145羽:森へ・・・
「む・・・むむむ・・・これでよし!」
気合の声が森の中に木霊し儀式が終わると共に静寂が辺りを再び支配する
「ふう、何とか終わったか」
『魔獣喰い』マジウスことオレはそう呟き一息入れる
「お待たせしました。これでオレたちは大森林の中に入れるはずです。さあ、早速行きましょう」
後方に控えていた仲間たちに声を掛け、オレは試しに下界の境目から森の中へと腕を入れてみる
つい先日はどんな事をしてもこの結界の中に入る事は出来なかったが、それが幻想であったのかの様にスルリと森の中に入れる。次は足そして全身、それも難なく進む事をできる事を証明する
「まさか・・・我々がこの数年間に国を上げても一歩も進むことが出来なかったのに、こんなにも簡単に・・・」
驚きと半分呆れた声を上げながら、後に控えていた者たちも次々と森の中へと進んでみる
「本当だ・・・まさかこんなにあっさりと・・・」
ここにいた全員は無事に中に入る事が難なく出来た
「ちなみに今回は森の結界を全部解く事は出来ませんでした。ここにいるオレたちと後で来るはずの人たちを入れる様に結界を緩和しておきました。なので、それ以外の普通の人たちはこの中に入る事はまだ出来ません・・・」
半信半疑の仲間たちにそう説明をして今後の作戦を簡単に説明する
『魔獣喰い』が下界で声を掛けた戦士の内まだここに集まっていない者もいた。本来ならここで暫く待ち万全の態勢で目的地に向かうのが良策だろう。
“時は金なり”
だが、一刻も早くこの森の中心部に捉えられている仲間を助ける為に、オレは敢えて先行して進む事にした
作戦や目的地は後発の仲間にも伝えており、彼らなら無事に辿り着く事も出来るだろう
何でも聞いた話では、三年前のこの森での“魔穴”の決戦においれは各国の騎士団や戦士団を動員し魔獣の群れや“敵”と対峙したという。だが今回のオレの作戦は少数精鋭による一点突破による仲間の救出作戦であった
(囚われている彼女たちを助けだしてもらったら後はオレ一人で・・・)
オレはそんな事を考えながら森の奥地に目をやる。焼打ちにより無残にも焼野原となった下界側から森の中を進むと、この森で育った自分には懐かしい光景が前方に広がる
(ここは“聖なる泉”『温泉』の辺りか・・・懐かしいな。この先の森道を進んで行ったら“魔穴”の中心部に辿り着くはずだ・・・)
オレはそんな事を思い出しながら後方の仲間たちに声をかけ周囲を警戒して道を進む
「それにしてもマジウス、先ほどのこの森に入る時にあなたが使った術は精霊術の一種ですか?以前に私が見た事があるもの大分違う感じでしたが」
オレの直ぐ後ろにいたベール王国の『聖騎士』ヘルマンが同じく周りを警戒しながら訪ねてくる
彼はいつもの金属騎士鎧ではなく長距離の移動に適した硬皮鎧を中心とした軽装である
「そうですね・・・精霊術の一種というか、この森にお願いして少しの時間だけ入れてもらえる様にしたんです」
厳密に言うと先ほどのアレは精霊術でも何でもないのだが、オレ不信感を与えない様に言葉を濁してそう答える
「本当に術かよ。オレには『む・・・むむむ』って唸っていただけにしか見えなかったけどな」
そう突っ込みを入れて来るのはグラニス侯爵家の若き当主である青年騎士レオンハルトだ
こいつは森の民の血が“混じって”いるせいか、剣の腕前もそうだがやけに最近カンが良くなってきた
「はっはっは、オレ位になると呪文も何も必要ないのさ」
そう言いながらオレ額に汗を掻きながら更に言葉を濁す
「レオンハルト様。マジウスは昔から不思議な方だったから、何があっても不思議ではないですよ。ほら覚えていますか?丁度この辺は十年位前に私とレオンハルト様がマジウスや獅子姫様たちに助けていただいた辺りです」
そう言いながら少し離れた先の開けた場所を指さすのは、“ベール王国の近衛騎士団”に今は所属する女騎士スザンナだ
今はベール王国王家に仕える彼女だが、元々はグラニス伯爵家に仕えていた女騎士であり少年だったレオンハルトの護衛騎士でもあった
「そうかあの辺か・・・懐かしいな。まだレオンが少年騎士の時で森の狼の群れ相手に震え上がっていたな」
オレは初めてこの二人に会った時の事を思い出す
「うるさいな。今だったらあんな獣の群れなんてオレ一人で片付けられる。それも十年前っていったらマジウスお前もまだ成人前の子供だっただろうが」
そう軽口を言いながらも、今や王国屈指の騎士となったレオンハルトは周囲への警戒は怠らない
「なんだお前たちはそんな前から知り合っていたのか。オレがマジウスと出会った時は、伝統あるベール王国の使節団の近衛騎士団の中で明らかに怪しい奴だったぞ」
そう声を上げ最後尾で全方位に神経を尖らせるのは、この一団の中で一番危険に対して勘が鋭いヴェルネア帝国の元皇子ネロだ
当時のオレはマデレーン王女に頼まれて帝都行きに同行。初めての着る近衛騎士の金属鎧に興奮して盛り上がっていた黒歴史だ
「いや、懐かしいですね。それを言うならネロさんも最初は帝都の下町で庶民と紛れて酒場で飲んだくれていたので十分怪しい皇子ですよ」
そしてネロの背中に背負われているのは、森の中へ行く祝い酒と称して飲み過ぎ既に夢の中に入ってしまった女槍使いヘリヤであった
この一行の中では一応彼女が一番の腕利きな様な気がするんだけども・・・出だしからこれで大丈夫だろうか
「さあ、とにかく時間が惜しいです。それじゃ皆さん先を急ぎましょう!」
これ以上話していると過去のボロがドンドン出て来てしまう。先頭を行くオレは速度を上げて前に逃げるように進む
『魔獣喰い』マジウス、『聖騎士』ヘルマン、青年騎士レオンハルト、女騎士スザンナ、それに帝国の槍使いネロ(と背中の酔っ払い)・・・総勢六名の戦士騎士たちは人間が誰もいなくなってしまった大森林の中を東へひたすら突き進むのであった
この章が少し長くなってしまったので、次羽から真の最終章に入ります。
最後までヨロシクお願いします。




