第20話 レンくんはランちゃんに注意を受ける
泣きながら僕が上げたご飯を食べている。
そんなユリィの姿を見てると僕はこれでよかったんだってスッとした気分になった。
だって、先生も人助けはいいことだって言ってたからさ。
本当は……街に着いたばかりでやることはいっぱいある。
宿の確保に、どうやってお金を稼ぐのか、とか他にも色々。
だから、ランの言うことも間違ってはいないってことは分かるんだ。
関係ないから放っておこうって、まず自分たちのことをどうにかすることを考えようってさ。
でも、うん……これでいいんだよ。
「はぁ、相変わらず面倒な性格してるわよね……自分に関係ないことでまで悩んでるともたないわよ?」
「仕方ないって、僕ってそういう人なんだからさ。それに、さ。先生だって最善の結果を得るために無理をしてはいけませんって言ってたじゃん」
「ま、そうは言ってたわよね……わたしとしてはあれってかなり人によってばらつきがあると思うけど」
同意しながらも、渋々と言った感じでランが息を吐く。
人によってばらつきがある、かぁ……
感じ方次第だからそうなるよね。
って、僕も思いはするんだけど、少なくともこれで助けるのが僕の答えなんだから僕にとってはこれで間違いじゃなかった。
見捨てたら気に病む。
ずっと気にして……でも、一回通り過ぎちゃったからもう会えなくってどうすることも出来なくって、それで『やっぱ、あの時に助けてあげればよかったかな』なんて思って心を沈ませるんだ。
『戦いにおいてやってはいけないということは存在しません、死んだらそれでおしまいですからね』
昔、もうちょっと僕が小さかった頃に先生に講義で聞いたことだ。
これだけだったら今のことには関係なかったんだけど、これには続きがある。
『それってなにしてもいいってこと?』
『ええ、ランちゃん。何をしても構いません。ですが、何でもしなければならないということではないのです。そのことはよく覚えておいてくださいね?』
『??先生、それって……?? ぼく、どういうことかわからないんだけど』
『そうですね~……例えば、その敵には小さな子供が居て泣き叫ぶ子供を人質にとって降伏を迫り、武器を手放したのを見て息の根を止めた。ということをやったとしましょう、どう思いますか?』
それを聞いて僕はハッとしたんだ。
何をしてもいいとはそういうことで、どんな悪辣なことでも酷いことでも戦いにおいては……命のやりとりにおいては関係ないんだって。
そう、それで僕は怖くなったんだ。
それをされるかもしれない、とか、戦いって怖いとかそういうことじゃなくって……そういうことをしている自分の姿を想像して、胸が締め付けられるような気分になったんだ。
『うん、どうやらその顔を見るに答えは出ているようですね。仮にその方法が一番簡単に勝てる方法だったとしてもやりたくなければやらなくてよいのです』
『え……そう、なの?』
『ええ、だってそれで勝ったとしても心に大きな傷を残すことになるでしょう?心を苛むということは見た目は無事でもとても厄介なことなのです。気に病めば、次の戦いの最中で動きに集中できなくなってしまうかもしれない。誇りに思えない勝ち方をしてしまったせいで動きが鈍り、それが原因で今度は自らが敗北を喫するかもしれない。私は何も、これを甘えだとか優しさだとかそういったことで言っているわけではありません』
自分を守る戦い方をしろ、先生が言っていることはそういうことだった。
自分自身を守ること、それは身体だけではなく心までも。
そうでなければ結果的に死を早めることになるから、と。
『後で気に病んで動けなくなるようなことはしなくていいのです。むしろ、してはいけないといいましょうか? 普段から自分を守れるような動きを心がけるのですよ』
これでユリィを放っといたら僕は確実に気に病むもんね。
これはユリィのためじゃないんだよ、きっと。
僕が助けたいと思うから助けるんだ、つまり自分のため。
先生が言ってたみたいに、僕自身が僕を守るためにやってることなんだ。
「でも、まぁ……ランを強引に巻き込んでごめんね、とは思うんだけど」
「はぁ、いいわよ。そんなの……むしろ、あんたを一人であの子と何かやらせる方が不安だもの。わたしは」
疲れたような表情をしながら、ランがユリィを見る。
ユリィはちょうど食事を食べ終えるところで、ごちそうさま、と手を合わせて言っているところだった。
あ~、おいしかったぁ。ありがとう!なんて声が聞こえてくる。
その真っ直ぐな目にランは殊更眉を顰めて、ユリィの方へとちょっと待ちなさいとばかりに手を振って、僕の方へと顔を寄せてきた。
「……協力するとは言ったから助けるのはいいんだけど、ね。あの子、何かちょっと胡散臭くない?」
「ぇ? 胡散臭い?」
声を潜めて言ってきたから僕も声を潜めて返事したけど……どういうことなのか、ちょっと分からなかった。
胡散臭い、とか言われても……
そうかなぁ?
顔を寄せてくるランの肩越しにユリィの方を見ると。
「ぁ、えへへ」
目が合ったユリィがニッコリと僕に笑いかける。
それに僕も愛想笑いを返して、今度は気づかれないように慎重に伺う。
ランが手で合図したからか、ユリィは律儀に僕たちの話が終わるのを待っていた。
真ん丸な目を不思議そうに瞬かせて僕たちの方を見て、側頭部のあたりで二つにまとめた髪の束をひょこひょこと揺らしながらこっちを見てる。
これだけ見ると、完全にお店で買い物をしてるときの女の子みたいだよね。
まぁそれはさっき店頭の商品を眺めていた小っちゃい女の子を僕がチラッと見たからだとは思うんだけど……うぅん、胡散臭い?
「?? 何が?」
「今まさにあったじゃないの、妙なとこが」
「え? どのあたりが?」
「今、目があっただけでわざとらしく微笑みかけてきたのよ? あんなの口説き落とそうとか騙してやろうとかでも思ってなければまずやらないわ」
「……いや、それは流石に偏見が過ぎるんじゃ」
「今日が初対面だってこと忘れんじゃないわよっ!」
声を潜めながら怒鳴るっていう器用なことをやって睨んでくる。
それは、忘れてないけど……
それが何だっていうのか……ちょっと考え過ぎなんじゃない?
「……ランってもしかして、あれかな?人間不信?」
「うっさいっ、わたしに暴言を吐く前にあの女をちょっとは警戒しなさいよっ。おかしいと思わないわけ? 何よ、あの声は?砂糖菓子に蜂蜜をかけたみたいな……あんな甘ったるい声、やろうと思わないと出ないわよ?」
「えぇ……」
ランが詰め寄ってくるばかりの勢いだったけども、僕にはまったく共感が出来なかった。
それって勝手な妄想じゃない?
って言いたくなるけど、言わないでおく。
面倒なことになりそうだからね。
やろうと思わなきゃ出ない、とか言われても何でそんなことを言いきれるのか全く理解不能だった。
生まれつきあの声かもしれないじゃん、ね?
「あのぅ~、お話は終わりましたぁ?」
「ん、あぁ、大した話じゃないから大丈……」
「悪いけど、もうちょっと待ってもらえるかしら? これで終わるから」
「あ、はぁいっ!」
元気よく返事をしたユリィを尻目にランが僕の肩に手を回して、また殊更声を潜める。
「……とにかく、わたしはあの子信用しないから、それだけよ。あんたが助けるから手伝うんだからね? わたしはあの子のことを助けたりはしないから」
「あ、うん、そう……??」
「……何よ?そのよく分かってなさそうな顔は?とにかく話は終わりだから」
言い切ってランの身体が離れていく。
終わりって言われてもどういうことかは分からなかったけれど、まぁ別にいっか……助けてはくれるみたいだしね。
ランと二人でユリィのところに戻る。
長々とヒソヒソ話をしていた謝罪を軽くして、本題に入ることにした。
助けてほしいとは言われたけど、それだけだからさ。
助けるにしてもやっぱりよく話し合った方がいいと思うんだよね。
「で、剣を取り返すって言ってたけど具体的にどうやって?」
「はいっ、三人いるので闇討ちするというのはどうでしょう?」
「…………え?」
闇討ち?
想像してなかった言葉に僕が固まっていると、ランが疲れたように息を吐いた。
「何か、物騒なこと言い出したわよ? 助ける気も無くなってきたんだけれど……レン、友達止めた方がいいんじゃない?」
「ふぇ?え? な、何かいけなかったでしょうかっ!?」
慌てふためくユリィの姿が逆に僕の引き具合を助長させていく。
これってつまり……ユリィには普通の考えってこと?
手伝うのはちょっと早まったかも……ちょっぴりそう思ったのは口に出さずにしまっておくことにした。




