第24話 ユリィは上達を……上達したかな?
ユリィの腕前はほんのちょっぴりだけど上達した。
剣を振り下ろし、受け止められて……しかし、それを押し切って剣を身体に突き立てて痛みに呻くゴブリンにそのままトドメを浴びせていく。
そんな、一度ゴブリンを倒した方法を何度も行って倒すことに成功していた。
一度成功して味を占めちゃったみたいで、むしろそれを狙ってやってる節がある。
相変わらず剣の振り下ろしに力が籠っていなくて、剣閃が遅いからあっさり受け止められてるわけなんだけど……
「ふぅ~!やったっ!また倒したよぅ~、レンくん!あたし、才能あるかも!」
「……あ~、ん、そう、かなぁ?」
「ま、そうね。そう思っとくのがいいんじゃない?」
ランがもう興味なさげに適当な相槌を打っていた。
才能は、ない。
それは見れば分かることだった。
でも、はっきりと言ってしまうのもどうかと思って曖昧に言葉を濁してしまう。
傷つくんじゃないかなって思うと、どうしても言うことが出来ないんだよね……
その気になってるんだけど、むしろこれを利用して練習をもっと頑張ってもらうのが今はいいような気もするんだけど。
浮かれた調子のユリィが僕たちの元に駆け寄ってくる。
分かりやすく舞い上がっていて、弾んだ足取りでピョンピョンと小刻みに飛びながら僕たちの元に。
なんだろう……嫌な予感がするんだけど。
「ねぇねぇ、レンくん、ランちゃん!もうあたし、ゴブリンの巣くらい一人で壊滅させられるんじゃないかな?今なら何でも出来そうな気がするんだけどっ!」
「調子乗らないの、あとあんまり馴れ馴れしく呼ばないでくれる」
「うんっ、ランフィールドちゃんっ!」
「……はぁ、あんた、わたしの言うことも少しは聞きなさいよね」
ほぼ予想通りだった。
ランが疲れたように溜息を吐いている。
もう諦めてる感じだ。
何でも出来る気がするって……あまりひどく言うのも気が引けるから言えないけども、ハッキリと言うとそんなことは無理だった。
ユリィの腕前では一体を相手にするのがせいぜいだから。
強さとか、そういうのも理由の一つではあるんだけど……どうしても無理だって確実に言える理由は、ユリィの戦い方にあった。
だって、一対一が前提の戦い方だもんね……
そこいらから出てきてるのを相手にしてる今はいいんだよ、別に。
でも、巣に行くとなると複数が出てくるのなんて当たり前すぎるほどに当たり前だ。
一体だけを相手にしてられない。
まず一匹目にいつものように鍔迫り合いを仕掛けて、押し切る戦い方をしたとして、だ。
他のはどうなるか?
当然、待ってくれたりするわけがない。
その間に攻撃をしてくるだろう。
その時に武器が塞がっているユリィではどうしようも出来ないのは明白だ。
「……え、と、壊滅させるのは、無理じゃないかな?」
「え~?無理かなぁ?大丈夫だと思うんだけどなぁ~、ねねっ、一回やってみようよ!」
「いや、でも」
失敗すればその一回で命を落とすことだってあり得るんだ。
試しになんて軽いことは言ってられないんだ。
すっかり調子づいちゃってるユリィにこれをどう伝えたもんかな……
なんて、悩んじゃって曖昧に言葉を濁してしまっていると、ランにちょいちょいと手招きされた。
耳を寄せると声を潜めて、ユリィには聞こえないように気遣って伝えてくる。
「ねぇ、レン。はっきりと言ってやったら?」
「え、はっきりとって?」
「あんた程度の腕前じゃ百年早いから、諦めて剣のことは忘れなさいよってことよ」
「いや、そんな殺生な……」
「殺生?ホントのことでしょ」
「んぅ?なに~?内緒話~?」
ユリィが僕たちの会話の外から声を掛けてくるのを聞きながら、少し悩む。
諦めて剣のことは忘れろ。
それは……言葉は酷いけど、事実だった。
多分、それがユリィには一番楽な道だと思うんだ。
今までも見てきたけれど、ユリィは逃げるのが一番得意で、別に剣での戦闘を得意とはしてないんだ。
常に逃げることを考えてるからだろう、避けるのがとても上手いんだ。
だから、この特色を活かして頑張っていった方が絶対にいいとは僕も思うんだけど。
でも、だ。
そうしろって言えない。
言いたくない理由が僕にはあった。
ユリィは、剣をどうしても取り戻したいって……大切なものだって言ってたから。
「剣は……ユリィにとって大切なことなんだ、取り返したいってそう思う譲れないもののはずなんだよきっと」
「なんでそう思うのよ? 格好よく戦いたいだけでしょ?事実そう言ってたわよ」
「そうだけど……そう思うにはやっぱり理由があると思うんだよ」
聞いてないから知らない。
実際にそうかは分からない。
でも、僕はそう思うから。
「やりたいことを手伝ってあげたいんだ、僕は……それがきっと困ってる人を助けるってことだと思うから」
「はぁ、面倒な性分ね、相変わらず。別にいいじゃないの、理由があるから、やりたいと思ってるだろうからってそれが何なのよ?別にいいじゃないの、最善に突き進んじゃえば」
「駄目だよ、そんな。気持ちを踏みにじってまでそんなことをしたら……きっと傷になるよ、うん、そうだ……先生が言ってたみたいに心の傷になる、それに苛まれて結果的にやられることになったらそれはきっと剣の道を選んでやられるのときっと変わらない」
「はぁ、じゃあ、聞いてみたら?本当にそんなに剣で戦うことが大事なのか?諦めたら傷になるのか? 案外大したことないかもしれないわよ?」
「駄目だよ、そんな。まだ知り合って日が浅いのに個人的なことに踏み込んでくような真似できないよ。無神経すぎるよ、ラン」
「そういうものかしらね……」
どうでもよさげに呟く。
話は終わったとばかりにランは僕から離れていった。
そして、ユリィの方へ。
「ねぇ、あんた何でそんなに剣で戦いたいのよ?」
「ふぇ?あたしが剣で戦いたい理由?」
「ちょっ、ラン!」
「いいじゃないのよ、足踏みしてたって変わらないわよ? ここはサクッと聞いてしまいましょうよ?」
「いや、そんな……」
あっさりと聞いて、あっけらかんと言うラン。
でも僕はそんなに割り切れなかった。
こういうの、大して仲良くもなってない人間が聞くべきじゃないって思うから。
でも、その理由をユリィは何てことなさそうに口にした。
「ん~、あたしは別に聞かれても構わないよ?そんな大した理由じゃないもん」
「え……そう、なの?」
「うん、レンくんは聞くのは悪いんじゃないかな~って遠慮しててくれたんだよね?あたしのことを思って
。ありがと」
「あ、うん……けど、いいんだ」
「ほら?聞いてみて正解だったじゃない」
訳知り顔で僕に言ってくるランに、悔しいけど何も言い返すことが出来ない。
僕は、聞く気まったくなかったからね。
こういうのはあまりよくないとは思うけど、今回は確かにランが正解だったのかもしれない。
ユリィは「ん~」と斜め上に視線を彷徨わせながら、思い出すように語った。
「そだね……むかしむかし、あるところに強い魔族が居たんだ。彼女は本当に強くって、相対する者はみんな死を覚悟するほどだった。けど」
「……けど?」
「うん、あるときに剣を巧みに使う男の人にやられた。魔法は強くっても、接近戦の手数にはどうしても勝てなかったみたいで押し負けたの……ん、理由としてはそんなところ、かな? これだけで分かってくれると嬉しいんだけど」
少し頬を赤くして照れたように僕たちの方を見る。
その話に僕たちは思わず顔を見合わせた。
これって、つまり……そういうことだよね?
そういうことかしら?
なんて、目や仕草だけで問いかけて頷き合って、また向き直る。
昔話みたいに話されてはいたけど、それだけで十分だったから。
「……そっか……ユリィ、よく生きてたね」
「えへへ……まぁ、あたし逃げるのだけは得意だから」
「ま、そうね……話を聞いたら剣を学びたい気持ちも分からないでもないわ」
「!それじゃあ、ランちゃんもあたしに手伝ってくれる?」
「嫌よ、時間の無駄だもの……というかさっきからずっと十分以上に手伝ってるじゃないのよ」
ひどいぃぃぃっ、なんてユリィが声を上げるけども、僕も表立ってランの言葉に反対をすることは出来なかった。
だって、僕もほとんど同じように思うから。
時間の無駄、とまでは思わないよ。
努力し続ければきっと、それなりの腕前を手に入れることは出来ると思うんだ。
でも、そう……時間がかかり過ぎる。
その上で、多分、ユリィが見たであろう魔族を倒したという剣士よりも弱い位置にしかいかない。
ただ剣を鍛えるだけでは駄目なのは明白だった。
何か……ユリィの得意なことも生かさないと。
独自の領域には辿り着かない。
真似できないって意味で、それだけでいいと思う。
ただ、どうすればいいのか?
「うぅん、剣術にユリィの得意なことを取り入れるのが一番手っ取り早く強くなるんじゃないかなって思うんだよね」
「おおっ、流石はレンくん!あたしのために考えてくれてるんだねっ! で、どうすれば強くなれるのかな?あたしの得意なことって?」
「ユリィの得意なことっていうと……」
言われたら一つしか頭の中に思い浮かばない。
ここで訓練を始めてからずっと見てる姿。
ゴブリンにへっぴり腰のまま切りかかっていって、それが避けられるや否や反撃に振るわれる一撃を腰を引いて避けるあの姿。
あれほど洗練された回避、そして逃走はそうそうお目にかかれるものではなかった。
それから、迷わずに人に助けを求められる躊躇いのなさ。
「……騒ぎながら逃げ回ること?」
「ひどいぃぃぃぃぃっ!もっと格好いいのないのっ?」
ユリィが涙目で抗議してきた。
けど、他に?
うぅん……まったく思いつかなかった。
いつまでやってるんだろ?と思う方も居るかもしれません。
あらかじめ書いておきましょう、もう少しです。




