第29話 お酒
29話は少ししか進みません。
加奈がビールを頼むお話です。
会話でダメなら、お酒を飲ませて強制的に理論さんと心を打ちとけるしかない。
「あ、そうだ。お酒は飲みますか??」
「僕、お酒は飲めないんで」
なんてこった、私と同じく、下戸なのか……なんてがっかりしないもんね。
逆だよ、逆。
下戸ならばラッキーだ。
少しばかりお酒を飲ませれば、酔いが回ってダウン。
ダウンしたところで、すぐにお会計を済ませて、店を出れば逃げられる。
たとえ、途中で目を覚ましても、素面の私には追いつけまい。
こちとら、体力だけには自信があるからな。
もし仮に、理論さんに体力もスピードもあって、追いつかれたとしても、途中でタクシーを拾えばいいのだ。
さすがに自動車には追いつけないだろう。
そうと決まれば、強引にお酒を注文してしまおう。
「そうなんですね、私も下戸なんですよ。香りをかぐだけで、酔ってしまいます。でも、一口だけ口につけるくらいは飲めますよね?? すみません、生ビール一つください」
私は早口でまくしたてる。
そう、私も下戸なのをアピールしつつ、お酒を無理やりに注文してしまえば、こちらのもの。
お酒を出されれば、社会人として一口は口につけるはず。
「はい、よろこんで!! 12番テーブル様、生ビール一つ」
私の注文に居酒屋の店員ははっきりと返事をしてくれた。
「ですが、あの……」
「まさかとは思うけど、せっかく私が頼んだビールが飲めないなんて言わないわよね??」
少しだけ昭和風に威圧的に攻めてみる。
「困ったな……」
威圧的に攻めたせいか、後頭部をポリポリとかきながら、眉をひそめ困惑する理論さん。
大丈夫、飲めなくても、私のコールで飲ませてあげるから。
「はい、生ビール一つです」
店員さんが机の上に冷え冷えの大ジョッキを置く。
来たーーーーーーー!!
生ビールがーーー、12番テーブルにーーー、来たーーーー!!
歓喜の雄たけびを上げたいのを必死にこらえる私。
これさえくれば、勝利は私の物。
「あ、ビールは彼に……」
向かいに座る男性に右手をエレガントに差し出した。
「あの、僕、20歳になっていないんで、NGです」
彼は手でバッテンのポーズをとる。
なん……だと……
私の目の先には『未成年に飲酒させるのは犯罪です』と標語が書かれているポスター。
しまった、年齢確認を失念していた。
基本、会社で飲み会をセッティングするときは20歳以上が前提だもんな……
この子、20歳未満だったのか……
『これはどういうことですか??』と私を怪訝そうな顔で見てくる女店員。
その視線で、私の体は一瞬で石になった。
まずい、まずい、まずい。
固まっている場合じゃない。
何もしなくても、時間は流れるものなのだ。
きちんと現実と向き合って、なんとか対処しないと。
えっと、まずは今の状況の整理だ。
私は23歳で、20歳を超えている。
そして、目の前の男性は大人っぽく見えるけど、20歳に達していない。
23歳の私が20歳未満の男性に酒を勧めたとなれば大問題だ!!
もしも警察沙汰になれば、明日のニュースは20歳未満の男性に酒を勧めた女性会社員が逮捕……なんてことにもなりかねない。
『あの金子って社員、本社に来て2日目で、問題を起こしたらしい』
『会社の名前を汚すなんてありえない』
『本社へは若い男をひっかけるために来たのか??』
『もしそうなら、最低最悪の悪女ね』
色々な憶測が飛び交い、会社では働けなくなってしまうだろう。
地方の上司から『決してでしゃばるな』と釘をさされていたのに。
冷や汗だらだら、心臓バクバク。
さて、私が次にすべき行動はなんだ??
起死回生の一言を考えろ!!
「……ビールは彼には絶対にあげないでくださいね。彼はまだ、20歳になっていないので」
「それならこのビールは……」
「もちろん、私が飲むんですよ!!」
早口でそう告げて、彼に差し出していた手で女店員さんからジョッキを奪い取った。
「ほかにご注文はありますでしょうか??」
「あなたは何か飲む??」
「ウーロン茶があるので大丈夫です」
「特にないです。また、何かありましたら呼びますので」
「承知しました」
女性店員さんは厨房へと消えて行った。
うまくごまかせただろうか??
少しだけ私に不信感を抱きながら……いや、実際に不信に思っているかどうかなんて、見ただけでは分からないけれども。
「本当は僕にビールを飲ませるつもりだったんですよね??」
そう問い正されて、私はドキッっと肩を上げてしまった。
ここで『そうです』……なんて頷こうものなら、明日の今頃には、私は刑務所にいるだろう。
「そんなわけないじゃない」
全力でウソをつく私に不審な目を向けてくる理論。
20歳未満に酒を勧めて、私、捕まりたくないの。
察してよ。
「信じてよ、理論君!!」
私はとっさに理論さんから呼び方を理論君に変えてしまっていた。
「『理論君』だって?? 今、『理論君』って呼びましたか??」
私に確認をしてくる理論君。
「ええ、確かに呼んだわね」
「『理論君』って、今は令和ですよ?? 母親にも君づけで呼ばれたことないのに……」
どうやら、君付けで呼ばれたことに大分ショックを受けているようだ。
たしかに、今現在、呼び名は『さん付け』が主流だからな。
普通に呼ぶなら『理論さん』だろう。
だがしかし、ここはあえて君付けをさせてもらうよ、理論君。
高校の時のトッシー先輩のあだなだったから、こちらは呼び慣れているし、うまくいけば、話題を酒のことから、呼び方の話題に変えられるからね。
「『君』づけで何故悪いの?? 理論君」
「二度も君付けした!! どうして僕を『君』づけで呼びんですか??」
「それはあなたが20歳未満の坊やだからよ!!」
ぴしっと理論君に指をさして説明する。
「坊やじゃないです! 18歳で法律上は成人です!!」
「認めたくないものだわ!! 18歳ゆえの成人というのは!! お酒が飲めないくせに」
まとめ
理論君は未成年。




