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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【下界と大森林】の章

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33羽:"加護" と "呪い"

 悠遠の遥か昔


 この大陸に“魔”が湧き出た


 “魔”はその肉魂から“魔素”を吐き出し侵す

 野生の獣や木々に


 そしてついには人にまで影響を及ぼし

 次第にその勢力を広げっていった


 “魔素”にりつかれた“モノ”は人々を襲い喰らい、大陸中を恐怖のどん底に陥れた


 各部族に分かれていた人はそれに立ち向かう

 だが“魔素”をとり込んだ“モノ”の力は強大だった


 人々は大地の端に追いやられ、その滅亡の時を待つ存在となった


 だが希望の“光”が現れた

 どこからともなく現れた“その者”は、生き残った人々を諭して回る


《皆の力を集結して”魔“に立ち向かおうと》


 その言葉は、人と人を紡いだ


 それまで個々に“魔”に抵抗していた七大部族が、手を取り合ったのだ


 人は最後の力を振り絞りが立ち上がり、力を合わせ“魔”に立ち向かう


 存亡をかけた激しい激戦だった


 そして遂に、“魔”を湧きい出てきた“大穴”に、再び閉じ込めることを人等は成す


 だが難事が起きた


 完璧に“魔”を封じ込められなかったのだ


 “封印ベールの一族”と呼ばれる、異能の部族の力を持ってしてもだ


『意図的に“魔素”を、封印の隙間から流出させる術式が限界ね』


 “封印ベールの一族”の女王は苦肉の策を施す

 それにより封印した“魔”を膨張破裂させないため策なのだという


 代償として溢れた“魔素”は、“大穴”のある森の周囲の人と獣を毒し続ける


 誰かが【人柱】となり“魔素”に耐えつつ、“魔獣”と化した獣たちを駆逐していく必要があった


『…………』


七つの英雄の間に沈黙が走る


『もともとこの森は我々の故郷。その役目、我々“大森林ダ・リーンの一族”が引き受けようぞ』


 七大部族の中で、最も蛮勇の力を有した“大森林ダ・リーンの一族”の族長が名乗り出る。


『私たちの一族の故郷でもある……力だけが自慢のアナタたちだけだと、何もできない……“精霊神(セレシャン)の一族”も付き合う』


 精霊の声を聞き使役する“精霊神セレシャンの一族”の大神官が呼応する


 二つの部族の者たちはその身を犠牲にし

 その日から隔離された森の中で未来永劫の時を、“魔獣”を狩り続けることを決意した





▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲






(というのがオレたち森の部族に伝わる伝承だ……)


 《魔獣喰い》ことオレは、大村の戦士団訓練所で最初に教わった座学の内容を思い出す。


 この伝承は語り部たちの口伝により、遥か大昔から受け継いできた昔話だ。

 “魔”だの“封印”だのけったいな内容で、どこまでが本当だろうか。


 座学が苦手だったオレは、ほとんどの内容がチンプンカンプンだった。

 だが一つだけ覚えていることがある。



 それは“この森の民は《精霊の加護と呪い》を受けている”ということだ。


 化け物と化した“魔獣”に対抗するために、森の民は精霊神から“力”授かった。

 その“加護”により、森の民は産まれた時から人外の力を有する。


 だがそれには“代償”が必要だった。も

 代償は“呪い”とも呼ばれ、それはこの森から民が一歩も出られなくなる永遠のくさびであった。


(“加護”か……)


 “加護”に関しては幼い頃から実感していた。

 何しろこの部族の者の身体能力が高すぎる。


 五感や筋力や瞬発力の上昇に伴う、高い戦闘能力。

 毒や病にかかりにくく、怪我なども回復も異様に早い。


 それ故に原始的な武具を持ってして、凶暴な獣たちを対等に相対せるのだ。



(だが“呪い”がな……)


 天祐を受けるのには代償が必要だ。

 それが“精霊の呪い”だった。

 

 簡単に説明すると

 “森の民がこの大森林を出ると呪いで息絶える”という代償だ。


 これに関しては眉唾なゆつばな話だが、どうやら本当らしい。

 実際に好奇心旺盛な森の若者が森を飛び出し、その呪いにより命を失っているというのだ。


 だから“森を出る=死ぬこと”でありあり得ないことなのだ。





「ふむ、せん顔をしておるな、皆の者よ。」


 不可思議な顔をしてオレたちの表情を見て、王座の《獅子王》が低い声で語る。


「“呪い”についは策がある。詳しくはここにいる大神官が伝える。秘匿事項もあるゆえ、後ほど別室にて話を聞け」


 《獅子王》はオレたちの後ろに控えていたグラニスの騎士たちを、チラリと一瞥する。どうやら彼らには知られたく内容なのだろう。


「では、“霊薬レイシー”の調合が終わるまで、下界へ出立する準備をしておけ。以上だ」

「「はっ!」」


 《獅子王》の威厳ある声で、下界からの来訪者の報告会は幕を閉じた。




・・・・・・・・・・・・



「ふう、なんとか“霊薬レイシー”を確保できそうで良かったね、女騎士ちゃんに少年騎士くん」


「僕の名前はレオンハルトだ!」

「この度は本当にありがとうございました、“獅子姫シシリーナ”様に“魔獣喰マジウスい”殿」


 重い空気の報告会が終わり、オレは大広間の端っこでホッと溜息をつく。


 それは下界の騎士たちも同じ気分なのであろう。王に威圧され沈黙を守っていた少年騎士レオンハルトも、ようやく軽口をきいている。


 後はこの大村で数日間を過ごし、下界のグラニス領に“霊薬レイシー”を持って行けたなら、彼らの任務もひと段落するのだ。


 まだ乗り越えなくてはいけない課題も多いかもしれない。だが、最大の難所を越えたといっても過言ではないだろう。


(それにしても良かったな……オレも下界に出かける準備をしなくちゃな。何を持っていけばいいのかな……)


 女騎士ちゃんから下界の王国の繁栄ぶりを聞いていたオレは、いつもの妄想時間に入ろうとする。


(ん…………?)


 だが視線を感じた。

 警戒や値踏みが多数、それに殺気じみた視線も少々。


(アイツ等は戦士団の若手の連中か)


 その敵意のある視線をぶつけていた者たちは、ゆっくりとこちらに近づいて来る。

 数は十数名、オレと同じ年ごろの屈強な森の戦士たちだ。


 どうやら下界からの異邦者の噂を聞きつけ、この大広間へと値踏みしに来たのだろう。


「コイツらが下界の者たちか……」

「ああ、間違いないな……」


 それ以外にも結構な数の者たちが、来訪者たちの姿をひと目見ようと集まっていた。



「おい!《獅子王》様の命令だから、お前たち“災いの者”を招き入れることはする。だが認めてはいない。覚えておけ」


 若手戦士団の頭らしき巨漢の男が、大声で叫び威圧してくる。

 少年騎士に女騎士スザンナちゃん、そして他の騎士たちを睨みつけている。


「な、何だと貴様ら、我々騎士を愚弄するのか!」

「なに、やるのか?臆病者よ」


 それに即座に反応するのは、大柄のグラニスの騎士である。

 双方帯剣もしており一触即発の寸前となる。


(これは嫌な感じだな……)


 緊張感のある、気まずい空気が流れる。







「スザンナよ、もう傷は癒えているか?」

「えっ……はい、“聖泉オルセーン”のお蔭かすっかり完治いたしました、“獅子姫シシリーナ”」


 それまで沈黙を守っていた《獅子姫》ちゃんが言葉を発する。

 女騎士スザンナに突然問いかけたのだ。


 こんな緊迫した時に、いったい何を言いだすのだろう。


「それは良い。ではいくぞ、スザンナよ!」

「えっ!?」




 次の瞬間だった。


 《獅子姫》は腰の愛剣を抜き放ち、スザンナの首元に斬りかかる。


 真剣による目にも止まらぬ抜刀術。

 身体能力に優れた森の戦士であっても、不意打ちならば防ぐとはできない必殺の剣だ。


(あっ、女騎士ちゃん、危ない!)


 だが女騎士スザンナはそれを寸前で防いだ。

 持っていた小盾と自分の抜剣で、《獅子姫》の剣を受け流したのだ。


「”獅子姫シシリーナ”様……何をなさいますか……」

「ほお……これを防ぐのか。ふふふ、思った通り、お主は自分の力を隠していたな……面白い女子じゃ、次じゃ!」

「“獅子姫シシリーナ”様、お止めください……うっ」


 止めようとするスザンナの言葉を無視し、《獅子姫》は更に真剣で剣撃を繰り出す。

 ひと太刀ひと剣が本気であり、その剣筋に手加減は一切無い。


「み、皆の者、下がるのだ!」


 周りにいた他の者たちは剣先に巻き込まれないように一斉に飛び去り、二人から距離をとる。


「ほれ、本気を出さなければ、お主が死ぬぞ。スザンヌよ」

「くっ、“獅子姫シシリーナ”様……」


その言葉を受けてスザンナの眼の色が変わり、体の動きが一変する。本気を出したのかもしれない。


 見事な盾と剣の連携で女騎士スザンナは、《獅子姫》の連撃を全て受け流し回避する。防戦一方とはいえ、凄まじい騎士式剣術だ



「す、凄い、あの下界の女……」

「ば、馬鹿な……あの《獅子姫》さまの剣に耐えきっているだと……」


 その光景を遠巻きに見ていた若手の森の戦士たちから、驚きの声が上がる。


 何しろ《獅子姫》の剣の才能は、戦神から授かったともいえる天賦てんぶの荒々しい剣技だ。


 日々の戦士団の稽古で、若手の戦士たちは実際にこの《獅子姫》の剣を体感している。


 多くの者が彼女の初撃にすら反応できず失神する。

 これほどの斬撃を全て受け止める者は、この場には一人もいなかった。


(本当に凄いな女騎士ちゃん……身体能力は明らかに《獅子姫》ちゃんに劣っているはずなのに、それを全て剣盾術で補助カバーしているのか……)


 後で聞いた話だが、実のところ《獅子姫》はこの時は手加減をしていた。


 だがそれを差し引いても、女騎士スザンナの剣技は逸脱していた。


「ふむ……今日はこの位にしておくのじゃ」

「えっ……“獅子姫シシリーナ”様……」


 激しい攻めを繰り返して《獅子姫》は、急に動きを止め剣を納める。そしてくるりとこちらを振り向く。


「皆の者、見たか!この中にこれ程まで、私の剣を受け止め躱せるものはいるか?」


「…………」

「…………」


 《獅子姫》は遠巻きに見ていた若手の戦士たちに問いかける。

 二人の激しい攻防に息を目を奪われていた彼らは、お互いの顔を見合わせるだけで言葉がでない。


「この女戦士の名はグラニスの騎士スザンナ・デリス!彼女と他の者たちは、今日から我々の大事な客人じゃ。皆の者、丁重に扱え!」



「「…………おお!戦士スザンナ・デリス!スザンナ・デリス!」」


 《獅子姫》が宣言する。

 唖然とする女騎士スザンナの腕をつかみ、高々と天に突き上げ宣言する。


“この者たちを戦士として扱え”


 そして若手戦士たちは大きな歓声を上げる。他の傍観者たちも同様だった。

 果敢な女戦士スザンナの名前を連呼し称える。


 勇気を皆に認められたのだった。


 この噂が広まれば、この大村では誰もが下界の騎士たちに敬意を払うだろう。




(ふう……どうなることかと思ったけど、“雨降って地固まる”かな、これ)


 その光景をハラハラしながら見ていたオレはひと安心する。


(《獅子姫》ちゃんは、これを狙っていただんろうな……)


 先ほどの場の嫌な空気を感じた《獅子姫》が、恐らくは一計を案じて行動に出たのであろう。


 皆の前で下界の騎士の腕前を披露することで、勇敢な戦士として認めさせたのである。


 この森の部族で地位や財力はあまり意味を成さない。

 一番重んじるのは“勇敢な戦士の力”なのだ。


(やっぱり《獅子姫》ちゃんはこういう人心掌握に優れているな……でも、斬り突くのが単純に好きなのかもしれないけど。それに女騎士ちゃんも……)


 女騎士スザンナは屈強な森の戦士たちに囲まれ質問攻めにあっている。

 先ほどの素晴らしい剣盾術について。


 少し困惑しているが、まんざらでもない表情をしていた。彼女自身も闘うことを嫌いではないのだろう。






(《獅子姫》ちゃんに、女騎士ちゃん……旅先では怒らせないようにしないとな……)


 そんな盛り上がる人の輪を遠目に見ながら


 オレはこれから下界への旅に、少し不安を感じていたのである。








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