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第11話 解き放たれた迷いのレンくん

 飛んできたペンダント……そこに映る幼いタルムさんとサンワ村の村長ペリオさんの穏やかな笑顔を見ながら、拳を握る。

 これまで納得できない何かが僕の中にあった。

 タルムさんの話を聞いても納得できない、何かが心の中にあった。

 そう、それは村長さんの……あの時の村長さんの目。


『子供たちを、守って……』


 そう言う目はとても優しかった。

 大切な者の無事を想う目をしていた。

 それは、檻の中に居る子供たちのこと……そう、タルムさんの話を聞いたときは思った。

 それで納得しようとした。

 でも、出来なかった。

 それはペリオさんが……僕も……ううん、僕やランもよく知る目と同じ目をしていたから。

 そう、僕とランを見る先生と同じ優しい目をしていたから。

 多人数の子供たちに向けられたものだって、どうしても思えなかったんだ。

 可愛い子供たち、それを大切にするよりももう少し上……自分にとって大切な者に向ける目をしていたから。


 そういう、ことだったんだね……村長さん。


 ペンダントを懐に仕舞いこんで、剣を構える。

 もう僕の中に迷いはなかった。

 妙に大きい、おかしなゴブリンがそこに居た。

 周りには倒れ伏す多くの人たち。


「ランっ、僕が時間を稼ぐから。その間に皆に治療を」


「ええ、最低限の回復をさせたらすぐに加わるから死ぬんじゃないわよ!」


「わかってるっ!」


 返事をすると同時に切りかかる。

 周りには血を流して倒れている人が沢山いた。

 ゴブリンの死体も多数あった。

 しかし、その中にあってひと際存在感を放つ巨大ゴブリンの姿。

 その身体へ向かって、剣を振り下ろす。


「たああああああっ!」


 ゴブアッ!


 豪腕。

 巨大な腕から放たれる無骨な斧の一撃が僕の剣と交錯した。

 耳障りな金属音。

 剣と斧はガリガリと不協和音を奏でながら拮抗していた。

 力と力のぶつかり合い。

 膂力での押し合いになる。

 先生から卒業前に餞別として貰った剣は、この一撃を受けても折れはしなかった。

 折れずに、ゴブリンの強大な膂力から繰り出される一撃をしっかりと受け止めてくれている。


 中々……重いっ


 結構な力だった。

 気を抜けば持っていかれそうになる怪力。

 だけど、僕にとっては受け止められないものではない。

 先生に鍛えて貰った身体はこれくらいでやられたりしない。

 これくらいで押し負けたりしない。

 純粋な力で勝る相手に対抗する方法もしっかりと教わっているから。


「っ、ん、てやっ!」


 グガッ!?


 魔力を身体に漲らせる。

 循環させ、身体強化を全身に張り巡らせる。

 純粋な身体能力だけで人が勝てる相手はそう多くない、先生が言っていたことだ。

 だから、そんな相手にはどうすればいいか?

 単純な答えが魔力を用いて有利に立つことだった。

 魔法、それにより身体能力の差を埋めて真っ向から打ち合うもよし。

 逆に近づかずに遠距離から攻撃するのでもよし。

 とにかく相手に主導権を握らせないこと。

 それが先生の言っていた戦いの基本だった。

 

 グッ……グガアアアアアアアッ!


 怒り狂ったように斧が振り回される。

 豪腕から繰り出されるその一撃は風を引き裂き、風切り音だけで人が殺せそうなほどに暴力的だった。


「っ……ふっ!」


 ガアアアアアアアッ……ググ、グガアアアアアアアッ!


「この、程度っ!」


 グガァッ!?


 単調な攻撃だった。

 早いし強いけど、それだけ。

 道筋が簡単に見える。

 予測が簡単に立つ。

 振るわれる攻撃を身体を逸らして避けて、空いた身体に剣を叩きこむ。

 巻き上げるゴブリンの血潮。

 傷が幾つも出来上がっていく。

 しかし、僕の繰り出す剣もそれだけだった。


「っ」


 グブアアアアアアアアアアアアアアッ!


 斧が派手に地面へと打ち付けられて岩塊が激しく宙を舞い飛んでいく。

 それを飛び退ることで回避して、まだ地面に斧を打ち付けたままの体勢で居る巨大ゴブリンに一撃を見舞う。


 グブッ!……ブッフッフッフッフッフッ


「……」


 まいったなぁ……


 困った気持ちを表面に出さないように、自然と口の端が吊り上がる。

 気分を滅入らせると戦えなくなるから。

 いつの間にか癖になっていたことだった。

 表情を読ませない。

 相手にこちらを不利だと悟らせない。

 そういった意味も色々ある。

 でも、少なくともこちらを馬鹿にするように笑うゴブリンとは正反対の笑みだった。


 硬い、なぁ


 さっきからいくつも傷を付けている。

 刃を身体に滑らせている。

 けど、それだけじゃ決定打にならなかった。

 硬い皮膚に阻まれて内部まで刃がいかないんだ。

 派手に血は滴っているけれど、見た目ほどに負傷しているわけじゃない。

 それに、もうあのゴブリンはこれくらいの痛みには慣れ始めているみたいだった。


「……ん、さて」


 どうしたもんかな?

 連続して振られる斧をいなして対処して、対策を考える。

 再生力も中々に高いみたいで、最初に斬りつけた傷なんかはもう癒えてきているくらいだった。

 少しずつ、少しずつ消耗させることは出来るだろうけどそれは決定的じゃない。

 

 まだまだ、動けるとは思うけど……うぅん


 特に疲れは感じない。

 動いてるせいか、全能感すらある現状。

 でも、これは多分、戦っているからだってのは直感的にすぐに分かることだった。

 興奮してるから一時的に感覚がマヒしてるだけ。

 今は特に感じないけど、さっきまで確かにお腹が空いていた。

 食事も取っていない。

 これは持久戦に持ち込むのにはかなり不利な条件のはず。

 生死がかかっている戦いの中で不確かなことをするのはよくないことだってのは、先生に教えられたからしっかりと頭の中に刻み込まれていた。

 なら、どうするか?


「はぁっ!」


 ゴブアッ!? ブフゥー……


 一息に三連撃。

 斬撃を三度見舞う。

 しかし、それもやはり硬い皮膚を滑るように切り裂いていき深手にはならない。

 単純な攻撃では肉まで切り裂くことが出来なかった。


「っ」


 グアアアアアアアアアッ!


 獣のような雄叫び。

 それを間近で聞きながら、ゴブリンの身体を蹴るようにして距離を取り、一撃一撃を丁寧に回避していく。

 このままでは勝てそうもなかった。

 多分、負けはしないだろうけど……勝てない。

 切り裂くのには強力な一撃が必要になるのはすでに分かっていた。

 魔力を大量に武器に注ぎ込んで、敵に叩きつける。

 そうすることで剣は鋭さを増し、平常時では考えられないほどの切断力を発揮する。

 剣で戦う上で、誰もが行う基本にして切り札とも言える技。


「……うぅん」


 間断なく襲い来る攻撃をしっかりと避けながら、ランの方へ視線を送る。

 ランはまだ倒れている人たちを治療中だった。

 こっちに来られそうもない。

 

 ランって、なんだかんだで回復系の魔法って結構苦手だもんね……


 先生に何度も教えられて、怪我をするたびに練習をしてた割にはあんまり……っていうのがランの回復魔法の腕前だから。

 今はまだ耐えるしかない、かな。

 そう結論を出して、巨大ゴブリンに向き直る。


 ガアアアアアアアアアアアアアアッ!


 その目に、理性の光はなかった。

 ただ敵が居るから斧を振るうだけ。

 その間断ない攻撃に舌打ちの一つでもしたくなる。

 

「これなら……どうっ!?」


 グバッ!


 ガンッ!っと硬質な音が鳴り響く。

 眼球を狙ったんだけど、その一撃は瞼によって防がれてしまった。

 危機を感じてか、逸らした頭に剣はその表面を撫でるだけで、出血さえない。


 流石にこれは、防ぐか……


 危険だからこそ反応も早くなる。

 目を潰せば少しは隙が生まれるかと思って、攻撃したけどそれは上手くいきそうもない。

 この硬い皮膚を貫いて肉を切り裂くためには、相応の魔力が必要になる。

 けど、この状況下でそれまで悠長に魔力を溜められる隙はなかった。


 少しあれば、いいんだけど……


 その少しの時間。

 それがいつ来るのか……それに関してはランに期待するしかなさそうだった。


「ん~……このくらい、かしら? もうちょっとかけといた方がいい、かな?」


 回復魔法を掛けて回るランの怪訝な声が聞こえてくる。

 この分じゃまだまだ来そうにないかな?

 本当に頼むよ?ラン


 グブアアアアアアッ!


「てやっ!」


 攻撃を仕掛けてくる巨大ゴブリンと切り結びながら機を伺う。

 時間を稼ぐ、とはいったけど、ね。

 ランには、もうちょっと回復魔法の練習が必要だったんじゃないかな?

 まぁ、今更思っても仕方ないけどね……

 戦いはまだまだ終わりそうになかった。

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