第37話 活動限界カロリー
37話は少ししか進みません。
理論君が活動限界カロリーについて説明するお話です。
「僕の顔に何かついていますか??」
「何もついていないわ」
「それならどうしてそんなに赤い顔をしてボクをじっと見ているんですか??」
赤い顔だと指摘され、自分の顔が熱いことに気づいた。
「それは……怒っているからよ」
理論君の愛情たっぷりのご飯を食べて、私の心が動いています……と正直には言えずに、ウソをついてごまかす。
「怒っている?? 何か僕、悪いことしましたか??」
私の心を奪おうとした悪い子です……とは口が裂けたって言えない。
「話をはぐらかそうとしているでしょ」
「僕が?? いつ話をはぐらかしましたか??」
理論君はむきになって、少し赤くなった顔で返答した。
「だってレシピを知っていて、愛情を込めればおいしいですって?? そんなわけないわ。卵を一つ割るにしても、技術が必要なのよ」
誰とは言わないが、とある高校の先輩は、卵一つ割れなかったのだ。
おそらく、宴会部長になった今でも、割れないだろう。
壊滅的にセンスのない人が愛情を込めただけで料理がおいしくなるだろうか……いや、ならない。
つまりは、それなりに技術がなければ、ここまで美味しくはできないのだ。
「ノンノン、料理は技術ではなく愛情です」
理論君は立ち上がって反論しようとすると、急にふらふらとよろめきだした。
「ちょっと、よろけているけど、大丈夫なの?? まさか、あなた、昨夜、酔い潰れている間にお酒を飲んだんじゃ……」
そうだとしたら、まずい。
私の社会的地位がなくなり、クビも飛んでしまう。
「飲んでいません」
「それなら、どうしてそんなによろけているの?? 頭でもぶった??」
「頭もぶっていません。活動限界カロリーになってしまったみたいです」
「活動限界カロリーって何??」
昨晩もそんなことを言っていた気がするけど、まったく聞きなじみのない言葉だ。
「活動限界カロリーは、僕が1日で普通に活動できるカロリーのことで、約400キロカロリーのことです」
そっか、そっか……って、400キロカロリー!?
えっと、60kgの成人が1時間歩いて、だいたい350キロカロリーの消費だよね??
理論君、1時間くらい歩いたら、他にはほぼ何もできなくなるってこと??
「何かの病気なの??」
「いいえ、病気ではありません。いたって正常です」
「正常だけど、活動限界カロリーがあると」
「そうです。子どもの頃から」
「もしも、活動限界カロリーを超えたらどうなるの??」
「疲労感と眠気に襲われます」
理論君は椅子に座りながら大あくびをした。
「私の料理を作ったからだよね?? 活動限界カロリーがあることを知っていながら、どうしてそんなこと」
私の記憶が確かなら、料理はウォーキング以上にカロリーを消費するはずだ。
「恩を返したかったんです。今の僕にはお金もないので、料理や掃除や洗濯でしか返すことできませんから」
「体力がないのに、私をベッドに寝かせてくれて、お風呂掃除と料理までしてくれたの??」
「受けた恩は返すのが仁義じゃないですか。まあ、お風呂も食材もキッチンも僕のものではないし、勝手にやったことで、恩返しになっているかは分からないのですが」
感動して泣きそうなんだけど。
でも、さすがに涙をみせるわけにはいかないな。
「ありがとう、恩返しになっているわ」
なんとか答える。
「そう思っていただけたなら一安心です」
横になりながらハニカミ顔をする理論君。
もしかしたら、この子、本当はいい子なのかもしれない。
「ところで、理論君、あなた疲れているのよね??」
「そうですね」
「眠いなら、とりあえず、私のベッドで横になって、理論君」
「いいですよ、ソファで」
理論君は這いつくばりながらソファへと向かう。
「ダメよ。ソファよりもベッドの方が回復するもの」
頭痛に耐えながら、なんとか理論君に肩を貸し、ベッドに寝かしつけた。
「すみません」
申し訳なさそうにする理論君。
「何か欲しいものはある?? 遠慮しないで」
理論君が眠りに落ちてしまう前に、すぐさま訊ねた。
「とくにはないです」
「それなら良かった。あ、そうだ。ここ、オートロックだから、鍵なしでこの部屋をでちゃうと、戻ってこれないの。合鍵を机の上に置いておくから外に出るなら必ず持って行ってね。あと、お金もおいておくから、お昼ご飯はこれで食べて」
本当は理論君にご飯を用意したかったけど、今からお昼ご飯をつくる時間がない。
頭も痛いし。
すぐさま私は千円札を机の上に置く。
「もらえません」
「もらって。朝ごはんを作ってくれたお礼よ」
捨て犬を拾ったら、最後まで面倒を見なくてはいけないのよ。
その捨て犬がたとえ私に噛みつくような恩知らずな犬だとしても。
今日だけは面倒をみてあげよう。
そして、明日元気になったら、間違いなく『さようなら』をしなくては。
そう思い、理論君のポケットに千円札をねじ込もうとした。
「お気持ちだけ受け取っておきます」
理論君は千円には手をつけようとはせずに、丁重に断りを入れた瞬間、ふらつき始める。
「千円札はとりあえず机の上に置いておくから、とりあえず寝て」
「分かりました」
そう告げると、理論君はすうすうと寝息をたてて眠ってしまった。
さて、理論君を寝かしつけたことだし、私は会社に行かなくては。
頭はガンガンしていたが、本社配属3日目で有休を使えば、心配されるに違いない。
いや、心配されるならまだいい方だ。
ここは社宅なのだ。
もしも、昨日の居酒屋で知り合った男を家に連れ込んだところを目撃されて、遊び惚けているなんて勘違いされたら、また地方に逆戻りになってしまうかもしれない。
もしもまた逆戻りになったら、『おや、トンボ帰りですか??』……と地方の上司に皮肉を言われてしまうだろう。
今日だけは絶対に出社しなくては。
まずはシャワーで汗を流してから、別の仕事服に着替える。
シャワーのおかげで少しだけ頭痛が緩和された。
まとめ
理論君は活動限界カロリーがある。
加奈、シャワーをあびる。




