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保護者同伴の勇者の旅路 先生いつまで付いてくるんですか?  作者: 樹里 灯
初めての街 その頃の先生
31/53

第31話 交渉

 重苦しい雰囲気の漂う執務室。

 そこで私たちは剣呑な目でこちらを見る山賊のボスさんと相対していました。

 腕を組み、不機嫌そうな顔でこちらを見るボスさん。

 こちらへ圧力を加えようとでもしてるのかもしれませんね。

 委縮させた方が交渉を有利に運ぶことが出来る、とまぁ山賊さんならよくやる手でしょうか?

 さて私たちは何だ?と問われたわけですが……私としては最初から答えは決まっています。

 このために来たのですからね。


「実はこの子の借金のことでお話が」


「ん?ほう……借金のことでお話、ね。そっちの小僧は見覚えがあるな。ふぅむ、こういう話はあまりいいことだった試しがあまり無いんだが、な。まぁ座りな、立ち話もなんだ、ゆっくりと話をしようじゃないか」


「そうですか、では遠慮なく」


 勧められるがままコウガ君と共にボスさんの正面に位置するソファーへと腰を下ろす。

 その途中でボスさんは私たちをここまで案内してきた部下へと声を掛けていました。


「……べリム、あっちは何者だ?」


「へい、山奥で教師をやっている先生さんだそうでさ。ここには付き添いで来たとかで」


「ほう、となると、博識なのか?」


「おそらくは」


 情報のやり取りですね。

 聞こえないように声を潜めて小声でやっていたのですが、私には聞こえてしまいました。

 成程、あの方はべリムさんというのですね。

 私の予想通り、情報収集を担当していた模様です。

 道中で得た情報のやりとりも終えて、ボスさんがこちらへと向き直る。

 それから感情を覆い隠すかのように不敵な笑みを浮かべて口を開きました。


「すまねぇな、待たせちまって。こっちにも色々と仕事があるもんでな、やらないわけにはいかんわけさ」


「いえいえ、上の立場に立てば忙しいのは道理ですからね。大変ですね、山賊さんも」


「まぁ、な」


 仕事の話をしてた、ですか。

 まぁ間違いではありませんね。

 私の情報を得るのも立派な仕事でしょうからね。

 交渉となると情報を少しでも得ることは値千金と言えるでしょうから、大事なことです。

 そして、この誤魔化しもとても自然な物でした。

 聞こえてなければそのまま流した人もかなりの数が居たでしょう。

 中々こういう交渉事や情報収集に慣れた人物であると伺えました。

 山賊団のトップであることが自然と納得できる方ですね。


「さて、本題に入るとするか。借金の話、といったが具体的にはどんな用件で?」


「ええ、その件に関しては……ほら、コウガ君」


「うぇっ?お、俺っ!?」


「そうですよ、あなたの問題なのですからあなたから話さないといけません」


 基本的に私は関わる気はないのです。

 コウガ君を急かすように肘でせっついて話を促す。

 意を決したのでしょう。

 コウガ君が息を吸ってボスさんの方を見ました。


「その、返済、出来そうにないから待って欲しいんだ」


「ほう」


 一段低くなった声にコウガ君の身体がピクリと震える。

 声で圧力をかけてきましたか。

 この人、中々やりますね。

 組んだ手をトントンと指で叩き、仕草でもコウガ君を追い詰めていく。

 成程、なかなかどうして……上手いですね。短い動作と言葉だけで一気に雰囲気を引き寄せましたよ。


「そうか、返済、出来ないか」


「うぐ、は、はい……」


 コウガ君は完全に呑まれてしまってますね。

 怯え切っている様子です。

 その状況下でボスさんは更に机から一枚の紙を取り出して、書面をコウガ君へと突き付ける。

 魔力のこもった紙……なるほど、これが誓約書ですか。


「忘れたのか?お前は、俺が提示した条件も、借りる金額も、返済期限も、その間に生じた利息も全部納得をしたうえでこの誓約書に署名をした。それが今更、払えない、だと?」


「うぅ、はい……いや、だから、その待ってくれって今日言いに来たんだけど」


「ふぅむ、一応聞くが、どうして待って欲しいんだ?」


「払えないから」


「それは、お金がないから?払うあてもないから?」


「……はい」


「成程……金が、無いか」


 根が素直すぎるのが影響してきましたね。

 正直というのは美徳ですがこの場にはそぐわない。

 嘘を吐けとも言いませんが……正直すぎますね。

 これでは向こうのペースになるばかりです。

 話の持っていき方がまず駄目なんですよね……

 色々と話をしたうえでこちらの言い分に正当性があるように思わせなければ、こういうのは受け入れて貰えないものなのですが……

 コーガ君押されてますね。

 ボスさんの大きなため息が場に浸透するように響く。

 失望した、と大きくアピールするかのように。


「悪いが、そんなことは知ったことじゃないな。それはお前が悪いんだろう?期間が十分にあったにもかかわらず目途を立たせられなかった……そちらの事情でしかない。だったらもう誓約書通りに俺の奴隷にでもなんにでもなるしかないだろう?」


「う、そ、そんな」


 まぁ、こうなるでしょう。

 そんな泣きそうな目で私を見られても、私は助けることはしませんからね。

 これはコウガ君の問題ですから。

 それに今のところはあちらの言い分の方が正しいですからね。

 納得をして誓約書まで書いたというのに、無理だから待ってくれというのは虫が良すぎる話というものでしょう。


「ふん、どうやら頼みの先生も呆れて物が言えないらしいな」


「ああ、いえ、別にそういうわけではありませんけど」


「ふん、だが、助ける気もないんだろう?」


「そうですね、今のところは」


「ぐ、そ、そんな……」


 これはコウガ君が決着を着けるべきことですから。

 私が介入するのもおかしなものでしょう。

 そんな……なんて絶望した目を向けられても私は助けませんからね。

 付き添いだと決めているのですから。

 私はコウガ君自身の問題には手を出しません。

 まぁ、コウガ君の問題には、ですけどね。

 私が動く気がないと悟ったのでしょう。

 ボスさんがニヤリと不敵な笑みを浮かべる。

 どうやら仕上げにかかるようですね。

 ふんぞり返って、コウガ君を威圧的に見下ろす。


「大体だな、俺がその話を受ける利点がないだろう?お前の返済を待ったとして俺にどんな得があるんだ? ないだろう?」


「……それは、はい」


「ったく、これだから世間を知らない小僧は……そもそもよ、お前の返済を待ってこっちに不都合が生じるって考えないのか?仮にお前が返せないって言ってる金が俺たちの手元にあればもっと別なことだって出来たかも」


「ああ、それは駄目ですよ。止まってください」



「…………は?」


「………え?」


 二人が私を見る。

 助ける気はない、と言ったからでしょうかね?

 二人とも驚いたようにこちらを見ていました。

 確かに、コウガ君の問題ですから助ける気も手助けをする気もないのです。

 しかし、それ以外となれば話は別です。


「あんた、どういうつもりだ?」


「どういうも何も。今おっしゃったことはあなたたちの個人的な事情でしょう?それも仮定の話でしかない、コウガ君には全く関係のないことです。彼の借金に関係のない話はやめていただけますか?」


「なにぃ?」


 公平性は保たなければなりません。

 コウガ君がせめてまともな話し合いが出来るよう、これくらいはやりますよ。

 

「てめぇ……」


「ええ、なんですか?」


 ギロリと睨んでくる。

 ですが私は引きません。

 眼光を真っ向から笑顔で受け止めること数秒。

 根負けするようにボスさんが視線を逸らして舌打ちをしました。


「まぁ、そうだな。俺も頭に血が上ってたかもしれん。理性的に話し合いをするとしようか」


「ええ、それがいいでしょう」

 

 ひとまず私の役目は終わりということですね。

 コウガ君が私とボスさんを見比べながら何やらオロオロとしておりますが。


「え? あの、どういう?」


「交渉再開、とういうことですよ。頑張ってください、コウガ君」


 彼の肩に手を置いて激励する。

 コウガ君は戸惑った顔をしていますが、まぁ公平性くらいは私が保ってあげますから安心して話し合いをしてくださいね。

 咳払いの音が響く。

 ボスさんですね。

 怪訝な顔で私とコウガ君のやり取りを見つめていましたが、今は気にするべきではないと判断したのでしょう。

 その目はしっかりとコウガ君へと向けられていました。


「ともかく、だ。俺から言えることは返済期限は延ばす気はない、利息分も含めて期限内にきっちり払ってもらう。払えなければ俺の奴隷にでもなれ、元からそういう契約だからな。俺はどっちに転ぼうとも困らん」


「うぇぇ、そんなぁ……」


「それとも何か?少しでも伸びたら返せるあてがあるってのか?」


「……それは」


「それは?」


「ない……けど、ほら!もしかしたら何か上手いこといって返せるあてが出来るかもしれないし!」


「はぁ?それは、正気で言ってるのか?」


 深い溜息でした。

 ううん、公平さを保っておいてなんですがコウガ君の旗色が悪いですね。

 正直なのはよいことですが、ね。

 それでは返すことが出来ないと宣言しているようなものです。

 何か上手いこといって返せるあてが出来るかも、というのも、ねぇ。

 嘘を吐けないコウガ君の性格が出てしまいましたか。

 まぁ実際返す当てなどないのでこんなことしか言えないのでしょうが。


「そんな都合のいいことがあると本当に思ってるのか?」


「……えと、それは……た、多分?」


「ふぅん、多分?」


「きっと……おそらく……あったら、いいなぁと」


「それはつまりただの返済期限の引き延ばしになるだけじゃないのか?その時になってまた金が払えないとか言い出すんじゃないだろうな?」


「うぐぐ……」


「ったく、断言してやろう。そんなことは絶対にない」


 コウガ君が力なく首を垂れる。

 まぁここまで全否定ですからね、無理もない。

 とはいえ、同情の余地もあまりないのですがね。

 実際コウガ君の言うような


『何か上手いこといって返せるあてが出来る』


 などということはほぼ無いといってよいでしょう。

 理由としては単純明快で、コウガ君は自分自身の強みを理解してませんからね。

 コウガ君ほどの技量があれば本来は仕事につくなど簡単に出来ることなのです。

 適性を鑑みれば危険なことも多くあるでしょうし、そのあたりで多少の手当ても付くでしょうからコウガ君の言う通り『上手いこといけば返せるあてが出来る』ということにもなるでしょう。

 しかし、彼自身、自分がどのようなことをすればいいか分かっていないのですよね。

 だからあれほどの技量を持ちながら手探り状態で足踏みをしている。

 だから、借金に首が回らなくなってこんなところで泣きそうになっている。

 これでは確かに、短期間でお金を稼ぐなど夢のまた夢でしょう。


「どうした?言い返すことが出来ないか?」


「…………」


「ふん、そんな弱り切った顔をしたところで俺は返済期限の引き延ばしなどしてやらんからな。もっと俺たちに得になるようなことは言えないのか?」


「え?……そんなこと言われても、何も出来ないし」


「あのなぁ……発生する損と得を理解して、その上で相手の得となることを提供し互いに納得できるところを探していく。それが交渉ってもんじゃないのか?」


「…………はい」


 もう完全に負けてしまった雰囲気ですね。

 はい、ではありませんよ。コウガ君。

 やっぱりコウガ君がボスさんに交渉で勝つのは無理があったようですね。

 ボスさんの方が手慣れている様子ですし。

 コウガ君は交渉事などには不向きな性格をしているようですし。

 今まで傍観者気分でしたけど、流石にちょっと心配な気持ちにはなりますね。

 相手の言い分をそんな簡単に受け入れてはいけませんよ、コウガ君。


「さて、何かお前の要求を呑みたくなるような提案は思い付いたか?」


「…………ない」


「ん?何だって?もしかして、今、何も、ないってそういったわけか?」


「……はい」


「ほう、これは面白いな。そんな状態であるにも関わらずお前は俺に不遜にも返済期限を引き延ばせとそう言っているわけか」


「えっと……だめ?」


「駄目に決まってんだろうがっ!何の提案も無しに義理人情なんて不確かなもんで訴えてきやがって……そんな顔をすりゃ俺らが不憫に思うとでも思ったか?そんなもんが通用するのは仲の良い奴らだけだってことを覚えておけっ!」


「…………はい」


 いやぁ、向いてないですねコウガ君は。

 思わず苦い笑みを浮かべてしまうというもの。

 これはコテンパンというのがしっくりくるほどにやられてしまっています。

 確かにボスさんの言ってることは正しいのですよね。

 交渉事に置いて義理人情に訴えかける、なんてのはこと商談においては良い方策とは言えません。

 ですが、ですよ。

 それでも突っぱねるか言い返すかしないと立場的に下として見られてしまうのですが、ね。

 コウガ君はもうそんなことも考えられない様子でした。

 俯いて、苦しそうに……ううむ、これは嫌な時間が過ぎ去るのを待ってるモードだと私は推測しました。

 これはもう……


「ったく、世間を甘く見るのも大概にしやがれ!大体なんだ?さっきから俯いてばっかでよぉ。そんなすぐに泣いちまうような腐った根性じゃ何も出来や」


「あ、それは駄目ですよ。ボスさん。止まってください」


「っ!っと、またか!?」


「う……うぐ、え?」


 声を荒げるボスさん、泣きそうになりながらも顔を上げるコウガ君。

 さて、また私の出番が来てしまいましたか。

 公平性は守らなければいけませんからね。


「ボスさん、コウガ君の精神性などこの話には一切関係ありません。コウガ君の人格を否定するようなことを言うのはやめてくださいね」


「ああ!?何でそんなことを」


「何でもです。ならば、私も試しに言ってみますか? 大事な話の最中に他者を罵倒するなど最低の商売人のやり方ですね。性根が腐りきっているとしか言いようが」


「んだとこらぁっ!」


「ほら、こうなるでしょう?だから、やめましょうと言っているのです」


「……チッ、てめぇ」


「先程行ったことに関しては謝罪しましょう。申し訳ありません。あなたは腕の良い交渉人ですからね。このようなことに頼ることなく交渉をして欲しいのです」


 真っ向から視線がぶつかり合う。

 まるで火花でも散っているかのように幻視する緊張状態。

 長い交渉になりそうですね。

 何やらホッとしたような顔でコウガ君がこちらを見てますが……あなたが頑張るんですよ?




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