↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
縄文に、未来人がひとり  作者: 北野風人
人と生きる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/118

第19話 誰の隣で眠る

火の向こうで、


誰かが笑った。


別の声が重なる。


子どもも笑う。


俺だけ、


何がおかしいのか分からない。


         *


それでも、


少し遅れて笑った。


子どもが俺を見る。


また笑う。


「何だよ」


もちろん、


通じない。


         *


火のそばには、


人が少しずつ増えていた。


誰かが座る。


誰かが立つ。


何かを持ってきて、


火の近くに置く。


最初の場所と似ている。


でも、


誰がどこに座るのか、


俺にはまだ分からない。


俺は、


子どもの横から動かなかった。


         *


しばらくすると、


子どもが何か食べ始めた。


小さいもの。


指で割って、


口に入れる。


俺が見ているのに気づいた。


手の中を見る。


俺を見る。


一つ、


差し出した。


         *


「くれるのか?」


子どもの手は、


そのまま。


俺は受け取った。


すぐには食べない。


子どもを見る。


子どもは、


自分の分を口に入れた。


噛む。


俺も、


口に入れる。


         *


硬い。


少し噛むと、


味が出た。


知っている味に似ている気もする。


でも、


名前は出てこない。


「……悪くない」


         *


火の向こうにいた男が、


俺を見ていた。


知らない男だ。


男が、


自分の口を大きく動かした。


何か言う。


周りが笑った。


子どもも笑う。


「俺の食い方か?」


男が、


また口を動かす。


今度は、


俺も笑った。


         *


意味は分からない。


でも、


笑われているのか、


一緒に笑っているのか。


その違いくらいは、


少し分かる気がした。


         *


食べ物が、


人の間を動いていた。


大きな器を、


一人で抱えているわけじゃない。


誰かが取る。


隣へ渡す。


また別の手へ行く。


さっき俺が近づいたとき、


食べ物を自分のほうへ寄せた女もいる。


女は、


手元にあったものを少し取った。


隣にいた老人へ渡す。


老人が受け取る。


         *


子どもが、


その間から手を伸ばした。


女が、


手の甲を軽く叩く。


子どもが引っ込める。


老人を見る。


         *


老人は、


女を見る。


子どもを見る。


自分の手の中から、


少しだけ取る。


子どもへ渡した。


         *


女が、


老人を見る。


老人は食べている。


子どもも、


もう食べている。


         *


俺は、


口元を押さえた。


笑いそうになった。


         *


女が、


こっちを見た。


         *


手を下ろした。


         *


子どもは、


何も気にしていない。


食べ終わると、


立ち上がった。


火の向こうへ行く。


         *


知らない女のところで止まる。


何か言う。


女が答える。


子どもが、


その横へ座る。


         *


しばらくすると、


女の脚に頭を乗せた。


         *


俺は、


少しだけ目を止めた。


女は、


子どもの髪から何かを取っている。


子どもは動かない。


         *


さっきまで、


俺の横にいた。


今は、


あそこにいる。


         *


少しして、


また起きた。


今度は老人のところへ行く。


老人が何か言う。


子どもが答える。


老人の持っているものを覗き込む。


         *


「……お前」


声が出た。


子どもは、


振り向かない。


         *


俺は、


その先を言わなかった。


         *


火が小さくなっていく。


人も、


少しずつ減った。


一人立つ。


どこかへ行く。


また一人。


子どもを連れていく人もいる。


一人で行く人もいる。


誰かと一緒に行って、


途中で別れる人もいる。


         *


俺は、


座ったまま見ていた。


         *


気づいた。


みんな、


立つときに迷わない。


         *


俺だけが、


どこへ行けばいいのか分からない。


         *


「……参ったな」


         *


火の近くに残っているのも、


変な気がする。


勝手にどこかへ行くのも、


もっと変だ。


         *


立ち上がる。


また座る。


         *


誰も、


俺を見ていない。


         *


そのとき、


聞き慣れた声がした。


「サエキ」


         *


若い男だった。


         *


「いたのかよ」


朝から一緒だったのに、


夕方には姿が見えなくなっていた。


男は俺を見て、


少し離れた場所を指した。


         *


草のようなものが、


地面に敷いてある。


         *


「ここ?」


指す。


男も指す。


         *


俺は歩いていく。


しゃがむ。


草に触る。


         *


寝る場所。


たぶん。


         *


振り返る。


若い男は、


もう歩いていた。


         *


「お前は?」


男は止まらない。


人の間を通って、


暗いほうへ行く。


         *


見えなくなった。


         *


俺は、


草の上に座った。


一人。


         *


少しして、


足音がした。


顔を上げる。


         *


子ども。


         *


「お前もここ?」


子どもは答えない。


俺の隣へ来る。


草の上に座る。


そのまま、


ごろんと横になった。


         *


「寝るのか?」


         *


子どもは、


もう目を閉じている。


         *


俺も横になる。


少し離れて。


         *


上を見る。


木の向こうに、


空がある。


火の光は、


ここまで少ししか届かない。


         *


隣を見る。


子どもがいる。


         *


昼間、


別の女の脚に頭を乗せていた。


その前は、


老人のところにいた。


今は、


俺の横。


         *


俺は、


何も聞かなかった。


         *


しばらくして、


女の声がした。


         *


子どもの目が開く。


         *


もう一度、


声。


         *


子どもが起き上がる。


俺を見る。


         *


「行くのか?」


         *


立つ。


声のほうへ走っていく。


         *


暗がりに、


女がいた。


誰なのか、


顔までは見えない。


         *


子どもが、


その女のところへ行く。


二人の姿が、


暗いほうへ消えた。


         *


また、


一人になった。


         *


俺は、


横になった。


         *


目を閉じる。


         *


少しして、


また足音。


         *


開ける。


老人だった。


         *


老人は、


俺を見ない。


少し離れたところへ座る。


何か敷く。


横になる。


         *


「……ここなのか」


         *


返事はない。


         *


さらに少しして、


別の男が来た。


今日、


ほとんど話したことのない男。


老人の反対側に、


横になる。


         *


俺。


老人。


知らない男。


         *


俺は、


暗い中で二人を見る。


         *


何なんだ、


この並び。


         *


考えても、


分からない。


         *


目を閉じた。


         *


火のはぜる音が、


遠くから聞こえる。


誰かの話し声。


笑い声。


足音。


         *


最初の夜とは違う。


あのときは、


暗い森の音ばかり聞いていた。


今夜は、


人の音がする。


         *


暗がりの向こうから、


子どもの笑い声がした。


         *


一つじゃない。


別の子どもの声もする。


誰かの低い声が重なる。


         *


俺は、


目を開けた。


そちらを見る。


         *


どこにいるのかは、


分からない。


         *


しばらく見て、


また横になった。


         *


今夜は、


探さなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。