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縄文に、未来人がひとり  作者: 北野風人
人と生きる

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15/110

第15話 同じではない

朝、


目を覚ますと、


二人はまだいた。


火は小さくなっている。


灰の下に、


赤いところが残っていた。


         *


外から来た男の一人が、


火のそばに座っている。


昨日、


胸に手を当てて、


あの音を言った男だ。


俺は、


少し離れたところから見る。


男も気づいた。


目が合う。


         *


俺は、


昨日の音を思い出した。


口に出してみる。


         *


男の眉が動いた。


違ったらしい。


         *


男が言う。


俺も言う。


         *


また違う。


         *


もう一度。


今度は、


男が何も言わなかった。


         *


合ったのか。


諦めたのか。


分からない。


         *


「難しいな」


         *


男は、


俺の言葉には答えない。


代わりに、


自分の胸を一度叩いた。


そして、


あの音。


         *


俺も、


自分の胸を指す。


「サエキ」


         *


男が言う。


「サエキ」


         *


少し違う。


でも、


俺には分かる。


         *


今度は、


俺が笑った。


男も、


少しだけ笑った。


         *


子どもが来た。


俺と男を交互に見る。


男の胸を指す。


何か言う。


         *


昨日聞いた音に、


似ている。


         *


でも、


同じなのかは分からない。


         *


男が、


子どもの頭を軽く押した。


子どもが、


その手を払う。


         *


また押す。


また払う。


         *


俺は、


見ていた。


         *


子どもが、


今度は俺を見る。


俺の胸を指す。


「サエキ」


         *


「それは合ってる」


         *


子どもが笑った。


         *


朝のうちに、


人が動き始めた。


外から来たもう一人の男が、


持ってきたものを地面に置く。


細く束ねたもの。


乾いたもの。


石。


         *


若い男が、


その前にしゃがむ。


一つ取る。


見る。


戻す。


         *


外から来た男が、


何か言う。


若い男も返す。


         *


老人が、


少し離れたところから見ている。


         *


別の女が来た。


何かを置く。


男が手に取る。


指で触る。


匂いを嗅ぐ。


         *


俺は、


少し離れたところに座った。


         *


昨日から、


何度か見ている。


物が、


人の手から人の手へ動く。


         *


何かを渡す。


何かを受け取る。


戻すこともある。


         *


でも、


何と何が同じなのか。


何をすれば終わりなのか。


俺には分からない。


         *


子どもが、


地面に置かれた木の実へ手を伸ばした。


         *


女が、


その手を軽く叩く。


         *


子どもが引っ込める。


女を見る。


         *


もう一度、


手を伸ばす。


         *


今度は、


外から来た男が木の実を一つ取った。


子どもに渡す。


         *


女が、


男を見る。


         *


男が何か言う。


女も返す。


         *


子どもは、


その間にもう食べていた。


         *


俺は、


思わず笑った。


         *


女が、


こっちを見る。


         *


笑うのをやめた。


         *


昼が近づくころ、


外から来た二人が立った。


         *


持ってきたものは、


全部なくなってはいない。


来たときにはなかったものも、


いくつか持っている。


         *


一人が、


紐のようなものを肩に掛ける。


もう一人が、


包みを持つ。


         *


若い男が何か言う。


外から来た男が答える。


         *


老人も、


短く声をかけた。


         *


俺は、


二人を見る。


         *


帰る。


たぶん。


         *


昨日、


森を指していた男が、


俺を見る。


         *


また、


森のほうを指す。


         *


次に、


俺を見る。


         *


「また、それか」


         *


男が何か言う。


         *


昨日と同じ言葉なのか。


違うのか。


分からない。


         *


若い男が、


こちらを見る。


         *


昨日みたいに、


強い声は出さない。


         *


ただ、


俺を見る。


         *


俺は動かなかった。


         *


外から来た男も、


それ以上は何もしない。


向きを変える。


         *


二人が歩き出した。


         *


そのとき。


         *


子どもが、


後ろから走っていった。


         *


「おい」


         *


俺の声で、


子どもが振り返る。


         *


止まらない。


         *


そのまま、


二人のところまで行く。


         *


外から来た男が、


子どもを見る。


何か言う。


         *


子どもが答える。


         *


三人が、


森のほうへ歩き始めた。


         *


俺は、


女を見る。


         *


止めない。


         *


若い男を見る。


止めない。


         *


老人も、


何も言わない。


         *


「……行くのか?」


         *


誰に聞いたのか、


自分でも分からなかった。


         *


子どもが、


森の手前で一度振り返った。


         *


俺を見たのか。


誰か別の人を見たのか。


分からない。


         *


手を上げる。


         *


俺も、


少し遅れて手を上げた。


         *


子どもは、


もう向こうを向いていた。


         *


三人の姿が、


木の間へ入る。


         *


見えなくなる。


         *


誰も、


追わなかった。


         *


そのあとも、


いつも通りだった。


         *


女は、


何かを運ぶ。


若い男は、


石を触る。


老人は、


火の近くに座っている。


         *


俺も、


枝を運んだ。


         *


昨日までと、


同じ。


         *


一本置く。


         *


もう一本。


         *


若い男が、


俺の置いた枝を一本取る。


少しずらす。


         *


俺は、


その場所を見る。


         *


「そこか」


         *


今度は、


自分でそこへ置いた。


         *


男は、


何も言わなかった。


         *


昼を過ぎた。


         *


俺は、


木の実を分けていた。


大きいもの。


小さいもの。


割れているもの。


         *


手が止まる。


         *


横を見る。


         *


誰もいない。


         *


いつもなら、


勝手に手を出してくる。


         *


俺が違うところへ置くと、


すぐ直す。


         *


笑う。


         *


今日は、


来ない。


         *


俺は、


木の実を一つ持ったまま、


しばらく待った。


         *


誰も来ない。


         *


「……何やってんだ」


         *


自分で言って、


木の実を置いた。


         *


夕方になった。


         *


森のほうを、


何度か見た。


         *


一度目は、


何となく。


         *


二度目も、


たぶん。


         *


三度目は、


自分でも分かった。


         *


見ている。


         *


若い男が、


俺の横を通った。


         *


俺を見る。


         *


森を見る。


         *


また、


俺を見る。


         *


何も言わない。


         *


そのまま行った。


         *


「……何だよ」


         *


日が落ちた。


         *


火のそばに、


人が集まる。


         *


昨日と、


それほど変わらない。


         *


声がする。


誰かが笑う。


火が鳴る。


         *


俺は、


少し端に座っていた。


         *


足元に、


何か転がってきた。


         *


小さな木の実。


         *


拾う。


         *


いつもなら、


あの子が先に取る。


         *


俺は、


手のひらの木の実を見る。


         *


食べなかった。


         *


火の向こうを見る。


         *


子どもはいない。


         *


木の実を、


手の中に残したまま、


         *


俺は、


森のほうを見た。

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