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保護者同伴の勇者の旅路 先生いつまで付いてくるんですか?  作者: 樹里 灯
初めての街 その頃の先生
34/53

第34話 困ったことになりましたね

 あれから少しばかりの時間が経ちました。

 ここはアジトの外。

 もう用はないので気を失ったコウガ君を背負って出てきました。

 結構な爆発だったもんで山賊さんたちも残らず気絶をしてしまいましてね。

 ちょっとばかし癒しを掛けてから外へ出てきた次第です。

 まぁ、欠片も残すわけにはいかない関係上、手加減など出来なかったので仕方がなかったわけですが、ね。


「う、ぅぅ、ここ、は?」


「おや、目が覚めましたか。コウガ君」


「……ん?え、外?」


「ええ、用事も終わったので出てきましたよ……いやぁ、用事は済ませられなかったというのが正しいですかね?ここで大半片付いてしまえば楽だったのですけど」


「は?それって、え?」


「ああ、いえ、こちらの話です」


 目を覚ましたコウガ君が怪訝な顔で辺りを見回す。

 見覚えのある光景であることには気が付いたのでしょうね。

 そうです、ここは見張りの方たちが立っていたアジトのすぐ傍です。

 彼を背負ったまま街まで行くほどの義理はありませんでしたしね。

 ここでちょっと待っていたわけです。


「状況を聞きたいですか?」


「あぁ、いや、悪い……起き抜けなせいか頭がちょっとボーとして」


「そうですか。もう少し寝ておきますか?」


「いや、いい……ええと、とりあえず中はどうなったんだ?」


「特に何も、爆発のせいで内部の三人はまだ気絶しているでしょうけどそれだけですね。癒しは施しましたので命に別状はないはずですよ?」


「……え?山賊、だけど、相手? 癒しって……え?回復させたわけ?」


「ええ、それが何か?」


「……え?」


 あっけにとられた表情。

 物凄い小声で「頭おかしい……」という言葉が聞こえてきました。

 ふむ、何を言っているのでしょうかね。まったく。


「山賊だから、といって回復をさせない理由にはなりませんよ。私のしたことでああなったのですから、私が治してあげるべき事柄でしょう」


「えぇ?いや、それじゃ魔物一つも狩れないじゃ……傷付けたら治さなきゃならないってそういうわけ?」


「そんなことは言っていませんが?大丈夫ですか?コウガ君」


「心配なのはレイフォルトさんの頭の方だって!」


「そうですか」


 まぁ、見解の相違というやつでしょうね。

 この手のことは意地を張って話し合うことはありません。

 大方において時間の無駄になりますからね。

 別に傷付けるつもりでやったことではないので、その罪滅ぼしとしてちょっと治療をしただけの話なのですが……コウガ君は何やら小難しく捉えたようですね。

 不思議なものです。


「で、コウガ君。そろそろ頭の方は落ち着きましたか?」


「う、むしろ混乱してきた気がするが……まぁ、いっか」


 疲れたように首を振る。

 ふむ、小難しく考え過ぎてしまうタイプなのでしょうかね?

 まぁ、その辺りは彼自身がどうにかすることですからね。

 いいや、というのなら別にいいでしょう。


「で、落ち着いたのなら、何なんだ?」


「もちろん、あなたの借金の話です。というか、そもそもそのためにここまで来たのではないですか」


「うっ……嫌なこと思い出させるなぁ、レイフォルトさんは」


「うん?むしろ、コウガ君は忘れていたのですか?それは流石にどうかと思うのですが」


 自覚がないとは怖いこと。

 ではありますがね。

 今まででも分かってはいたことでした。

 彼はどうも世間一般のことには疎い傾向にある。

 その辺りが性格にも影響しているのでしょうね。

 今までの苦労を忘れて、嫌なことの一言で片づけるとは。

 溜息の一つでも吐きたい案件ではありますが……この場合はまぁ、いいでしょう。

 コウガ君はそもそも私の仮弟子になる予定の子ではありますからね、そこまで踏み込むのも無礼というものです。

 教育は施す予定ですが、その辺りは元の教えを胸によくよく精進していくことでしょう。


「では、端的に言いますけど、ね。コウガ君、その首輪は機能していませんでした」


「……へ?それって、どういう」


 疑問符を浮かべているコウガ君に一枚の紙を取り出して突きつける。

 まぁ、これは写しなのですがね。

 説明にはこれが一番適当でしょう。

 コウガ君が結んだであろう誓約書の、その写し。

 誓約書は魔力により守られるためにあの爆発の中でも燃えずに無事でした。

 元々、ボスさんが見せてきた時にちょっぴり気にはなっていたのですけど……見たときには驚きましたよ。


「コウガ君、あなたも悪い人ですね。故意なのか、そうでないのか……どちらにしてもひどいと思いますよ」


「え?いや、それは馬鹿みたいな契約を盛り込んだ向こうの方が非道なんじゃ……ん、金を借りるのとか初めてだったから分からなかったけど、もう一度見てもやっぱりわからないな」


 じっくりと穴が開くほど見つめるコウガ君に、小さく息を吐いて、それからある一点を示す。

 コウガ君が食い入るように見ていますが、この誓約書の場合は問題はそこではありません。

 それよりも問題になるのはその下の部分。

 多分、とても緊張していたのでしょう。

 ミミズがのたくったような震えた字で、判別するのも難しいほどの文字で名前が書かれている。

 その名前は。

 それは、コウガ・キルシヘウン

 署名欄には確かにそう書かれていました。

 そこをじっくり見てコウガ君は首を傾げました。


「…………あり?」


「まぁ、そういうわけでその首輪は機能をしていなかったどころか。契約にもなんら強制力はなかったわけです」


「っ、そ、それじゃ……え?俺、奴隷にならなくても、いいわけ?」


「そうなりますね」


「……じゃ、じゃあ、借金も払わなくても?」


「ええ、このままですとそうなりますね」


 ペンを取り出してサラサラと紙に書き込みをする。

 裏に持っていたもう一つの紙に、ですね。

 契約書は魔力により守られている、わけですけど。

 あとで書き直せないわけではありません。

 あからさまな間違いをしたときにそれでは困りますからね。

 ちょっと魔力は必要になりますが。

 私の言葉に呆然とした様子だった、コウガ君がにわかに表情を綻ばせる。

 そして、少しずつ、ほんの少しずつ、口角を上げていき……最後にはすべてを理解したかのような喜色満面な笑みを浮かべた。


「っ、やったぁっ!俺は借金から解放を」


「まぁ、そんなわけで書類の方は私が書き換えて機能をするようにしておきましたよ。条件の方も常識的な範囲内に修正しておいたので、しっかりと借金返済に励んでくださいね」


「…………は?」


「はい?何ですか?」


 さらさらと書類に修正を加えていたのも書き終わる。

 アジトでは最低限しか書けませんでしたからね。

 条件のあたりは細かく詰められませんでした。

 まぁ、勝手に条件を編纂するなど彼らが知れば激怒するかもしれないでしょうけど……まぁ、酷い条件を盛り込んでいたのです。これくらいは構わないでしょう。

 書き終えた書類をコウガ君にも見せてあげる。

 すると、彼は信じられないと言わんばかりに目を見開いて、それから段々と視線を下に逸らしていき自分の名前がしっかりと書いてあることを認めて、首にある誓約の首輪に触れて項垂れてしまいました。


「……何で、そんなことを」


「なんで、と言われましても。借りたものを返さないなど許されることではありませんからね。君自身が結んだ契約なのですよ? 返さないなんてことになったら借金を踏み倒すことになってしまうではないですか。そんな虫の良いことは許されませんよ」


「…………じゃあ、返せなかったら俺は」


「そうですね。山の涙さんの奴隷じゃないですか?」


「……………………返済期限までに、借りた額、を?」


「いえ、借りた額よりは少し増えるのではないですか? 利息がありますからね」


「………………」


 今度こそ力なく地面に倒れ伏す。

 

「ぅう、何で、こんなことに……」


「山賊から借金をするからですよ」


「分かっているけど言わないでくれよぉっ!」


 泣き叫ぶコウガ君。

 あんなの絶対に払えるわけがない。

 あんな額無理だ、俺は奴隷になるしかないんだぁ~、などと悲観的なことを叫んでいますね。

 自分で作った借金でしょうに。

 返せない額を借りるのではありません。

 なんて言葉が思い浮かびましたけどね……まぁ、色々と金策をして駄目だったためにこうして直接交渉に踏み切ったわけですから、その辺りが尾を引いているのでしょうね。

 

「コウガ君、そんなに悲観的にならなくても適切な仕事に就いてお金を稼げばあなたなら十分に返せますよ」


「何の根拠があってそんなことをっ!」


「あなたの能力を根拠に言っているのですが?」


「根拠ないじゃないかっ、それはっ!くそおおおおおおっ」


「ふむ、今根拠の中身をはっきりと口にしたはずなのですけどね」


 やれやれ。

 私の言葉も聞き入れずに大袈裟に嘆くコウガ君。

 彼はこれから私の仮弟子になるわけですが……まずはこのあたりから教育をしないと駄目でしょうかね?

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