第三話 黒髪戦線ーKGSー
秀人は理解が追いついていなかった。
「つまり……光山さんの娘?」
「違います」
「いや今“おとうさ”って」
「違います」
「食い気味だな」
光山 真白は顔を真っ赤にしながら秀人を睨む。
「というか鬼頭さん、なんでこんな怪しい組織に居るんですか」
「それ俺も昨日から思ってる」
「失礼だな真白」
リーダーこと光山 光三郎が静かに腕を組む。
「HKSは崇高な理念のもと集った革命組織だ」
「頭皮しか見えてないけど」
「表面的な判断はやめろ」
「今の会話でそのセリフ出せるの強いな」
真白は深くため息を吐いた。
「……とにかく、今はそれどころじゃないんです」
「何かあったのか?」
その瞬間、部屋の空気が少し変わる。
真白はタブレットを机へ置いた。
「見てください、これ」
画面にはSNSが映っていた。
【#ハゲを隠すな】
【#頭皮解放宣言】
【#HKS】
そして。
【#黒髪しか勝たん】
そのタグだけ異常な勢いで伸びていた。
「……なんだこれ」
毛利が険しい顔になる。
「来ましたか」
「知ってんの?」
テルさんが低く呟く。
「黒髪戦線――KGS」
部屋がざわつく。
「まさかもう動いていたとは……」
「奴ら、最近勢力伸ばしてるらしいな」
「若者支持率が高すぎる」
「いや普通に強敵じゃねぇか」
秀人だけが置いていかれていた。
「待て待て待て、なんだよKGSって」
光山は静かに目を閉じる。
「黒髪戦線-KGS-」
その声には明確な敵意が混じっていた。
「“黒髪こそ正義”を掲げる、我々の対抗勢力だ」
「そんな世界観だったの!?」
真白がタブレットを操作する。
そこに映ったのは、黒髪イケメン達の集合写真だった。
全員、髪が多い。
腹が立つほど。
「うわ、フサフサだ」
「しかも自然な束感」
「センターパートまでいるぞ」
「強すぎる……」
HKS側の空気が沈む。
秀人は思わず言った。
「いやお前らそんなダメージ受ける?」
光山が静かに拳を握る。
「奴らは危険だ」
「ただのイケメン集団じゃねぇの?」
「違う」
光山は画面を指差した。
【“清潔感は髪から”】
その言葉に、部屋の空気が凍る。
「……っ!!」
「許せねぇ……!!」
「また髪か!!」
「結局そこなのかよ!!」
秀人は少し黙る。
だが、分かってしまった。
清潔感。
結局、何を言っても最後はそこへ行き着く。
髪があるだけで爽やか。
髪があるだけで若く見える。
髪があるだけで“普通”側に立てる。
秀人は何度も感じてきた。
「……で、そのKGSがどうしたんだよ」
真白が画面を切り替える。
【公開討論会開催】
【テーマ:本当に魅力的なのは黒髪か、それ以外か】
沈黙。
「いや地獄みたいな討論会だな」
毛利が真顔で立ち上がる。
「ついに来たか……」
「時代が動くぞ……」
「頭皮の夜明けだ……」
「いやテンションどうなってんだよ」
光山はゆっくり立ち上がる。
「逃げるわけにはいかない」
その目は本気だった。
「ここで負ければ、“ハゲはいじっていい”という時代は終わらない」
部屋の空気が熱を帯びる。
「立ち上がれ同志達」
「「「おおっ!!」」」
秀人だけが置いていかれていた。
「いや待て、なんでそんな少年漫画みたいになってんだ」
その時だった。
真白が秀人を指差す。
「鬼頭さん」
「……え?」
「討論会、出てください」
沈黙。
「……は?」
真白は真顔だった。
「HKSの若手代表として」
秀人の顔から血の気が引く。
「いやいやいやいや!! 無理無理無理!!」
だが光山は静かに頷いた。
「適任だ」
「どこがだよ!!」
「君は“まだ隠している側”だからだ」
その言葉に、秀人は少しだけ黙る。
光山は続ける。
「だからこそ届く言葉がある」
部屋が静かになる。
「ハゲを笑われ続けた側の言葉がな」
秀人は反論しようとして――止まった。
会社で笑われた時のこと。
鏡を見るたび落ち込むこと。
風が怖いこと。
写真が嫌いになったこと。
全部、思い出してしまった。
「……俺、別に革命とか興味ねぇし」
「だが傷ついてはいた」
図星だった。
秀人は舌打ちする。
「……めんどくせぇ」
その時。
真白が小さく笑った。
「でも鬼頭さん、ちょっとだけ変わりましたよ」
「……は?」
「昨日より、頭隠してないです」
秀人は思わず固まる。
気づけば確かに、さっきから何度も頭を押さえるのを忘れていた。
部屋の全員が静かに笑う。
光山がゆっくり頷いた。
「始まったな」
「何がだよ」
「革命が」
「だからスケールでかいんだよ!」




