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保護者同伴の勇者の旅路 先生いつまで付いてくるんですか?  作者: 樹里 灯
初めての街 レンくんの人助け
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第25話 調子に乗るユリィ

 最終的にユリィは一撃入れては逃げ回り、相手が疲れてきたらもう一度攻撃を加えるような、一撃離脱を繰り返す戦い方になった。

 まず鍔迫り合いに持ち込んで、押し切るのでは時間がかかり過ぎること。

 それから一体しか相手に出来ず、武器が塞がること……そのあたりはやっぱり複数を相手取るのには致命的で、こうせざるを得なかった。

 ゴブリン程度なら安心して戦えるくらいにはなったんだけど。


「ていっ! ひゃわっ、外れたっ! わわわわわわっ」


 ゴブーーーッ!


 振りかぶった剣が避けられて、ユリィが逃げ惑う。

 そんな光景を僕とランは微妙な表情で見ていた。

 

「すっかり戻っちゃったわね、剣の振り方」


「……うぅん、逃げるのが前提の立ち回りなもんだから、前とまったく同じになっちゃったね」


 改善したはずのへっぴり腰が元に戻っていた。

 うん、それでもまぁ最初に見たときから見れば大分マシではあるんだけど……さっきまでは完全に大丈夫だったのに。

 下手にそれまでのやり方を捨てるような戦法にしたのが問題だったみたい。

 逃げるのが前提ってのだと、最初のユリィとその辺りは変わらないもんね。

 人に教えるのって難しい……

 先生ってやっぱり凄かったんだなぁ。


「はぁ、はぁっ、むむ?てやっ!よし、一回っ!」


 ゴブアッ!?


 この先どうしたらいいのか考えながら状況を見守る。

 ユリィの方が足は速いみたいで、疲れ始めてきてるらしいゴブリンはユリィに追い付けずにいた。

 そんなゴブリンに一太刀浴びせてユリィが走り去っていく。

 ゴブリンの動きは明らかに鈍かった。

 斬り裂かれた腹から血が噴き出て地面を汚していく。

 その足取りは痛みを耐えるかのように重く、動きは精彩を欠いていた。

 完全にユリィ優位の状況。


『戦いにおいて相手を確実に倒す一撃を心得ろ、なんて言葉がありますけど、結局のところ一撃を貰ったらそれで動きが鈍って致命的な状況に陥ることなんて少なくないんですよね』


 そう、先生が前に言ってたけど状況はその通りだった。

 優位に立っている、その状況に気をよくしたユリィが調子ヅイテゴブリンへと石を投げ付けていく。

 それはまったく当たらないほどの下手さ加減だった。

 でも、小さく細かい粒ばかり投げられたそれは当たらずとも幾つかは身体に引っかかるように降り注ぎ…… 

 その内の幾つかが、大きく切り裂かれたお腹の傷口に入り込んだみたいでゴブリンがビクリと身体を揺らす。

 身体の動きが完全に止まった明らかな隙。 

 

「今っ!」


 そこにユリィがすかさず駆けていく。

 剣先をゴブリンに向けて突撃していき……一瞬動きが止まっていたゴブリンはそれに反応しきれずに身体の真正面から剣を受け入れ、絶叫が辺りへと木霊する。


 ゴブゥゥゥアッ!? グブ、ゥ……


 それで、終わりだった。

 真正面からの一撃をもろにくらったゴブリンは、ユリィの構えた剣を背中から生やした状態で倒れ、最後に気の抜けたような声を出し絶命する。

 ユリィの勝利だ。

 

「やたっ!どうかな?どうかな!?あたしも大分強くなったと思うんだけどっ!」


 地面に倒れ込んだゴブリンから手早くを剣を引き抜いて収めたユリィがこっちに寄ってくる。

 強くなった、かぁ……うぅん。

 まぁ、引っかかることはあるけど確かにその通り、かな?

 考えこんじゃう僕の横でランがどうでもよさげに相槌を打っていた。


「そうね、最初よりよくはなったんじゃない?確実に」


「うん……まぁ、強くは、なったけどさ」


「ふふ~、だよねっ!実はさっきからずっと自分がみるみる強くなっていくのが感じられてすごく嬉しいし楽しいんだっ!二人ともっ、ありがとっ!」


「「……」」


 思わず顔を見合わせてしまう。

 僕たちの温度差は結構なものだった。


 ねぇ、この子ちょっとどうにかした方がいいんじゃないの?


 なんて声が顔を合わせてるだけだっていうのにランから伝わってくる。

 本当……どうしよ?

 変な自信を付けちゃってるのが始末に負えなかった。

 確かに、ゴブリンを倒せるようにはなった。

 それは事実だ。

 でも、上達はしていない。

 そんなことは見ればすぐに分かることだった。 

 倒せるのはゴブリンだからってのが大きい。

 接近戦で大事な要素ってのがおおまかに三つはあるんだけど……ユリィはその三つでゴブリンに勝っているから倒せているに過ぎなかった。

 まず力。

 人間の半分ほどの大きさしかないゴブリンに比べれば当然ユリィが勝る。

 それに速さ。

 これも元々逃げるのが得意なユリィに軍配が上がるだろう。

 事実ゴブリンは追い付けてもいなかった。

 そして、もう一つは重さ。

 この辺りは流石に華奢なユリィが不利に思える部分ではあるんだけど、身体の小さいゴブリンには勝る程度の体重は流石にある。

 大きさが違うからね。

 ユリィの方が身長が高い分、華奢でもゴブリンに勝る程度はある。

 その辺りが決め手だった。

 力で勝れば押し合いでも当然勝てるし、速さがあればそれだけ相手の攻撃もくらいにくい。

 それに、重いってことはそれだけ一撃に体重が乗るってことっだし、抑え込むにしても圧倒的に有利になる。

 だから、負けるような要素はほぼ無かった。

 でも、だ。

 これがもっと強い敵になったら?

 

「それじゃ、二人とも手っ取り早くゴブリンの巣を潰しに行こっかっ!あたしがやるから二人はあたしの成長を見ててくれると嬉しいなっ」


「……そう、好きにしたらいいんじゃない」


「えと、どうしても、行くの?」


「うんっ、どうしてもだよっ!」


 あたしはやるよ~!なんてユリィが気炎を吐いているけど……正直やめて欲しかった。

 自信満々なところ悪いけど……ユリィじゃ正面から巣に突撃していって勝てる光景が思い浮かばない。

 ユリィは今ゴブリンだから勝てているだけだから。

 もっと足の速い相手だったら?

 距離を稼ぐことも出来ずにやられている。

 力が強い相手だったら?

 鍔迫り合いに持ち込んだときに押し切られているし。

 体重が遥かに上の相手だったら、なんてのは言わずもがなだ。

 拮抗することすら出来ずに押し切られるだろうことは想像に難くない。

 ゴブリンナイト、みたいなちょっと上の上位種にもなれば剣さばきはもちろん力も体重もユリィを上回る、はず。

 上位種は進化してる分、ゴブリンに比べると体格がちょっと上になる。

 そうなれば途端にユリィには厳しい相手になる。

 こういうことは魔力を使って身体強化をしたり、色々な経験をして動きがもっと洗練されて来ればまた違ってくるとは思うんだけど。

 ユリィはまだそんなとこまでいってなかった。

 ユリィって魔法が苦手なみたいで身体強化もうまく使えないみたいだし、その辺りで優位に立つのはまず無理だと思っていいと思う。

 身体強化……あれって身体に魔力を纏うだけでいいはずなんだけど……

 何とか、諦めてくれないかな?

 せめてもう少し訓練を重ねてからの方がいいと思う。

 でも、どうしたもんか……

 それを言って素直に聞いてくれるかっていうと、そんなユリィじゃないことはこれまでで僕はもう分かっていた。

 でもまぁ、一応は言っておくけど……


「……ねぇ、ユリィ。ゴブリンの巣はまだやめた方がいいんじゃないかな」


「大丈夫だよ~、レンくんは心配性なんだねっ?ありがとっ、でも大丈夫だよ。あなたに鍛えられたあたしの腕前を信じてよっ」


「……どうしても行くの?」


「うんっ!ふっふっふ~、あたしはやるよ~!」


 溜息が出そうになる。

 ほとんど予想通りだった。

 やっぱり、まるで聞く耳を持ってくれない。

 本当に、どうしようかな?

 僕には良い案が思い浮かばなかった。

 ユリィってけっこう頑固なんだよね……

 あっさり手の平返しをすることもあれば、人に助けを乞うこともいとわないユリィだけど……こうと決めたら曲げないような部分もあって、あんまり僕の意見に耳を傾けてくれない。

 本当につらかった。

 僕はこの時間まで鍛えたユリィの腕前じゃ絶対に無理だから止めた方がいいってそう言ってるのに……

 僕とランが何を言っても聞く耳を持ってくれない。

 

「大丈夫大丈夫っ!ほらっ!近場の巣に向けて出発だよっ!そんでダリルから剣を取り返すんだ~!えいえいお~!」


 真っ直ぐに森の奥へと向かって歩き出すけれど、僕もランもユリィの掛け声には何も言わなかった。

 本当に、止めた方がいいと思うんだけど、なぁ。

 すっかり調子に乗ってしまったユリィにはどんな言葉も届かなかった。

 前を歩くユリィに少し遅れて歩いていく。

 僕もランも疲れ切った顔をしていた。


「どうしよっか……」


「だから、言ったじゃないの。スパッと剣のことは諦めるように言って別の道を歩くように言うべきだって」


「……うぅ、こうなっちゃった以上僕もそれには何も言えないけど、さ」


 実際、諦めさせてた方がよかったとは思うし。

 変に自信をつけるくらいならあのままの方がよかったような気がしなくもなかった。

 きっと傷になるから僕はそれは嫌なんだけど、それは今でも変わってないんだけど。

 それに関しては、どうともいうことが出来ない。

 でも、だ。


「……仮に言ったとして、ユリィは諦めてたと思う? 無理だったと思うんだけど」


「…………ま、それはそうね」


 チラリとユリィの方を見て、溜息を一つ。

 疲れたようにユリィへと視線を送ってから僕の方を見る。

 ユリィの足取りはとても軽かった。

 自分を信じて疑わない、何者にも曲げられない強固な意志を感じる動き。

 それを見てランが小さく首を振った。


「無理ね。あの子、頑固だし人の言うことを聞かないもの。結局こうなってたわね」


「だよね」


 前の方から「レンくん、ランちゃんはやく~!」なんてのんきそうな声が聞こえてきて、僕たちはまた揃って溜息を吐き出しそうになるのを押し込めて、ユリィの方へと急ぐ。


「……いざとなったらあたしたちが助ける他なさそうね。ちょっと衝撃的なことでも起きない限りあの子は分かりそうにないもの」


「…………そういうの、僕はよくないと思うけどなぁ」


「仕方ないでしょ?他にやり方ないじゃない」


 呆れたように吐き出して、ランがユリィの方へと足早に進んでいく。

 僕は気乗りしなかった。

 そりゃ、ユリィが分かるには現実的な経験が一番なんだろうなってそれは僕も思うよ。

 けど、それは傷付けることにならないかな?

 辛い思いをすることになるんじゃないかな?


「……やっぱり、あれかな」


 言葉の綾だよね。

 そんなことを思いながら、僕もユリィの近くへと進んでいく。

 入口をちょっと潰して、巣を潰したって言い張ろう。

 細かい条件を言わなかったんだもん。

 それでいいってことだもんね?

 

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