↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【終わり】の章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

176/204

144羽:帝国から解き放たれた戦士たち

これまでのあらすじ


森の戦士『魔獣喰い』マジウスは大森林の中に閉じ込められた仲間を救うために森の入り口に到着する。そこに現れたのはヴェルネア帝国の槍将軍ネロと弓公子アベル。


『魔獣喰い』マジウスとネロの一騎打ちが今まさに始まろうとしていた!


「はっ!」



気合の声と共に白銀の槍が風を切り裂く



自分が目視出来るだけでも一度に三回突きを繰り出している



剣や盾で防御しようものなら最初の“壱ノ突き”でそれを崩し、“弐ノ突き”と“参ノ突き”で相手の急所を貫く必殺の技だ



また身をかわし避けようものなら、その退避方向に瞬時に槍先は修正し飛んで仕留める



この男が“三段突き”の技でこれまで敵国の多くの猛者共を討ち取り、また最近では魔獣と呼ばれる人外の獣ですら葬ってきたのを『弓公子』アベルは何度も見てきた



多段突きは我が帝国に古くから伝わる槍術の一つでアベル自身も扱う事が出来る技だが、この男『血の皇子』ネロが放つとそれは絶対回避不可能な必殺の技となる



(全ての槍が全く同じ軌道でしかも同じタイミングで繰り出されるのだから、槍の間合いに入った時点でこのネロという男に敵う術は無い)



アベルはそう分析する



文武に優れたと帝国でも誉れ高い武将と呼ばれる自分だが、この男ネロと万が一対峙する事になっても、決してこの様に正面に立ち槍先と構える事は絶対にしない



(謀略にめるか・・・もしくは毒殺か・・・いや、勘が異常に鋭いネロの裏をとるのは生半可な仕掛けでは逆に返り討ちに会う・・・)



だからこそネロは身分の低い女官を母に持ち現皇帝の実子であるが為に常に蔑まれ、命を狙われて来たにも関わらず、闇謀溢れる宮廷内これまで生き伸びて来られたのだ



勿論アベルにとってネロは帝国軍同僚であり上官である



だが、智謀を誇るアベルは常に身の周りに現れた強者をいかに倒すか、と無意識的に頭の中で描く癖が出来ていてしまっていた



とにかくこのネロという鬼神の強さを持つ男とは“正面からぶつからない”、これが策士アベルの弾き出した答えなのであった



・・・



だが、ネロと対峙するもう一人の男『魔獣喰い』マジウスはその答えを嘲笑あざわらうかの様にそれと正反対の行動をしている



真っ正面から間合いに飛び込み、先ほどのネロの三段突きをその手に持つ手斧で受け流す



普通ならそんな狩り用の小型の手斧で、その凄まじい威力の槍先を受け流すことなど出来はしない



手斧ごと手が吹き飛ばされるか槍先に絡め取られてお終いだ



だが『魔獣喰い』はいとも簡単にそれを実行し更に前に一歩踏み出す



「ちっ!」



ネロは舌打ちをして愛用槍の柄を使い相手との距離を取ろうとする



「逃がすか!」



しかしそれはフェイントで槍の遠心力を使い強烈な蹴りを追い打ちして来た『魔獣喰い』に食らわす




「ネロは槍だけではなく、あの足技があるから手が付けられない」



アベルは二人から少し離れた所で観察しながらそう呟く



槍術を極めたネロはその槍での戦いだけが目にいくが、実際には剣や弓などどんな武器でも使いこなす



その中で特に目を引くのがこの足技の格闘術だ



身分の低さ故に宮廷内の官僚にも虐げられてきたネロは、常に帝国の最前線の戦場に送り込まれ、そこで必死に生き残りその技を磨いていた



また身分を隠し治安の悪い帝都の下町に出没していた時期もあり、たった一人で危険な無法者の集団を素手で倒していたという噂も聞く



道場では基本を忠実に愚直に鍛錬し、そして実戦で粗々しく昇華する・・・そんなネロの強烈な蹴りが『魔獣喰い』の無防備な腹部に炸裂する



相手はその蹴りを辛うじて腕で防御するも、勢いを殺し切れずに後方に吹き飛び半回転し姿勢を整える



(まるで猫科の獣だな・・・まさにその名に恥じない身のこなしか・・・しかも)



しかも『魔獣喰い』は蹴りを受けるとともに、反対の手でカウンター気味にネロの顔面に強烈な右拳こぶしを一撃入れていた



「くっ、流石は『魔獣喰い』マジウス・・・前から思っていたがやはり強いな」



ネロは自分の殴られたほおのダメージを確認しながら『魔獣喰い』にそう呟く



「ネロさんこそ、これ程の槍の使い手は森の大隊長ですらいません・・・しかもこの数年で凄まじく腕を上げている」



『魔獣喰い』は自分の蹴りを受けた腕のしびれを取るように構えを変えそう答える



「ふっ、我ら帝国の・・・いやお前たちの言うこの“下界の戦士”たちをあまり舐めないで欲しいもだな!」



そう言いながらネロは槍を構え瞬時に『魔獣喰い』に突きを繰り出す



「くっ、舐めてなんていませんよ・・・だからこそ、この大森林を“解放”するために下界の皆の力を借り集めに行ったんです!」



『魔獣喰い』もそう言いながら槍先を寸前でかわし攻撃する



一進一退、お互いに攻めてかわし、受けて突き返す



帝国でも随一の目の良さを誇るアベルですら、全神経を集中していなければ見逃すほどの攻防だ



凄まじい槍術の奥義を繰り出す帝国の将軍ネロ、そしてそれを手斧と体術のみでしのぎ変幻自在の無手術により反撃を繰り出す森の戦士『魔獣喰い』マジウス



達人同士の人外の身体能力を持った戦士同士のその戦いは、まるで優雅な剣舞を踊っている仲の良い二人にも見える



大森林を目の前にした小高い丘の上で二人で踊る死の輪舞曲ダンス



「美しいな・・・」



それを見ていた、たった一人の観客であるアベルは思わずそう呟いてしまう



“ヴェルネア帝国一の弓の使い手”“文武に優れた常勝公子アベル”



そんな風に幼い頃から周りの大人たちや同僚たちに持ち上げられてきや自分であったが、この目の前の戦士たちの才能と技を見ていていると、そんな小さな自尊心ですら粉々に砕け散ってしまう



(こんな気持ちは初めてだ・・・いや前にも一度あったか)



それは帝都での学生時代



その頃の順風満帆な自分の人生に最大の衝撃を与えたあの“赤い髪の男”と士官学校で出会ってからは、文武を学ぶと共に軍楽や智謀に自分の進む道を変更したのを思い出す



“自分を押し殺し、天武の才能を持ったカリスマ性のある男を影から支える”



そう密かに決意しこれまでの帝国軍人生活を過ごしてきた



(『赤髪』ガエル・・・しばらく音信不通だがどこで何をしているのやら・・・いや、あの男の事だから常に戦いの場に身を置きながらも大剣を嬉しそうに振るっているのだろう・・・)



アベルは二年前に帝国からある日突然抜けたかつての同僚の事を思い出し苦笑する



(ネロは確かに才能に優れカリスマ性に溢れた次期皇帝の器に相応しい男だ・・・だがどうやら自分の主はこの男ではなかったのだな・・・)





アベルが意識を目の前の戦いに再び向けると、その壮絶な戦いは終盤に差し掛かっていた



圧倒的な攻撃力で将軍ネロが攻めに攻めている・・・だがその槍先は一度も『魔獣喰い』に当たる事無く空を切り、手斧で受け流される



全てが全身全霊を込めた必殺の一撃であり奥義の技の数々・・・だが当たらなければ意味を成さない



それとは反対に全ての攻撃を変幻自在の身のこなしで避けていた『魔獣喰い』はカウンター気味に拳や蹴りをネロに当て始めていた



戦場ですら無尽蔵な体力を持つはずのネロは肩で息をし、その技のキレは少しづつ消えていく



「ふうぅ」



そして何かを決したのか・・・息を整えてこれまで違い明らかに隙だらけな無防備な構えをとる



(むっ、いかん!あれは確かネロの捨て身の最終奥義の構えか!?・・・どうやらオレにも遂に最期の仕事の時間が来たようだな・・・)



アベルはそう心の中で呟き決意する



腰の帯剣を抜き向かい合う二人の間にゆっくりと進んで行く



(もはやこのオレの剣技如きではこの二人の戦いの間に割り込むことすら出来ないだろう・・・だが、このいのちを掛けてでもこの二人の戦いを止めなくていかぬ!)



アベルは心の中でそう叫び前に進む



まるで目の前に“死の神”がいてその死鎌に飛び込むそんな最悪な気分だ



(『魔獣喰い』マジウスはもちろん・・・ネロもこの大陸の未来に必要な男、こんな所で命を散らさせる訳にはいかない!)



その恐怖心を自分の中の小さな感情を強く持つ事で討ち払う



“冷徹な策士アベル”・・・そんな陰口のふたつ名に合わせ自分はいつの間にか冷戦沈着な仮面を被り帝国軍人を演じてきた



だが本当は



(だが本当は、オレも小さい頃は物語に出てくる“英雄”の様に成りたかったのだな!)



アベルはそう叫び、今まさに繰り出されようとするネロの槍の捨て身の奥義と、それを受けようとするマジウスの手斧の刃の間に飛び込む



“自分の命を差出してでも勝負に水を差し二人を止める!”



それが『弓公子』アベルが自分の命を懸けて選んだ最期の道であった




・・・・・・・



その時・・・『魔獣喰い』マジウス、将軍ネロ、『弓公子』アベルの三者のちょうど中間地点に一筋の蒼い稲妻が天から落ちて来た



天を切り裂き風を貫いて轟音と共にソレは落ちる



「“天槍ルグル”・・・」



地に突き刺さった“ソレ”を見てアベルはその稲妻の正体に気付く、そしてそれを投擲とうてきした者の正体も



「やれやれ、どうして私の弟子たちはこうも融通の利かない堅物ばかりに育ってしまったのか・・・」



いつの間にこの場に近づいていたのか・・・その声と共に人影が現れる




長い髪の毛はボサボサでほこりを被り無造作に結われているが、湯で洗いくしで通せば美しい金糸の髪になる事をアベルは知っている



“勿体無い”という周囲の声は「髪など酒に比べたらどうでもいい」という返事で一蹴される



またその身を包む汚れだらけのダブダブの衣も、宮廷服に着替えたなら抜群のプロポーションですれ違う紳士たちの目を奪う事も知っている



「あんなヒラヒラなど二度と着ぬ。腹がきつくて酒が不味くなる」そんな言葉で同じく一蹴される



そして、その手に天槍が持たれたなら屈強な帝国兵が束になっても叶わず、百鬼夜行ひゃっきやこうですら打ちのめす槍の究極奥義の持ち主だという事もこの身を持って知っている



「『槍女帝』ヘリヤ・・・お師匠様・・・何故ここへ・・・」



突然の襲撃者であるその女槍使いの姿を目にし、呆然と立ち尽くす直弟子であるアベルとネロの口から洩れたのはそんな言葉だった




「ふん、この私の天幕に珍しくお前たち二人から酒が差し入れて来たと思ったら、こんなつまらない事をしておって・・・こいつ等め!」



そう言いながらヘリヤはネロとアベルの脳天に拳骨げんこつを落とす



「うっ」



そのあまりの威力に二人は頭を抱えてその場にうずくまる



そして地面に深々と突き刺さる天槍を軽々と引き抜き、それらの一連の行動を唖然しながら見ていた『魔獣喰い』の方に向きを変える



「お前がヴァルターの坊やが前に言っていた『魔獣喰い』マジウスとやらか・・・確かに面白い奴だの。おい、『魔獣喰い』マジウス、何でもガエルの坊やに聞いた話では、この大森林の中には木の実や果実で作った極上の酒があると聞いているが本当か?」



ヘリヤはそう問いながら腰に下げていた瓢箪ひょうたん型の器から酒を直飲みし、目を輝かせて聞いて来る



「ヴァルターの坊やってあの『剣匠』のジイさんか・・・あっ、はい確かに森の部族独特の自家製酒は各村で作っているのでありますが・・・」



突然の酒の問いに『魔獣喰い』はそう答える



「何と各村々にあるのか・・・おいネロちゃん、私たちも行くぞ」



ヘリヤは向き変えをまだうずくまってネロにそう声を掛ける



「お師匠様、もう子供ではないのですから“ちゃん”は止めてください・・・それより何処に行くというのですか」



ネロは立ち上がり一応の敬意を払いながらヘリヤに問う



「なんだ今の話を聞いていなかったのか。この男『魔獣喰い』に付いて行って大森林に酒を飲みに行くぞ!」



ヘリヤはそう言いながらもう一度酒を飲みニヤリとする



「お師匠様、私には皇帝陛下からの勅命がございます。それなに・・・」



そうネロが言いきる前にヘリヤはその手に持つ槍をヒラりと軽く振る



すると、ネロの鎧の首当てに着けられた階級を現す紋章が地面にポトリと落ちてしまう



「ネロ・・・お前はこれで“戦死”だ。おいアベルちゃん、聞いていたか。後の事を任せたぞ」



「はっ、将軍ネロは突然、魔獣の襲来に逢い戦死。遺体ごと魔獣に丸呑みされ残ったのはこの階級章のみと報告致します!」



ヘリヤの突然の任にアベルは瞬時に頭を巡らせそう声高々に返事をする



「聞いたかネロ、これでお前を縛るモノはもう何も無くなった。帝都で囚われているお前の母上もこのアベルがもう少しで何とかしてくれるはずだ」



その情報にネロは目を見開きアベルの方を見つめる



「ネロ様、そんな目で私を見ないでください。私を二心を持った逆臣と疑っていたかもしれませんが、これでも貴方の事を私はかっていたんです。本当なら次期皇帝になって欲しかったのですが、これが貴方の運命だったのかもしれませんね」



その視線にアベルは少し恥ずかしそうに答える



「ああ、これまで疑っていて悪かったな・・・母の事を頼んだぞ。それにしてもアベル、お前はそれでいいのか?」



そう言いながらネロはアベルに礼の姿勢をとる



「ええ、これでも私には『赤髪』という最終カードがまだ残っています・・・なんだったらアイツを皇帝の座に据えて私が宰相にもでなってみせます」



「ガエルか、あいつなら内乱ですら自分の糧として喜んで興しそうだな。その時はオレも謎の傭兵槍使いとして手伝ってやるぞ」



そう言いながらネロとアベルは冗談とも本気とも分からない笑い声を上げる






・・・・・・




「なんかあの二人は・・・似ているようでなんかいいな・・・」



後で聞いた話だが皇族のネロと身分の高い公爵家のアベルは従兄弟関係だったという



そんなネロとアベルの様子を『魔獣喰い』マジウスことオレは少し離れた所で眺めていた



「さて、後はいよいよ森の中に行くだけだ」



雨雲が西から流れ暗雲が空を覆い始める



マジウスは大森林の奥を見つめそう一人そう呟くのであった





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。