第42話 不慮の事故
42話は少ししか進みません。
加奈が嶺敷の社長を心の中で応援するお話です。
「それはな、盗聴したからだ」
トッシー先輩は、私の耳元でささやく。
はあ??
盗聴??
「普通に犯罪ですよ!!」
「俺だって盗聴なんかするつもりじゃなかったんだ」
「それなら、どうしてこうなってしまったんですか??」
「不慮の事故だったんだよ」
「不慮の事故で盗聴をするなんてこと聞いたことがないですけど。どうせ、トッシー先輩のミスですよね?? 私に責任はないので、戻りますね」
私は席を立ちあがる。
「あれはそう、忘れもしない昨日のことだ……」
背後からトッシー先輩が語り始めた。
絶対に聞かない。
聞きたくない!!
私はそのまま秘書課へと歩み始めた。
「俺が改造して作った盗聴器型ペンと、社長の持っていたペンが入れ替わってしまったんだよ。誰かさんのせいで」
脚を止めざるを得なかった。
昨日、トッシー先輩と社長とペンが入れ替わっただって!?
私が社長と先輩のボールペンを拾ったことが思い出される。
「あーあー、誰かさんのせいで、ペンが入れ替わったから困っているんだよな」
「もしかして、原因、私ですか??」
トッシー先輩の方を振り返り、自分で自分を指さしながら尋ねた。
「原因はお前だ!!」
まるで怖い話の最後のオチかのように私を指さすトッシー先輩。
なんたることだ!!
私のせいで盗聴をしてしまったということか……
心の中では思ったが、それを表に出してはいけない。
ここはポーカーフェイスだ。
「いいえ、私じゃないです。盗聴器を作った先輩のせいです」
「おいおい、俺は試作機を作っただけなんだから、俺は悪くないだろ」
「先輩、『持たず、作らず、持ち込ませず』という盗聴器3原則を知らないんですか?? 先輩が悪いに決まっているじゃないですか」
「それ、核兵器の3原則だろ?? 盗聴器の3原則じゃないから、俺は悪くない」
ちっ、知っていたか。
ここは話をかえよう。
「そもそも、何で先輩は盗聴器なんか作ったんですか??」
ハラスメントが横行しているブラック会社ならいざ知らず、わが社はハラスメントとは無縁のホワイト会社なのだ。
ペンを改造して盗聴器など作る必要がない。
目的はなんだ??
まさか、小山課長が言うように、本当にトッシー先輩は特命を受けているのだろうか。
私は先輩の前の席に座って問い詰めた。
「ちょっと、耳貸せ」
当たりをきょろきょろと見回してから、真剣な顔つきになるトッシー先輩。
「絶対に誰にも言うなよ……」
こちらにも緊張が伝わり、私は唾をごくりと飲み込んだ。
一体、どんな目的で盗聴器を作ったのか。
「実はな、次の宴会、カード当ての手品のタネに使う予定だったんだよ。誰かに俺の中身だけ入れ替えたペン型盗聴器を持たせておけば、誰が何のカードを選んだか分かるだろ??」
うん、知ってた。
トッシー先輩が盗聴器をろくでもない方法で使うことくらい。
「いえ、その方法だと、カードを当てるのは難しいかと思います」
「え?? どうして??」
「先輩が近くにいるんですから、選んだカードは先輩に聞こえないように、その場にいる人に選んだカードを見せると思います」
そう、いくら盗聴器があっても、選んだカードを言葉にしなければ、盗聴する意味がないのだ。
「…………なんてこった!! 会社の経費で作ったのに!!」
そこまで考えていなかったんだな、この先輩。
本当にポンコツだ。
「まったく、やめてくださいよ。会社の経費で意味のないことをするのは。盗聴器を作ったってことは誰にも言いませんので、安心してください。それでは私はこれで」
これ以上は深く関わってはいけないと思い、立ち上がる。
「おいおい、ここまで話を聞いておいて、逃げるというのはなしだぜ」
うまく逃げられると思ったんだけど、逃げられなかった。
「要求はなんですか??」
「簡単だ。社長のペンと俺のペンがまだ入れ替わったままなんだ」
「は??」
この男、まだ自分の改造ペンを社長に持たせているというのか……
「もしも、俺が社長の会話を盗聴していることがバレたら、間違いなくクビになる。だから、何とかしてもう一度すり替えてくれ」
「そんなの簡単じゃないですか」
「簡単だと?? まさか、サッカーのユニフォーム交換のように、『社長と俺のペンと交換してくれ』なんて言うんじゃないだろうな??」
「そんなことを言えば、怪しまれちゃうじゃないですか」
「そうだよな」
「そうじゃなくて、まずは急な宴会が入って、打ち合わせが必要になったといウソをくんです」
「ウソをついてどうするのさ??」
「社長室に行き、社長の近くで何か書類を書くフリをしながら、『すみません、ペンのインクが出にくいから、ペンを貸していただけませんか??』というんですよ」
ここまで言えば、ポンコツなトッシー先輩でも分かるだろう。
「ふむふむ、その後はどうするんだ??」
分からないんかいっ!!
「ペンを貸してもらったら、自分の持っているペンと先輩のペンを交換すればいいだけじゃないですか」
「なるほど!! ……って、ちょっと待て。渡してくれたのが俺の盗聴器ペンじゃなかったらどうするんだ??」
「その時は、社長の持っていた別のペンもインクが出にくいことにして、盗聴器のペンが渡されるまで何度もチャレンジすればいいじゃないですか」
「天才だな、お前」
「滅相ないです」
いや、先輩がポンコツすぎるんだよ。
「先輩、はやく交換しないと、社長に盗聴器だと気づかれるかもしれないから、急いだほうが良いのでは??」
「おう、そうだな」
先輩は足早に社員食堂から立ち去ろうとして足を止めた。
「どうしましたか??」
まだ何か用があるのだろうか??
「今の話は絶対に誰にも言うなよ」
「分かっていますって」
私がうなずくと、今度こそ先輩は社員食堂から立ち去った。
成神グループが和色グループを買収なんてトップシークレット、絶対に誰にも言えないから。
……って、ちょっと待って。
和色グループ??
和色グループといえば、『和code』が所属する会社だ。
もしもライバル会社の成神グループに買収されてしまったら、今後、私が『和code』関連グッズの全てのお金は成神グループに入ってしまうことになる。
成神グループの参加に入ったら、押し活がしづらくなるじゃないか!!
おのれ、成神グループ!!
私の推し活さえ、奪おうというのか!!
こうなったら、絶対にわが社には和色グループのホワイトナイトになってほしい!!
それなら、今知った情報を絶対に外部に漏らしてはいけないな。
もし、嶺敷に情報が筒抜けになっていると知ったら、成神グループは、和色グループの株価が安いうちに株を叩き買いするだろうし。
株の叩き買いをされて半分以上所持されたが最後、嶺敷が守る前に買収されてしまう。
絶対にそんなことにはさせたくない。
成神グループより先に、嶺敷の株を買いまくれ!!
頑張って、嶺敷社長!!
私は願いながら、食堂の食器を返却して、エレベーターに向かい、上のボタンを押して待った。
まとめ
加奈、トッシー先輩の盗聴器を社長が持っていることを知る。
加奈、自分の推し活のために社長に頑張って欲しいと願う。




