第6話 先輩は部長!?
6話 全然話は進みません。
トッシー先輩は部長なのかどうかの議論がされるだけです。
「分かりました、先輩は部長なんですね??」
「ああ、その通りだ!! やっと信じてくれたか」
うん、信じてないよ。
話が平行線になるだけだから、100歩譲って話を飲み込んだだけだよ。
私は先輩の言葉に頷かずに、はははと笑って見せる。
「それでは部長、質問よろしいでしょうか??」
「何かな??」
「先輩は部長、部長と言っていますけど、いったいどこの部署の部長になったか教えていただけますか??」
「それはだな………………聞いて驚け!! 宴会部長だ!!」
腰に手を当てて、鼻高々に言い張るトッシー先輩。
その鼻の高さはまるでピノキオのようだった。
そうか、宴会部長か!!
偉くなったね、トッシー先輩。
「……って、宴会部長??」
「おい、なんだ、そのすっとんきょうな声は!! もっと声を上げて驚けよ!! 地球中に声が届くくらいに!!」
ある意味、驚いているよ。
宴会部長と言えば、花見や接待飲み会の時に場を盛り上げるだけの名ばかり役職じゃないか。
どうせ、本物の部長に、『いやー、君はノリがいいね!! 君は来年から宴会部長ね』なんておだてられて、その言葉をうのみにした先輩が、今年から部長だと調子こいているんだ。
情けない。
宴会部長が名ばかり役職だなんてことは小学生でも分かるだろうに。
頭が悪いと思ってはいたが、ここまで頭が悪いとは思わなかった。
私は何も言えずに、じっとトッシー先輩の瞳を見つめてしまっていた。
「残念な人を見るような憐れみの目で俺を見るな!! もっと宴会部長を敬え!!」
敬えと言われても、だって、宴会部長だよ??
上役の名簿に名前があるはずがない。
「そうなんですね。出世しましたね、宴会部長!! さすがです、宴会部長」
でも、ここはおだてておこう。
どこの部署かは分からないけれど、一応、宴会部長なんだ。
飲み会で宴会部長を敬わなかった罰として、一発芸の無茶ぶりとかされても嫌だし。
本人が偉くなったと錯覚しているならなおさらだ。
誇りに思っていることをバカにしていいことなど一つもない。
ついでに拍手も送ろう。
「何で棒読みなんだよ?? しかも、乾いた拍手をして。分かった、俺のことをバカにしているだろ??」
しまった。
なんたるイージーミス。
おだてる言葉を選ぶのに気をとられて、感情を込めるのを忘れていた。
秘書としてあるまじき失態!!
「いえいえ、バカになんかしていませんよ」
今度は感情を込めて、手をすり揉みしながら返答した。
これでさすがのトッシー先輩も騙されるだろう。
「本当だぞ!! 俺は宴会部の宴会部長になったんだぞ!!」
宴会部??
私は吹き出しそうになってしまった。
あのね、ここは大企業なんだよ??
宴会部なんて部署があるはずがないじゃないか。
1つウソをつくとそのウソを本当にするために7つのウソをつかなければいけない……なんて言葉があるけれど、宴会部があるなんてウソ、誰が信じるんだ??
ウソをつくにしても、もっと上手にウソをついてくれ。
「ご出世、おめでとうございます!!」
それでも冷静をとりつくろって感情を込めて祝う。
それが大人の対応というものだ。
「ようやく信じたか」
うん、信じてないよ。
「もちろんです、宴会部長。ところで、宴会部長、質問をしてもよろしでしょうか??」
真面目な生徒のように手を挙げる。
「何だね?? 分からないことがあるならば、この宴会部長に何でも訊いてくれたまえ!!」
敬意を払われて気を良くしたのか、機嫌よくあごに手を当てながら尋ねてくる宴会部長。
「昨日執り行われた入社式なんですが……」
「昨日の入社式がどうかしたのか??」
「確か、入社式には、部長以上の人たちは出席していたと思っていましたが、会場にいた記憶がないのですが、どうしてですかね??」
「昨日は、コンパの後の二日酔い……じゃなかった、出張が入っていて、出席できなかったんだ」
私の質問に顔を青くし、目をきょろきょろと動かすトッシー先輩。
明らかに動揺している。
「へー、出張で出席できなかったなら、司会の方から、欠席の報告があっても良さそうですけどね」
「二日酔いでドタキャン……じゃなかった、情報が錯綜して、欠席の連絡がうまく伝わらなかったんだ。宴会部はできたばかりだしね。今後の課題だ。うん、うん」
「へぇ、宴会部の宴会部長は大変なんですね。私は秘書課に配属されていますので、本当に出世したのでしたら、命令でもなんでもしてください。お手伝いしますんで」
部長クラスなら、秘書課へ仕事を依頼する権限がある。
もしも、本当にトッシー先輩が部長になったのだとしたら、私に仕事の依頼は簡単にできるはずだ。
トッシー先輩が平社員ではなく、本当に部長クラスなら。
「何、その無機質な言い方!! 絶対に信じてないだろ!! 後で泣いて謝っても許してやらないんぞ!!」
「泣いて謝るのはトッシー先輩のほうかもしれないですよ??」
宴会部長なんて役職が本当にあるわけがない。
「なあ、金子」
「なんですか、トッシー先輩??」
今度はなんの用だ??
「ちょっと周り見てみろ」
そう促され、私は周りを見回す。
会社のエントランスで痴話げんかが始まったのかと遠巻きに様子を窺っている人が多数見受けられた。
「もしかして、私達、悪目立ちしてます??」
「かなりな」
どうしよう……
まさか、2日目にしてなんたる失態!
私、会社の顔である秘書課なのに!!
「どうしましょう??」
「痴話げんかだと誤解されても困る。まずは、仲良しのフリをして会社に入ろうか」
「そうですね」
私とトッシー先輩は肩を組み、仲良しをアピールした。
……って、冷静に考えたらわざわざ肩なんか組む必要ないじゃないか!!
まとめ
トッシー部長が宴会部長らしい。(いつの間にか、先輩が嶺敷グループに入社している前提になっている)
加奈、トッシー部長と仲良しアピールをする。




