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超ひも♡理論君  作者: いたあめ(しろ)


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32/60

第31話 ウソ

31話は少ししか進みません。

理論君が加奈をおぶって、加奈の社宅まで送るお話です。

 男性におぶわれるなんて、子どもの時以来だよ。

 子どもの時も、パパは病弱で、元気な時しかおぶってもらえなかったから、記憶の中では、たったの2回だけだ。


 パパと同じように温かくて広い背中。

 香水かな??


 ほんの少しだけ甘い香りが漂う。

 このすごい安心感は何だろう??


「ねぇ、理論君」

「なんですか??」


「あなたはどうして公園の木に登っていたの??」

 酔いが回っているせいなのか、聞いてはいけないかもしれないことに斬りこんでしまった。


「それは……本当にあの綺麗なお月様が手で掴めないかを確認したくて」


「面白い冗談だね」

「冗談じゃないです」


 理論君はとにかくノリが軽いから、酔っている私をからかっているのかと思ったが、真面目な口調で否定されたので、どうやら冗談ではなさそうだ。


「冗談じゃないなら、なおさら意味が分からないんだけど」


 意味が分からない。

 お酒のせいで頭が回らないせいか??


「子どもの頃、月がとれると思ったことはありませんか??」

 理論君はぽつりと私に問うてきた。


「あるわ。月をとって、自分のものにしたいと思っていたもの」


 遠い記憶、読んでもらった絵本の中に、『お月様をとって欲しい』と娘がパパにお願いをして、お月様をとってもらうシーンがあった。


 なんで絵本の女の子は月をとってもらえるのに、何で私は月をとってもらえないの?? ねえ、どうして??


 ……と泣きながら駄々をこねて、パパを困らせた時があったっけ。


「加奈さんの子どもの頃の気持ちが、今、僕にわいてきたんです」

「理論君、あなた、18歳よね??」


「そうです」

「子どもの頃ならいざしらず、18歳にもなって、月が取れるなんてこと確認しなくてもわかるでしょ??」


「分かっていますよ。月までの距離が約38万キロあることくらい」

「それなら何で??」


 木に登っただけで、月に手が届くわけがないことなど分かっているのになぜ木登りをしたの??


「自分の足で木に登って確認をしたかったんです。『高く登ろうと思うのなら、自分の脚を使うことだ』っていうじゃないですか」


「ニーチェの言葉ね」

 どうやら、ニーチェを知っている時点でトッシー先輩みたいにアホの子ではなさそうだ。

 でも、18歳で月を手で掴みたいなんて変わった子。


「加奈さん、ニーチェ知っているんですか??」

「一般教養よ」


「すごいですね」


「そんなことないわ。あ、そこの道、右ね」

「もしかして、お家って、ここですか??」


 理論君は、大声をあげる。


 それはそうか。

 まさか、助けてもらった恩人が立派なマンションに住んでいるとは思わなかっただろう。

 社宅だけど。


「そうらよ」

「ここって、嶺敷商社の社宅じゃないですか??」


 へー、知っていたんだ。


「そうらよ、すごいでしょ」

「すごいというか、都合がよいというか」


「都合がよい?? どういうこと??」

「いいえ、こっちの話です。気にしないでください。ところで、このマンションにはコンシェルジュはいるんですか??」


「もちろん、いるわ。腕利きで剣道3段、空手4段、柔道2段で元警察官のコンシェルジュが」


 もちろん、ウソだ。

 本当はコンシェルジュなんて一人もいない。


 でも、理論君が怪しいから、コンシェルジュはいるということにしておこう。

 うまくウソを信じてくれるといいんだけど……


「そうなんですね。それなら安心ですね」

「そうね。コンシェルジュがいるから、誰も犯罪をしようなどと思わないわ」


「そうですよね。防犯カメラも多そうですしね」

「そうよ。防犯カメラも何台もあるわ」


「そうですよね」


 理論君は着ていたフードを目深にかぶった。


 もしかして、顔を隠しているのか??

 もしも顔を隠しているのだとしたら、何か企んでいるということ??


 あ、分かったぞ。

 やはり高級マンションを狙って、居直り強盗でもする気なのだな。


「このマンションはね、警備がすごくて、防犯カメラも何台もあるから、不審者が入ってきたらすぐにバレちゃうんだよ。ほら、オートロックの自動ドアの上にもカメラがあるでしょ」


 こうなったら、セキュリティが万全なことをもう一度伝えて、居直り強盗なんかさせないようにしてやる。


「セキュリティも万全の社宅に住んでいるお姉さんも超一流です」

 こんなところでも相手を気持ちよくさせようとするとは、コミュ力半端ないね、理論君は。


「そんなことないよ」

「ところで、オートロックの番号、何番なんですか??」


「わざわざ番号を押さなくても、私の顔をオートで認証してくれるから自動ドアの前に立てば、ドアは開くわよ」

「顔認証できるんですね」


 私をおぶった理論君がドアの前に立つと、自動でドアが開いた。


「それでは中に入りますね」


 理論君は、スタスタと中に入っていく。


「顔を隠して自動ドアを入っても、警報はならないか……それならば、願ったりかなったりだな」

 理論君は私に聞こえるか聞こえないかの声でつぶやく。


「願ったりかなったり?? どういうこと??」


「こっちの話です」


 また『こっちの話』??

 どういうことだ??


「お姉さんは何階に住んでいるんですか??」


 アルコールに侵された痛い頭で考えようとした瞬間に話しかけてくる理論君。


「3階だけど」

「分かりました」


 理論君はエレベーターホールまでスタスタと歩き、上のボタンを押すと、無言でうつむきながらエレベーターを待ち始めた。

まとめ

理論君は月を手に掴もうとして木から落ちた。

加奈は理論君におんぶされて、社宅まで来る。

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