第20話 森の道
朝、
目を覚ましたとき、
老人已经不在旁边了。
反対側に寝ていた男も、
いない。
俺だけが、
草の上に残っていた。
*
起き上がる。
火のほうを見る。
もう、
人が動いている。
昨日の朝とは、
少し違った。
一度にみんなが動くわけじゃない。
一人が何かを持って、
木の間へ入っていく。
しばらくすると、
別の二人が歩いていく。
女が一人、
子どもと一緒に出ていく。
どこへ行くのか、
俺には分からない。
誰も、
見送りはしない。
*
顔を洗う場所も分からなくて、
俺は少し歩いた。
昨日渡った水の近くまで行く。
しゃがむ。
水を見る。
手を入れる。
冷たい。
顔を濡らす。
*
立ち上がったところで、
声がした。
「サエキ」
*
若い男だった。
*
少し離れたところに立っている。
手には、
いつもの棒。
いや。
槍。
俺にはまだ、
どこまでを棒と呼んで、
どこからを槍と呼べばいいのか分からない。
*
「帰る?」
俺は、
昨日来た方向を指した。
若い男は見る。
それから、
別の方向を指した。
*
「そっち?」
男はもう歩き始めている。
*
俺は、
靴を見た。
昨日、
川を渡ったせいで、
まだ少し湿っている。
*
「また歩くのかよ」
*
追った。
*
森へ入る。
昨日来た道とは違う。
少なくとも、
俺にはそう見えた。
*
最初は、
道なんてなかった。
木。
草。
土。
落ち葉。
どこを見ても、
同じに見える。
*
若い男は、
迷わない。
木と木の間を抜ける。
低い枝を避ける。
少し右へ曲がる。
また戻る。
*
俺は、
後ろをついていく。
*
しばらく歩いて、
気づいた。
草が、
少し低い。
*
地面が見えるところがある。
土が硬い。
*
一本の線には見えない。
でも、
少し先にもある。
その先にも。
*
「……道?」
*
若い男は振り向かない。
*
俺は、
足元を見る。
誰かが歩いた跡。
一人じゃない。
何度も。
たぶん。
*
昨日まで、
森は森だった。
入れば、
どこへ行くのか分からない場所。
*
でも、
若い男の足は止まらない。
*
俺に見えなかっただけで、
ここには、
ずっと人が歩いていた。
*
前から、
声がした。
*
若い男が止まる。
俺も止まる。
*
木の向こうから、
二人出てきた。
知らない男。
一人は、
肩に何かを掛けている。
もう一人は、
手に長いものを持っている。
*
俺は、
若い男を見る。
*
槍は、
手にある。
でも、
構えない。
*
向こうの二人も止まった。
若い男が何か言う。
一人が返す。
*
短いやり取り。
*
一人が、
俺を見る。
頭から、
足まで。
*
靴で止まる。
*
またか。
*
男が何か言う。
若い男が答える。
*
二人が俺を見る。
*
「サエキ」
*
聞こえた。
*
「え?」
*
どちらが言ったのか、
分からない。
*
二人は、
もう歩き始めていた。
俺たちの横を通る。
*
振り返る。
二人は振り返らない。
*
「今、言ったよな?」
*
若い男は、
もう先へ行っている。
*
追う。
*
少しして、
後ろから足音がした。
*
振り向く。
女が一人。
昨日いた場所で見た女だ。
何度か見た顔。
名前は知らない。
*
女は俺たちに追いつくと、
若い男に何か言った。
若い男が返す。
*
そのまま、
三人で歩く。
*
会話は続かない。
*
女は、
俺より歩くのが速い。
*
「……またか」
*
少し上りになった。
俺の息が、
少しだけ速くなる。
二人は変わらない。
*
靴の底が、
湿った土で滑る。
俺は木に手をついた。
*
女が、
一度だけ振り返る。
*
何も言わない。
*
しばらくして、
道のようなものが分かれた。
*
俺には、
分かれたようにさえ見えなかった。
若い男が左へ行く。
女は、
右へ行く。
*
「え?」
*
女は、
そのまま歩いていく。
*
若い男も、
止めない。
*
俺は女の背中を見る。
木の間に消える。
*
「そっちは、
どこなんだよ」
*
答えはない。
*
若い男は、
左へ進む。
*
俺は、
二つの方向を見る。
*
どっちも、
同じ森にしか見えない。
*
ポケットに手がいった。
*
硬い。
スマートフォン。
*
指で触る。
*
出さない。
*
地図はない。
現在地もない。
青い線も、
矢印もない。
*
前を見る。
*
若い男の背中が、
木の間へ入っていく。
*
「待てよ」
*
手をポケットから出す。
追う。
*
少し先で、
森が開けた。
*
老人がいた。
*
最初の場所の老人ではない。
知らない老人。
地面に座って、
何かを触っている。
*
その近くに、
二人いる。
*
若い男が声をかける。
老人が顔を上げる。
*
俺を見る。
*
また、
靴。
*
老人が何か言う。
若い男が答える。
*
「サエキ」
*
今度は、
はっきり聞こえた。
*
老人が、
俺を見る。
*
俺は、
自分の胸を指した。
「サエキ」
*
老人が、
同じ音を返す。
*
少し違う。
*
俺は頭を下げた。
*
老人は、
何か言った。
分からない。
*
それ以上、
何も起きなかった。
*
若い男が歩き出す。
*
また、
森。
*
今度は、
俺も少し地面を見るようになった。
*
草の低いところ。
土の硬いところ。
折れている枝。
*
道。
*
たぶん。
*
さっきよりは、
少し見える。
*
でも、
若い男が曲がる前に、
どちらへ行くのかは分からない。
*
細い水の流れに出た。
川というほどではない。
*
若い男は、
そのまま入る。
*
俺は止まった。
*
「また水か」
*
浅い。
昨日よりずっと浅い。
*
靴のまま行けるか。
*
一歩。
*
石に乗る。
*
もう一歩。
*
滑った。
*
「うわっ」
*
片足が水に入る。
*
冷たい。
*
若い男が、
向こう岸で止まっている。
*
俺を見る。
*
笑わない。
助けにも来ない。
*
ただ、
待っている。
*
「分かってるよ」
*
石を見る。
次。
その次。
*
今度は、
ゆっくり渡る。
*
向こう岸へ上がる。
*
若い男は、
俺が横まで来ると歩き出した。
*
「少しくらい褒めろよ」
*
当然、
返事はない。
*
歩く。
*
しばらくすると、
声が聞こえた。
*
一人じゃない。
*
何人も。
*
子どもの声。
男の声。
女の声。
*
俺は、
足を止めた。
*
若い男は止まらない。
*
木が少なくなる。
空が広がる。
*
煙が見えた。
*
一つ。
その向こうにも。
*
人がいる。
*
昨日の場所より、
さらに多い。
*
「……まだあるのか」
*
若い男が、
そのまま入っていく。
*
俺も、
あとを追う。
*
何人かが、
こっちを見る。
*
知らない顔。
*
また、
知らない顔。
*
誰も知らない。
*
そう思ったとき。
*
「サエキ!」
*
声がした。
*
振り向く。
*
知らない子どもだった。
*
その子が、
俺を指している。
*
隣にいた男が、
何か言った。
*
子どもが、
もう一度。
*
「サエキ!」
*
俺は、
返事をするのを忘れた。
*
会ったこともない子どもが、
俺の名前を知っていた。
お読みいただき、ありがとうございます。




