第59話 延長戦
59話はお話が進みます。
筋肉男を倒したのに、一件落着していないお話です。
「いえ、お礼には及びません。むしろ、謝らせてください」
「え?? 何で理論君が謝るの??」
人質になった私を命がけで助けてくれたのに。
「そもそも論、僕がベルをこの部屋に呼ばなければ、人質にされるような事態にはならなかったからです」
確かに。
「いやいや、それを言うなら、理論君に確認しないで、部屋に連れ込んだのがよくなかったんだ」
考えてみれば、筋肉男の身長は175cm前後。
理論君の服のサイズと同じくらいなのだから、理論君の友達ではない可能性の方が高かったのだ。
「お互い様ですね」
「お互い様だよ」
二人で、ははは……と笑いあう。
「おい!!」
急に大声がしたので、そちらを向くと、倒れたままの筋肉男が目を血走らせながらこちらをにらんでいた。
今にも立ち上がって、襲い掛かってきそうだ。
「無理をしないほうが良いですよ、筋肉男さん。あと10秒もすれば脳に酸素が回らなくなり、気絶するはずです」
『私たちの逆転勝利ですね!!』
テレビの中の邦乃ちゃんが叫ぶ。
「ああ、そうだろうな。目の前が真っ暗になってきた。だがこれだけは言わせろ」
「何ですか??」
「…………お前らの…………負けだ!! がくっ」
死にそうな声でそれだけ言い残すと、筋肉男は気絶してしまった。
しんと静まりかえる部屋。
『え? 私たちの負け?? 私達勝ちましたよね?? 何で私たちの負けなんですか??』
テレビの中で無邪気に問いかける邦乃ちゃん。
その傍らでポンという着信音がした。
「ウチらの負け?? 超意味わかんないし」
疑問を口にするベル君。
確かに、なぜ、私たちの負けなんだ??
私たちには傷一つないんだよ。
答えを教えてから気絶してほしかったよ、筋肉男さん。
筋肉男を見るが、気絶の真っ最中。
ただの屍のようだ。
『もしかして、負け惜しみですか??』
テレビの中なら邦乃ちゃんの声が響く。
その後、ポン、ポンという着信音。
「筋肉男の負け惜しみだったのかな??」
邦乃ちゃんの言葉を借りて私はつぶやいた。
「負け惜しみには聞こえなかったです」
理論君が言うように確かに負け惜しみには聞こえなかった。
ポン、ポン、ポンと着信音が鳴り続ける。
「ベル、ポン、ポンうるさいぞ。スマホの着信音が鳴ってるんじゃないか??」
「ウチのスマホは超粉々だし。加奈さんのじゃない??」
「私のスマホの着信音は和codeの曲に変えてあります」
そうなると理論君のスマホということになるのだが、理論君はスマホを持っていないはずだ。
「それじゃあこの音は、筋肉男の携帯」
理論君とベル君と私は同時に筋肉男に目を向ける。
理論君は筋肉男のポケットからスマホを取り出した。
「ロックがかかっているな……」
つぶやきながら、理論君は気絶している筋肉男にスマホを向けた。
「よし、ロック解除できた」
気絶した顔でも顔認証はできるらしい。
筋肉男のスマホをいじる理論君。
「なるほど、これがバズっているから僕らの負けということ……か」
理論君は独りで納得する。
「どういうこと??」
「こういうことですよ!!」
筋肉男のスマホの画面を見せつけてくる理論君。
SNS『トイッター』に邦乃ちゃんが私の部屋に入る写真がアップされていた。
その後には、“『不思議野邦乃の彼氏』と『ファンを裏切った不思議野邦乃』のお泊り部屋”という文字。
事実無根なんですけど。
『正々堂々と戦ったのに、理不尽です!!』
テレビの中では、邦乃ちゃんがほおを膨らませて怒っている。
どうやら、ゲームの進行にスタッフの不備があり、邦乃ちゃんチームの勝ちが取り消されるようだ。
「ああ、こんなことがSNSで炎上したら、ウチが邦乃に怒られるし……」
意気消沈するベル君。
「ちょっと待って!! ここにいるのは双子の弟のベル君だし、そもそも私の部屋にはお泊りしてないよね!?」
「その通りです」
「それなら……」
「ですが、写真と文字だけでいくらでもフェイクニュースを作って拡散することはできますからね」
「理論君、すぐに消して!!」
「ちょっと待ってください」
私の指示に対して、理論君は黙り込んで考え始めた。
何を考えているんだ??
こんなの消す一択に決まっているだろう。
「理論君、スマホ渡して。はやくしないと拡散が進んで炎上しちゃう!!」
私は理論君の持っていたスマホを奪いとる。
「消さない方がいいかもしれないです」
私が投稿を消す直前、理論君が叫んだ。
「どうして??」
何を言っているんだ、理論君は??
写真を消去しなければ、炎上してしまうんだぞ!!
「アップしてすぐに消すと、信ぴょう性が増すからです」
「それなら、どうするのよ?? このまま何もしなくても拡散し続けるのよ??」
「写真を消さずに手を打ちます!!」
「どうやって??」
「ベル!! 急いでテレビの横に座って!!」
理論君は叫んだ。
「え??」
「急いで!!」
「よくわかんないけど、分かった」
ベル君は理論君に言われるままテレビの横に座る。
「ベル、こっち見て」
理論君が呼びかけると、ベル君は理論君の方を向いた。
筋肉男のスマホでパシャリ、パシャリとベル君を何枚も撮る理論君。
「これでオッケー!!」
ん??
何がオッケーなの??
さっぱり分からない。
まとめ
邦乃ちゃんのお泊り疑惑写真がSNSにあがってしまう。




