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トルバドーれ! ライナーノーツ  作者: 袴田八峰


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13.塗れ鼠のブルーズ

■13.塗れ鼠のブルーズ■


 【リリース】:第十四幕三席


 【作詞】:ポメロ(協力:エレクトラ)


 【作曲】:ポメロ(協力:エレクトラ)


 【V.】:エレクトラ


 【源泉】:ブルーズの水たまり


 【内容】:

 

  非常にブルージーなシャンソン。


  高級クラブ『ノフラージェ』に所属するディーバ・エレクトラが、

  受動的にクラブが提示する楽曲を受け入れていた彼女には珍しく

  いずこからか持ち寄り、自薦した唯一の楽曲となります。

  

  本邦の言語によって綴られたそれは、

  自分の力ではどうにもならない巨大な障害に直面し、

  人生で初めて「諦念」を抱いた瞬間が、

  恐ろしいほどの解像度で切り取られたものです。


  スコアはボーカルとギター一本というトルバドールスタイルの

  楽曲構成でしたが、そんなチープな構成では高級クラブとして

  お客様にお出しできる水準ではないと判断され、

  一時はアップライトピアノ、アコーディオン、コントラバスによる

  シャンソンの定番編曲などを試みたのですが、

  こと、エレクトラの歌唱を軸に表現を俯瞰した場合、

  そうした曲の重層化は却って歌唱表現力を霞ませることがわかり、

  結局、原曲どおりのギター一本構成に立ち戻ったという

  エピソードがあります。


  また、創作手法にスコープを移せば。

  これまで内なる「熱情」を看破することによって

  楽曲に昇華してきたポメロにとって、

  初めて己の内側に降り積もった「しかたないの雫」を溜め込んだ

  「ブルーズの水たまり」から発生した楽曲となります。

  

  ポメロがこの水たまりを受け入れ、背負い、

  それでも生きていくという決意が、

  彼を無垢な少年から現実を知る大人へと脱皮させたのです。  

  



 チーママ:

  あたしゃこれでも「人を見る目」で以てノフラージュの現場を

  任されてたんだけどね。

  あの晩の暗い瞳の濡れ鼠みたいなポメロ君が、

  こんな魂の結晶を磨き上げるだなんて思いもよらなかったよ。

  成程、あの冷血なエレクトラが妙な執着を見せる子だけのことはあるね。


  詠われるのは「溺死する恐怖」ではなく、

  「あ、もう駄目だ」と脳がすべてを理解し、抵抗をやめた一瞬の静寂。

  こんなの15かそこらの子供が至れるような境地かい!?

  あんたただの山出しの正直な元気っ子じゃなかったのかい!?


  あたしの人を見る目がいかに曇ってたか、思い知らされたよ。



 ノフラージェ付きピアニスト:

  ……屈辱だね。

  私の演奏がお子様の演奏するギター一本よりも

  歌姫の絶唱を引き出せないなんて。



 深海の歌姫ファン:

  歌詞としては浅いはずなんだ。

  深海に棲むエレクトラさんには似合わない曲なんだ。

  『水面で足を攣った瞬間』だなんて。

  彼女はそんな地点はとっくに通過積みで、

  今は深く深く沈んでるのに。

  でも…… 心に癒えない傷を持つ誰もが

  この恐怖感と絶望を感じた瞬間が確かに在って……



 ノフラージェオーナー:

  ふむん。

  この曲は「絶望の歌」などではありませんね。

  「完璧な諦念がもたらす、至高の平穏」を描いた名曲です。

  泥の中に咲いたブルーズの青い炎と、

  夜のカーネギーの石畳に消えるシャンソンの影が、

  エレクトラのハスキーボイスという媒介を経て、

  一つの完璧な芸術へと昇華されています。



 迷惑な常連客:

  ワシはこの歌を聞いて決めたんぢゃ。

  エレクトラちゃんはワシが庇護するとな。

  どれほどゼニを使うことになろうとも。

  ぢゃって儂の心の虚ろに響く歌は、

  エレクトラちゃんにしか歌えんのぢゃから!

  


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