第17話 ピンチは次から次へとやってくる
17話 話はまったく進みません。
トッシー先輩と加奈が今後どうするべきかを話し合うだけのお話です。
「ちょっと待てよ!!」
今度はトッシー先輩が私の肩をつかんできた。
これがドラマのワンシーンなら格好いいのかもしれないが、強引なトッシー先輩に追われてもまったくキュンとこない。
「私、聞こえません。ああ、はやく仕事しないと」
これ以上関わるのは危険だから、関わりたくないんだよ。
強引にその場から立ち去ろうとする。
「待てって言ってんだろ!!」
壁ドンされてしまう。
「いや、その、まだ仕事があるので戻らないと……」
言い訳しながらトッシー先輩から逃げようとする私。
「俺の目を見ろ!!」
壁ドンしていない左手で強引に私のあごをくいっと持ち上げながら命令してきた。
先輩と目が合う。
その瞬間、心臓がバクバクと脈打つ。
「いいか、俺に協力するんだ!! 分かったら『はい』か『イエス』でこたえろ!!」
最低だ、この男。
力ずくで従わせようとしている最低な先輩に、一瞬だけときめいてしまった私も最低だ。
「イ……」
「よし、いいぞ、イエスと言え!!」
「イ……イヤです!! 私は先輩に協力しません!!」
絶対に暴力に屈するわけにはいかないのだよ。
「こうなったら奥の手だ!!」
私を握るトッシー先輩の手がもっと強くなる。
まだ抵抗する気か??
「すみませんでした、金子加奈様!! 是非とも協力してください!!」
ジャンピング土下座したあと、ピカピカにキレイになるのではないかと思うくらい頭を床にこすりつけるトッシー先輩。
出た出た、この男。
普段はドSだけど、目的のためならキャラ崩壊も手段もえらばない。
威圧でダメなら、土下座で私を味方につけるつもりだろう。
「ちょっと、やめてください、困ります!!」
私がトッシー先輩を今度こそ見捨てて秘書課へ帰ろうとする。
「待ってください、金子様」
トッシー先輩は土下座の体勢で、私の足首をつかみ、必死に離すまいとしがみつく。
これじゃあ、私が土下座している先輩の頭を靴で踏みつけているみたいじゃないか。
こんな場面を誰かに見られたら、間違いなく誤解される。
「大きな音がしたみたいだけど、金子さん、大丈夫??」
秘書課のドアから小山さんが顔を出してきた。
そして私とトッシー先輩の状況を見て一瞬だけ固まり、パタリとドアが閉められて、小山さんは秘書課へと戻ってしまった。
「これは誤解なんです、小山さん!!」
「判断が遅い、遅すぎる!! 防音ドアが閉まってから叫んでも無駄というものだぜ!!」
「防音ドア?? それなら、なぜ、廊下の音が秘書課まで届いたんですか?? 防音ドアなら届きませんよね」
「あ!」
本当にしょうもないウソをつくな、この男は。
おバカでドSだから仕方ないと言えば仕方ないのだが。
「だがしかし、間違いなく小山秘書課長は金子が部長の俺を踏みつけたと勘違いしたぜ!!」
確かにその通りだ。
小山課長からしてみれば、私が怒りに任せて、よくも私に若赤グループのイチゴ大福を食べさせてくれたな、オラオラオラ……と先輩を踏みつけているようにしか見えなかったはずだ。
「きちんとことの経緯を説明すれば、納得してくれるはずです」
冷たい対応をする私。
こうなったら、何がなんでも逃げきってやる。
「『毎日食べたいくらいおいしい』と秘書課全員の前で感想を述べていたのに、納得してくれるわけがない」
「言いましたっけ、そんなこと。記憶にないからお医者に行かないと」
ここは、とぼけて逃げ切るのが吉。
「23歳はならないんだろう、病気には」
ぐっ、見事なブーメラン。
「そうですね」
「それなら、『毎日食べたいくらいおいしい』と言ったと潔く認めろよ」
「認めたくないです」
「『認めたくない』って……おいおい、お前の意見は聞いていないんだよ。俺が訊きたいのは、『毎日食べたいくらいおいしい』と言ったか言ってないか真実が知りたいんだ」
ドS先輩の本領発揮だ。
「くっ」
私は言葉に詰まる。
「まあ、お前がどう取り繕おうと、秘書課の中で他社の……いや、ライバル会社のイチゴ大福を毎日食べたいと感想を言った事実は変わらないぜ。おとなしく、俺に味方しな」
ぽんと私の肩に手を置き、舌をべろっと出しながら、サムズアップするトッシー先輩。
「分かりました。それで、私にどうしろというんですか??」
味方になれというからには何かをさせるつもりだ。
「何、簡単さ。この今の危機的状況を何とかする案を出しさえしてくれればいいんだよ」
「私に丸投げじゃないですか!!」
どこが簡単なんだよ??
「その通り。『金子におまかせ』ってな。俺を助けられるのは、お前しかいないんだから」
一般的には自分を助けられるのは自分だけなんだけどね。
本当に人任せだな、トッシー先輩は。
「分かりました。私にできる限りのことはしてみましょう」
「ありがとう、金子!!」
「ですが、期待はしないでください」
「分かっているって。それで俺は何をすればいい??」
媚びへつらいながらうなずくトッシー先輩。
私は最低限のお手伝いしかしないつもりだけど、本当に分かっているのだろうか??
まあ、いいか。
秘書課の人たちには、最悪、『ライバル会社のイチゴ大福だとは知らなかったんだ』……で正直に言えば納得してくれるだろうし。
「まずは現状確認です。誰に勧めたんですか??」
「それを聞いてどうするんだ??」
「勧めた人によっては口封じできるかもしれません」
「そうか、口封じか……そうだよな……さすがだ、金子!!」
感心するトッシー先輩。
「感心するのは後で良いですから、今はメンバーを教えてください」
「えっと、秘書課のみなさんと……」
お、秘書課のみんなだけなら、トッシー先輩の肩書を使えば、まだ口封じできる可能性は高いぞ。
「人事課の課長と、庶務課の部長と……」
人事課の課長と庶務課の部長の2人なら、何か袖の下を渡せば、まだなんとかいけるか??
「あとは、専務と……」
専務なら、ギリギリセーフか??
「あとは、副社長と、社長と会長……くらいかな」
ちょうど、エレベーターの『チーン』という音がフロア内に鳴り響いた。
「ご愁傷様です、トッシー先輩!! 会社をクビになっても元気でいてください」
合掌のポーズをとってから、回れ右をして全力疾走で秘書課の方へ逃げる。
「なんとかしてくれ!! できる限りのことはしてくれるんだろう??」
私の肩をがっしりと掴んで放そうとしないトッシー先輩。
「無理なものは無理だからしょうがないです」
宴会部長の肩書で、どうやって専務と、副社長と、社長と会長を買収するんだよ!?
まとめ
加奈、トッシー先輩を助けようとする。
加奈、和菓子をあげたメンバーを聞いて、トッシー先輩を助けられないと諦める。




