言った矢先、そこには予想だにしない光景が広がっていた。
剣を背負った男の子と、ローブ姿の女の子。
すごく……すご~く見覚えのある格好だったけれどそれはよかったの。
ええ、まだいいのよ。
問題は、その後ろ。
もうそうそう会うこともないだろうと思っていた先生がニコニコと手の平で挨拶をしていた。
「ん?ラフィ、さんっていうの?」
「バカ、名札をよく見なさいラフィリエルって書いてあるじゃない」
多分、私の後輩であろう子たちがちょっと困惑気味だけれど正直なところ構ってられなかった。
久しぶりですねぇ、ラフィちゃん。
なんて言いたげに手を握ったり開いたりしてるけれど……まったく、何してるのかしらね、この先生は。
ラフィリエル……この名前は先生に付けて貰ったもの。
名付けの才能がほとんど壊滅的な先生にしてはいい名前を付けてくれたと思ってるわ。
女の子には似たような名前ばかり付けてるそうだけど、それなりに特徴的な名前だとも思うし……だから、感謝してるし大好きだって胸を張って言える。
でも、それはそれでこれはこれ。
迷惑なものは迷惑と思うのは変えられなかった。
多分、いつものあれでしょうけど、ね。
『先生?どうしてこんなところに居るわけ?いつも山のお屋敷に居るはずじゃないの?』
『おや?ラフィちゃんはいつの間にか念話もしっかり使えるようになったんですね~。ええ、まぁお察しの通りだと思いますよ?今日はレンくんとランちゃんの付き添いです、心配なので見守っているのですよ』
溜息は、堪えた。
目の前の……今まさに被害にあっていてそのことに気付いてもいない可哀想な子たちが私を見ていたから
「あの……ラフィリエル?さん?あの、どうかしたんですか?」
「……はぁ、わたしたち冒険者登録をさっさと済ませたいんだけど……何してるの?」
この子は剣呑ね。
昔の私を思い出すかのよう……まぁ、先生が念話で言った名前でもう大体のことが分かってしまったのだけどね。
男の子がレンくんで、女の子がランちゃん。
これは省略形で本当の名前はもっと長い感じになるとは思うけど……この二人が先生の新しい教え子なのね。可哀そうに。
つい、同情的な視線を送ってしまう。
昔のことを思いだすと、この子たちが他人には思えなかった。
私たちも、後ろに付いて来られてたものね……
「ごめんなさいね。少し、二人の強さを測ってたのよ」
「え……強、さ?」
「そうよ、あなたたち中々の腕前ね。このギルドではかなりの上位に入るんじゃないかしら?」
「あ!そうなん……です、か?」
「ふふ、そんなにかしこまらなくても大丈夫よ」
「あ、はい、そうですか!」
「ふふ、変わってないわよ~?」
「う、えっと、ごめんなさい……」
「……っていうか、急に馴れ馴れしくない?何か気やすいわよ」
「あぁ、ごめんなさいね。二人とも。それは、ね」
ジロリと睨んでくる、女の子に笑みを返して首元のペンダントを取り出していく。
先生のところを卒業した、卒業の証。
それを見て、二人が目を丸くした。
「っ、それは」
「え?それって……え?先生、の?」
「そういうことよ。私の後輩だって分かったら、距離を置く気がなくなっちゃってね?」
「と、いうことは……」
「ええ、私も先生の下で学んだのよ?姉弟子、とでも言えばいいのかしらね?困ってることがあったら何でも言ってちょうだい?力になるわ」
目を丸くする二人の後ろ……いつも通りのまま、微笑ましそうにこちらを見る先生の方を見る。
そう、例えば……先生がいつまでも後ろをくっついてくるとか、ね。
睨んではみたけど、先生はいつもの笑顔を返してきただけだったけれど。
「通りで強いと思ったのよ、あなたたちが今回卒業をした弟子ね。改めて自己紹介をしておくわ。私はラフィリエル、先生の下で学んで今はギルドで働いているわ」
「わ、わぁっ!えと、僕はレインディスです!先生の昔のこととか、冒険者のこととか教えてくれると!」
「ちょっと、はしゃぎ過ぎよ。えと、わたしはランフィールド……その、わたしにも色々と教えてくれると嬉しいです」
「ふふ、急にそんなかしこまらなくても大丈夫よ。さっきも言ったでしょ?気安く話しかけて貰っていいから、同じ……先生の下で学んで苦労をした者同士なんだから」
『そうです、流石はラフィちゃんですね。レンくんとランちゃんと仲良くしてあげてくださいね』
溜息が出そうになるからちょっと黙ってて欲しいんだけど……流石に念話を飛ばすほどの余裕は私にはなかった。
念話って意外と難しいのよね……頭の中でぐっと一つのこと集中しなければならないというか……これを片手間であるように行って他にも現在進行形で魔法を行使している先生が信じられない。
こういうことに無駄にすごい技術を費やさないで欲しいのだけど……言っても無駄よね。
レインディスにランフィールド……縮めてレンくんとランちゃんってことね。
やっぱり分かりやすい先生の教え子の名前みたいね。
なら、先生が後ろの居るのも必然、ね。
あぁ、辛いなぁ……これを知った時に二人はどう思うのかしらね?
ちょっと自信がついたくらいになった時にこれを知るのよね。
一人前になったと思ってたけど、まだまだ先生の庇護下にあったって、ね。
「あ、あの!ラフィ、さん!さっき強さを測ってたって言ってたよね!僕たち、どんな感じですか!」
「それ、わたしも気になるわ!どう?えと、ラフィ……姉様!」
「あぁ、うん、それは、ねぇ……」
姉様、ね。
何だかちょっとドキッとしたわ。
こういうのもいいわね……後輩、かぁ。
こうやって付いて行っちゃう先生の気持ちも少しは分かる……かしらね?
微笑ましい。
そんな気持ちが湧いて出る。
と同時に、苦しい……それは、今も見守っている先生が何食わぬ顔でここに居るから。
強さ、ね。
正直、先生を卒業したてだった時の私と同じくらいだと思うのよね。
つまり、先生のところを卒業した子が備えている力の標準……先生のところを卒業したのだから一般の基準で当てはめて言えば群を抜いて強いとは言えるのだけど。
「……そこに何か見える?」
「へ?」
「……ん?」
指差す方向は当然、後ろの先生。
当の先生はというと、キョトンとした後ニコニコとこちらに手を振ってきていた。
そしてそんな先生の姿の方へ目を向けているにも関わらず、二人は不思議そうに首を傾げるだけ……見えていないわね。
まぁ、そうよね……私もそうだったもの。
先生って、無駄に高度な魔法を何重にも掛けてるからその技術をこんなことに惜しみなく使ってるものだから……自然と魔力の流れを見て、魔法に惑わされないほどに魔力の扱いに上達するくらいになると気付けないのよね。
「……見えていないのなら、そういうことね。あなたたちならきっとその内に見えるようになるわ」
「…………?」
「つまり、何か……あるってこと?」
「その内わかるわよ、その内、ね……」
『そうですね~、レンくんとランちゃんなら素直ですしね、順当に強くなっていくことでしょう。私のことが見破れるようになるまではラフィちゃんも気にかけておいてくださいね?』
うるさい。
独り立ちしたんだから放っておいてあげたらどうなの?
って睨みついでに念話も送ってみたけど、先生は笑うだけ。
まぁ、先生だから、大切な教え子を心配するっていうのも分かる気がするから、そこまで酷くは言いたくないけど……
でも、本当にこの尾行はどうかと思うのよね……二人が可哀想。
早く気付けるようになるといいのだけど
「それじゃ、確か冒険者登録だったわね?」
「はい、まずは冒険者としてやって力を付けていこうと思って」
「それに……えと、わたしたちより先に卒業したラフィ姉様に言うのはちょっと恥ずかしいのだけど……」
「言わなくても分かるわよ?冒険者に憧れてた、でしょ?」
「っ!な、何で!?」
「私も……いや、私たちもそうだったのよ。あそこ、やたらと冒険者の物語が書いてある本が一杯あるものね?一緒に先生のところを卒業したレフィ……レフィルードと一緒に私もまず冒険者登録をしたし」
「へぇ~、そうなんだ」
キラキラした目が眩しいわね。
心配で付いて行く……そこまではいかないけれど。
これは、中々来るものがあるわね……
『ラフィちゃん?レンくんとランちゃんが最初に受ける依頼はやはり薬草採取あたりが良いと思うのです。安全ですし、冒険者の基本も分かるはずですからね。その辺り、さりげなく誘導をしてくれませんか?』
先生からの念話が飛んでくる。
さっきから細かい頼みごとが本当に多いのよね……世話を焼きたい気持ちは正直分からなくもないのだけど……行き過ぎよね。
流石にそこまでするのは分からないわよ……だって、こういうのは自分の力で色々やるべきじゃない?
失敗だって成長の糧になる。
応援はしたいけど、そこまでの干渉は流石にどうなのよ?
『……先生、見守るだけに留めてくださいよ』
『はい、危険がなければ』
『危険でも極力手を出さないでよ、それで成長することだってあるんだから』
『ううん、ラフィちゃんの言うことなので聞き入れてあげたいのですけど……心配ですし』
やっぱり言っても無駄みたいね。
久しぶりに見たけど、先生ってば全然変わってないわね。
私たちを後ろで追い回してた時のそのまま。
私はもう、先生が普通に見えるようになって本当に一人前だと認められるようになったからもう直接の関係はないわけなんだけど。
そう他人事みたいに見てもられないのよね……見てて不憫だから。
私もちょっと気にかけておいてあげとこうかしら、ね?
「出来た。はい、二人とも。これに魔力を通せばあなたたちのカードの完成よ」
「わぁ、ありがとう!ラフィさん!」
「へぇ、これが、ね」
何も書いていないまっさらなギルドカード。
それを光にかざしたり、色んな角度から見たりしてから二人がそれぞれ魔力を通していく。
二人とも、これで駆け出し冒険者、ね。
この辺りはやり始めたばかりで最下級とも言い換えられるものだけど……まぁ、この子たちなら位階の上昇も早そうよね。
先生のところの子だもの……変な妬みは……私とレフィの時はあったけどどうかしらね?
「さぁ、それでカードは完成よ。これで晴れて冒険者になったってわけね。頑張って」
「とうとう冒険者かぁ……」
「ふぅん、いよいよ、ね……ねぇ、ラフィ姉様?もう依頼は受けてもいいの?」
「ええ、最下級の依頼なら受けることが出来るわ。説明は要る?」
「大丈夫っ!先生のとこで大体聞いてきたからっ」
「ん……確か、依頼を一定量をこなすことの他に持ち込んだ魔物の素材などでも位階が上がることがあるでいいのよね?ラフィ姉様」
「ええ、大体はそうね」
まぁ、確かに私も旅立つ前に色々聞いたことがある。
先生の教え子って冒険者になる人が多いらしいから一般教養として教えられるのよね。
とはいえ本当はもっと色々細かい昇格条件や、冒険者の決まりなんかもあるのよね。
先生が教えてくれるのはその中の基本的なざっくりとした説明だけ
依頼を破棄した場合の罰則や、昇格に際して必要な種類の依頼を達成しなければならないとか……まぁ、そうは言っても最初の内は関係ないからいいんだけどね。
成り立ての時はまず動いてみたいだろうし。
「まぁ、習うより慣れろよ。とりあえず何かやってごらんなさい。冒険者に関する説明はその依頼の達成報告にでもしてもらえばいいわ。まぁ、その時の受付も私かもしれないけど」
「本当!?じゃあ、とりあえず一つ」
「そうね……えと、最下級よね……っていうと、このあたりの依頼ってことかしら?」
「そうなるわね、最下級の依頼は一番下よ。種類は少ないけど、好きなのを取ればいいから」
「あ、うん、ありがとう、ラフィさん」
礼を言ってレンくんが手を伸ばしていったわ。
それは薬草採取とスライム討伐。
駆け出しが受けることが出来るのは今はこの二つしかないから、必然的にそのどちらかになるわね。
で、真っすぐと伸びていって方は……まぁ、当然よね。地味で避けられがちな採取よりも討伐の方で。
「じゃあ、これに……?」
『はっはっは、取らせませんよ~。さっ、ラフィちゃん。お願いがあるのですけど、今のうちにそれとなく薬草採取を取るように説得をしていただけませんか?』
「??張り付いてるのかな?取れない?」
「……何やってんのよ?取れないわけないじゃない?」
『ラフィちゃん、さぁ』
さぁ、って言われても。
取ろうとする依頼を上から押しつけて取らせないようにする。
見えない二人には分からないだろうけど、見える私には滑稽な姿。
正直見るに堪えないのもあって、過保護な先生に協力する気にはなれない。
生暖かい目で先生の念話を無視しながら、状況を見守っていると……勝ったみたいね。
何とか依頼票を引っぺがしたレンくんがこっちに。
「じゃあ、これをお願いします」
「ええ、頑張ってね」
『ラフィちゃん、いけません。まだ間に合います。適当な言い訳を付けて薬草採取を』
「ランちゃんもこれを受けるのでいいのよね?」
「ええ、お願いするわ、ラフィ姉様」
『ラフィちゃん?』
ところどころで念話で茶々を入れてくる先生を無視して、受付作業。
それから、その最中に念話を送って置く。
『先生』
『あぁ、ラフィちゃん?どうしてやってくれないのですか?このままでは討伐依頼が最初になって……』
『いい加減、弟子離れしてください』
『ええ?そんな、何と酷いことを』
酷いのはどっちよ。
溜息交じりに作業を終えて、二人に向き直る。
ちょっとは信頼してあげてもいいでしょうに……いつも思うのだけど、あの卒業しきって何のためなんでしょうね?
付いてくるなら卒業って認めなければいいのに。
「じゃあ、依頼の報告をするときは討伐証明部位を持参でお願いね?死体そのものでも可よ」
「はい。死体か証明部位……?でもスライムって確か」
「そうね、倒したら核しか残らないわね。死体はスライム以外の時じゃない?」
「まぁ、そんなところね。だから死体を収納する手段は、まだ必要のない今のうちにどうにか確保しておいた方が楽よ?頑張って、新人冒険者」
「はいっ」
「は~い」
『ラフィちゃん?次こそは薬草採取をやるようにお願いしますよ?』
依頼を受けた二人、そして当たり前のようにその後ろを付いて行って先生がギルドを出て行く。
「……はぁ」
「お~い、ラフィリエルさんよぉ、これ頼むぜ?」
「あぁ、はいはい。やらせていただきますね」
入れ替わるようにやってきた冒険者に応対をしながら思う。
本当に、過保護よね。
付いて来てるって知ったら、その時はどうなることやら
少なくとも、私は嫌だったわね。
今までの自分の努力が否定されるみたいで・
『お前たちはいつか自分の無力さを思い知ることになるだろう。自分のこれまでの強さが信じられなくなり、何もかもが嫌になるだろうな。けど、それはお前たち自身が強くなったからこそなんだってことを覚えておくといい』
確か、そんなことを私があの子たちくらいの頃に一番弟子のライフィス様に言われたっけ?
あの子たちも、そうなるんでしょうね…
「はい、これが今日の報酬になりますね」
「あれ?何か少ないような……」
「討伐証明部位に傷が付いていたからですね。それに死体の状態も傷だらけでよくありませんでしたし」
「っぅ……言い訳できねぇ……強い魔物が出るとこに行っちまったから余裕が無かったもんなぁ」
「そうですね。いつものあなたの持ち込みから考えればそうだろうと思いました。自分の実力を鑑みて無理をしないことが冒険者のコツですよ?」
「へいへ~い」
「おう、次は俺だ!」
「あぁ、はいはい、承りますっと」
また入れ替わるようにやってきた冒険者に応対しながら昔を思い返す。
悲劇は繰り返すもの……先生が過保護な以上はあそこの卒業生は皆その悲劇を経験することになるのよね。
でも、まぁ安全に関しては確実に保証されているから安心といえば安心ではあるのだけど、ね。
少なくとも死の危険は無い。
先生が守ってくれる以上は、その辺りは安心して活動を行うことが出来る。
まぁ、それにも気付けないでしょうけれど……今の状況はその点で考えれば幸福ではあるのよね。
巣立った以上は自分の足で歩きたいってのが、私たちの本音だけど、ね。
「……はぁ、まったく」
「ラフィリエルさん、どうしたの?悩み事?」
「いいえ、何でもないですよ。で、用件は?」
「あぁ、それなんだけど」
仕事をしながら二人のことを思いだす。
レンくんにランちゃん。
二人とも、先生が後ろにくっ付いては来てるけど……頑張るのよ。
「ラフィリエルさ~ん!ここの書類ってどうやれば?」
「ん?あぁ、ここはね……」
仕事をこなしていきながら、二人を応援する。
残念だけど、私に出来ることはそれくらいしかなかった。
先生ってば、過保護だから……はぁ




