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ここはどこですか?  作者: 天笠 螢
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3/5

ここは、異世界だ

 彼女についていって、もう一度、家の中に入ると、彼女は手のひらくらいの大きさのパンを持ってくる。


「これくらいしかありませんが、たべてください!」


 大切そうに胸に抱いていたそれを両手で、渡してくれた。

 彼女は天使の生まれ変わりか、本物の天使なのではないかと、思えてきた。

 パンを食べるまで、不安そうにじっと見つめてくる彼女だが、パンを食べ始めると、自分の事のように、嬉しそうに微笑んでみせる。


「ぐぅうううううううううう…………」


 誰かのいびきのような音が、唐突に、小屋の中に響き渡った。

 音の正体を探す間もなく、彼女の頬が段々と赤く染まっていくのが分かる。

 どうやら、今の音は、彼女のお腹が鳴ったものらしい。


「……食べる?」

「い、いえ! それはもうあなたのものです! それにわたしは、おなかなんてすいてません!」


「ぐぅううううううううううううううううううううううう――――」


「すいてません!!」


 先ほどよりも大きなお腹の音だったのだが、彼女は首を横に振って、否定する。


「でも、すいてても大丈夫なんです。それが、わたしの魔法ですから……」

「魔法魔法って、そんなのあるわけが……ホントにあるの?」


 否定しようとするが、彼女の無垢な眼差しに当てられて、それを貫く気を削がれてしまう。


「わたしの魔法は、人に見せれるような大それたものじゃないので、説明だけしますと、わたしたちは生まれた時から、一つの言葉を持っています。その言葉というのは、同じ場合もあるんですが、基本的にはひとりひとり違います。例えば、『水』という単語を、生まれながらに持っている人がいるとします。その人は、『水』に関係した力を持っていて、それを魔法として使うことができるんです」

「その、君の言葉って言うのは……?」

「わたしのは……あっ、そう言えば、重要なことを忘れてました!」


 彼女は、自らの顔を最大限にまで近づけてくる。

 重要と言うくらいのことなのだから、今置かれている状況についての情報があるのかと思いきや、彼女の口から出たのは、そんな事ではなかった。


「名前です! まだきいてませんでした!」


 確かに彼女の名前を僕は知らない。同じように彼女も僕の名前を知らない。でも、僕は僕の名前を知っているのか?

 今のところ、憶えているのは、今着ている制服を着て、高校に通っていた事だけだ。


「わたしは、リリー・シャーロット・コリンズっていいます! リリーってよんでください! あなたのお名前は?」

「僕の……名前……」


 思い出そうと、片手を頭に当ててみるが、何の刺激にもならない。

 憶えていない訳ではないが、何故か、思い出したくない自分がいる。


「わかりませんか?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど……なんでだろ……?」


 自分でも分からないが、何かが引っかかって外れない。

 知っているはずなのに、それが自分を表しているものだと、認めたくない。


「大丈夫ですよ! わたし、バカにしたりしませんから!」

「馬鹿にされる……?」


 馬鹿にされていた。そうか。確かに、からかわれていたような記憶がある。

 それが原因で、名前が言えない。この世界でも――――。



『リオって……女の子みたいな名前』



「利央(りお)。石綿(いしわた) 利央って言うんだ」

「リオ……わたしと同じで、リがつくんですね! 一緒ですね! リオさん!」


 リリーは笑顔で、その名前を呼んでくれた。

 いつぶりだろうか、自分の名前を呼ばれて、嬉しいと思ったのは。

 多分、“前”の世界では、あり得なかったことだ。


 この世界は、今まで経験してきた世界とは違う。そう思った瞬間に、記憶にかかった何層もの靄が、一層だけ無くなった気がした。すると、自分の名前がすらっと出てきて、得体の知れない場所にいることに対する不安も払拭される。



 ここは、異世界だ。

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