第58話 ピンチ
58話はお話が進みます。
加奈・理論君・ベルがピンチに陥るお話です。
「死ぬ前に邦乃に電話するし!!」
ベル君はスマホを取り出す。
「おい、この女がどうなってもいいのか??」
「その子はウチと何も関係ないし」
ううっ、事実なんだけど、邦乃ちゃんと同じ顔で私を見捨てるような発言はしないで、ベル君。
とっても傷つく。
心の声など届くわけもなく、ベル君はスマホを押す。
「させるか!!」
どんっと背中に衝撃が走り、理論君とぶつかりそうになった。
「ケガはないですか??」
理論君は私の肩に手を置いて、転びそうな私を助けてくれた。
「大丈夫です」
理論君と目と目で見つめ合う。
「それは良かった」
にっこりと笑う理論君。
「ベル、こっちは無事だ!!」
「良かったし」
最初からわざとベル君に筋肉男をあおらせて、私を人質から解放する予定だったのかもしれない。
「私の安全確認よりも先に、あの暴走男を何とかしないと、ベル君が殺されちゃう」
「多分、大丈夫です!!」
大丈夫??
もしかして、ベル君はとても腕っぷしが強いのだろうか……
一見すると邦乃ちゃんと同じくらいの身長で、筋肉があるようには見えないけど。
「こんなスマホ、欲しければくれてやるし!!」
ベル君はスマホを投げつけた。
なるほど、スマホも凶器だ。
野球選手並の豪速で急所を狙えば大ダメージだろう。
そう、豪速でありさえすれば。
ベル君の投げたスマホはヘロヘロな放物線を描いて筋肉男の頭の上に自由落下した。
「ありがとうな、わざわざスマホをパスしてくれて。むんっ!!」
筋肉男は頭上にあるスマホをキャッチし、力任せにスマホを握りこむ。
バリっという音とともに、砕け散る音がした。
「あー、ウチのスマホが超粉々になっちゃったし!!」
頭を抱え込むベル君。
うん、ベル君は強くないということはわかった。
そして、筋肉マッチョはスマホを砕くことができるほど強いということも分かった。
「スマホを投げつけるなら、少しはダメージ与えてほしかったよ、ベル!!」
「できるわけないし!! 運動神経は理論以上に悪いんだから」
『追い込まれた!! ピンチなんですけど!!』
私達同様、テレビの中の邦乃ちゃんもピンチのようだ。
「げへへへへ、念仏を唱える準備はできたかな??」
根畏怖をぺろりとなめながら、ベル君ににじり寄る筋肉男。
さて、ここで戦力の整理をしてみよう。
格闘技なんて習ったこともない体力だけが取り柄な私と、体力のない理論君と、運動神経のないベル君。
現状、滅茶苦茶ピンチ!!
誰があの筋肉男と戦うというのだ??
このままだと、全滅じゃないか!!
目覚めろ、私の秘められた武術のスキル!!
念じてもそんなものが急に開花するわけもない。
それなら、みんなで逃げるか??
3対1の鬼ごっこなら、逃げ切れるかもしれないぞ。
いや、理論君がいるから圧倒的に不利。
戦うことも逃げることもできない。
こうなったら、こっそりと警察を呼ぼう。
私はスマホを取り出す。
そのまま電話をかけようとしたときに、ピコン。
撮影モードの音が鳴った。
筋肉男の動きがぴたりと止まる。
なんで撮影音が鳴ったの??
今、私、間違いなく、電話モードだったのに。
いや、それよりもだ。
筋肉男に音が聞こえていませんように。
聞こえていなければ、すぐにでも110番できるのだから。
ゆっくりと振り向き、微笑む筋肉男。
「よくも、俺が人を襲うところを撮ってくれたな!! そのスマホを寄越せ!!」
筋肉男はナイフを振りかぶりながら私に襲い掛かってくる。
「写真も動画も撮ってないです!!」
「ウソつくんじゃねえ!!」
まずい。
このままだと私の命が危ない。
襲い掛かってくる筋肉男と距離をとろうとするのだが、脚が思うように動かない。
なんで??
なんで脚が動かないの??
脚が動かない代わりに目だけはしっかりとサバイバルナイフだけを見ていた。
そうか、恐怖だ。
『本物のサバイバルナイフが私を襲っているという非日常の恐怖』が私の脚をすくませているのだ。
だがしかし、恐怖で脚が動かなければ、本当に殺されてしまう。
動け、動け、動け!!
心の中で念じても、その場で震えるだけで、まったく動かない脚。
サバイバルナイフが私の心臓めがけて襲い掛かってくる。
もうダメだ!!
顔を背けようとした瞬間、視界に入ってきたのは、理論君の背中だった。
ダメ。
このままだと、理論君がナイフに刺されて殺されちゃう。
昨日の地下アイドルのニュースが思い起こされて、私は目をつぶり、顔も背けてしまった。
「ごふっ!!」
何かがぶつかって、無理矢理に肺から空気が押し出されたような音。
きっと、理論君がナイフで刺された音に違いない。
次は私かベル君の番だ。
そう思った瞬間、立っていられず、その場で崩れ落ちる。
「大丈夫ですか、加奈さん??」
え??
理論君の声??
何で??
恐る恐る目を開けると、天を仰いで倒れていたのは金髪筋肉ムキムキ男の方だった。
「理論君が倒したの??」
「そうです!!」
「お姉さんも理論のこと、超すごいと思うでしょ??」
同意を求めてくるベル君。
「そうね。すごいわ!! すごすぎるわ!!」
「いえいえ、大したことじゃないですよ」
「どうして倒せたの??」
「え?? 僕、合気道を習っていましたので。あ、合気道って知っていますか??」
「もちろん知っているわ」
合気道と言えば、相手の力を利用して相手を倒す武術のことだ。
きっと、理論君はたゆまぬ努力を積み重ねてきたのだろう。
「ちっちっちっ、理論はただ合気道を習っていただけじゃないんだな、お姉さん」
「ただ合気道を習ったわけじゃないってどう習ったの??」
「通信教育の動画を1度見ただけなのだ」
「え?? 黒帯を持っていたり、常日頃鍛錬したりしているわけではないの??」
「黒帯をとるどころか、常日頃鍛錬する体力なんてないですよ」
マジ半端ないって、理論君の記憶力。
いや、それよりも命をはって私を守ってくれたのだ。
きちんとお礼をしなくては。
「ありがとう、理論君!!」
私は理論君に抱き着いてしまっていた。
まとめ
ピンチに陥るが、理論君の合気道で、危機を脱する。




