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マタギの孫をなめんなよ!【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【終わり】の章

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174/204

142羽:草原の覇者   ★イラスト有り 研究軍師セリーナ

あとがきに『研究軍師セリーナ』イラストがあります。

あくまで書いた方のイメージです。

個人のイメージを大事にする方は閲覧ご注意ください






「ぐふっ」



その最後の一撃を腹筋の真っ正面から受け止めたその騎士は、ひざから前に倒れ込む



一方で、その渾身の一撃を喰らわせた男も満身創痍まんしんそういで、肩で息をしながらに安堵のため息をつく



「はぁはぁはぁ・・・レオン・・・これでオレの言い分の勝ちだな・・・」



『魔獣喰い』マジウスことオレは辛くも勝利を手にしながらも、まだまだ余裕があるフリで自分の目の前に転がる男・・・若きグラニス侯爵家当主であるレオンハルト・グラニスにそう告げる



実際にはオレももう一発もパンチを打てない位に足がガクガクだ



「ああ・・・約束通りにお前の手助けはする・・・だが、これと獅子姫の事は別だからな・・・」




一応この勝負の敗者であるレオンハルトだが、その言葉にはまだ強い力が残っており、この壮絶な一騎打ちがお互いの納得のいくものである事を再認識させる



「その事については・・・この後の戦いが終わってからだな・・・」



前回の殴り合い同様、今回も顔面を中心に全身打撲ながらオレは倒れ込んでいるレオンハルトに手を差し伸べ、その身体を起こすのを助けようとする



だがお互いに全体力を使い果たしており、レオンハルトを支えきれなかったオレもその場に座りこみお互いの背中を貸し合う



レオンハルトの背中は前に感じた時よりに大きく逞しくなっており、彼の男として戦士としての成長を肌を通して感じさせる



(これでようやく三人目か・・・)



自分のマブタがレオンハルトの剛拳で腫れあがり、殆ど開かなくなっていたがオレの心の中は清々しくそんな達成感に染まる



・・・・・・



ベール王国内でも有数の貴族であるグラニス侯爵の若き当主と、素手でのカチンコ勝負を終えた『魔獣喰い』マジウスことオレは一路進路いちろしんろを北にとる



ここに来るつい数日前にはベール王国の王都で『聖騎士』ヘルマンと真剣による一騎打ち、そしてここグラニス侯爵の侯都では泥臭い素手によるタイマン勝負を繰り広げた



レオンハルトとの詳細は割愛するが『オレの力を借りたかったら勝負しろ!』的な事がり起こり、オレは何とか勝利をもぎ取る事が出来た



今回の素手勝負は人外の力である“覚醒の力”はコントロールし抑えて使っておらず、単純なオレの力でのガチンコ勝負であった



最初はこの力の大きさに自分自身が戸惑っていたが何とか上手く調出来るようになってきた



何して今回のは“男と男”の勝負だからな



それでもオレの優位は揺るぎない予定だったが、青年騎士レオンハルトが予想以上に戦士として成長しておりオレはここまで苦戦を強いられたであった



レオンハルトは前にオレに素手勝負で負けたのが余程悔しかったのだろう・・・あり得ない位に強力な格闘術を身に着けていた



(もしかしたらビビって少しだけ“覚醒の力”を使っちゃったかもしれない・・・)



こうしてオレは次の目的地に向かうのであった







そして、いよいよ“最後”の目的地に到着した



言葉にすると一瞬だが例によって昼夜を問わず駆け巡り辿り着いた



正直に言うと最後の目的地は少し気まずい



何故ならアウェー感満載なのである



これから何が起こるかオレ自身予想も出来ないが・・・だが恐れていては何事も前に進まない



オレは取り敢えず、正攻法で体当たりする事にした進むことにする



・・・・・・



「失礼します!偉大なる大族長“雷王”様。怪しい奴を・・・捕らえました」



大草原に鎮座ちんざするこの大集落の中で、最も大きい移動住居家屋ゲルにそんな伝令が飛び込んで来たのは、昼食を終えた午後の茶のひと時だった



武勇に優れる“雷王”だがこの茶の時間を何より楽しみ大切にしている事は、この“北馬族”の民なら誰もが知っている事だ



うっかり下らない報告で邪魔したなら処罰は免れない



特に今日は彼にとって大切な客をこれからもてなす日であり、最近では若き王が一番幸せな時間帯なのだ



だが重要な事は報告しなければ後で必ず手痛い処罰もある



その事を知っている古参の側近は困惑した顔でこの“王”のいる家屋ゲルの中に声を掛ける



「怪しい奴だと・・・この茶の時間を中断する位なのだから、余程怪しい奴なのか?」



“雷王”は明らかに不機嫌そうな声でそう伝令に返事をする



普通の者ならその威厳ある声を聞いただけで腰が抜かし震え上がる程の迫力がある



「ハッ、それがその・・・その怪しい男は“森の民”を名乗っていまして・・・“森の民『魔獣喰い』マジウス殿の名前を名乗っています・・・」



そう報告した本人も半信半疑で伝える



「そういえば皇都や王都に潜ませている“虫”から、そんな噂が流れていたな・・・よかろう会ってみよう・・・」



この“北馬族”を総べる若き大族長“雷王”はそう告げると茶の時間を一時中断し、執務用の家屋ゲルへと移動する



(『魔獣喰い』・・・マジウス。また我の邪魔をしに来たのか・・・)



“雷王”テムジンの心の中は何とも言えない嫉妬心に襲われるのであった




・・・・・・




「さて、お前が大森林の英雄『魔獣喰い』マジウスを名乗る不届きの者か?」



正攻法で正面から名乗りこの集落に来たオレは家屋ゲルと呼ばれる移動式の簡易テントの一つに通された



簡易式とはいえ作りしっかりしており、その中でもかなり豪勢な家屋ゲルの中でオレは一段高くなった席に座る男からそう尋ねられる



見た感じはオレよりは年上だがそんなに沢山は離れていないだろう



男として戦士として一番鋭気盛んな年頃だろう・・・その眼光は鋭くその身のこなしにも隙が無く、この男が腕利きの戦士である事が推測される



そして座って話しているだけで感じられるオーラには王者のカリスマ性が感じられ、この男が戦闘騎馬部族である“北馬族”の大族長である事をこの身を持って知る



「はい名前を語る偽物というのは誤解でして、正真正銘の本物の『魔獣喰い』マジウスといいます」



オレはその殺気立っている大族長を目の前にし、もう一度そう名乗り誤解を解こうとする



何しろ今のオレは両手を後ろに縄で縛られて、槍を持った“北馬族”の戦士に全方位囲まれている状態なのだ



出来れば穏便に縄を解いて貰い、ここにいるはずの“彼女”にひと目会わせて欲しかった



「ふん、我を目の前にしてまだその様な戯言ざれごとを・・・ならばお前が『魔獣喰い』マジウスである事を証明してみせよ」



“北馬族”の族長である“雷王”テムジンはそう言い放ち、少し意地悪そうな笑みを浮かべてオレを見下す



「証明って言ったって・・・何も身分を証明する物は持ち合わせていませんが・・・」



オレがそう言い終わる前に“雷王”の合図と共に、オレの目の前に一対の弓矢が運ばれて来る



「なに、本物なら簡単な事だ。我も三年前の大森林の戦いでこの目で見た・・・本物の『魔獣喰い』の弓の腕前はそれこそ“弓の神”に愛された美しくも恐ろしい弓術であった・・・もし、お主が本物というのならその腕で証明してみせよ!」





そんな“雷王”の言葉と共にオレは家屋ゲルの外に連れ出される



多くの家屋ゲルが置かれたこの陣地を少し離れ、足の短い草しか生えていない広大な北の草原に到着する



「ふむ、ここからなら丁度いいだろう・・・おい、『千里弓』ボッテお前が先に射ってみろ」



“雷王”は自分の側に控えていた部下にそう声を掛け、遥か彼方に見える一本の枯れ木を指さす



「“雷王”様、かしこまりました」



寡黙なその男は一言そう返事をし、自分の弓矢を構えその木を狙う



その動きと構えを見ただけで分かる



この『千里弓』ボッテという男は並外れた弓術の腕を持つ戦士だという事を



四年前・・・いやオレにとってはつい先日、この“北馬族”と戦った時が、彼らは全員が優れた騎兵でありそれ以上に素晴らしい弓士だった



恐らくはこの男はこの部族の中でも指折りの弓使いの戦士なのであろう



シュッッ



だが、このボッテという戦士の腕を持ってしてもその枯れ木まではあまりにも遠く、またこの草原を不規則に荒れ流れる風は矢を外させた




「“雷王”様申し訳ありません。失致しました」



失敗をした『千里弓』ボッテは言い訳もせず、自分の首元を王の元に差し出し謝罪する



「ああ分かった、半の月の間の降格を言い渡す・・・さて、『魔獣喰い』を騙る男よ、次はお前の番だ・・・ただしお前が失敗した時はその命を持ってつぐってもらおう」



“雷王”はそう言いながら再び遥か彼方にある枯れ木を指さす



「この“北馬族”随一の弓使いであるボッテ殿でも無理であったのに、あの様などこの馬の骨とも分からぬ者に・・・」


「例え本物の森の部族の狩人であったとしても、森の中とこの風が荒れ狂う草原では勝手が違うまい・・・」



そんな悲観的な話し声が弓矢を渡されたオレの耳にも届いて来る



確かにこの距離は尋常ではない



遠当てを得意とする森の狩人であったとしても、ここから遥か遠くにあるあの木まで届かせるのは難しいかもしれない



しかも森の中とは違い遮蔽物しゃへいぶつの全く無いこの北の大草原には、不規則な北風が吹きつけている



さらに致命的なのはオレの手元にある渡された短弓だ



オレの愛用する森の業物の長弓ではなく、この“北馬族”の戦士が馬上で使う合成短弓では取り回しが楽な分距離が絶対的に出ない



あくまで“雷王”テムジンはオレに本物の『魔獣喰い』であって欲しくない様だ



オレを取り囲むこの部族の戦士達は、失敗がほぼ決定しているオレを半分憐みの目で傍観ぼうかんしている



「では、始めよ!」



“雷王”は威厳ある声でそうオレに命令する



(これは絶体絶命というやつか・・・でも、この弓は少しクセが有るけどよく手入れされ愛情を持って使い込んだいい物だ・・・)



オレは一本だけ渡された矢と弓を構えて遥か彼方の目標物を狙う



(そして、この程度の距離と・・・こんな優しい風なら、オレじゃなくても森の弓士なら誰も楽勝だ!)



オレは目をつむり顔を下を向いたまま射の体勢に入る



「目を閉じて血迷ったか!?」



誰かのそんな声が飛んで来る



だが意識を集中したオレの耳にそんな雑音は一切入っては来ない



(よし!)



激しい羽音と共にオレの手を離れた矢は、凄まじい速さで目標の枯れ木へ飛んで行く



その矢速に“北馬族”の戦士達は目を丸くして必死にその行方を追う



だが・・・



「ああ・・・何と惜しい・・・木をかすめて外れてしまったか・・・」



目のいい戦士からそんな残念そうな呟きがこぼれる



その言葉通りにオレの矢は目標の枯れ木をわずかに外し、その奥の地面に突き刺さっていた



約束を果たせなかったこの偽者は偉大なる王に処分されてしまうだろう



誰もがそう思った




「そんな馬鹿な・・・まさかこれ程とは・・・」



だが、その光景にこの“北馬族”の弓使い『千里弓』ボッテは体を震わせてそう呟く



「ふっ、お前の方が一枚上手だったという事か・・・流石は森の弓使いよ・・・勿論アレを狙って射ったのだろうな・・・『魔獣喰い』マジウスよ」



この部族を総べる“雷王”はオレの隣までゆっくり歩み寄り、地面に突き刺さった矢先をモノを指摘する



「そんな褒められても・・・動かない目標に当てる事なんてオレたちにとっては朝飯前です・・・オレの弓の師匠である『白狼』・・・『白狼の尾』ならあの枯れ木の中腹にいる小さな虫にさえ狙う事が出来ますよ」



オレは胸を張りそう答える



「まさか・・・アレを狙って射ったのか・・・」



オレたちの言葉のやり取りを聞いていた側近たちは矢先に刺さっていた“その物”に気付く



「オレたち森の民にとっては最後に残っていた葉っぱ一枚でも、それは“木”の一部なんです」



オレは彼らにも聞こえるようにそう説明する



その矢先が・・・オレの矢が捉えていたのは・・・



目標物ある木枯れ木に最後に一枚残っていた小さな木の葉であった





・・・・・・



「ハッハッハ、先ほどは疑って悪かったな!『魔獣喰い』マジウスよ、たんと飲むのじゃ」



来賓用の豪華な家屋ゲルの上座で、オレの隣にいる“雷王”テムジンはオレの持つ大きなさかずきに並々とお替わりの乳酒を注いでくる



乳白色でかなり度数がある酒で少しクセがあるが濃く美味い



目の前には質素だがこの部族では豪勢であとう宴席の料理が次々と運び込まれ、側近たちの飲み食いするこの家屋ゲルの中は大宴会そのものだ



「流石は『魔獣喰い』マジウス殿、先ほどの弓術はどのようにして取得されたのですか?」



手の平を返した様に“北馬族”の戦士達はオレの周りに群がり酒を注ぎ話かけてくる



その様子はオレを心の底から真の友として認めてくれた感じもあり、無骨であるが嫌みなく心地よい



小さな部族の集合体である彼らにとって個人の能力は絶対的であり、また敬意の対象でもあるのだろう



そんな賑やか雰囲気のままオレの歓迎の宴は進む



「ところで、『魔獣喰い』マジウスよ・・・お主がこの集落の場所を突き止めて遥々来たのには何か目的があったのだろう?」



オレの隣の席にいる“雷王”テムジンはそんな光景を心底楽しそうに見ながらオレに聞いてくる



「そうですね・・・大族長であるあなたに会うのも目的でしたが・・・一番の目的は“彼女”の力を借りようと思って来たんですが・・・・・・あっ、来ましたね」



その気配を察したオレはこの家屋ゲルの正面口の方に視線を向ける



「奥方様いけません・・・こちらには貴女様を入れるなと“雷王”様に命令されていました」



外からそんな衛兵の声が聞こえてくる



「何度も言っているが私の事を勝手に“奥方”と呼ぶな・・・そこをどくのだ・・・」



そんな女性の声と共に家屋ゲルの頑丈な扉が木っ端みじん吹っ飛び破壊される



それと同時に中に入って来るのは線の細く髪の長い女性の姿だ



日焼けを嫌っているのか足元から手先まで全身を豪華な服で隙間なく覆っているが、その豊満な身体のラインは隠すのが勿体無い位に女性的で美しい



その右手に握り肩に軽々と担がれているのは身長を越える無骨な大戦斧である



この細い体のどこにそんな剛腕があるのか目を疑うような光景だが、見慣れて久しぶりなオレにとっては懐かしく本当に頼もしい姿だ



家屋ゲル内の上座にいたオレは下に降り、森の戦士の最敬礼の姿勢をとりその方を出迎える



「『白猫姫』様、お迎えに参りました。大森林に戻って妹の獅子姫ちゃんとたちを助けに行きましょう!」



オレはそう声をあげ、自分の所属している“大砦”の最高司令官であり森の姫君である『白猫姫』に笑顔を向けるのであった








青年騎士レオンハルト侯爵:「何でおれだけ冒頭のあっさり登場なんだよ!?」



『魔獣喰い』マジウス:「だってお前は前にもこういう話があったから割愛だ」



レオンハルト:「それにしてもこの羽の5千文字中の900文字しか描写がないって扱いが酷くないか!?」



『魔獣喰い』:「許せ友よ・・・この“マタギ”はスピーディーさが生命線なんだ・・・」



レオンハルト orz






森の弓戦士「:中隊長、さっきのあの弓当ての距離なんですが流石にあの短弓では自分たちでもあの木まで届きませんぜ」



『魔獣喰い』マジウス:「そうか・・・それなら練習しておいてくれ・・・嘘がバレたらオレ殺されちゃうから・・・」






『白狼の尾』:「それなら、いくら私でもあの木に止まっている虫に矢を当てるなんて芸当は百発百中では無理だぞ」



『魔獣喰い』:「口から出まかせだったけど、師匠は本当に当てられるんですね・・・でもオレもあの時、もしも木に一枚も葉が無くて、一匹も虫がいなかったら・・・・今思うとゾッとしますね・・・・

       まあ、その時は神速で逃げていましたけど・・・)



『白狼の尾』:「お前って・・・我が弟子ながら本当に何て無計画なんだか・・・(涙)」










研究軍師セリーナ by竜舌★様

挿絵(By みてみん) 


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