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縄文に、未来人がひとり  作者: 北野風人
つながる世界

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84/113

第84話 迎えに来た人の荷物

ハルの手が止まった。


入口の外に、セトが立っていた。


その後ろに男が二人。


一人には見覚えがあった。以前、ハルたちを連れて帰ろうとした男だ。


背には籠。


もう一人は、長い包みを肩に載せている。


エナが立ち上がった。


男に声を掛ける。


返事は短かった。


ユイが身体を起こそうとすると、エナは肩へ手を添えた。


男の目が家の中を動く。


ハル。


ユイ。


俺。


俺は子どものそばへ寄った。


まだ長い道を歩ける足ではない。


男は俺を見たが、何も言わなかった。


籠を下ろし、入口を空けるように壁際へ寄せた。


         *


籠から出てきたのは、食べ物の包みと小さな器だった。


次に、畳んだ獣皮。


もう一人の男が肩の荷をほどく。


木の棒が二本、地面へ並んだ。


節の出っ張りは削ってあった。


トワが一本を持ち上げる。


端を地面へ押しつけ、力を掛けた。


向きを変え、もう一度。


男と話す。


エナは獣皮を広げ、厚い部分へ指を置いた。


ユイの足元を見る。


男が子どもの前へしゃがんだ。


ユイは巻き物のある足を引いた。


男は触れなかった。


エナに何か聞く。


彼女が答え、昨日歩いた木のほうを指した。


男はそちらを見た。


しばらくして、棒を手元へ引き寄せる。


俺にも一本、端を差し出した。


受け取る。


男が反対側を持ち、少し持ち上げた。


その間へ、エナが獣皮を置く。


「……運ぶのか」


男はユイを見ていた。


歩かせて帰るつもりで来たのではなかった。


俺は棒を下ろした。


子どもの前に立っていた足を、少し横へずらした。


         *


ハルが上衣の裾を引いた。


腕を抜こうとして、動きが止まる。


エナが肩を支えた。


衣の下に、赤く擦れたところが見えた。


俺は視線を外した。


エナから畳んだ衣を渡される。


受け取って、入口へ向かった。


外で待とうと思った。


「サエ」


呼び止められた。


振り返ると、エナが俺の手を指していた。


衣。


ハル。


「あ」


着替えを持ったまま、出ていくところだった。


戻って差し出す。


エナは受け取らず、ハルの肘を示した。


しゃがみ、その腕を支える。


彼女が袖を抜いた。


赤くなったところを確かめ、脱がせた衣の内側を指でなぞる。


出っ張った縫い目に指が止まった。


着替えの衣を開き、ハルの腕へ通す。


俺は肩が上がりすぎないよう、肘を持っていた。


終わると、ハルが何か言った。


そばの男が俺を見た。


口元がわずかに動く。


ユイまで笑っていた。


「渡すつもりだったんだよ」


エナが残った衣を俺の手から取り、畳んだ。


ハルの肌が見えていることより、着替えが入口へ消えかけたことのほうが問題だったらしい。


         *


棒を外へ運んだ。


獣皮を間へ広げ、トワと男たちが縄を掛ける。


俺は端を押さえた。


傷者を運んだときにも見た形だ。


ただ、縄を回す場所が違う。


余った皮を折り込もうとすると、男に止められた。


彼はそこを丸めた。


ユイの足が当たる側へ置く。


エナが押して厚みを確かめ、少し位置を直した。


子どもは入口から見ていた。


自分が載るものだと分かっているようだった。


トワと男が両端を持ち上げる。


縄が張った。


下ろす。


結び目を一つ締め直す。


エナがユイを連れてきた。


途中までは歩いたが、残りは抱いている。


俺は先にしゃがみ、背中を向けた。


誰も載らなかった。


肩を叩かれる。


男が獣皮の角を指した。


押さえろ、ということだった。


「……そっちか」


ユイが笑った。


俺は向きを変え、皮の端へ手を置いた。


エナが子どもを座らせる。


足の下の厚みを直し、顔を確かめる。


トワが棒を握ったところで、俺はようやく手を離した。


         *


持ち上がった瞬間、ユイの指が獣皮をつかんだ。


二人が止まる。


エナが聞くと、子どもは足元を指した。


下ろした。


丸めた皮を膝のほうへ少し寄せる。


もう一度、持ち上げる。


今度はユイの肩が上がらなかった。


二人は歩き出した。


俺は横についた。


棒がしなる。


手を添えかけて、やめた。


トワと男の足は揃っていた。


昨日、ユイが休んだ木の陰で下ろす。


子どもは周りを見てから、森のほうを指した。


エナが首を振る。


男も棒から手を離し、その場に座った。


俺は彼の顔を見た。


家へ来たときと同じ、固い口元だった。


けれど、先へ行こうとはしない。


年老いた女が呼ばれてきた。


ユイの足を確かめ、男と話す。


家を指す。


男は一度、道のほうへ目を向けた。


それから頷いた。


帰りも、揺らさない速さで運んだ。


         *


ユイを寝かせると、棒は壁の外へ立て掛けられた。


食べ物の包みは残った。


小さな器も。


男は籠の底を払った。


帰れないなら、持ってきたものを背負い直すのだと思っていた。


エナは包みを開き、ノエの器へ少し移した。


男はハルの前に座った。


ハルが修理していた籠を寄せる。


縁を押して見せた。


男も押す。


編み目を確かめ、短く何か言う。


ハルは頷いた。


男が自分の籠へ手を入れた。


最後に、小さな籠を取り出す。


片側の口が裂け、細い材が飛び出していた。


底も歪んでいる。


ハルの手が止まった。


男は差し出したまま、何か話した。


ハルは受け取らなかった。


傷めた肩へ手を置く。


男が口を開きかけた。


エナの声が先に出た。


短かった。


男は彼女を見て、それからハルの肩を見た。


籠を地面へ置く。


ハルの膝へ押しつけはしなかった。


立ち上がり、外へ出る。


もう一人と、運ぶ棒の縄を確かめ始めた。


ハルは小さな籠を見ていた。


しばらくして、縁へ指を掛ける。


持ち上げた。


底の歪みを押す。


一度だけ。


それから、寝床の脇へ置いた。


俺は何も聞かなかった。


         *


ノエが戻ってきた。


残された荷物を見て、エナと話す。


セトも来た。


男たちは地面へ線を引いた。


途中に小石を置く。


一つを押さえ、手のひらを動かさずに伏せた。


休む場所だろうか。


トワが線の途中へ小枝を置く。


男が少し位置を直した。


俺には知らない道だった。


エナが水の器を並べる。


食べ物。


獣皮。


まだ足りないものがあるのか、男が籠の中を指し、トワが答えた。


俺はノエへ向き直った。


自分を指す。


外へ手を向ける。


それから、家へ戻した。


「戻る」


ノエは俺の掌を見た。


傷は塞がりかけている。


けれど、棒を強く握るには痛みが残っていた。


彼女がトワへ何か聞く。


トワは水の器を俺の前へ寄せた。


持ち上げる。


歩ける重さだった。


ノエは頷いた。


俺は器を下ろし、エナを見た。


彼女もこちらを見ていた。


昨日は縄を握って頷いただけだった。


今日は、持っていくものが一つ決まった。


         *


日が傾く前に、男たちは帰る支度をした。


ハルのそばには、小さな籠が置かれている。


まだ直していない。


男がその前で止まった。


ハルが顔を上げる。


二人が話した。


今度は、男が先にハルの肩を指した。


次にユイ。


手を低く下ろす。


ハルはしばらく相手を見ていた。


それから、小さな籠を自分の寝床へ寄せた。


男は持ち帰らなかった。


俺は入口まで送った。


背負い籠は、来たときより軽い。


棒も獣皮も、こちらに残っていた。


男が肩の紐を直す。


俺を見る。


「サエ」


返事が遅れた。


もう一度、呼ばれる。


俺は胸へ指を当てた。


「サエ」


男が頷いた。


この人と、名前を確かめ合った覚えはなかった。


彼は来た道を指した。


それから俺。


俺は水の器を持つ真似をした。


男の口元が少し緩む。


隣の男へ何か言った。


その男も俺を見た。


「サエ」


俺は二人を見た。


誰から聞いたのだろう。


エナか。


ハルか。


以前来たとき、誰かが呼んだのを覚えていたのかもしれない。


二人はセトと短く話し、森へ向かった。


         *


家へ戻ると、ハルが小さな籠を裏返していた。


俺はそばに座った。


直すのかと思った。


ハルは飛び出した材を一本抜き、脇へ置く。


そこで手を止めた。


籠を床へ戻し、肩を壁へ預ける。


目を閉じた。


俺は抜いた材を拾い、踏まれないところへ寄せた。


ユイが寝返りを打つ。


エナが足元の獣皮を直した。


外には、二本の棒が立っている。


水の器は、俺のそばにあった。


入口から、来た道を見る。


まだ一度も歩いたことのない先で、俺の名前を口にする人がいる。


何を聞いているのだろう。


ハルが目を開けた。


「サエ」


俺が振り返ると、彼は自分を指した。


ユイ。


俺。


最後に、入口の向こう。


俺は頷いた。


ハルは小さな籠へ手を置いた。


今度は、俺にも帰る支度があった。

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