第56話 双子
56話はお話が進みます。
加奈が人質になるお話です。
「悲鳴がしたってことは、ドッキリ大成功かな??」
そう言いながら理論君が部屋から出て来た。
ドッキリ!?
なんだ、ドッキリか!!
おかしいと思ったんだよね。
私が人質にされるなんて。
まったく、なんて心臓に悪いドッキリを実行してくれるんだ、理論君は。
「ドッキリなら、こんな茶番は終わり!! はやく解放して!!」
私は金髪筋肉男に命令する。
「は?? ドッキリじゃないんだから、解放なんかするはずないだろーが!!」
キレる金髪筋肉ムキムキ男。
「ちょっと、しつこい人は嫌われるのよ。まあいいわ。自分で逃げるから。このナイフもどうせ偽物なんでしょ??」
「偽物じゃねーよ!!」
金髪筋肉ムキムキ男は怒鳴りながら、のど元にあったナイフを私のおでこに持ってきた。
私の前髪が少しだけはらりと落ちる。
えっと、これはつまり、ナイフは本物ということだ。
「ちょっと、理論君、ドッキリなのに、本物のナイフを使うなんてやりすぎよ!! この銃刀法違反の男を止めて!!」
「あの、加奈さん。この人誰ですか??」
理論君が私に訊ねてきた。
「え?? この人は理論君のドッキリの仕掛け人じゃないの??」
「僕が考えたドッキリは、不思議野邦乃を家に呼んで、加奈さんを驚かせるドッキリだけです。加奈さんが人質になるなんてドッキリは考えていません」
理論君も知らないんかい。
じゃあ、本当にこの男は誰なんだよ。
「邦乃ちゃん、正直に答えてくれ。その男、誰なんだ?? まさかとは思うが、彼氏や婚約者の類じゃないよな??」
私と理論君の混乱をよそに、金髪筋肉マッチョは邦乃ちゃんに尋ねた。
「その質問、邦乃をおっかけする悪質なファンにこたえる義理は超ない!!」
邦乃ちゃんは腕でバッテンを作ってこたえる。
「ふざけるな、俺は悪質なファンなんかじゃない!!」
逆上する男。
「そんなことないし。超悪質なファンだし!! 邦乃をストーカーしてここまで来たんだから」
「ストーカー?? いや、違うな!! 俺は善良なファンだ。なぜなら、邦乃ちゃんに悪い虫がつかないよう、警護をしていただけだからな!!」
「悪質なストーカーだよね」「悪質なストーカーだな」「超悪質なストーカーだし」
私、理論君、邦乃ちゃんが呆れながら肯く。
「違う、違う、違う!!」
「違う?? それなら、どうやってこの部屋まで上がり込んだんだよ?? 嶺敷の社宅はセキュリティ対策がバッチリなのに」
理論君が訊ねる。
「あ、ごめん、それ私だ。理論君の友達だと勘違いして、筋肉男と一緒に来ちゃった」
「話を整理させてください。僕は最初、加奈さんを驚かせたくて不思議野邦乃を呼びましたが、その際にストーカーされて、悪質なファンがこのマンションの入口までついてきてしまった」
冷静に理論君は分析を始める。
いや、なんでそんなに冷静でいられるの??
私、人質になっているんだよ。
私の思いもよそに、理論君は続ける。
「そして、社宅の1階にいた悪質なストーカーを加奈さんが僕の友達だと勘違いして、部屋に招き入れてしまって、今に至るというわけですね」
なるほど、話が見えてきた。
「いや、違うな、間違っているぞ。なぜなら俺は善良なファンだからな!!」
あんたは間違いなく悪質なストーカーだよ。
善良なファンなら、自分の推しに彼氏ができたなら祝福するはずだもの。
首元にナイフを当てられているから、強くは言えないけれども。
「超ごめん、理論、加奈さん!! 邦乃のファンを撒けなかったウチの責任だし」
邦乃ちゃんは、低い声で私と理論君に頭を下げてきた。
あれ??
何かがおかしい。
プライベートで邦乃ちゃんの一人称は『ウチ』なのかもしれないが、テレビで見る限り、邦乃ちゃんの一人称は『ウチ』じゃない。
それに邦乃ちゃんの低い声が、いつも出している声と違うような気がする。
テレビと生音じゃ聞こえ方が違うのかもしれないが……
「違う!! 邦乃ちゃんは悪くないんだ!! 悪いのは邦乃ちゃんをかどわかしている、そこのイケメンなんだから!!」
金髪筋肉マッチョは私の後ろから邦乃ちゃんに話しかける。
「お前、本当に邦乃のファンなの??」
理論君はため息交じりに男に尋ねる。
「ああん?? 何言ってんだ、てめえ!! 俺は正真正銘、邦乃ちゃんの古参ファンだぞ!! この限定Tシャツが目に入らねえのか??」
「限定Tシャツを着ていて、古参をアピールされても、目の前にいる人間が邦乃かどうか、判断できないようじゃ、ファン失格じゃない??」
理論君はここにいるのが邦乃ちゃんじゃないかのように言い放つ。
「何を言っているんだ、目の前にいるのは邦乃ちゃんじゃないか!!」
「超違うし」
「は??」
「だから、超違うんだし。ウチの名前はベルだし。邦乃とは超別人だし」
ウソでしょ??
邦乃ちゃんと瓜二つなのに、邦乃ちゃんじゃないなんて。
「ベルだって?? おいおい、男と一緒にいた現場を目撃されたからって、苦し紛れのウソはいただけないな。邦乃ちゃん!!」
「ウソじゃないし。ウチは邦乃に超そっくりな双子の兄のベルだし」
まじか。
邦乃ちゃんにそっくりの双子の兄がいたのか!?
まとめ
邦乃ちゃんの双子の兄を邦乃ちゃんだと勘違いした金髪筋肉男。
理論君の命を奪おうと、加奈を人質にする。




