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縄文に、未来人がひとり  作者: 北野風人
つながる世界

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90/120

第90話 半分だけ、空いた

女は魚の束を外した。


一尾を選び、厚いところを開いて男へ見せる。


男が指で押した。


女は短く言い、魚を元の場所へ掛け直した。


それから、俺の持つ敷物へ目を落とす。


首を振った。


俺は端を持ったまま止まった。


屋根の下は乾いている。


風も通る。


だから、魚もここにある。


男は木の実を広げたほうを示した。


女は答えず、別の束も外して見せた。


彼の声が少し低くなった。


         *


トワと敷物を下ろした。


今ある棚には、一部しか載っていない。


残りは葉の上だった。


濡れた場所から出したものを、元のように積み直すわけにはいかない。


女の話には、知っている音が何度か混じった。


今日。


まだ。


ここ。


男の返事にも、同じ音がある。


俺は二人の間から少し退いた。


若い男が屋根の横木へ手を掛けた。


持ち上げようとする。


魚の束が揺れ、女の声が飛んだ。


男は手を離した。


トワが反対側へ回り、結び目と支えを確かめる。


首を振った。


すぐに広げられる屋根ではなかった。


         *


女は奥へ入り、魚の向きを変え始めた。


一束ずつ確かめる。


戻す。


掛ける場所を変える。


二つだけ、短い棒へ移した。


その下には、子どもが籠を置いて待っていた。


女が一尾外し、渡す。


子どもは籠へ入れる前に、もう一度女へ見せた。


頷かれる。


次の一尾も、同じようにした。


俺は空いていく棒を見た。


女が俺たちと話している間、子どもは待っていたのだ。


トワの腕へ触れる。


魚。


籠。


その上の、空き始めたところ。


彼は俺の視線を追った。


「ここ?」


俺が敷物へ手を向けると、トワは女を呼んだ。


         *


話は短く済まなかった。


女は俺の示した束を取り、魚を確かめ直した。


籠へ移すもの。


戻すもの。


別の女も呼ばれてきた。


二人で残りを見て、いくつかをほかの棒へ移す。


間は詰めなかった。


俺たちは、その間ずっと敷物のそばに立っていた。


やがて、女が屋根の端を指した。


男が近づく。


何か言われ、彼は頷いた。


女はもう一度、俺たちの敷物を見る。


俺とトワで持ち上げた。


         *


空いたところへ広げようとすると、女が反対側を引いた。


俺は一歩戻った。


まだ引く。


もう一歩。


「……このくらい?」


さらに少し。


敷物は半分ほど畳まれた。


トワの肩が動いた。


男も口元を押さえている。


「広く見えたんだよ」


女は柱の脇へ小石を置いた。


その向こうを、魚の入った籠を持って歩く。


身体を横へ向けずに通れた。


戻ってきて、小石の内側を叩いた。


俺は敷物をそこへ収めた。


         *


男とトワが短い木を運んできた。


低い支えを置き、その間へ木を渡す。


女は魚の真下を避けて位置を決めた。


敷物を掛ける。


余った端を折り込もうとすると、手を止められた。


女は厚く重なった部分をほどき、外へ垂らした。


その上へ、乾いた敷き葉を並べる。


最初の一枚が運ばれてきた。


俺は受け取るために手を出したが、女は魚を扱っていた人へ先に見せた。


置き場所が示される。


木の実が薄く広がった。


俺は垂れた端を下の木へ留めた。


立ち上がると、小石が足のすぐそばにあった。


少し下がる。


魚の女が籠を抱えて通った。


         *


ハルが呼ばれた。


棚を見てほしいらしい。


入口に座っていた彼は立ち上がりかけ、肩へ手を置いた。


そこでやめた。


男へ何か言う。


男は棚とハルを見比べた。


しばらくして、載せた葉を一枚持ち上げる。


ハルの前へ運んだ。


彼は実を確かめ、エナへ尋ねた。


一つを外へ寄せる。


残りは戻す。


男が受け取り、棚へ運ぶ。


ハルは座ったままだった。


俺も次の葉を運んだ。


         *


何度か往復すると、地面に残るまとまりが減った。


女が空いた葉を畳む。


一枚。


もう一枚。


俺は棚の前で足を止めた。


朝、ここへ来たときには、籠の下から濡れた葉を剥がしていた。


今は、実が重ならずに並んでいる。


調べたまとまりも混ざっていない。


魚の束は、元の間隔を保って掛かっていた。


女が小石を足で寄せた。


俺の靴の先へ当たる。


慌てて足を引くと、彼女が笑った。


俺も笑った。


借りたのは、立つ場所までではなかった。


         *


魚を収めた子どもが、空の棒を抱えてきた。


トワへ渡す。


彼は長さを見て、棚の下へ当てた。


少し短い。


向きを変える。


今度は両端が支えに届いた。


女が子どもへ声を掛けると、もう一本運んできた。


俺は木を押さえた。


トワが縄を回す。


強く握ると掌が引きつれたので、手をずらした。


彼が締め終わるまで待つ。


離す。


棚は沈まなかった。


女が実を少し動かしても、端は持ち上がらない。


トワが木を叩いた。


俺は下ろした手を開き、閉じた。


         *


午後、魚の女と、実を運んでいた女が棚の前へ並んだ。


通る幅を確かめる。


敷物の端。


魚の位置。


最後に、俺を呼んだ。


「サエ」


朝の光が来るほうへ手を向け、棚へ戻す。


明日の話だった。


俺は頷きかけた。


できることは増えてきた。


同じように運ぶのなら、明日も――。


足元へ荷が置かれた。


トワだった。


帰りの食べ物が入っている。


彼は荷から手を離し、女の返事を待った。


俺は顔を上げた。


「明日。戻る」


道のほうへ手を向ける。


女が何か聞いた。


トワが答える。


今朝、男と話したことを、彼女は聞いていなかったのかもしれない。


俺は棚へ指を戻した。


今日。


俺。


次に明日の朝を示し、掌を開く。


「誰?」


女は隣の女を見た。


二人が話す。


片方は家を指し、首を振った。


別の名が出たところで、ハルが口を開いた。


         *


呼ばれたのは、屋根の横木を動かそうとした若い男だった。


ハルの前へ来る。


話を聞き、棚を見る。


一度は頷きかけたが、魚の女が言い足すと、返事が止まった。


彼は川のほうを指した。


男も何か言う。


若い男は、集落の端へ置かれた細長い籠を示した。


縄と、何本かの木が添えてある。


俺たちの作業に使ったものとは違う。


魚の女が、その籠へ目を向けた。


ハルは黙って待っていた。


やがて若い男が棚へ来た。


しゃがみ、支えを押す。


敷物の端を見る。


二つのまとまりへ手を伸ばした。


俺は空の葉を一枚取り、隣へ置いた。


片方を少し移して見せる。


次は別の葉。


彼は見てから、自分でも葉を取った。


俺は手を引いた。


若い男は一方を動かし、元の場所と見比べた。


ハルへ何か聞く。


ハルが答える。


二人で、置き直した。


         *


魚の女は、川へ持っていく籠のそばへ戻った。


中から縄を取り出す。


輪をほどき、長さを確かめた。


若い男がそれを見て、棚から立つ。


女へ話す。


彼女は縄を持ったまま聞いていた。


男も加わる。


声は大きくならなかった。


それでも、誰もすぐには頷かなかった。


俺は足元の荷を持ち上げた。


明日は帰る。


その約束を、今日また確かめたばかりだった。


棚の世話をする人は、見つかりかけている。


だが、その人も明日、空いていたわけではない。


若い男の手が、川へ持っていく籠へ触れた。


魚の女は縄を地面へ置き、彼に何か尋ねた。


彼は棚を振り返った。

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