第47話 将来の夢
48話は少ししか進みません。
加奈と理論君が将来の夢について話し合うだけです。
「そうだよ!! 体が健康だから、今、希望会社でバリバリ働けるんだもの」
「今の会社が第一希望だったんですか??」
第一希望は成神グループでしたと正直に告白しようかとも思ったが、すぐに言葉をひっこめた。
口は災いの元。
防音設備の社宅とはいえ、どこで誰が聞いているかも分からない。
「そうそう。嶺敷でお仕事をするのが夢だったの」
「夢を叶えるなんてすごいですね」
そんなに褒められると照れるな。
「いやいや、それほどでもないよ」
「すごいですよ!! 僕にはやらなければいけないことはあっても、叶えたい夢なんてありませんから」
合コンで私を口説こうとする男どもは夢の話をすると、ミュージシャンになってメジャーデビューとか、映画を撮って巨匠になるだとか、アイドルをプロデュースするだとか、とにかく大きな夢を語っていた。
だがしかし、この理論君には夢がない。
「そっか、理論君には夢がないんだね」
「そうですね。僕に夢がないせいで、夢がないなら母の言う通りの進路にしなさいと押し付けてきたので、喧嘩してしまい家を飛び出て、今ここにいるというわけです」
なるほど将来の進路希望による親との喧嘩で家を飛び出してしまったというわけか。
うんうん、わかるよ。
親に反発したい心。
反抗期なんだね、理論君。
「そっか、そういう経緯で行き倒れていたんだね」
「やはり、夢がないとダメなのでしょうか??」
「私は夢がないって素晴らしいことだと思う」
「どうしてですか??」
「いろいろな道を見つけることができるからよ。悩むのは若者の特権なんだから」
「特権……」
「そうよ、いろいろ悩んでどんな職業につけばいいか決めればいいだけなのよ」
理論君は、まだ18歳になったばかりだ。
今は4月だから、進学するにしても就職するにしても、少なくとも3か月は悩んでも良いはず。
まだ慌てるような時間ではない。
「アドバイス、ありがとうございます!! じっくり考えてみようと思います」
「考えるのもいいけど、『自分のことは自分が一番分からない』という言葉があるから、自分だけで考えずに、他の人からアドバイスをもらうというのも手なのよ!!」
「なるほど、そうなんですね。それなら、聞かせてください。加奈さんは僕が何に向いていると思いますか??」
「そうね、フランス料理人なんてどう?? 理論君が作ってくれた朝食とてもおいしかったし」
「僕に料理人は無理ですよ」
「どうして??」
「僕よりも上手く作れる人はたくさんいますから」
うつむく理論君。
「そうね、理論君よりもおいしい料理を作る人はたくさんいるわね」
「それなら、やっぱり、僕に料理人にはなれませんよね??」
「それは違うわ、理論君。理論君の理論だと、世界一おいしい料理を作る人しか料理人ができないということになってしまうわ」
「確かにそうですね」
「料理人になれるかどうかは、理論君が料理人を本気でやりたいかどうかよ!!」
「僕が本気でやりたいかどうか……」
「そうそう、あなたが本気でやりたいことを見つけることが大切なの。もちろん、他の誰かを喜ばせること限定ね」
理論君なら本気でやりたいことは、『誰かを悲しませる犯罪です』なんて言い出さないだろうけど、念のためにくぎを刺しておく。
「なるほど」
「やりたいことと言っても、自分の能力でできることのほうがいいわね」
自分の能力以上のことをしようとすると、疲れて精神病を患う人もいる。
絶対に自分の能力でできることをしたほうがよい。
「体力がない僕でも見つかるでしょうか??」
「理論君が本気ならね!! 理論君が本気でしたいことは、料理ですか?? それとも、お掃除ですか??」
「ぱっとは思いつきませんね」
「それなら、自分を見つめなおすためにも家に帰ってみたら??」
「それはできません。もしも、家に帰ろうものなら、2度と家出をしないように拘束か拘禁されてしまいますから」
どんだけ非道な親なんだよ、理論君の親は。
「それなら家に帰りたくない人を保護してくれる施設もあるけど、紹介しようか??」
「ダメです。施設に入ったら1日も経たず家族にバレてまいます。そうなれば強制的に帰宅ですから」
「せめて親御さんに連絡してみたら?? 生死不明だと、親御さんは心配するだろうし。スマホがないなら私のを貸すよ」
警察に『捜索届』を出されでもした挙句、ここにいることがバレてしまったら、非常にまずい。
最悪、私まで警察のお世話になってしまう恐れもある。
「ダメです。スマホを逆探知されて、場所を割り出されます」
逆探知??
よくミステリードラマとか、サスペンスドラマで警察が電話をしている場所を特定するものだよね??
もうすでに、親御さん、警察に通報済みってこと??
もしも、私のスマホから連絡すれば、私、誘拐犯だと疑われてしまうじゃないか。
「それなら、社宅に備え付けてある固定電話から」
「逆探知されてバレます」
ですよね。
他の策を考えよう。
「そうだ、10円玉たくさんあげるから、公衆電話から連絡するというのはどうかな??」
都内の公衆電話は少なくなったとはいえ、それなりに数はある。
どこかの公衆電話を使えば、特定はできないはずだ。
「ダメです。公衆電話を逆探知されて、ここを特定されます」
「いやいや、公衆電話を逆探知されただけじゃ、この場所は分からないでしょ??」
社宅から遠いところにある公衆電話からかければ、逆探知されても問題ないはずだ。
「甘いです! 公衆電話の近くにある防犯カメラをリレーのようにチェックしていって、すぐにこの場所を特定されてしまいます」
防犯カメラリレーって、理論君の親御さんは警視庁の捜査一課か何かなのかな??
「それなら、どうやって親御さんと連絡とるの??」
「連絡はとりません!! ほら、良く言うじゃないですか。『便りがないのは良い便り』って」
「うん、それはちょっと曲解しているよ」
『便りがないのは良い便り』ということわざは、住んでいるところを知っている前提だからね。
理論君のように家出してきて、どこに住んでいるか分からなければ、みんな心配するんだからね。
まとめ
理論君には夢がない。




