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保護者同伴の勇者の旅路 先生いつまで付いてくるんですか?  作者: 樹里 灯
初めての街 その頃の先生
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第33話 武力交渉


「おい……おい!あいつは、本当に何なんだ?情報収集はお前の仕事だろうが!?」


「へ、へい、ボス……しかし、あっしにも何が何やら……山奥でやってるただの教師としか」


「あれのどこがただの教師だぁっ! 見た目通りの優男じゃねぇぞ!」


 倒れ伏すバハラスさん。

 情報収集はお前の仕事だろうと部下に食って掛かるボスさん。

 ふぅむ、場が混乱してますね。

 私としてはこんなことより交渉を優先して欲しいのですが。


「バハラスっ!バハラスっ!おいっ!起きろっ!」


「う、ぐぐ、ぐ」


 ボスさんが倒れ伏すバハラスさんに向けて液体の入った瓶を叩きつける。

 のろのろと動き出した様子から察するにあれは……魔力を回復させる薬のようですね。

 こういうのはかなりの高値なはずなのですが。

 どうしたのでしょうかね?

 見ている間にバハラスさんがゆっくりと身体を起こしていく。

 それからふるふると首を振って、辛そうに顔を顰めました。


「ぼ、ボス……俺は」


「武力はお前の担当だろ?寝ててどうするっ!動けっ!あの男を叩きだすんだっ!」


「ぐ、ぅぅ、そうしてぇのはやまやまなんだが」


 倒れたばかりなのに酷なことを要求しますね。

 まだ上手く動くことも出来ないようで、辛そうに身じろぎをするバハラスさん。

 ですが、あまりボスさんを責める気にもなれないのは……そのボスさんが縋るような目をしているからです。

 こういうことに関してはずっとバハラスさんに頼ってきたのでしょう。


「ボスさん?力を使い果たして倒れたのですから、いくらかの休息が必要ですよ?魔道具まで使って限界以上の力を引き出したのですからその負担は途轍もないものになるはずです。下がらせてあげてはいかがですか?」


「う、うるせぇ!俺は、まだ、やれ、るっ!」


「っ、バハラスっ!」


 反論、それと共に勢いよく立ち上がろうとしてよろけたバハラスさんが足をもつれさせてそのまま床へと倒れ伏す。

 相当お疲れのようですね。

 だから言ったのですが……

 言わんこっちゃない、そうは思うのですがまぁ私は別に彼らの味方でも何でもありませんからね。ここは気にしないで行きましょう。

 それよりも。


「どうしたのですか、コウガ君。今が好機です、返済期限についてお話をしましょう」


「っ、え?こんな状況で?」


「何を言ってるのですか?こんな状況だからこそです」


「いや、でもレイフォルトさん……」


 何でしょうね。こんな時だからこそ有利に話が進められるであろう好機だというのに……コウガ君はほんのり引き気味ですね。

 大変なことになっているから話をするのは遠慮したい、とそんなことを考えているのでしょうかね?

 困ったものです。

 こういった交渉事でそのように相手方の都合を考えてばかりではまとまるものもまとまらないでしょうに。

 呻くバハラスさん、そんなバハラスさんを頼りに未だに声を掛け続けているボスさん。

 そんな中でブツブツと呟いているべリムさんが印象的でした。


「……レイ、フォルト……山奥で教師……そして、この強さ?……っ、ま、まさか!」


「!?何だ?どうしたべリム?何が分かった?」


「いえ、ですがあれは御伽噺のはず……少なくとも数百年は昔のはずでさ、本当のことのはずが」


「俺は、何が分かったと聞いているんだよっ!べリム!」


 ふむ、何かに気が付いた様子。

 ではありますが……うぅん、御伽噺、ですか。

 私はまるで覚えのないものなのですが。

 不思議ですね。

 私の方を見て頑として喋らないべリムさん、焦れたように叫ぶボスさん。

 そこで肩で息をしながらもバハラスさんが立ち上がりました。


「はぁ、はぁ……俺は、俺は、まだ、負けてねぇっ!」


「おや、そうですか。ふむ、中々良い気概ですね」


 私としてはあれで勝負がついたものと思っていたのですが。

 彼はまだ動ける様子。

 いえ、プライドと意地が身体を動かしている、といったところでしょうか?

 山賊さん、とはいえ戦う者のこのような姿は好ましく思えます。

 もはや魔道具も何もなく、それどころか疲れ切った肉体でゆっくりとしか動けないにも関わらず私に渾身の力で拳を打ち込んでくる。

 ふむ、一発位は受けてあげましょうかね?

 そう思った瞬間でした。

 制止の声が聞こえてきました。


「やめろ、バハラス」


 同時に、私の元に到達しようとしていた拳がピタリと止まりバハラスさんがボスさんの方を振り返る。

 その顔は自尊心を傷つけられたようでもありました。


「ぼ、ボスっ!俺はまだっ!」


「これ以上は無理だろう?疲れてんのは一目で分かる。お前じゃその男には勝てん」


「けどようっ!」


「食い下がるな。もういい。べリムが説明しないのも、お前がその男を排除できないのも全てがもういいと言ってるんだ」


「すいやせん、ですが……本当であれば、居ないところで話をしなければならないことなんでさ」


「そうかい、だから、もういいと言ってるんだ」


 すまなさそうに謝るべリムさんにそう言って手を軽く振る。

 自尊心をいたく傷付けられた様子のバハラスさんにも同様でした。

 面倒そうに手を振って、それからゆったりとした動作で執務机にまで赴き、その引き出しから何がしかを取り出す。


 …………?あれは?


 それは、その魔道具は、私にはひどく見覚えのあるものでした。


「??もういい?ってことは、こっちもか?なぁ、レイフォルトさん、こっちの借金についての話も認めてくれるってことでいいのかな?」


「……コウガ君。まともに交渉すら出来ていないというのにそのような呑気なことを言っている場合ではありませんよ」


「へ?」


 キョトンとした声を上げるコウガ君。

 ですが、その声はボスさんの勝ち誇った声に掻き消されました。

 私はそっと前に出て、しばらく蚊帳の外だったせいかぼんやりとした調子のコウガ君を庇える位置に身体を置く。

 ボスさんが今取り出した物……それは何の変哲もないただの黒い棒に見える、魔道具。

 黒曜石の輝き、つるりとしたその表面に私は何とも言えない感情に駆られました。

 あれ、まだ残っていたのですね。


「バハラス、誤射したら面倒だ。どけ」


「くぅ、だが……だがようっ」


「兄貴、気持ちは分かりやすがここは大人しく引いた方が身のため……でなきゃ」


「く、そがぁ……わあっったよっ!」


 バハラスさんが可能な限りの俊敏な動作でボスさんの後ろまで退いていく。

 そして代わりに突き付けられる、黒い杖。

 ふむ、この様子……部下の方もアレについては知っているのですか。


「さぁ、先生さん?突然だが……死んでもらおうか?」


「ふぅ、出来れば止めて貰いたいのですがね」


「え?どういう状況?」


 この場において一人だけ状況が分かっていないコウガ君が不思議そうに声を上げる。

 しかし、それも無理はないでしょう。

 本来であればもう、あれは存在しないはずの物。


「そのようなものを持ち出すとは、もう交渉をする気はないということですか?」


「まさか。その交渉を円滑に進めるためにこいつであんたを消し去るのさ」


「ふむ、そのおっしゃりよう……私が居ては困る交渉術を披露するおつもりで?」


「ああ、是非ともそうしたいねぇ」


 自分が圧倒的優位に立っていると思っているのでしょうね。

 勝ち誇った顔で口の端を吊り上げる。

 その手に持つ黒杖は、ぼんやりと紫の光を放ち始めていました。

 本気で使うつもり、ですか……はぁ、参りましたね……こればっかりは本当に。


「嫌なものですね……」


「……? なぁ、レイフォルト、さん? あんた、魔法苦手だっけ?」


「いいえ、私はむしろ魔法の方が得意な部類に入りますが……いきなり何ですか?コウガ君」


「いや、だってさぁ、あんな杖一本向けられたくらいが何だってわけよ?」


 あぁ、これは喜ばしいことでもありますが……コウガ君はあの魔道具については知らないのですね。

 知る人間が少ないことはあの杖の性質を考えるととても喜ばしいことなのではありますが……この場において危機感の欠如というのは問題ですね。

 誤って受けてしまうとその場で何も出来なくなりますから……


「死の黒杖ですよ」


「ほう、流石に教師というだけあるな。知ってたか」


「ええ、それはもう」


 よく知っている。

 その言葉は呑みこんで、光を増していく黒杖を見つめる。

 死の黒杖、それはかつて人と魔族が争っている大戦の最中に開発された決戦用魔道具として試作されたものの一つ。

 死の魔力が込められており、その杖を使うだけで対象を死に至らしめる。まさに戦いにおいては無敵とも言える効果を発揮する魔道具だったわけです。

 ただ、そこには誤算がありました。

 この杖に込められた魔力というのが、生まれつき魔族が持つ魔力の属性によく似たものであって……それもあって、魔力に対する耐性が殊のほか強い魔族にはまるで通用せず、魔族との戦いにおいてはお払い箱となった欠陥魔道具なわけです。

 ですが、問題はむしろその後でした。

 魔族との戦いが終結したあとに、人同士の戦いが勃発した。

 その折に死蔵されていたこの魔道具は人に対して猛威を振るい、多数の人々を死に至らしめた……そんな曰く付きの魔道具なわけです。

 魔道具自体の欠点を上げるとすれば、一度使えばおしまいの使い捨てであること……なわけですけど、ね。

 

「おい、小僧。分かりやすくこの道具の効果を教えてやろう。この光を受けた者は……死ぬ。たとえ誰であろうとも無慈悲になぁっ!」


「…………へ!?そ、それじゃあ!?」


「ああ、ご想像の通りだ。お前の頼りの先生を無惨にも殺してやろう。そしてそのあとにゆっくりと借金について話し合おうじゃあないか?ええ?コウガ君よぉっ!」


「っ、そんなっ、避けっ!」


 嫌な仕事が増えました。

 紫の光が弾けるようにして、杖の先端から放たれる。

 それと同時にショートするかのように魔力を弾けさせて黒杖が輝きを失った。

 壊れた、それは一目で分かります。

 ですが、問題が一つあるのです。

 あの杖、実は量産を視野に入れて開発されたものでして……簡単に作れるのですよねぇ。

 決戦兵器、それは何も相手を死に至らしめるという効果だけが決め手というわけではないのです。

 容易く量産できる、その生産性の高さ。効果よりもむしろその一点が決め手となり決戦兵器として開発されることとなったこの武器は……本来であれば設計図はもちろん、作られたという事実すらも徹底的に葬り去られて抹消されたはずのもの。

 残すわけにはいかなかったものなのです。


「ひゃあははははははははははっ、死ねぇっ」


「お断りします」


「はっ?何を」


 光が、私に到達する前にその動きを止めた。

 光自体を私の魔力で丁重に包み込み、黒杖へと送り返す。

 障壁で包み込んだそれを、黒杖に逆流させて、そこから更に魔力を込めた。


「?な、何だ?杖が、急に熱く?」


「っ、ボスっ!早く離しっ」


 しかし、その忠告は少し遅かった。

 魔力を流し込まれ、赤熱化した杖が巨大な破裂音を響かせて爆散する。

 黒杖の大きさを考えるとあり得ないほどに爆発。

 耳をつんざくような爆音と爆炎が室内を支配する。

 あんなもの、残すわけにはいきませんからね。

 跡形も残らないほどに爆破する。

 しかし、その後を考えると私は少し憂鬱でした。

 こんなもの、どうやって手に入れたのでしょうね?

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