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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【下界と大森林】の章

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32羽:災いを運ぶ一行と

「いや~、ようやく戻って来たな……この大村に」


 《魔獣喰い》ことオレは、頑丈な大村の城門を通り抜け感慨深くそう呟く。


 “聖泉オルセーン”から獣道を歩くこと数日。

 “獅子姫隊”の一行はこの大森林の中心集落である“大村”に無事たどり着いたのだ。


 今回もそれほど長い期間の任務ではなかったが、それでもいろいろあったのでオレは精神的にも疲れていたのかもしれない。


 冒険心あふれる森の旅もいいけど、やっぱり大村が一番に落ち着く。


「何が“冒険心あふれる”じゃ……《魔獣喰い》、さっさと城の《獅子王ちちうえ》に報告に行くぞ」

「あっ、そうか……待ってよ《獅子姫》ちゃんてば…」


 いつの間にか皆は先に進んでいた。

 オレは置いてけぼりをくらわない様に、その後を走って追いかけるのだった。



・・・・・



「ここが森の民の都である“大村オムラー”ですか、“魔獣喰マジウスい”様。“村”というには、あまりにも規模が大き過ぎるような気がしますが……」

「オレたちは“大村おおむら”って呼んでいるけど。なんでも戦士団と村人全員を合わせて一万人くらい住んでいるっていう話だよ、ここは」


 女騎士ちゃんことスザンナは、大村の規模に驚きながらオレに色々と尋ねてくる。


「何と一万人!?……ふん、蛮族の……狩人たちの集落にしては随分と栄えておるな」

「ここ以外の村は小さい集落ばかりだから、ここが異様なのかもしれないね」


 一方で彼女以外のグラニス家の騎士たちは、虚勢を張りながらもまさかの大集落に驚きを隠せないでいる。


 何しろ大自然豊かな森の中に、突如として万の単位の人が住む集村が現れたのだ。

 原始的な暮らしを想像していた彼らは、想像もしていなかったのであろう。オレも最初はこの大村に驚いたし。



「“魔獣喰マジウスい”様、あの遠くに見えている塔は……」

「ん……アレは一本の木だよ。“母樹マザーツリーって言って、この大森林の……この大陸の始原でもある“元始はじまりの樹”って言われているみたいだね」

「な、なに!?アレが一本の樹木だというのか!?信じられん……一番の上の枝先が見えない……天に、空に届くほどの異常なまでの高さではないか……」


 女騎士ちゃんの問いに答えてあげると、これまた他の騎士たちは驚愕の声を上げる。アゴが外れん勢いだ。


 その気持ちはオレも分かる。

 自分も最初にこの大村を訪れた時は、同じように絶句した。


 何しろ“元始はじまりの樹”の高さは数百メートルを超えるのだ。自然界の大木が天までそびえている非現実的な光景は、驚きを越して神秘的でもあったから。


「“魔獣喰マジウスい”様、あれは……」

「ん、あれはさ……」

「な、なんと!?」


 そんな感じて、騎士たちの驚きの声はしばらく収まることはなかった。





(ん?やっぱり……あまり歓迎はされていないみたいなだな……)


 “獅子姫隊”と騎士たちと大村の大通りを進みながら、その異様な視線をオレは感じる。


「まさか下界の者たちか……」

「見ろ、頭髪が黄金こがね色だ……」

「子供たちを家の中に隠せ……」


 普段なら活気に満ちている大通りは、不気味な沈黙に支配されている。

 警戒する視線やひそひそ話。

 更には殺気じみた視線と雰囲気すら感じる。



 何しろ『下界の者と接すると災いがある』と、この部族では皆が幼い頃からみな教わっているのだ。疫病や災厄を連れて歩いてきた感じだろう。


 大族長の愛娘である《獅子姫》ちゃんが先頭を歩いていなければ、もっと大混乱が起こっていたかもしれない。




 そんな異様な雰囲気の中をオレたち一行は進む。


 そして大村を過ぎた所にある、この森で唯一の“城”へたどり着いたのだった。




・・・・・・・





「という訳だ、《獅子王ちちうえ》。この者たちに“霊薬レイシー”を分け与えくれぬか?」


 天然の要塞たる小山の山頂にある“城”の大広間に、《獅子姫》の声が響く。


 この広間には大族長である《獅子王》と主立った戦士団長たちが勢ぞろいしていた。さすがに精鋭ぞろいの彼らは冷静に《獅子姫》の報告を聞いていた。


「精霊大神官よ、どう思うか」

「材料はある。数日あれば大丈夫じゃ」


 王座に鎮座する《獅子王》は急遽呼び出した大神官の老婆に尋ね、その返事に小さく頷く。

 どうやら“霊薬レイシー”は実在し、配合には日数がかかるらしい。


 “霊薬レイシー”がある。


 《獅子姫》の後ろに控えていたグラニスの騎士たちは、その現実に安堵のため息をつく。ここまで強行軍で来たのが無駄骨ではなかったのだ。


(よかった、何とかなりそうで……ん。あっ、あの子!精霊神官のあの女の子もついてきていたんだ……)


 《獅子姫》の隣で他の皆と同じように控えていたオレは、大神官の婆さんの後ろにあの色白の精霊神官ちゃんの姿を見つけた。


(精霊神官ちゃん……)


 彼女は前と同じように白い神官着を召していた。広間の中心に控えている下界の騎士たちを、無言でその大きな瞳で見ていた。


(表情が読めないけど、相変わらず可愛いな……)


 神官ちゃんは前と同じで感情が読めないような無表情だ。けれども、その粉雪のように肌と新緑色の大きな瞳が相まって神秘的に愛くるしい。


(ん?む、胸が前より成長している……な)


 更にはその胸元は“成長”していた。

 ゆったりとした神官着の上からでは分かり辛いが、オレには分かる。


(彼女までの距離、そして角度……比較差……これは間違いない)


 目測により正確に距離や大きさを計れないと、この厳しい森では弓で獣を仕留めることはできない。

 このことに関してオレは、大人の腕利き狩人にも負けない自信があった。


 “胸の大きさ目測”だけは自信が……いや、負ける訳にはいかない、オレが最強だ。


 神官ちゃんは大神官の婆さんに、何か問いかけられ答えている。

 その身体を動かす瞬間をオレは見逃さない。純白な神官着の胸元の大きく揺れる刹那せつなを。


(おお、これは……)


 この森の部族には胸当ブラジャーの概念はない。

 激しい動きの邪魔にならないようにサラシを巻いたりする女性戦士もいるが、神官である彼女は何もつけていないようだ。


(くっ……神官ちゃんは、十四歳のオレと同じ年くらいだというのに……これは反則級だ……)


 オレの目測によると、そんな大きさでいても形は崩れていない。

 重力の法則にまるで受けてないかのようだ。もしかしたら、これも“精霊の加護”の神秘なのかもしれない。



「おい……」

「ん……?」


「おい、《魔獣喰い》よ!」

「痛って……」


 オレはどうやらまた、妄想の世界へ旅立っていたようだ。

 隣にいた《獅子姫》ちゃんのさや打突で、何とか現実世界へ戻ってくる。


(ん?終わったのかな)


 オレが夢の世界で妄想している間に、どうやら話はまとまった様だ。


 《獅子王》様から自分たちに、下知が申しつけられる。


「先ほど通りだが、“獅子姫隊”はこの勇気あるグラニスの騎士たちと共に下界へおもむき、“霊薬レイシー”で彼の者を治療にあたる任につけ」

「「はっ!」」


 偉大なる《獅子王》の命に“獅子姫隊”の戦士たちは大きく返事をする。かなりの重要な任らしい。


(“下界におもむく”……って、それってどういうことだ……)


 ただ1人だけ状況がつかめていないオレは、心の中で考える。


(ああ、そうか……“獅子姫隊”はこの森を出て、グラニス伯爵領へ行けということか……えっ?下界?“街”!)


 オレはようやく事態を把握した。


“獅子姫隊”への命令……もちろん副官であるオレも行くのだろう。


 なんと、オレは公な任務でこの森を出て、王国とかがある外の世界へ行けるのだ。


(伯爵領地……大きな街……城、騎士団!!)


 オレの脳内はこれから出会えるだろう妄想に次ぐ妄想で、断線ショート寸前だった。この異世界に転生してから夢見ていた、中世風ファンタジー世界についに対峙できるのだ。


(ん……でも待てよ。森の外に出られる……のか?)


 それと同時にオレはある事実を思い出す。


「あれ、オレたちって、この森の民って、大森林を出たら“精霊の加護”を失い“精霊の呪い”で“絶命”しちゃうんじゃなかったっけ……」


“森を出たら死ぬ”


 オレは幼い頃から繰り返し教えられていた戒めを思い出し、小さく呟く。




 そう、大森林の民はこの森を出たら“呪い”で死んでしまうのだった。







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