↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縄文に、未来人がひとり  作者: 北野風人
人と生きる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/112

第20話 森の道

朝、


目を覚ましたとき、


老人已经不在旁边了。


反対側に寝ていた男も、


いない。


俺だけが、


草の上に残っていた。


         *


起き上がる。


火のほうを見る。


もう、


人が動いている。


昨日の朝とは、


少し違った。


一度にみんなが動くわけじゃない。


一人が何かを持って、


木の間へ入っていく。


しばらくすると、


別の二人が歩いていく。


女が一人、


子どもと一緒に出ていく。


どこへ行くのか、


俺には分からない。


誰も、


見送りはしない。


         *


顔を洗う場所も分からなくて、


俺は少し歩いた。


昨日渡った水の近くまで行く。


しゃがむ。


水を見る。


手を入れる。


冷たい。


顔を濡らす。


         *


立ち上がったところで、


声がした。


「サエキ」


         *


若い男だった。


         *


少し離れたところに立っている。


手には、


いつもの棒。


いや。


槍。


俺にはまだ、


どこまでを棒と呼んで、


どこからを槍と呼べばいいのか分からない。


         *


「帰る?」


俺は、


昨日来た方向を指した。


若い男は見る。


それから、


別の方向を指した。


         *


「そっち?」


男はもう歩き始めている。


         *


俺は、


靴を見た。


昨日、


川を渡ったせいで、


まだ少し湿っている。


         *


「また歩くのかよ」


         *


追った。


         *


森へ入る。


昨日来た道とは違う。


少なくとも、


俺にはそう見えた。


         *


最初は、


道なんてなかった。


木。


草。


土。


落ち葉。


どこを見ても、


同じに見える。


         *


若い男は、


迷わない。


木と木の間を抜ける。


低い枝を避ける。


少し右へ曲がる。


また戻る。


         *


俺は、


後ろをついていく。


         *


しばらく歩いて、


気づいた。


草が、


少し低い。


         *


地面が見えるところがある。


土が硬い。


         *


一本の線には見えない。


でも、


少し先にもある。


その先にも。


         *


「……道?」


         *


若い男は振り向かない。


         *


俺は、


足元を見る。


誰かが歩いた跡。


一人じゃない。


何度も。


たぶん。


         *


昨日まで、


森は森だった。


入れば、


どこへ行くのか分からない場所。


         *


でも、


若い男の足は止まらない。


         *


俺に見えなかっただけで、


ここには、


ずっと人が歩いていた。


         *


前から、


声がした。


         *


若い男が止まる。


俺も止まる。


         *


木の向こうから、


二人出てきた。


知らない男。


一人は、


肩に何かを掛けている。


もう一人は、


手に長いものを持っている。


         *


俺は、


若い男を見る。


         *


槍は、


手にある。


でも、


構えない。


         *


向こうの二人も止まった。


若い男が何か言う。


一人が返す。


         *


短いやり取り。


         *


一人が、


俺を見る。


頭から、


足まで。


         *


靴で止まる。


         *


またか。


         *


男が何か言う。


若い男が答える。


         *


二人が俺を見る。


         *


「サエキ」


         *


聞こえた。


         *


「え?」


         *


どちらが言ったのか、


分からない。


         *


二人は、


もう歩き始めていた。


俺たちの横を通る。


         *


振り返る。


二人は振り返らない。


         *


「今、言ったよな?」


         *


若い男は、


もう先へ行っている。


         *


追う。


         *


少しして、


後ろから足音がした。


         *


振り向く。


女が一人。


昨日いた場所で見た女だ。


何度か見た顔。


名前は知らない。


         *


女は俺たちに追いつくと、


若い男に何か言った。


若い男が返す。


         *


そのまま、


三人で歩く。


         *


会話は続かない。


         *


女は、


俺より歩くのが速い。


         *


「……またか」


         *


少し上りになった。


俺の息が、


少しだけ速くなる。


二人は変わらない。


         *


靴の底が、


湿った土で滑る。


俺は木に手をついた。


         *


女が、


一度だけ振り返る。


         *


何も言わない。


         *


しばらくして、


道のようなものが分かれた。


         *


俺には、


分かれたようにさえ見えなかった。


若い男が左へ行く。


女は、


右へ行く。


         *


「え?」


         *


女は、


そのまま歩いていく。


         *


若い男も、


止めない。


         *


俺は女の背中を見る。


木の間に消える。


         *


「そっちは、


どこなんだよ」


         *


答えはない。


         *


若い男は、


左へ進む。


         *


俺は、


二つの方向を見る。


         *


どっちも、


同じ森にしか見えない。


         *


ポケットに手がいった。


         *


硬い。


スマートフォン。


         *


指で触る。


         *


出さない。


         *


地図はない。


現在地もない。


青い線も、


矢印もない。


         *


前を見る。


         *


若い男の背中が、


木の間へ入っていく。


         *


「待てよ」


         *


手をポケットから出す。


追う。


         *


少し先で、


森が開けた。


         *


老人がいた。


         *


最初の場所の老人ではない。


知らない老人。


地面に座って、


何かを触っている。


         *


その近くに、


二人いる。


         *


若い男が声をかける。


老人が顔を上げる。


         *


俺を見る。


         *


また、


靴。


         *


老人が何か言う。


若い男が答える。


         *


「サエキ」


         *


今度は、


はっきり聞こえた。


         *


老人が、


俺を見る。


         *


俺は、


自分の胸を指した。


「サエキ」


         *


老人が、


同じ音を返す。


         *


少し違う。


         *


俺は頭を下げた。


         *


老人は、


何か言った。


分からない。


         *


それ以上、


何も起きなかった。


         *


若い男が歩き出す。


         *


また、


森。


         *


今度は、


俺も少し地面を見るようになった。


         *


草の低いところ。


土の硬いところ。


折れている枝。


         *


道。


         *


たぶん。


         *


さっきよりは、


少し見える。


         *


でも、


若い男が曲がる前に、


どちらへ行くのかは分からない。


         *


細い水の流れに出た。


川というほどではない。


         *


若い男は、


そのまま入る。


         *


俺は止まった。


         *


「また水か」


         *


浅い。


昨日よりずっと浅い。


         *


靴のまま行けるか。


         *


一歩。


         *


石に乗る。


         *


もう一歩。


         *


滑った。


         *


「うわっ」


         *


片足が水に入る。


         *


冷たい。


         *


若い男が、


向こう岸で止まっている。


         *


俺を見る。


         *


笑わない。


助けにも来ない。


         *


ただ、


待っている。


         *


「分かってるよ」


         *


石を見る。


次。


その次。


         *


今度は、


ゆっくり渡る。


         *


向こう岸へ上がる。


         *


若い男は、


俺が横まで来ると歩き出した。


         *


「少しくらい褒めろよ」


         *


当然、


返事はない。


         *


歩く。


         *


しばらくすると、


声が聞こえた。


         *


一人じゃない。


         *


何人も。


         *


子どもの声。


男の声。


女の声。


         *


俺は、


足を止めた。


         *


若い男は止まらない。


         *


木が少なくなる。


空が広がる。


         *


煙が見えた。


         *


一つ。


その向こうにも。


         *


人がいる。


         *


昨日の場所より、


さらに多い。


         *


「……まだあるのか」


         *


若い男が、


そのまま入っていく。


         *


俺も、


あとを追う。


         *


何人かが、


こっちを見る。


         *


知らない顔。


         *


また、


知らない顔。


         *


誰も知らない。


         *


そう思ったとき。


         *


「サエキ!」


         *


声がした。


         *


振り向く。


         *


知らない子どもだった。


         *


その子が、


俺を指している。


         *


隣にいた男が、


何か言った。


         *


子どもが、


もう一度。


         *


「サエキ!」


         *


俺は、


返事をするのを忘れた。


         *


会ったこともない子どもが、


俺の名前を知っていた。

お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。