第50話 掃除に集中
50話は少ししか進みません。
加奈が掃除に集中する話です。
「え?? それなら何で自分のタイミングで起きることができるのさ?? もしかして通信制の高校??」
通信制なら、取得に4年かかる高校もあるみたいだし、特定の日にちだけ学校に行けばよいと聞いたことがある。
私は普通科だったからよくはわからないけど。
「いいえ、普通科の高校3年生です」
ん??
18歳で普通科の高校3年生??
「失礼なことを聞いてしまうのかもしれないのだけれど、理論君、留年したの??」
話している感じから、テストの点数が足りなくて単位を落とした感じではないが、理論君は体力がないのだ。
病気やケガで留年をした可能性もある。
「いいえ、留年なんかしていません」
「それなら、どうして高校3年生なの??」
「誕生日が4月4日ですから」
「ああ、私と出合った日が誕生日だったのか……」
とんでもない勘違いをしていた。
そっか、もう4月だから、誕生日がくれば、18歳なのか……
「ん?? 高校3年生なら、もうすぐ学校はじまるよね??」
春休みが短い学校なら、すでに始まっているはずだ。
「始まってはいますが、大丈夫です」
理論君ははっきりと返答した。
「どうして?? もしかして通信制??」
通信制ならば、年に何回か登校すればいいだけだ。
「いいえ、通信制ではありません」
「え?? 通信制じゃないのに、どうして学校に通っていないの??」
学校が始まっているのに、通わなくていいってこと??
「僕に体力がないことを学校も承知しているので、体調がすぐれないときには、学校を休んでも良いことになっています」
なんという超法規的措置。
「学校に行かなくて勉強は大丈夫なの??」
「高校の3年間分の勉強は、中学の時にもう習得済みですので、心配いりません」
「優秀だね」
「そうでもないです。本当に優秀なら、きっとこの状況も加奈さんの力を借りずに、独りでなんとかしていたでしょうから」
自虐的なユーモアで自分を冷静に分析する理論君。
まずい、会話が途切れる空気だ。
「独りで解決できなくて良かったよ。独りで解決できていたら、私と理論君は縁がなかっただろうから」
焦って返答したら、私と理論君が出会えてよかった的な話になっているけど、違うからね。
本当にただ焦っただけなんだからね。
勘違いしないでよね。
「なるほど、そういう考え方もできますね」
私の返しに納得してくれる理論君。
「一事が万事、塞翁が馬。人生何が良くて何が悪いかなんて、後から振り返ってみないと分からないものだよ」
「そうかもしれないですね」
理論君は曖昧な表情でうなずいた。
「信じてもらえないかもしれないけど、私の先輩は、運だけで乗り切っているんだよ」
某トッシー先輩とか。
「そんな人もいるんですね」
「そうなのです!!」
「ところで……」
理論君はおずおずと話を切り出した。
「どうしたの、理論君??」
「先ほどから手が動いていないようですが、加奈さん、もし、食器洗いができない事情があるのでしたら、後のことは全部任せてください」
私の持っている皿を奪おうとする理論君。
「大丈夫だから!!」
私はすぐに皿を奪い返す。
「でも……」
『ピロリン!! お風呂がわきました!!』
ナイスタイミング!!
「食器洗いは私に任せて、理論君は先にお風呂に入ったら?? 理論君、汗臭いよ!!」
「そうですか??」
理論君は自分で自分の服のにおいをかぎ始めた。
ごめん、理論君。
本当は汗臭くなんかないの。
ただ、皿を洗っていなかったことをごまかすためなの。
「そんなことしても、自分で自分のにおいは分からないから。おとなしくお風呂に入りなさい」
私はゲンが泊まりに来た時用のフリーサイズのパジャマを手渡す。
「分かりました。すみませんが、お先にお風呂いただきます」
「どうぞ、どうぞ。あ、お風呂に入る前に確認させてもらっていいかな??」
「なんですか??」
「友達が来るのは、いつなの??」
「明日の夕方の予定です。ですので、明日の夕方まではここにいさせてもらえませんか??」
「了解。お風呂入っちゃって」
「分かりました。絶対にのぞかないでくださいね」
鶴の恩返しみたいに機織りでもするのだろうか??
お風呂場で。
……うん、できるわけがないね。
きっと私を警戒してだろう。
マンガや小説じゃないんだから、お風呂をのぞくなんてことするわけないじゃない。
確かに、体力のない理論君の筋肉はどのようになっているのか気になるけど。
「絶対にのぞかないから安心してお風呂に入って」
理論君はタオルを持って脱衣所へと向かったので、私はテレビのニュースをラジオ代わりに聞き流しながら、食器を洗う。
洗っている最中、自然とお風呂場の方に目線がいってしまっていた。
気になる。
理論君の体の肉付きが。
異性としてではなく、人体の構造として。
少しでも見ることができたら、話のネタになるし。
ダメよ、加奈。
食器洗いに全集中しないと!
のぞきなんて人としてダメなんだから。
手を動かす間にも
食器を洗うのよ、食器を。
食器を洗っている最中だというのに、何度も何度もお風呂場をみてしまう。
気になる……って、気にしちゃダメなのよ。
私は全力で食器を洗い終わらせた。
さて、この後どうしようか??
無意識にお風呂場の方へ向かいながら考える。
うん、このままだと、私が理論君のお風呂をのぞきそうだ。
5歳も年が離れた男性のお風呂場を覗いたら、犯罪に問われるだろう。
何か別のことに集中しなくては。
風呂場から視線を外し、何か集中できそうなものはないか部屋の中を探索すると、掃除機が目に飛び込んできた。
そうだ、部屋の掃除機かけをしてしまおう。
理論君の友達が明日の夕方に来るのだ。
少しでも部屋はきれいにしておいた方がいい。
さあ、掃除するぞ!!
決心した私は静音の掃除機を取り出した。
ちょっとお値段がはるけれど、15ポンドのボーリングの球をも吸い込める吸引力なのに、音は50db以下の優れものだ。
こんなに静かな音なら、お風呂場に行っても気づかれないだろう……
……って、自然に風呂場に行っている!!
ダメよ、ダメダメ!!
掃除に全集中しないと!!
……よし、部屋の掃除が終わったら、トイレの掃除だ!!
トイレの掃除は念入りにしますか!!
今度こそ雑念を取り払って、トイレ掃除に集中した。
…………
……
今、何時だ??
時計を見ると22時35分を過ぎている。
あれ??
理論君、遅くないか??
もうお風呂に入って約1時間経っている。
まさか、お風呂でのぼせているんじゃないか??
いや、のぼせているだけならまだいい。
もしも、体力がないせいで、お風呂でおぼれてしまっていたら、事件になってしまう。
背筋がぞっとした。
「理論君、長風呂だけど大丈夫??」
心配になった私は大声を出しながら、浴室へ駆け寄ると、ノックもせずに風呂場のドアを開ける。
「大丈夫ですよ」
そこには、浴槽の中でリラックスモードの理論君。
よかった、生きていた。
「すみません、お風呂で少し考え事していました。もうそんなに経っていたんですね。加奈さんもお風呂に入らないといけませんものね。すぐにあがります」
そっか、理論君、長風呂していただけか……
私にはぴったりの浴槽なんだけど、長身の理論君には少し窮屈そうだな……じゃない!!
これじゃあ、完全なのぞきじゃないか!!
まとめ
理論君、お風呂に入る。
加奈、生存確認のため、結果的にお風呂をのぞいてしまう。




