↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縄文に、未来人がひとり  作者: 北野風人
ここで生きる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/122

第9話 水の行く先

子どもの指の先に、


細い水が流れていた。


雨で濡れた土の上を、


ゆっくりと下っている。


俺はしゃがんだまま、


その先を目で追った。


水は草の間を抜け、


小さなくぼみにたまった。


いっぱいになると、


端からあふれる。


さらに下へ。


「これ?」


子どもが何か言った。


分からない。


けれど、


すぐには立ち上がらなかった。


もう少し見てみる。


雨水は、


あちこちから集まっていた。


屋根から落ちたもの。


斜面を伝ってきたもの。


人が何度も歩いて、


少し低くなったところを流れてきたもの。


それらが、


少しずつ一つになっていく。


俺は顔を上げた。


その先に、


住居があった。


         *


声がした。


若い男だった。


俺たちの横を通り過ぎ、


住居の脇にしゃがむ。


地面に触れる。


水の流れを見る。


それから、


棒のようなものを持ってきた。


土に差し込む。


濡れた土を削り、


脇へ寄せる。


また削る。


浅い筋ができた。


そこへ、


たまっていた水が入っていく。


「……あ」


水が、


住居とは違う方向へ流れ始めた。


俺は男の手元を見た。


雨の中で、


何度も地面を見ていた理由が、


少しだけ分かった。


別の男も来た。


二人で、


土を動かし始める。


俺はその横に立っていた。


若い男が、


ふと顔を上げた。


目が合う。


何か言った。


「分からない」


男は、


手にしていたものとは別の棒を拾った。


俺のほうへ投げる。


足元の泥に落ちた。


俺は棒を見る。


男を見る。


男はもう、


こっちを見ていなかった。


「……これでやれってことか」


棒を拾った。


         *


やってみると、


思ったより難しかった。


雨を吸った土は重い。


棒を差し込む。


押す。


土が少し崩れる。


もう一度。


今度は泥が跳ねて、


ズボンについた。


「うわ」


若い男のほうを見る。


速い。


力だけじゃない。


棒を入れる場所も、


土をどちらへ出すかも、


迷っていない。


俺は男が作った筋を見た。


同じように、


少し先へ棒を入れる。


土を寄せる。


水が入ってきた。


細い流れができる。


「お」


もう一度。


今度は、


泥が崩れて流れをふさいだ。


若い男が何か言った。


俺の手元を指す。


次に、


少し横を指した。


「こっち?」


返事はない。


男は、


もう自分の作業に戻っている。


俺も場所を変えた。


         *


少しずつ、


浅い筋が伸びていった。


そこへ水が入る。


濁った水が、


住居から離れる方向へ流れていく。


俺は棒を地面に立て、


息を吐いた。


若い男は、


まだ手を止めていなかった。


少し先へ移動している。


俺も水の先を見た。


流れは、


途中で広がっていた。


低いところへたまり、


動きが鈍くなる。


まだ終わっていないらしい。


棒を持ち直した。


         *


子どもは、


ずっと近くにいた。


手伝っているのか、


遊んでいるのか、


よく分からない。


細い枝を拾う。


水に置く。


枝が流れる。


子どもが追いかける。


少し先で、


枝が止まった。


拾う。


また戻ってくる。


「遊ぶなら向こうで――」


言いかけて、


やめた。


子どもが、


もう一度枝を水に置いた。


枝は流れる。


曲がる。


俺たちが削ったところを通る。


そして、


さっきと同じあたりで止まった。


子どもが拾う。


また戻ってきた。


三度目。


同じところから、


枝を流す。


俺は、


棒を持ったまま見ていた。


枝が俺の前を通る。


少し先へ。


ゆっくりになる。


回る。


止まった。


同じ場所だった。


「……そこ?」


俺は歩いていった。


         *


しゃがんでみる。


見ただけでは、


ほとんど分からない。


でも、


水はここで広がっている。


指で泥をなぞる。


少し右。


少し左。


高さが違う。


ような気がする。


俺は棒を置いた。


若い男のほうを見る。


呼び方が分からない。


昨日、


名前らしい音は聞いた。


でも、


自信がない。


適当に呼んで、


別の人が振り向いたこともある。


「おい」


当然、


通じない。


俺は立ち上がり、


男のところまで行った。


腕には触れず、


地面を指す。


男が俺を見る。


もう一度、


指す。


男は手を止めた。


俺についてくる。


         *


止まった水を指した。


子どもの枝を拾う。


少し戻って、


水に置く。


枝が流れる。


そして、


同じところで止まった。


若い男は、


枝ではなく地面を見ていた。


しゃがむ。


手で土に触れる。


少し先を見る。


立ち上がり、


二、三歩歩く。


またしゃがむ。


俺は、


その後ろについていった。


男が棒を地面に置いた。


向きを見る。


俺が考えていた方向とは、


少し違った。


「そっち?」


男はもう、


土を削っていた。


俺も地面を見る。


その先は、


わずかに低くなっている。


俺は自分の棒を持ってきた。


         *


二人で土を動かした。


途中から、


もう一人の男も加わった。


俺が削ったところを、


若い男が少し広げる。


男が作ったところを見て、


俺も真似する。


水が入ってくる。


泥が崩れる。


直す。


また流れる。


しばらくすると、


細い流れができた。


子どもが来た。


また、


枝を水に置く。


俺は手を止めた。


枝が進む。


さっき止まった場所へ近づく。


少し回った。


止まりそうになる。


それから、


向きが変わった。


進む。


子どもが走り出す。


俺も、


目で追った。


枝は、


そのまま流れていった。


子どもが何か叫ぶ。


若い男が答える。


意味は分からない。


子どもは、


枝を追いかけていった。


         *


気がつくと、


手が泥だらけだった。


ズボンの裾にも、


泥がついている。


靴もひどい。


昨日までなら、


かなり気になったと思う。


俺は近くの水で、


手についた泥を落とした。


若い男も来た。


少し離れたところで、


手を洗う。


二人とも、


何も言わない。


俺は手を振って、


水を落とした。


立ち上がる。


男も立った。


これで終わりかと思った。


男は、


別の方向へ歩き出した。


数歩行って、


止まる。


地面を見る。


また、


どこか気になるらしい。


俺はその場に残った。


男が振り返る。


俺を見る。


何か言った。


「……何?」


男は足元にあった棒を拾った。


こっちへ投げた。


棒が、


俺の前の泥に落ちた。


男はもう、


歩き出している。


俺は棒を見た。


少し先を歩く、


男の背中を見る。


棒を拾った。


今度は、


指される前についていった。

お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。