第五話 昨日の敵は今日のハゲ
「問題はここからだ」
光山がホワイトボードの前で腕を組む。
「討論会で一定の支持は得た、だがそれだけでは革命は起きない」
HKS本部では緊急作戦会議が行われていた。
「つまり我々に必要なのは――」
光山がホワイトボードへ大きく書く。
【流行】
部屋が静まり返る。
「どうやってハゲを流行らせるか……」
全員が真剣だった。
「まずSNS戦略ですね」
自然に会議へ参加している男がタブレットを操作する。
「今の時代、“ダサい”を“個性”へ変換した側が勝ちます」
秀人は数秒黙った。
「……なんでお前普通に居んの?」
全員の視線がその男へ向く。
黒神 恒一。
昨日までKGS代表だった男である。
「いや流れで」
「どんな流れだよ」
黒神は平然としていた。
「昨日解散したんですよ、KGS」
「早ぇよ」
「思想の違いで」
「お前が一番思想ブレてんだろ」
黒神は静かに前髪を上げる。
「“始まって”ます」
そこには、ほんの少しだけ後退し始めた生え際があった。
沈黙。
次の瞬間。
「「「同志だ!!」」」
「判定ガバガバすぎるだろ!!」
黒神は小さく咳払いする。
「それに昨日気づいたんです」
「何をだよ」
「結局僕も、“ハゲ側になる恐怖”で戦ってただけだったって」
部屋が少し静かになる。
「だから“黒髪しか勝たん”って言葉に縋ってた」
秀人は少しだけ黙った。
なんとなく分かる。
結局みんな、怖いだけなのだ。
ハゲることが。
笑われることが。
“終わり側”へ行くことが。
「というわけで、僕もHKSに加入します」
黒神が頭を下げる。
光山は静かに頷いた。
「歓迎しよう、同志黒神」
「いや受け入れ早ぇな」
テルさんが肩を組む。
「安心しろ、ここの加入条件は“髪への不安”だけだ」
「範囲広すぎるだろ」
その時だった。
真白が机を叩く。
「はい、感動の加入イベント終わりです」
全員が真白を見る。
「現実問題、どうやって流行らせるんですか」
沈黙。
「……気合い?」
光山が呟く。
「昭和の部活か」
真白は深くため息を吐き、ホワイトボードへ近づいた。
「いいですか、流行には条件があります」
カツカツとペンを走らせる。
【憧れ】
【真似したくなる】
【イケメン】
そこでペンが止まる。
全員が静かに顔を逸らした。
「……問題点、分かります?」
沈黙。
「……ビジュアル?」
生島が小さく言う。
「はい」
即答だった。
「今のHKS、思想は強いですけど画面映えが終わってます」
「言い方!!」
毛利が静かに眼鏡を押し上げる。
「ですが我々には“覚悟”があります」
「SNSは覚悟じゃ伸びねぇんだよ」
真白は黒神を見る。
「だから黒神さんを利用します」
「言い方怖っ」
真白はタブレットを操作した。
そこに映るのは昨日の討論会の切り抜き。
【“イケメンKGS代表、実は生え際を気にしていた”】
既に十万再生を超えていた。
「え、伸びてる」
「コメント欄見てください」
【逆に親近感湧いた】
【イケメンでも悩むんだ】
【前髪上げた方がかっこいい】
【隠してないの良い】
部屋が静まり返る。
真白は静かに言った。
「時代が変わり始めてるんです」
その瞬間。
光山が立ち上がった。
「つまり必要なのは」
全員がゴクリと息を呑む。
「“ハゲを隠さないイケメン”か」
「その言い方すると急に強そうだな」
黒神は少し考えたあと、小さく笑う。
「……やってみますか」
翌日。
SNSへ一本の動画が投稿された。
【#隠すな頭皮】
黒神が静かに前髪を上げる動画。
その再生数は。
たった一日で百万を超えた。
「……え?」
秀人はスマホを見ながら固まる。
コメント欄は祭りだった。
【坊主ちょっと良くね?】
【潔い方がかっこいい】
【隠してる方がダサいかも】
【え、スキンヘッドありでは?】
HKS本部が静まり返る。
そして。
光山が静かに呟いた。
「……来たな」
秀人が乾いた声を出す。
「何が」
光山はゆっくり笑った。
「革命の風だ」
その瞬間、ビルの窓が開き、突風が吹き込む。
秀人の前髪が全て割れた。
「うわぁぁぁぁ!!」
「風も同志を祝福している」
「うるせぇ閉めろ!!」




