炸裂する策と力で逆転!これで終わりかと思ったら!?
「魔王!?何故だ貴様…!さっきまであそこに居たはずだろう!?」
背後を振り向き、グレーゴルは信じられないといった表情で玉座に座るコリンを見下ろしていた。
確かに風の刃で切り裂かれ、倒れたはずだ。
それなのに何故全くの無傷なのか、頭の理解が追いつかない。
「ああ、あれ?魔法で作った僕そっくりの人形だよ。結構よく出来てたでしょ?」
腰掛けて足を組むコリン、悪戯に成功した少年の笑みを見せている。
「馬鹿な!何時だ!?そんな人形と貴様が何時入れ替わり…!?」
納得の行かないグレーゴルが声を荒げる中、心当たりがあったのか彼の言葉が止まった。
「あの雷の矢を撃った時か!?」
「正解〜」
コリンは笑顔で言い当てた魔族に明るく伝える。
ボルトアローを放ってグレーゴルの意識はそちらに向く、間に人形を魔法で創り出して偽物と入れ替わったのだ。
「人形って血とかあんな出てたし、めっちゃ本物の人みたいだったよー!?」
「そこはゴメンー。部屋全体にそう見える幻惑かけといたからグレーゴルだけじゃなくアリナや部屋に居る皆にもかかっちゃったんだよね♪」
人形と同時に幻惑の魔法もかけて、短時間で複数の魔法をコリンは使っていた。
アリナやカリーノもコリンが倒れた時、本気で驚いていたので、それもあってグレーゴルも騙されたのだろう。
敵だけでなく味方まで欺いた結果だ。
「それがどうしたと言うんだ!結局貴様は俺の風魔法に太刀打ちできず逃げ回っただけじゃないか!」
コリンがやったのはグレーゴルの攻撃から逃れた事だけ、自分には一撃も加えていない。
「今度こそくたばるがいい魔王!」
再びグレーゴルは風の刃を作り出す、先程よりも巨大な刃だ。
「君って自分が優勢の時隙だらけだよね」
「何…!?」
最大の攻撃を前にしてもコリンの笑みは崩れず、慌てる様子は微塵も無い。
その時だった。
「ぐぅお!?」
突然グレーゴルが苦しみ始め、胸を押さえて両膝をつく。
「今度は何ー!?何が起きてんのあの魔族にー!?」
依然として吹き荒れる風、吹き飛ばさないように踏ん張るアリナは目の前で苦しむグレーゴルに、どういう事だと驚いていた。
「本当高笑いしてて隙だらけだったからさ、足元の魔法陣にも気付けなかったね?」
「足…もとぉ!?」
苦しみながらグレーゴルの視線が下へ向く、そこには先程まで無かった丸い輪が青白く光って、それを囲む中心部分に星の形が描かれ同じように照らされていた。
グレーゴルは青白く輝く魔法陣の中心部分に今居る。
「何だ…これ…はぁ…!?」
「それ?魔封陣って言って魔族の力を奪い取る対魔族用の物…らしいよ」
相手の藻掻き苦しみつつも出た問いにコリンが答えていた。
なんとか立ち上がりグレーゴルは足元の魔風陣から逃れようと、足を動かすが床に足が貼り付いてるかのように、動かす事が出来ない。
今の肉体に乗り移って、器にしているアマンダ自体に傷はつけていない、魔封陣の力は彼女の中に巣食うグレーゴルへ直接流れ込み、胸が締め付けられるように苦しいかと思えば、身体中を痺れるような激しい痛みが襲っていた。
「があぁぁぁ!!」
アマンダの肉体を借りるグレーゴルが苦痛に叫び、身体を動かせなくて逃れられない地獄からどうにか逃れようと、グレーゴルは肉体から抜け出して魔法陣の外へ飛び出し本来の姿を見せる。
アマンダはそのまま崩れ落ちるように倒れ、グレーゴルの身体の苦しみは静まった。
やっと苦しみから解放されたと思えば、暴風が収まった事で動ける者が居る。
「逆転の右ストレートぉぉーー!!」
アリナが姿を現したグレーゴルに真っ直ぐ突進して向かい、猛スピードに乗ったまま握られた右拳を思いきり突き出す。
「ぶがぁ!」
左頬を抉る勢いでアリナの鉄拳が炸裂、グレーゴルの身体は吹っ飛ばされて、勢いよく壁に背中から激突した。
壁の一部が崩れ落ちながら、グレーゴルは倒れて動かなくなる。
「っし!一発ぶちかましてスッキリしたぁ〜♪」
殴った右拳を握り締めてアリナが軽くガッツポーズ。
「やあ、凄い一撃だったねー」
「コリン君!何処も怪我とかしてない!?」
玉座から立ち上がり、コリンが駆け寄って来たのを見てアリナは彼の身を心配する。
「してないよ、全然ノーダメージだもん」
その場で軽やかに体を一回転して見せ、怪我していない事をアピール。
風の刃を受けたのは人形であって、コリンには当たっていないので当然だ。
「女王様はー…うん、心臓は動いてるから気絶してるだけだね」
グレーゴルに好き勝手操られてしまったアマンダ、倒れている女王をアリナは心臓の音を聞けば、生きている事が確認された。
「カリーノー、この人の事を頼めるー?」
「簡単な回復魔法は使えるから任せて…!」
アマンダを看る役目をコリンがカリーノを呼ぶと、彼は役目を引き受ける。
倒れている女王へ触れるギリギリまで両腕をカリーノが近づけ、そこから優しく温かな光が発せられた。
カリーノによる回復の魔法だ。
「さぁて、こいつはどうするかな?」
「ぐ…ぐ…」
コリンの肩に飛び乗り、マルシャは壁に叩きつけられたグレーゴルを見下ろす。
アリナの強烈な一撃を受けて意識を失わず、体を起こして立ち上がろうとしていた。
普通の人間なら、そんな力は残っていない所だが流石は魔族と言った所か。
「勿論バリボリ食べる子でお馴染みの悪魔君に食べてもらうっきゃないよね?悪ーい顔してるし、というか戦仕掛けた張本人だしさ」
「うん、そうだね」
コリンと共にグレーゴルの側まで行って、倒れている彼を見ればアリナはまた悪い事をする前にデーモンイーターが食べるのはどうだと提案。
勇者だけでなく魔王も同じ事を考えていた。
「とりあえず悪い事をまたやりそうだし食べさせようかな。デーモンイーター…」
グレーゴルをこのまま放置したら、彼の欲望でまた今回のような事が起こるかもしれない。
ならやる事は一つ、何時も通り悪い心を残らず食べ尽くしてもらう。
コリンは杖を地面についてデーモンイーターを呼ぼうとしていた。
「そこまでにしてもらえるかな?」
「!」
何者かの声が聞こえ、コリンとアリナは咄嗟に後ろへと飛んでグレーゴルから離れる。
その彼の前に光が上から舞い降りたかと思えば、人が姿を現す。
桃色の短髪で癖っ毛があり、白い礼服を纏う身長180cm程の男。
穏やかな笑みが物腰柔らかそうな印象を受け、アリナの世界の言葉を借りればイケメンだ。
グレーゴルと違い肌は色白く人間に思える。
「彼は俺の仲間でね、失ったら困るんだ。連れて帰らせてもらうよ」
「いやいやいや、いきなりそうですかどうぞ〜とはならないから!あんた誰よー!?」
表情に笑みを見せたまま、グレーゴルを連れて帰ると言い出す彼にアリナは誰だよとツッコむように言う。
「彼に勝った褒美で名前ぐらいは教えとこうか、俺はグラン。また何処かで会えるといいね小さな魔族君と人のお嬢さん」
グランと名乗る男は最後まで笑みを崩さず、グレーゴルにそっと右手で触れると、彼と共にその場から姿を消していた。
「コリン、あいつ…」
マルシャはグランを見て何かを言おうとしていたが、コリンは白猫の言おうとしている事は分かっている。
「…何かゾッとしたね、あんなの初めてだったよ…」
初めて感じた寒気。
ただの人間に思えるグランだったが、あの男から得体のしれない何かを感じ取った。
一体あの男は何者なのか、グレーゴルの仲間という事ぐらいしか今は分からない。
ひとまずエノルム王国の侵攻、これを終わらせる方が先だ。
ここまで見ていただきありがとうございます。
アリナ「最後の爽やかイケメンは誰なの〜?めっちゃ謎!」
マルシャ「いや、俺も知らねぇし」
コリン「うーん…まあ此処で考えてもしょうがない、とりあえず目的を果たす所から始めよっか」
アリナ「異世界ファンタジーのつもりがミステリーっぽくなって来た!?密室殺人とか崖まで犯人追い詰めるとか、そんなん始まるのー!?」
マルシャ「あいつに幻惑の魔法でもかけられたか?」
コリン「ううん、通常運転だね」




