第22話 空腹な男
21話 話は少しだけ進みます。
加奈が人命救助をしようとするお話(その2)です。
「すみません、私、今、食べ物持っていないんです」
「そう……なんですね」
男性はおなかを押さえながら、しょんぼりとした顔をした瞬間、おなかがグーとなる。
そのまま立ち去ろうかとも思ったが、いたたまれなくなった私は、何かできることはないかと辺りを見回した。
誰か食べ物を持っている人がいればよいのだが……
周りをもう一度見回すが、やはり人っ子一人いなかった。
そうだよね、桜が散って、花見の季節でもないしね。
近くにコンビニでもあれば、即座に買いに行って、おにぎりをあげられるのだが、あいにく、この近くにコンビニもスーパーマーケットもない。
それならば、他に何か良い方法はないか??
近くの知らない人の家に行って、『すみません、食べ物をいただいていいですか??』と尋ねるか??
『突撃、近くの晩御飯!!』 あるいは、『すみませんが、晩御飯いただけませんか??』的なテレビ番組をまねて。
いや、有名人でもない私が、そんなことしたら不審者だよね。
最悪、通報されるかもしれない。
秘書である私が不審な行動をして、会社に泥を塗るわけにはいかない。
この案は却下。
それなら、少し歩くが私のマンションまで運ぶか??
冷蔵庫には『ジャガイモ』と冷凍している『鮭』があったはずだ。
じゃがバターと鮭のソテー程度ならば、すぐにできる。
問題はこの見ず知らずの若い男性を家に上げられるかどうかだ。
私は倒れている男性を観察する。
ショートカットに、ひげはなく清潔感のある顔立ち。
ワイシャツにスラックス風パンツの身なりからして、ホームレスでもなさそうだし……
財布をひったくられたとか、あるいは、電子マネー決済だけど、スマホの充電が切れたせいでお金がなくておなかがすいて動けないとかの類だろう。
いや、待て待て。
詐欺師であれば清潔感を大切にしていると聞いたことがある。
見た目だけで判断をするのは危険だ。
それに近くとはいえ私の家まで運ぼうにも、距離がある。
この男、結構身長があるから、担いで私の家までは連れていけそうにないだろう。
この案も却下だ。
他に何か方法はないか??
本当におなかがすいているだけならば、救急車を呼ぶのは大げさすぎる気がする。
そもそも、おなかが空いているだけで救急車を呼ぶというのはいかがなものなのだろうか??
いや、でも、呼んだほうがいいのか??
判断がつかない。
こういう時は、♯7119に電話だ!!
♯7119ならば、専門家が適切な判断を下してくれるって聞いたことがあるぞ。
よし、それならば、さっそくスマホで連絡を……って、ちょっと待て待て。
なんと説明するんだ??
事実だけを説明するならば、『空から人が降ってきて、拾ってくださいとかかれた段ボールに入った男性が、おなかすいたと訴えているのですが、救急車を呼ぶべきですか??』
……って、ありのまま起こったことを伝えるのが良いということは分かっている。
だがしかし、こんな電話かけたら、私の方がどこか頭を打っていないか疑われてしまうだろう。
この案も却下したほうが良さそうだ。
何か、良い案はないのか……あ、そうだ。
『居酒屋・虹』だ。
『居酒屋・虹』へ直行すればいいのだ。
それなら、この公園の近くにあるから、わざわざ私の家にあげなくてもいい。
それに、夕食をおごるくらいのお金は持っているし。
「近くに居酒屋・虹というお店があるんだけど、そこでご飯にしませんか??」
「おなかは空いているのですが、残念ながら僕、お金を持っていないんですよ」
今にも死にそうな声を出してくる男性。
「私がおごるので大丈夫です」
「まじっすか?? ごちになります!! きれいなお姉さん!!」
さっきとは打って変わって、男性は、はきはきとした口調で元気よくお世辞まで使ってきた。
先ほどの死にそうな声はどこにいったのだ。
もしかしたら最初から、ご飯をタダでたかろうとしていたんじゃないか??
そうだとしたら、最低だな、この男。
滅茶苦茶印象が悪いんですけど。
「立てる??」
「もちろん」
やはり、ご飯をタダでおごってもらおうとしているんだな……と確信した瞬間、男性が立ち上がった瞬間、ふらふらとよろけ始めた。
「すみません、おなかがすきすぎて、うまく立てないみたいです」
「居酒屋まで歩けそうですか??」
「歩けるかどうかは、居酒屋までの距離がどれくらいかによりますね」
きちんと距離を訊いてくるところをみると、頭が悪いわけではないらしい。
世の中には距離を訊かずに、『大丈夫』とこたええる人もいるからな。
「この公園を出て、130メートルほどだと思います」
スマホの地図案内がそういってくれているから、きっとそうなのだろう。
「肩を貸してくれればなんとか大丈夫かと思います」
「それなら行きましょう!!」
肩を貸そうとして、男性が大柄なことに気が付いた。
身長180cmはあるだろう。
私は肩を貸そうとするのだが、身長差があり、うまくいかない。
仕方がないので、男性の右腕にしがみつき、無理やり腕をあげる。
思っていたほど力は必要ではなかった。
この調子なら、すぐに居酒屋へ行けそうだ。
スマホ片手に、まるで腕に抱き着くカップルのように居酒屋へと向かった。
まとめ
加奈が拾った男性を『居酒屋・虹』へ運びます。




