第24話 白米
24話 話は少ししか進みません。
加奈に助けられた男性が白米を食べるお話です。
「助けていただいて、ありがとうございます!!」
男性は軽いノリで私に頭を下げてくる。
その軽いノリがトッシー先輩そのものだった。
うう、まるでトッシー先輩を助けているみたいだ。
このまま見捨てようか??
だがしかし、捨て犬を拾ったら、最後まで面倒を見る責任が生じる。
人間を拾ってしまったならなおさらだ。
夕食だけはこの男の面倒を最後まで見てあげなくては。
「本格的に助けるのはこれからです。はい、メニュー」
私は素っ気なく、タッチパネルの隣に置いてあるラミネート加工されたお品書きを差し出した。
だが、男性はお品書きさえ見ようとしない。
あれ??
ポテトサラダを割り箸で器用につまんで食べたんだから、目は見えているよね??
それなのに、男性はどうしてお品書きを読まないのだろうか??
「間違っていたらごめんなさい。もしかして、字が読めないんですか??」
すぐさま、秘書で培った記憶を呼び覚ます。
典型的な日本人の顔だが、帰国子女の場合、日本語をマスターしていない可能性もある。
あるいは、読字障害や失読症なんていうのも考えられるな。
「いえ、字は読めます。ですが……」
もじもじとして言いたいことを飲み込む男性。
「何か気がかりなことでもありますか??」
「えっと、その、あなたのお財布具合が分かりませんので、何を注文していいか迷っちゃって」
頭をぽりぽりと搔きながら、うつむく男性。
なるほど、字は読めるが、私の懐事情を考えて、遠慮していたというわけか。
「好きなものをどうぞ。カードも現金も電子マネーだってもっていますから」
ご飯を食べると豚になってしまう異世界でもなければ、決済には困らないはずだ。
「ありがとうございます!!」
またも軽いノリで私に頭を下げてくる男性。
はぁ、このノリ、トッシー先輩を思い出されるから本当に嫌。
「分かったら好きなもの注文していいから」
「それなら、お姉さんと同じものを注文したいので、お姉さんが食べたいものを教えていただけないですか??」
判断を私にゆだねてくる男性。
ただ単にお腹がすきすぎていて、思考を放棄しているのか、それとも私の食べたいものと同じものを食べて、心の懐に入ろうとしている計算なのか。
「承知しました。ちなみにですが、アレルギーや苦手な食べ物はありますか??」
警戒心を解かずに、秘書として会食をセッティングするときに最初に必ず尋ねる質問で応答した。
「特にないです」
ニッコリとしながらこたえる男性。
まるで、おなかなど空いていないかのように、満面の笑みで返してくる男性。
すごいな。
お腹が空いている状況であれば、イライラしてもおかしくないのに。
「分かりました。すみません、お勧めメニューのからあげ1つとご飯並盛を2つと春野菜のシーザーサラダを1つ注文しますね」
特にないと聞いた瞬間、タッチパネルですぐに注文を済ませる。
「判断がはやい!!」
私の注文の速さに驚く男性。
いやいや、秘書の私にとって、こんなの当たり前だよ。
瞬時に判断して注文しなければ、上司や接待相手に無駄な時間をとらせてしまうではないか。
だからといって『私、秘書をしているので』などとべらべら個人情報を伝えるわけにもいかない。
「ははは、判断が速いのは昔からなんです」……と笑って見せた。
さて、注文は済んだわけだが、すぐに注文して、すぐに料理がでてくるわけがない。
男性と何を話そうか。
私好みの顔とはいえ、行き倒れの人と仲良くはなりたくないし、かといって、何も話さず沈黙を貫き通すほどの精神力は持ち合わせてはいない。
よし、ここは私のコミュニケーション能力を発揮させてあげようではないか!!
ノープランで話しかけようとしたその時である。
「お先にご飯並盛2つ、お待たせしました」
先にご飯が来てしまった。
おかずがないのに。
お腹がすいて動けなくなったと説明したので、女性店員が気を利かせてくれたのかもしれないな。
「「ありがとうございます」」
私と男性の声が重なる。
男性の方を見ると、男性も女性店員さんから私の方へ目線を向けたので、目が合ってしまった。
なんとなく微笑みを作ってみると、男性も同じように微笑んだ。
本当にこの男性は懐に入るのが上手だと感心してしまう。
「良かったら、冷めないうちに食べてください」
男性にご飯を食べることを勧める。
だがしかし、男性は食べようとしない。
「あ、もしかして、まだ腕に力が入りませんか??」
さきほどポテトサラダを食べたばかりなのだ。
腕に力が入らなくても不思議じゃない。
また食べさせなくてはいけないのかもしれない。
「力は入るようになったのですが……」
そう言いながら、箸で白米を掴み、眉間にしわを寄せて困った顔をする男性。
箸で掴めるなら口にもっていけばいいだけだ。
何で困っているのだろう??
じっと見て気づく。
「もしかして、おかずがないと白米を食べられないとか??」
「いいえ、白米だけでも食べられます」
「それなら、どうして??」
「さすがに、おごってくれる人が一口も食べていないのに、僕が先に食べるわけにはいかないじゃないですか」
「気にしなくていいわ。おなかが減って倒れてしまっては、助けたかいがないじゃない」
「ですが、先に食べるわけには」
気にしなくていいと伝えても、なおも困り顔をする男性。
「私、昼食が遅かったから、まだあまりおなかがすいてないの。だから遠慮せずに食べて」
「それじゃあ、遠慮なく、いただきます!!」
私の心配をよそによほどお腹がすいていたのか、それともノリが軽いからなのか、男性は割り箸でご飯を少しだけ取ると、ゆっくり咀嚼し始めた。
まとめ
男性は初対面の加奈に対して、どのように接すればよいか探り探りしている。




