最終話 前髪至上主義への反逆
革命は、突然始まった。
【#隠すな頭皮】
【#潔さしか勝たん】
【#坊主スタイル】
【#ハゲはスタイル】
最初はネタだった。
面白半分だった。
だが一週間後。
「……増えてない?」
秀人は通勤電車の中で呟いた。
坊主。
明らかに坊主が増えていた。
「いや絶対増えてるって」
しかもただの坊主じゃない。
“隠してない側”の坊主だ。
今までみたいに必死に誤魔化すんじゃなく、堂々としている。
秀人はスマホを開く。
【“隠すより潔い方がかっこいい”若者達の間で坊主系スタイルが流行】
「マジかよ……」
会社へ着くと、さらに異変は加速していた。
「おはよ、ハゲト」
いつもの同期。
だが。
「……あれ?」
前髪が消えていた。
「お前、その頭……」
「昨日黒神の動画見てさ」
同期は照れ臭そうに頭を掻く。
「思ったんだよな、隠してる方がダサくね?って」
秀人は固まる。
「いやお前髪あるじゃん」
「暑かったし」
「軽い理由で革命に乗るな」
すると別の同期も笑いながら近づいてくる。
「実は俺もちょっと生え際怪しくてさ」
「お前もかよ」
「だから最近ちょっと怖かったんだよな」
秀人は何も言えなかった。
その時。
「鬼頭さん」
振り返る。
光山 真白だった。
今日は珍しく少し笑っている。
「……なんだよ」
「最近、頭触らなくなりましたね」
秀人は少し固まる。
言われてみればそうだった。
風が吹くたび押さえていた前髪。
人の視線を感じるたび隠していた頭頂部。
いつの間にか、前ほど気にしていない。
「……まあ、ちょっとだけな」
真白は小さく笑った。
「似合ってますよ、今の方が」
秀人は思わず視線を逸らす。
「……急にそういうこと言うな」
「照れてます?」
「うるせぇ」
その日の夜。
HKS本部では祝賀会が開かれていた。
「革命万歳!!」
「頭皮解放!!」
「帽子を捨てろ!!」
「その標語だけは最後まで終わってんな」
黒神はスマホを見ながら苦笑する。
「フォロワー百万人超えました」
部屋が静まり返った。
「……え?」
「あと美容系企業から案件来ました」
「どんな案件だよ」
黒神は読み上げる。
『坊主向け頭皮ケア商品のPRをお願いしたいです』
沈黙。
次の瞬間。
「「「時代が来たぁぁぁぁぁ!!!」」」
HKS本部が揺れた。
光山は静かに立ち上がる。
「長かった……」
全員が光山を見る。
「笑われる側だった我々が」
光山はゆっくり笑った。
「ついに時代を変えたのだ」
秀人はその姿を見ながら、小さく息を吐く。
最初は頭のおかしい集団だと思っていた。
いや今でもだいぶおかしい。
でも。
ここに来てから、少しだけ楽になった。
ハゲてることは変わっていない。
前髪も戻っていない。
それでも。
前より、自分を笑われるだけの存在だとは思わなくなっていた。
「……結局さ」
秀人が呟く。
「変わったのって“髪”じゃないんだな」
部屋が静かになる。
「“笑っていい空気”の方だったんだ」
光山は静かに頷く。
「そうだ、ハゲト」
「だからその名前だけは最後まで嫌なんだよ」
部屋中が笑いに包まれる。
くだらなくて。
騒がしくて。
でも少しだけ、居心地が良かった。
その帰り道。
秀人は駅前のガラスへ映った自分を見て足を止める。
昔なら、すぐ視線を逸らしていた。
でも今は違う。
秀人はゆっくり前髪を上げる。
風が吹く。
もう頭を隠そうとはしなかった。
後書き
この物語はフィクションです。
なお作者の頭皮は、現在もふさふさです。
……今のところは。




