第46話 テレビニュースとCM
46話は少ししか進みません。
加奈と理論君が晩ご飯を食べてCMを見るだけです。
「お肉がやわらかくて、とてもおいしいですよ」
「良かった。さ、どんどん食べて!!」
良かった、理論君の口に合って。
「いただきます」
理論君は取鉢をもって、すき焼きを食べ続ける。
私がご飯の茶碗を持とうとしたとき、すき焼きの取鉢をおいた理論君の手の甲と私の手の甲が触れ合ってしまった。
目と目が合ってしまう。
自然と心臓が高鳴ってしまっている。
まてまて、このまま見つめ合うと何か誤解を与えそうだ。
何か、何か言わないと。
「ごめんね、理論君。机が狭くて、ぶつかっちゃった」
「いえいえ、悪いのは急におしかけている僕のほうですから」
しまった、また雰囲気を悪くしてしまった。
何やっているんだ、自分!!
何故、普段やっている会話スキルが出てこないんだ!!
理論君がイケメンで緊張しているのか??
「また、顔色が青いですが、大丈夫ですか??」
「もちろん、大丈夫よ」
「ああ、もしかして、昨日のように顔を赤くしたり青くしたりする一発芸の準備ですか??」
「そうそう、この後ビールを持ってきて、顔を赤くしたり青くしたりするのよ……って、誰がするか!!」
ノリツッコミをしてしまう。
「飲まないんですか?? ビール」
残念そうにする理論君。
「もちろん、飲まないわ。ビールを飲むくらいなら、スイーツを食べるわ」
私はそもそも、下戸なのだ。
ビールなど、最初から買っていない。
毎日頭痛に悩まされてしまう。
「スイーツは買ってきたんですか??」
「いいえ、今日はすき焼きを多めに買ってきたから、デザートは入らないと思って、買ってきていないわ」
「別腹ではないんですね??」
「あのね、理論君。脳が甘いものを食べたいと思うと、胃に入っていた食べ物を腸にむりやり押し込むだけなのよ。つまり、別腹なんてものはないの」
私はテレビの健康番組で得た知識を披露する。
「さすが、加奈さん、物知りですね」
パチパチと拍手を送ってくる理論君。
褒められると照れるな……
「私の知識のことはいいの。それよりも理論君、箸が動いていないけど、もう食べないの??」
「ええ、もうお腹がいっぱいです! ごちそうさまでした」
本当に食が細いんだな、理論君。
私よりも食べていないぞ。
「どうぞ、食べてください」
「ありがとう。それなら、理論君はテレビでも観てて」
私が食べ終えるまで時間を持て余すだろうと思った私はテレビをつける。
「加奈さんは、上司の方とはうまくコミュニケーションをとっていますか??」
「何よ、藪から棒に」
「いえ、部長とは仲良くやれているのかな……って」
部長と言えば、トッシー先輩のことだろう。
先輩のおかげで散々な目にあっています……と説明しようかと口を開こうとしてやめる。
理論君は私の家に一時的に居候しているとはいえ、部外者なのだ。
部外者に仕事のことを伝えるわけにはいかない。
「ごめんなさい、守秘義務があるから、社員ではない理論君に社内のことを話すわけにはいかないのよ」
「ああ、そうですよね。すみませんでした」
『今日の特集は先日若赤グループを買収した成神グループの今後の展望についてです――』
「次は和色グループ……か」
ニュースを視聴しながら、私に聞こえるか聞こえないかでつぶやく理論君。
何で理論君が和色グループも買収されることを知っているの??
いや、動揺しちゃだめよ。
何も聞かなかったことにするの。
和色グループのことはトップシークレットなんだから。
平静を装い、私はご飯を食べ続ける。
「あれ?? 加奈さん??」
何??
まさか、私が動揺しているのばれた??
何で??
「箸が上下逆ですよ」
箸が上下逆って、動揺しすぎだろ、自分。
「あ、いや、これは、その、ニュースの内容が衝撃的過ぎて」
私はとっさにテレビ画面を指さす。
「ニュースですか??」
『地下アイドルとの交際が発覚した男性がファンに刃物で刺されて重傷です』
「ほら、衝撃的でしょ?? 地下アイドルの彼氏になっただけで刺されてしまうんだから」
とっさにテレビを指をさしただけだけど、衝撃的なニュースで良かった。
もしも、『猫がかわいいです』といったような、ほんわか動物ニュースだったら、動揺していたのが一発でバレるところだった。
「そうですね。アイドルと付き合っているだけで刺されるなんて。僕は絶対にアイドルとは付き合いたくないです」
理論君は相当怖がっている。
それもそうだろう。
理論君は体力がないのだ。
もしもアイドルと付き合っていることがファンにばれて、襲われたらひとたまりもないだろう。
『地下アイドルとの交際に逆上したファンが、SNSで男性宅を特定し、待ち伏せ。男性が帰宅したところを刃物で切りつける事件がありました』
私はテレビ画面に集中する。
『関係者の話によると犯人の男はこの地下アイドルに1000万円以上をつぎ込んでおり――』
地下アイドルに大金を貢いだ挙句、交際相手がいると分かったら、逆上してしまうファンの気持ちも分からなくはない。
分からなくはないが、交際相手を包丁で刺して重傷を負わせるというのは、やりすぎだ。
「加奈さんも気を付けてくださいね」
「それって、私が不思議野邦乃ちゃんをナイフで刺すかもしれないってこと??」
「いいえ、加奈さん、アイドルみたいに可愛いので刺されないようにです」
理論君、もしかして、さりげなく私を褒めている??
まったく、幼稚な褒め方ね。
そんな褒め方で私が心揺さぶられるわけないじゃない。
「大丈夫よ、理論君。私はOLでアイドルじゃないの。ナイフで刺されるなんて絶対にありえないわ」
「加奈さん、顔がトマトみたいに真っ赤ですが、この後青くする予定ですか??」
うわっ、久しぶりに男性に褒められて、赤面していた。
はずかしい。
「そんな予定ないわ。それよりも、早く食べ終わりたいから話かけないで」
『――ここで一旦CMです』
『万屋・眠民みのる! 免許がなくてもできることなんでもいたします!! 研究の助手いたします! 論文の手伝いいたします! 隠ぺい工作いたします! 代理・代行・演技、親が泣かなければなんでもいたします!!』
何故か学生服姿のおっさんが、病院の院長回診をしながら頭をぺこぺこさせている。
本当にわけわからんCMだ。
“万屋・眠民みのる”と言えば、成神グループの子会社だよね。
今朝のメイド服のおっさんのCMといい、ここ最近、ナンセンスなコマーシャルが流行っているのだろうか??
ふと時間をみると、20時57分。
……って、もうこんな時間じゃないの。
私は急いでご飯を食べ進める。
「急に食べるペースが速くなりましたが、何かありましたか??」
私のことをよく観察しているな、この子。
「自分ルールを破りそうだから、急いでいるのよ」
「自分ルールですか??」
「そうよ、太りたくないから、21時以降は食べ物を食べずに飲み物だけにしているの」
「加奈さんって健康にすごい気を遣っているんですね」
「そりゃそうだよ。体が資本だもん」
「体が資本……そうですよね」
意味ありげにうなずく理論君。
私、変なこと言っただろうか??
まとめ
加奈、アイドルが刺されるニュースと、変なCMを観る。




