↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縄文に、未来人がひとり  作者: 北野風人
つながる世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
99/117

第99話 俺の知らない知り合い

「オキ」


年上の男が呼ぶと、若い男が振り向いた。


俺も顔を上げると、若い男と目が合った。


自分の胸を叩き、笑う。


「オキ」


「オキ」


俺が返すと、今度は年上の男を指した。


「カヅ」


昨日聞いた名を、顔と一緒に覚え直す。


カヅも頷き、俺の肩へ手を置いた。


「サエ」


「それは、覚えてる」


俺も自分の胸を叩き、三人で歩き出した。


*


上流の道は、川から少し離れた林を通っていた。


昨日の崩れた場所へは下りない。


朝の光が幹の片側だけを照らしている。


俺は二人の間を歩いた。


オキがときどき足を止め、細い木を曲げてみる。


カヅは幹を見て、触ってから選ぶ。


真っすぐならいい、というわけではなさそうだった。


「これ。何、使う?」


俺が尋ねると、オキは川を示し、両手で魚が入る隙間を作った。


昨日組んでいたものの続きか。


俺は頷き、選んだ木の長さを確かめる。


カヅが切る間、オキと俺は倒す先を空けた。


切り終わると枝を払い、使うものを道の脇へ揃えていく。


ひと抱え分が地面へ揃ったころ、オキが俺を見た。


「昨日より、短い」


オキが一本を持ち、俺へ向けた。


「これなら。オキ、一人」


オキはすぐに首を振った。


カヅが笑う。


オキは俺へ材料を寄せ、自分は手ぶらで歩く真似をした。


「サエ、一人」


「三人」


俺は指を三本立てた。


そこは譲らない。


カヅはまだ笑いながら、次に使う紐を出した。


*


声がしたのは、材料をまとめ終えたころだった。


林の向こうから、短く呼びかける声。


知らない男の声だった。


俺は顔を上げた。


カヅがすぐに返す。


木々の間から、人が一人現れた。


背には、横へ張り出した荷。


その後ろにも、もう一人いた。


俺は束ねた材料から手を離し、身体を起こした。


オキが男たちへ近づいていく。


先頭の男が何か言うと、カヅは顎を上げて笑った。


俺は二人の顔を見比べた。


警戒するより先に、挨拶が済んでいた。


男が荷を下ろす。


オキがその端を支えた。


カヅは腰を下ろし、水を出している。


俺は肩から力を抜いた。


先頭の男が、オキの脇腹を軽く叩いた。


オキが笑って払いのける。


俺には初めての場所でも、この二人には、知り合いに会って立ち話をする道なのだ。


「サエ」


カヅに呼ばれた。


隣の地面を叩く。


材料は脇へ置いたまま、隣へ座った。


*


先頭の男は、まず俺の服を見た。


袖の縫い目に目が止まり、それから顔へ戻る。


その目には見覚えがあった。


俺は自分の胸を指した。


「サエ」


男が音を返す。


俺が頷くと、今度はカヅが話し始めた。


昨日の道と、長い枝のことらしかった。


カヅは幹を回すように手を動かし、俺を指す。


オキも材料の束を叩き、何か言い足した。


男は話を聞いたあと、俺へ向き直った。


「サエ。これ、川?」


束ねた木を指す。


俺は頷いた。


「川。魚」


オキが見せたように、手で隙間を作る。


男が問い返した。


今度は長く、途中で分からなくなった。


俺は曖昧に頷かず、首を振った。


「後、分からない」


男は木の束を指し、水が押してくるように掌を動かした。


水が増えたときのことだろうか。


「水、多い?」


男が頷く。


そこは、俺には答えられなかった。


昨日、運ぶのを手伝った。組み方は、まだ全部分かっていない。


「カヅ。知る」


隣へ顔を向ける。


カヅが説明を引き取った。


男は聞き終えると、また俺を見た。


短く礼を言った。


俺にも、だった。


カヅが話し終えても、男の身体はこちらへ向いたままだった。


*


腰を落ち着けると、男たちも食べ物を出した。


先頭の男が、小さな干し魚を二つに折る。


片方を俺へ差し出した。


頭のほうだった。


俺の手が、少し止まった。


男は俺の顔を見て、隣の男へ何か言った。


笑い声が返る。


差し出していた頭を自分で食べ、胴のほうを俺へ渡した。


オキがこちらを見た。


男の口元を指して笑う。


俺は受け取った魚と、男の顔を見比べた。


そのまま、残った小骨まで噛んでいる。


「好き?」


魚の頭があったところを指す。


男は頷いた。


オキが俺のぶんへ手を出す。


今度は迷わず、少し脇へ引いた。


「これは、俺」


カヅが声を出して笑った。


俺も笑ってから、食べた。


よく乾いていて、噛むほど味が出た。


*


立つ前に、男が荷を包んでいた葉を少し開いた。


白いものが幾つか見えた。


小さな貝だった。


一つを取り、指先に載せる。


穴が開いていた。


細い紐を通して首元へ当てると、胸の上で白く光った。


俺が覗き込むと、掌へ載せてくれた。


内側が、光の向きで少し色を変える。


ただ白いだけではなかった。


指で縁をなぞる。滑らかだった。


男とカヅが話し始めた。


俺たちの集落の呼び名が聞こえ、カヅが帰り道を示す。


「来る?」


男を見ると、頷いた。


今日ではない。


何度か夜を越してから、ということらしかった。


男は貝を返してもらうと、今度はカヅの石刃を指した。


カヅは腰から外し、男へ渡した。


男は刃を光へ向け、石の表面を確かめた。


言葉を交わしてから返す。


カヅは自分の集落を示し、何かを割り出す仕草をした。


同じような石を、向こうへ持ってくるのだろうか。


まだ、何と何を替えるのかは分からない。


貝は男の荷へ、石刃はカヅの腰へ戻った。


先頭の男は俺を呼び、自分の目元を指す。


次に、荷。


「サエも。見る」


俺は頷いた。


「見る」


貝の縁に、いくつも小さな擦り跡があった。


あの滑らかさになるまで、どれくらい手をかけるのだろう。


*


男たちは、俺たちとは別の道へ進んだ。


背の荷が木々に隠れるまで、思っていたより早かった。


俺たちも材料を持ち上げる。


カヅが先に立ち、オキと俺が続いた。


帰り道で、オキが一度振り向いた。


俺の首元を指す。


それから、貝を並べる仕草をした。


俺は自分の襟を見た。


この服に、あの貝を下げるのか。


オキは妙に楽しそうだった。


「オキも」


言い返すと、胸を張った。


似合うつもりらしい。


カヅが前を向いたまま呼んだ。


オキが返事をし、俺も材料を持ち直す。


休んでいる間に、少し歩くのが億劫になっていた。


持ち上げれば、また足は動いた。


*


日の高いうちに、集落へ戻った。


川辺へ材料を下ろし、カヅたちと別れる。


戻ると、イナがこちらを見た。


俺は先に手を上げた。


「帰った」


イナが頷く。


水を飲み、そばへ腰を下ろした。


材料は全部持ち帰った。


その報告をしてから、俺は掌に小さな丸を作った。


真ん中を指す。


紐を通し、首へ下げる真似をした。


イナが何か言った。


貝を指す言葉だった。


俺は頷いた。


「白い。ここ、光る」


掌を傾けてみせる。


イナは俺の手元を見たあと、顔を上げた。


どこで見たのかと尋ねているらしい。


知り合った男の顔を思い出す。


俺は、そこで口を止めた。


カヅたちの会話に、その名も出たはずだった。


顔を見て確かめる前に、別れてしまった。


「……次、聞く」


イナが首をかしげる。


俺は川上を指した。


「人、来る。貝、持つ」


それから、彼女を見る。


「イナも、見る?」


イナは頷いた。


首元へ手を添え、少し笑った。


俺は白い貝がそこに下がるところを思い浮かべた。


似合いそうだった。


掌を傾ける真似を、もう一度する。


「イナ。見る。選ぶ」


イナは頷き、俺の襟元も指した。


「サエも」


オキに言われたときは、すぐ言い返せた。


今度は少し考え、頷いた。


「一緒に、見る」

お読みいただき、ありがとうございます。

少しでも続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援いただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。