第8話 悪いのはどっち??
8話 お話は全然進みません。
悪いのは加奈かトッシー先輩か決めるだけのお話です。
「すみません、部外者じゃなかったです。私の勘違いでした。みなさん、お騒がせして申し訳ありません」
すぐさま警備員と周りにいた社員たちに平謝りを繰り返す。
謝罪を受け取った警備員は、眉間にしわを寄せて私を一瞥すると、また元の位置に戻り、周りにいた社員は何事もなかったかのように散っていった。
「ねえ、金子さん、みんなに謝る前に俺に謝罪するほうが先なのでは??」
まずい、まずい、まずい。
私のことを『さん』づけで呼んだ先輩の顔は笑っていたが、目が明らかに怒っていた。
冷や汗がだらだらと流れ出る。
「すみませんでした」
気まずくなった私は、トッシー先輩と視線が合わないように、トッシー先輩と反対の方向に頭を下げる。
「目を見て話そうか、金子さん」
トッシー先輩は私の頬に両手を当てて、無理やりに私の方へ顔を持ってきた。
目と目が合い、見つめ合う形になってしまう。
トッシー先輩の太い眉毛と、切れ長の目と少しうるんだ瞳が目の前にドアップで映し出された。
かっこいい……
少しだけ顔がほてっていることに気が付いた。
いかん、いかん、会社に恋愛感情はご法度だ。
このほてりは、『私がトッシー先輩を疑っていた恥ずかしさ』。このほてりは、『私がトッシー先輩を疑っていた恥ずかしさ』。
自分に何度も何度も何度も言い聞かせる。
よし、落ち着いてきたぞ。
冷静さを取り戻した私はトッシー先輩の顔を覗き込む。
トッシー先輩のほっぺは、どういうわけか顔が赤かった。
「部下の顔に手を当てて、じっと見つめるなんてセクハラで訴えますよ」
我に返った私は冷静になって注意する。
「セクハラって何?? おいしいの??」
とぼけるトッシー先輩。
「先輩、セクハラとはセクシャル・ハラスメントといいまして、先輩をクビにすることのできる魔法の言葉です。分かったら直ちに謝ってください」
「おいおい、俺とお前は高校時代、恋仲だったじゃないか。 セクハラにはならないだろ」
「いいえ、セクハラに該当します。先輩と私の関係は過去のものです。今はつきあっていないじゃないですか。みんな見ていますよ。こんなところでクビになりたいんですか??」
「ちっ!!」
「手を離したので許してあげましょう!! 私は心が広いですから。それよりも、私のファンデーションが手についているんじゃないですか?? よろしければ、ウェットティッシュを差し上げますが」
「おお、ありがとう!!」
そう言いながら、私からアルコールが含まれているウェットティッシュを受け取って、きれいに拭き始めた。
「これで、きれいさっぱりですね」
「そうだな、これできれいさっぱりだ」
ついでに、私がトッシー先輩を疑った記憶もきれいさっぱり忘れてくれ!!
「よかった。よかった。さあ、エレベーターに乗って職場へ行きましょう!!」
「なあ、金子、お前、手を拭くことに意識を向けて、俺への謝罪の件を有耶無耶にしようとしていないか??」
勘のいいトッシー先輩は大嫌いだよ、本当に。
もっと、高校の時のように、鈍感であれよ!!
「していませんよ……」
私は目を見ずに話した。
「していないというなら謝ってもらおうか」
今にも土下座しろと言わんばかりに、謝罪を要求してくるトッシー先輩。
「いやいや、トッシー先輩も悪いので、謝罪はしませんよ」
「俺が悪い?? どういうことだ??」
「私が警備員の人を呼んだのは、トッシー先輩がゲートを通るのをためらったからですよ!!」
「自分の失敗を棚にあげて、人のせいにしようとしているぞ、お前!!」
「それはそうでしょう。普通にゲートを通れるのに、もったいつけて!! 何でそんなにゲートを通ることを躊躇していたんですか??」
「俺が躊躇したら、お前がどう行動するか観察していた」
最悪だ。
このドS男が。
「性格悪いですよ、先輩」
「そう、俺は性格が悪いんだ。だから、お前に謝罪を要求しているんだ!!」
はっはっはっと笑う先輩。
「うっわー、セクハラの次はパワハラですか??」
こうなれば、とことん先輩を攻撃して、謝罪から逃走しよう。
「いや、俺を疑ったことへの、正当な謝罪要求だよ!! パワハラがあったというのなら、謝罪を要求したことをパワハラにしようとしている、君の方じゃないかい??」
ぐぬぬ、言い返せない。
トッシー先輩のくせに、生意気だ。
「どうする?? お前が警備員を呼んで事態を大きくしたように、俺も弁護士を呼んで事態を大きくしてもいいんだぞ??」
まさか、裁判に持ち込むつもりか??
そんなことをされたら、多分勝てない。
「ああ、まさか、セキュリティゲートをくぐっていない段階で、部外者だと決めつけられるとは思わなかった。警備員にも不審な目で見られたし、今後の仕事に影響するかもしれないな……」
舞台のお芝居をしているかのように大げさんあ演技をしながら、ちらりと私の目をみてくるトッシー先輩。
「申し訳ありませんでした!!」
私はトッシー先輩の目を見てから、下げたくない頭を90°下げた。
「うん、まあ、いいでしょう。本当はこの衆目の中で土下座させたいところだが、そこまでさせたらパワハラになりそうだし」
「ありがとうございます」
そう言いながら、私はさらに頭を下げる。
「もう、良い。面をあげぃ!!」
なんちゅう言葉遣い。
あなたは、江戸時代のお殿様ですか??
まとめ
加奈が全面的に悪い。




