第3話 再会
3話、全然話が進みません。
まだ会社にすら着きません。
早歩きすること、約40分。
空まで届きそうな高いビルの最上階にかかげてあるの看板の文字が目に入ってきていた。
運命の人と通勤時に出会うかもしれないときょろきょろしていたが、会社付近できょろきょろしていたら、不審者と間違われてしまう。
不審者と間違われたら、仕事に支障がきたす。
仕事に支障をしたしたら、また地方に飛ばされてしまうかもしれない。
気合を入れなおさなくては。
私は一瞬だけ立ち止まって、両手でパチンと自分の顔を叩いた。
よし、これでオッケーと思った瞬間、背中に『ドン』と何かがぶつかってきた。
突然の出来事だったので、その場で踏ん張ることもできず、転倒してしまう。
「こんなところで急に止まるんじゃねーよ。痛いな!!」
後方から若い男性の声がした。
この声、どこかで聞いたことある声だ。
どこだったけ??
いや、そんなことより、はやく謝らないと。
「すみませんでした」
私は振り返りながら謝る。
「すみませんで済めば警察はいらないんだよ……って、お前、まさか、金子加奈か??」
声の主は私の名前を言い当てながらしゃがみ込む。
そこには嶺敷商社が手掛けるブランドスーツに身を包み、眼鏡をかけている男性の姿。
「もしかして、リロン先輩ですか??」
気が付くと、高校生の頃のあだ名で尋ねてしまっていた。
「ああ、そんな呼ばれ方されたこともあったっけ……」
肯定しているということは、間違いない。
リロン先輩こと、瀬尾 利訓先輩だ。
…………失敗した。
知らないふりをすればよかった。
リロン先輩は最悪最低の元カレだったからな。
高校時代、恋人関係になったのに、私がやらされたことと言えば、先輩のお世話係。
『夜更かししたから、明日の朝7時にスマホにコールして』とか、『お弁当作ってきて』とか、『体育館のモップ掛けの掃除当番だから、やっておいて』とか、思い出したくもない雑用、雑用、雑用の日々。
成神グループの採用試験の次に思い出したくない思い出だ。
「私が高校1年生の時だから、約8年ぶりですね」
『久しぶりですね。それでは、また8年後にでもお会いしましょう』……と言いたいのをぐっとこらえて、何とか言葉をひねりだした。
「久しぶり」
笑顔を向けてくるリロン先輩。
その笑顔には悪意が見え隠れしているような気がした。
「なんだよ、俺の顔をじっと見て」
「じっとなんか見ていません」
私はリロン先輩から視線をそらして、自分の両手のひらを見る。
手に少しだけ砂がついているが、ケガはない。
ひざもずきずき痛むが、大丈夫だろうか??
立ち上がりながら膝小僧を見るが、血は出ていない。
よかった、ストッキングの伝線もしていないみたいだ。
「いや、お前、見ていたな!! 俺の顔を!!」
「だから見てません」
「なぜそんなに否定するんだ?? ははーん、分かったぞ。ツンデレってやつだな」
「いや、違いますから」
確かに顔は私好みの整った顔ではあるけれど、じっとなんか見ていないし、ツンデレでもない。
「分かった、分かった」
この言い方、絶対に分かっていない言い方だ。
「あのですね……」
「御託はいいから、俺が手を差し出してやっているんだ。とれよ、俺の手を」
手を差し出してくるリロン先輩。
「一人で立ち上がれます」
私はリロン先輩の手をとらずに一人で立ち上がった。
リロン先輩は出した手を引っ込める。
「何はともあれ運命の再会だな」
「そうですね、リロン先輩。あはは」
立ち上がりながら笑顔を無理やり作っているけど、ひきつっていないだろうか。
「なあ、加奈」
眉間にしわを寄せて私をにらみつけてくる先輩。
「なんですか、リロン先輩??」
もしかして、無理矢理に笑顔を作っているの、バレたか??
「リロン先輩って呼び方、もうやめろよ」
「良いんですか?? すごい思い入れのある呼び方だって語っていたじゃないですか??」
「『リロン先輩』の呼ばれ方に思い入れがある?? そんなわけないだろ。勝手に金子が呼んでいたんじゃないの??」
覚えていないとか、本当に最悪だな、このドS男。
「違いますから!! 瀬尾利訓の『利』を『り』、『訓』を『くん』と読むと、『セオリクン』になって、『セオリクン先輩』って呼ばせていたけど、長ったらしいから、『クン』は要らないってなって、『セオリ先輩』って呼ばせていたじゃないですか」
「あれ、そうだったっけ??」
呆れるほど大げさに首をかしげるリロン先輩。
こいつ、忘れたフリをしているな。
「とぼけないでください。その後、『セオリ先輩』だと『セロリ先輩』みたいで格好悪いってバスケ部のみんなに笑われたから、たまたま英単語長に載っていた『セオリー』の意味が『理論』だったから、『リロン先輩』って呼べってなったんじゃないですか!!」
超お気に入りだから、絶対にこの呼び方にしろって言ったのは貴方ですよ、リロン先輩。
「うん、そんなこともあったかもしれない。だけど、もう俺たち高校生じゃないんだぜ。今日から俺はトッシー先輩と呼ぶんだ!!」
「トッシー先輩ですか??」
「そうだ、トッシー先輩だ!! 『リロン先輩』というあだ名は捨てたんだ、俺は!!」
「あんなに気にいっていたのになぜ??」
「いいから、俺のことはトッシー先輩と呼べ!!」
出た。
『いいから』というワード。
何が『いい』のだろう??
私にとっては何も『いい』ことなどないのだから、上から目線でとにかく相手を従わせたい時に使うワードにしか思えない。
抵抗してもいいのだが、後々が面倒くさそうだ。
ここは寛大な心で譲歩してあげよう。
「分かりました、トッシー先輩。これでいいですか??」
多分、二度と会うこともないからトッシー先輩なんて呼ぶ機会もないだろう。
「ああ、それでよろしく」
口角を上げて、髪をかきあげるトッシー先輩。
格好だけはいいんだよな。
格好だけは。
まとめ
加奈、高校時代の元カレ……ではなく、雑用扱いされたリロン先輩に運命的再会をする。
加奈、リロン先輩にトッシー先輩と呼ぶように強要される。




