第5話 ウソつき合戦!?
5話 話は全く進みません。
頭の悪いトッシー先輩(25)が部長かどうかを論じるだけです。
「先輩、なんでバレるウソをつくんですか??」
あきれ口調で訊ねる。
「なんでウソだと決めつけられているの?? ショックで胸が痛むんですけど。イシャ料と謝罪を請求するレベルだ」
大げさに胸に手を当てて胸の痛さをアピールするトッシー先輩。
先輩が慰謝料という難しい言葉を知っている……だと……
「ちなみに、イシャ料ってどういう意味か知っていますか??」
「もちろん、お医者さんにかかるための、お金だろ??」
うん、平常通りだった。
慰謝料のことを医者料だと思っていらっしゃる。
「何でニッコリとしているんだよ??」
「慰謝料も分からない人が、一流会社の部長にはなれないだろうなって思いまして」
「それなら、慰謝料の本当の意味を教えろよ」
「『慰謝料』っていうのは、精神的または肉体的苦痛に対する賠償金のことで、お医者さんにかかるために払われるお金のことを指すわけじゃないんです」
「そうなのか??」
「そうです」
「にわかには信じられない」
「本当です。私、嶺敷商社の秘書課ですので、慰謝料くらい分かります。」
「秘書課だと??」
「そうです」
私はこくりとうなずいた。
「人にウソはつくなと言っておいて、自分もウソはつくのはよくないぞ、金子」
「ウソじゃないですよ!!」
「お前、俺の2歳下だから、社会人になって2年目だろ??」
「そうですけど」
「2年目でお前みたいな若造が本部の秘書課に抜擢されるわけがないだろ」
「そんなことないですよ。去年、本社の秘書課で辞めてしまった人がいて、幅広い知識を生かしたコミュニケーション能力が支社の秘書課の人たちから評価されたんです!!」
私は誇らしげに話す。
「なんだ、補充要因か」
バカにしてくるトッシー先輩。
補充要因でも、本部の秘書になれるのなら、栄誉なことなんだぞ!!
地方支社に比べて、給料も高いし!!
「ああ、そういえば、去年、1人、秘書課を辞めた子がいたな。とてもかわいい子だったから、みんな残念がっていたんだ。そうか、あの子の代わりに金子が配属されたというわけか」
訳知り顔をするトッシー先輩。
訳知り顔が大げさすぎてウソっぽい。
「私が秘書課に配属されたことは納得していただけましたか??」
「ああ、金子が秘書課に配属されたことは納得した」
「それなら、トッシー先輩が部長ではないということもご理解いただけましたか??」
「理解できない」
「どうしてですか??」
「論理が飛躍しているからだ。お前がここの秘書課だと、どうして俺が部長ではないと言い切れるんだ??」
「秘書課に所属されて、最初の仕事は部長以上の顔と名前は憶えることだからです。私の頭の中の役職人名辞典に、トッシー先輩の名前はありません」
「まだ、本社に配属されたばかりで覚えていないんだろ、俺のこと。まったく職務怠慢だ」
「職務怠慢じゃないです。人事が発表されてから、上役の人たちの顔と名前は全員必死に覚えたんです」
「それなら当然、俺の名前もあっただろ??」
「いいえ、秘書課に配られた上役名簿には、トッシー先輩の写真も名前も載っていなかったです」
「ウソだろ?? よく思い出せよ!!」
「私が間違っているとおっしゃるんですか?? 高校時代から私の記憶力が良いのはご存じですよね??」
「それはそうだけど、年のせいで記憶力が悪くなるということもあるだろ!!」
「いや、私、まだ23歳ですよ」
「若年性の病気だろ!! 病院へ行けよ」
正直、先輩だけには病院を勧められたくないよ。
「私は病気じゃありません。人の心配をするより、自分の心配をしてください」
「おいおい、それじゃあまるで、俺に記憶力がないみたいじゃないか」
「ありませんよね?? 記憶力??」
「ないわけないだろ!!」
「それなら、昨日の夜ごはんは何を食べたか覚えてます??」
「もちろん、覚えていない!! ちなみに、今朝の朝ごはんも覚えていない!!」
自信満々にこたえるトッシー先輩。
「先輩こそ、病院へ行くことをお勧めします」
つい数時間前の朝ごはんを覚えていない方が重傷だよ!!
「俺は部長だぞ!! 病院なんかいくはずがないじゃないか!!」
「何故、部長だと病院へ行かなくていいんですか??」
「それは、俺が部長だから」
自信満々に言い切るトッシー先輩。
「先輩、論理が破綻していますよ」
「論理が破綻したっていいんだ。なぜなら、俺は部長だからな!!」
「何で、部長だと、論理が破綻してもいいんですか??」
「偉い人がカラスは白いと言ったら、カラスは白いんだ!! それと同じだ!! 偉い部長である俺が金子に『病院へ行かなくていい』と言ったら病院に行かなくていいし、『論理が破綻してもいい』と言ったら論理は破綻してよいんだ!!」
「暴論すぎる!!」
「暴論も何も、金子が上役名簿に俺の名前がないと主張しているだけで、確たる証拠はないじゃないか」
確かに、その通りだ。
「それなら、これで納得していただけますか??」
私はバッグの中からA3の紙を1枚取り出して、先輩に見せつける。
先輩はその紙を奪い取ると、自分の名前を探し始めた。
「確かに、俺の名前はないな……」
「そうでしょ。これで納得していただけましたか??」
「いや、納得できていない」
「どうして納得できないんですか??」
上役名簿をみせたのに。
「金子が印刷し忘れただけで、二枚目があった可能性が高い!!」
「ないですよ、2枚目なんて」
「いや、あるね」
「その根拠は??」
「ほら、俺、美形で二枚目な顔だから、1枚目じゃなくて、2枚目に載っていたんだよ」
「上役名簿は間違いなく1枚でした」
『先輩の顔が二枚目なのと、上役名簿が2枚あることは全く関係ないだろ!!』……とツッコミをいれることを我慢。
「そんなはずはない!! 俺は部長なんだ!! わかったぞ!! これは俺様を陥れるための陰謀だ!!」
「いや、誰の陰謀だよ!!」
「それは、若くして部長になった俺様を妬んだ、専務あたりが怪しいな」
根も葉もない根拠で上役名簿の専務の写真を指さすトッシー先輩。
「一番怪しいのは、トッシー先輩です。いい加減にしてください」
トッシー先輩の頭ならば、出世したとしても係長がいいところだ。
部長なんか絶対にありえない。
「見栄じゃないから。俺は今年から部長になったから!!」
まだいい張るなんて、なんてしつこいんだ。
まとめ
トッシー先輩が部長になったかどうかを論じる。




