第15話 同じではない
朝、
目を覚ますと、
二人はまだいた。
火は小さくなっている。
灰の下に、
赤いところが残っていた。
*
外から来た男の一人が、
火のそばに座っている。
昨日、
胸に手を当てて、
あの音を言った男だ。
俺は、
少し離れたところから見る。
男も気づいた。
目が合う。
*
俺は、
昨日の音を思い出した。
口に出してみる。
*
男の眉が動いた。
違ったらしい。
*
男が言う。
俺も言う。
*
また違う。
*
もう一度。
今度は、
男が何も言わなかった。
*
合ったのか。
諦めたのか。
分からない。
*
「難しいな」
*
男は、
俺の言葉には答えない。
代わりに、
自分の胸を一度叩いた。
そして、
あの音。
*
俺も、
自分の胸を指す。
「サエキ」
*
男が言う。
「サエキ」
*
少し違う。
でも、
俺には分かる。
*
今度は、
俺が笑った。
男も、
少しだけ笑った。
*
子どもが来た。
俺と男を交互に見る。
男の胸を指す。
何か言う。
*
昨日聞いた音に、
似ている。
*
でも、
同じなのかは分からない。
*
男が、
子どもの頭を軽く押した。
子どもが、
その手を払う。
*
また押す。
また払う。
*
俺は、
見ていた。
*
子どもが、
今度は俺を見る。
俺の胸を指す。
「サエキ」
*
「それは合ってる」
*
子どもが笑った。
*
朝のうちに、
人が動き始めた。
外から来たもう一人の男が、
持ってきたものを地面に置く。
細く束ねたもの。
乾いたもの。
石。
*
若い男が、
その前にしゃがむ。
一つ取る。
見る。
戻す。
*
外から来た男が、
何か言う。
若い男も返す。
*
老人が、
少し離れたところから見ている。
*
別の女が来た。
何かを置く。
男が手に取る。
指で触る。
匂いを嗅ぐ。
*
俺は、
少し離れたところに座った。
*
昨日から、
何度か見ている。
物が、
人の手から人の手へ動く。
*
何かを渡す。
何かを受け取る。
戻すこともある。
*
でも、
何と何が同じなのか。
何をすれば終わりなのか。
俺には分からない。
*
子どもが、
地面に置かれた木の実へ手を伸ばした。
*
女が、
その手を軽く叩く。
*
子どもが引っ込める。
女を見る。
*
もう一度、
手を伸ばす。
*
今度は、
外から来た男が木の実を一つ取った。
子どもに渡す。
*
女が、
男を見る。
*
男が何か言う。
女も返す。
*
子どもは、
その間にもう食べていた。
*
俺は、
思わず笑った。
*
女が、
こっちを見る。
*
笑うのをやめた。
*
昼が近づくころ、
外から来た二人が立った。
*
持ってきたものは、
全部なくなってはいない。
来たときにはなかったものも、
いくつか持っている。
*
一人が、
紐のようなものを肩に掛ける。
もう一人が、
包みを持つ。
*
若い男が何か言う。
外から来た男が答える。
*
老人も、
短く声をかけた。
*
俺は、
二人を見る。
*
帰る。
たぶん。
*
昨日、
森を指していた男が、
俺を見る。
*
また、
森のほうを指す。
*
次に、
俺を見る。
*
「また、それか」
*
男が何か言う。
*
昨日と同じ言葉なのか。
違うのか。
分からない。
*
若い男が、
こちらを見る。
*
昨日みたいに、
強い声は出さない。
*
ただ、
俺を見る。
*
俺は動かなかった。
*
外から来た男も、
それ以上は何もしない。
向きを変える。
*
二人が歩き出した。
*
そのとき。
*
子どもが、
後ろから走っていった。
*
「おい」
*
俺の声で、
子どもが振り返る。
*
止まらない。
*
そのまま、
二人のところまで行く。
*
外から来た男が、
子どもを見る。
何か言う。
*
子どもが答える。
*
三人が、
森のほうへ歩き始めた。
*
俺は、
女を見る。
*
止めない。
*
若い男を見る。
止めない。
*
老人も、
何も言わない。
*
「……行くのか?」
*
誰に聞いたのか、
自分でも分からなかった。
*
子どもが、
森の手前で一度振り返った。
*
俺を見たのか。
誰か別の人を見たのか。
分からない。
*
手を上げる。
*
俺も、
少し遅れて手を上げた。
*
子どもは、
もう向こうを向いていた。
*
三人の姿が、
木の間へ入る。
*
見えなくなる。
*
誰も、
追わなかった。
*
そのあとも、
いつも通りだった。
*
女は、
何かを運ぶ。
若い男は、
石を触る。
老人は、
火の近くに座っている。
*
俺も、
枝を運んだ。
*
昨日までと、
同じ。
*
一本置く。
*
もう一本。
*
若い男が、
俺の置いた枝を一本取る。
少しずらす。
*
俺は、
その場所を見る。
*
「そこか」
*
今度は、
自分でそこへ置いた。
*
男は、
何も言わなかった。
*
昼を過ぎた。
*
俺は、
木の実を分けていた。
大きいもの。
小さいもの。
割れているもの。
*
手が止まる。
*
横を見る。
*
誰もいない。
*
いつもなら、
勝手に手を出してくる。
*
俺が違うところへ置くと、
すぐ直す。
*
笑う。
*
今日は、
来ない。
*
俺は、
木の実を一つ持ったまま、
しばらく待った。
*
誰も来ない。
*
「……何やってんだ」
*
自分で言って、
木の実を置いた。
*
夕方になった。
*
森のほうを、
何度か見た。
*
一度目は、
何となく。
*
二度目も、
たぶん。
*
三度目は、
自分でも分かった。
*
見ている。
*
若い男が、
俺の横を通った。
*
俺を見る。
*
森を見る。
*
また、
俺を見る。
*
何も言わない。
*
そのまま行った。
*
「……何だよ」
*
日が落ちた。
*
火のそばに、
人が集まる。
*
昨日と、
それほど変わらない。
*
声がする。
誰かが笑う。
火が鳴る。
*
俺は、
少し端に座っていた。
*
足元に、
何か転がってきた。
*
小さな木の実。
*
拾う。
*
いつもなら、
あの子が先に取る。
*
俺は、
手のひらの木の実を見る。
*
食べなかった。
*
火の向こうを見る。
*
子どもはいない。
*
木の実を、
手の中に残したまま、
*
俺は、
森のほうを見た。
お読みいただき、ありがとうございます。




