第12話 観戦模様
「てやあああああっ!」
グブアアアッ!
剣と斧とが交錯する。
体躯の違いは明らかでした。
体重差も明らかにあのゴブリンの方が上。
だというのに、一歩も退かずに危なげもなく戦うレンくんの姿!
成長しましたね、先生うれしいですよ?うんうん。
頑張れ~、レンくん!
うんうん、本当は大声を上げて応援したいんですよ?
でも、そうすると流石に魔法で隠蔽をしているとはいえバレてしまいますからねぇ。
こうして心の中でひそかにエールを送るに留めましょう。
ふむ、中々ままならないものですね。
さて、状況としては流石は私の教え子と言えるもの。
異常に巨大な、特別に強大なあのゴブリンを相手にまったく不利にならずに立ち回れています。
皮膚が硬いせいか攻めあぐねてもいるようですが……まぁ、まず負けることはないでしょう。
あのゴブリン、巨大で可笑しなことになっているとはいえそれだけです。
強いですけど、レンくんの方が確実に上ですからね。
レンくんに関しては心配いらないでしょう。
問題は、ランちゃんの方ですね。
「……うぅん、このくらいかしら? 多分、大丈夫だと思うんだけど」
回復魔法を倒れる山賊さんに当てながら、自信なさげに首を傾げていますね。
ランちゃん……こういう細かいことは苦手でしたからね。
今治療をしているその方はそこそこ重傷なのでもう少し強めの回復魔法を掛けなければならないのですが……私が直に言うわけにもいきませんから、ね。
これも成長するための試練でもあります。
自分で気付いてもらうことにしますか。
まぁ、ちょっぴりと細工をしてこの方には意思表示をしてもらうとしますが
「ぅ、ぐああああっ!痛っ、いつつつっ!うぅあ、あぐ……」
「ん、もうちょっと、かな?」
どうやら成功したみたいですね。
傷口にちょっぴり風魔法を当ててみました。
痛みに呻いた山賊さんに気が付いたランちゃんは回復魔法を強めていく。
その光が当てられるたび呼吸が穏やかになっていき、安らいだ顔になる山賊さん。
まぁ、ランちゃんはこういう状況で回復魔法を掛けて回るのなんてはじめてですからね。それでここまで出来るのですから、私としては褒めてあげましょう。
よくやりましたね、ランちゃん。
咄嗟に頭を撫でてあげたい衝動に駆られるもそれをグッと堪える。
ランちゃんも女の子ですからね……大きくなってからは髪の毛が崩れると言って頭を撫でられるのを嫌がるようになりましてね……
懐かしい、寂しい気分に浸りながらランちゃんの回復魔法を見守る。
元からあんまり得意でなかったのです。
それも相まって、治療が中々終わらない。
相手の状態を見ながらゆっくりゆっくり掛けていくもんですから、一人に随分と時間がかかるんですよね。
でも、私は知っています。
これはランちゃんにとって『のんびり』ではないのです。
これでも最速で治療を行って、レンくんのもとに加勢をしに行こうとしているのです。
この場で慣れて早くなってくれればいいのですけどね……
戦いの最中に成長をする。
極限状況下ではそういったことはあまり珍しくもないことなのですが……確実性に欠けるものを期待するのは止めておきましょう。
実は私も二人が来るまでに最低限は彼らを癒しておいたのですけどね……
「うわっ、血塗れね……確か、傷を塞ぐ前に患部を洗浄して、血が出すぎてたらそれを補えるように増血作用のある魔法を掛けて……」
血だらけで呻く山賊さんを治療していく。
まぁ、本当に最低限でしたからね。
生命活動を維持できるギリギリの治癒を行ったに過ぎませんから。
ランちゃんが思う最低限……つまり、苦痛を感じないような安全域にまで治癒するのはそれなりの労力が必要でしょう。
私とランちゃんでは、思う必要最低限が別物ですからね。
私としては彼らは大丈夫なのでレンくんに加勢して、あの大きなゴブリンをさっさと倒して欲しいと思っているのですけれど、ね。
「ん、こんなものね。あと、どれくらい残ってるかしら……レンは、まだ大丈夫そうだけど」
回復魔法で、山賊さんを傷一つない状態に仕上げて次へと向かっていく。
これは、困りましたね。
さっき、これくらいかと思って切り上げようとしたのが血を噴出したので過敏になっているみたいですね。
面倒なので完全に回復させる方向にシフトしたみたいです。
私もこっそりと回復魔法を掛けてランちゃんが少しでも早くなるようにサポートを行ってもいるのですけれど……これが中々難しいのですよね。
傷がないと倒れているのはおかしい。
戦って倒れているのですから、ランちゃんに妙な感覚を抱かせずに治癒を行うのには見かけはそのままで内部だけを癒す必要があるわけですよ。
「う、うぅ、っ、あ、あんた、は」
「見捨てるのも気が引けるから治療してるのよ、黙って回復魔法を受けてなさい」
「う、うぐ、す、すまねぇ……俺、はあんたのこと、を、スケベな目で、見てた、ってのに……なんて、優しい」
「あぁ、はいはい。そんなのいいから回復してるかどうか教えなさいよ」
「あ、あぁ、大分、回復した……へ、へへっ、あんた」
「何よ?」
「も、もしかして、俺に、気があるのか?」
「……はぁ」
無言で拳を叩きこんで治療中だというのに意識を刈り取ってしまいました。
気持ちは分からないでもないのですけどね。
レンくんの方からは打ち合うような金属音が聞こえてきます。
もう、ゴブリンの方も大分慣れてきたのでしょうね。
もはや斬られてもお構いなしの状態でした。
そちらを見て、回復を続けながらランちゃんが眉根を寄せる。
「レンっ、もう少しよっ。こらえなさいっ」
「わかってるっ!っ」
咆哮。
ゴブリンがランちゃんの方へ突進しようとしたのをレンくんが真っ向から受け止めて阻止する。
頑張ってますね、レンくんも。
自分のやることをまっとうしている感じです。
戦場での役割分担はとりあえず合格でしょうかね。
うんうんと頷きながら、紙に評価を書いていく。
二人に関することは何でも褒めてあげたいですからね。
しっかりと書き留めてあげなくては。
私の方も、見かけはそのままに内部の治癒はあらかた終わったところですから。
これでランちゃんも早く向かえることでしょう。
一人一人の治療が早くなっていく。
とはいえ、元々そんなに数は居ないんですけどね。
うぅん、レンくんとランちゃんが来るまでは私がどうにかするつもりだったんですけど。
誤算でしたね。
まさかここまで山賊の方々が弱かったとは……敵わないながらもそれなりの抵抗はしてくれるものだと思っていたのですが……そもそも戦いというのに慣れていない様子でした。
ろくに連携も取らずに、手入れのしていない武器を振り回すばかりで……数に押されていく。
私が来たときには既に多くの方がゴブリンの手に掛かっている状態でした。
まぁ、タルムさんが救えたので私としては上出来な結果でしたが。
「っ、よしっ!これで、最後ねっ!レンっ!」
「!ああっ!」
あ、最後の方が治療し終わったみたいですね。
ランちゃんが治療が終わると同時にレンくんに声を掛けて風魔法を叩きこむ。
よろめくゴブリンの巨体。
同時に、跳躍して距離を取るレンくん。
いつものパターンですね。
これは二人の最も基本的な連携戦術なんですよ。
どちらか片方が敵の気を引き、その間にもう片方がその敵を倒せる一撃を放つ。
「決めるわよっ!」
「いつでもっ!」
ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!
風、暴風の壁とも言えるそれがゴブリンの身体を押し付けて動きを制限する。
だが、ゴブリンの力も強大でした。
暴風で身体を抑えつけられながらも、一歩、また一歩と風に抗い歩を進めてく。
でも、それはあまりにも小さな抵抗でした。
「そ、こ、だあああああああああっ!」
刀身を包み込むように魔力が爆ぜる。
風の中を魔力による軌跡を描きながら、レンくんが駆けていく。
それは、いかに巨大化して強大になったゴブリンとはいえ屠るのには十分な一撃。
グガアアアアアアアッ!
最後の抵抗とばかりに、その拳がレンくんへと振るわれていく。
しかし、それがレンくんに届くことはありませんでした。
ウインドカッター、最大限にまで研ぎ澄ませ鋭利さを増した風が拳を断つ。
勢いを失った拳が切断面から血を流したまま宙を舞う中、レンくんの剣が胴体を捉えました。
「……」
風が止む。
遅れて響いたゴブリンの身体が真っ二つになって地に伏せる音がどちゃりと水っぽさを伴って聞こえてくる。
油断なく剣を構えて、それを見守っていたレンくんもそれを確認して小さく息を洩らして剣を収めました。
「ふぅ、なかなか面倒な敵だった……ゴブリンキング、なのかな?」
ポツリと呟いてランちゃんの方へ合流するレンくんでしたが……それは、間違いですね。
これはゴブリンキングではありません。
「やったわね、レン」
「うん、これで……村長さんも喜んでくれる、よね」
「……まっ、そうね。子供たちは守り切ったものね」
「うん……それに、タルムさんも」
レンくんとランちゃんの会話を聞きながら、私はゴブリンの死体へと近寄っていました。
ちょっとばかり気になることがあったからです。
魔物を倒せば魔石が出る。
魔石、というのは魔物の核みたいなものなのです。
人間でいうと心臓みたいなものでしょうか?
それは魔物の種別に応じて大きくなっていき、ゴブリンキングなら両の手で収まらないほどの大きな魔石があるはずなのですが……ふむ。
その身体に見合わない小さな魔石を見つけて、一つ頷く。
これは、ゴブリンの魔石ですね。
間違いなくゴブリンキングではありません。
おそらく、ですがこれはゴブリンが無理やりに力を与えられ巨大化した末の姿なのでしょう。
レンくんとランちゃんが戦いの終わった雰囲気を出しながら、とりあえず山賊たちを拘束しているのを横目で確認。これなら気付かれる心配はありませんね。
その身体……死体に手を当てて確認をする。
……これは、瘴気ですね
「あれ?今、先生の声が聞こえなかった?」
「ん?わたしは聞こえなかったけど……聞き間違いじゃない?」
「ん~、そうかなぁ?」
思わず声が出てしまっていたみたいですね。
気を付けるとしましょう。
ですが、それほどのことが起きているということです。
私が思わず呟いてしまうくらいに面倒な事態が。
仕方がありませんね。ちょっと行ってきますか。
村を見たときから妙だと思っていたのですよね。
レンくんとランちゃんから目を離すのは、ちょっと遠慮したいのですけれど……こればっかりは二人にやらせるのにはまだ早いですからね。私が解決してくるとしましょう。




