139羽:ごちゃごちゃ考えずに・・・さあ行くぞ
大森林の中心部に突如現れた“魔穴”と呼ばれるその空間は、混沌と瘴気が混在した最悪の場所であった
これがこの中心部から大森林全体に広がり下界を被い尽したなら、この世はまさに終わりを迎えると言っても過言ではない
森の戦士団と下界の騎士兵士たちはその力を集結し“魔穴”周辺の湧き出る魔獣の群れを果敢に押さえつける
穴を守る様に現れた“敵”と呼ばれる四人の異人のモノ達・・・下界と森の選ばれた数人の戦士たちが激しい戦いを繰り広げそのモノたちを釘付けにする
死中に活を求める
そして遂に“五人の柱”たちは“魔穴”の中心部へと到達した
研究軍師セリーナとその実兄である教皇マリオが開発した増幅器を使った精霊神官たちの秘術が、“五人の柱”を媒体にしてその秘術結界が“魔穴”を覆う
完全に広がりかけていた“魔穴”は徐々にその穴を閉じ、そのまま封印の儀式へと移行していくだけだった
あと少し・・・
あと少しでこの世界に平和な時がまた訪れる・・・
その場にいた者が・・・大森林の各地で戦う戦士達がそう願っていた
・・・だが裏切られてしまったのだった
“大森林”が・・・
そこに古代から住まうの“精霊たち”が人間達を裏切って見放したのであった・・・
理由は分からない
原因も不明だ
だがその場にいた全員が感じたのだ
“自分たちが大森林に拒絶された事”を
『みんな、しっかりしろ!意識を集中するんだ!こままでは全員この森に飲まれてしまう!気を強く持つんだ!』
その場にいた全ての者が混乱と絶望に打ちひしがれる中、『魔獣喰い』マジウスだけは声を上げ皆を鼓舞する
その声は森の中で戦う全ての者の耳に響き勇気を与えた
彼は追撃して来る“敵”を吹き飛ばし“魔穴”の中心部へと駆け抜けて行く
再び開き始めた底が見えない程深く暗い“魔穴”の入口に颯爽と立ち塞がり、その姿は神々しくもあった
『暫くの間はオレがこの身で“穴”を抑えておく・・・その間に皆は・・・』
暗黒と混沌の深い“魔穴”に飛び込みながら彼はそう叫んだ
・・・それが最後に聞いた『魔獣喰い』マジウスの言葉だった
その直後に目の前が強い光に包まれ、気付くと大森林の中で戦っていた者達は下界と森の境目に全員いた
森の戦士に全村の住民達、そして下界の騎士団や兵士達・・・『魔獣喰い』マジウスと〝五人の柱”を除く全員だ
(一体何が起きたのか・・・)
誰もが放心状態で途方に暮れるそんな中、一部の者達が危険な森へ再び入り込もうとした
「おいお前ら、『魔獣喰い』の奴と獅子の姫さん、そして神官の嬢ちゃんを助けに行くぞ!」
大盾使いの“敵”との激しい戦いで全身傷だらけの森の大矛使いは、その傷を癒す間もなく森の中に行こうとする
「我が妹を!そして、我が皇国の聖女を救うのだ!」
皇国の精鋭部隊を指揮していた若き教皇は、部下にそう指示を出し自ら先陣をきり突き進んでいく
「我らが姫を・・・王女様を救うのだ!」
聖騎士と呼ばれる騎士はまだ気力の残っていた騎士を集め進む
だが・・・
だが“大森林”の中に誰も入れなかった
森の民も・・・下界人も・・・誰もが一歩すら森の中に入る事が出来なかったのだ
場所を変え、日を変えても中に入る事は誰にも叶わなかった
精霊神官たちによると“大森林”自身が全ての人間を拒絶しているのだという
何度も何度も月日を変え、策を労し果敢に挑むが誰一人として森の中に二度と入る事は出来なかった
そしてある日を境に、森に入ろうとする者は一人いなくなってしまったのだ
☆
「これが・・・三年前の出来事だ」
これまで長い話しをしてくれた副領主は、ここでテーブルの上の水を一口飲み一息入れる
彼自身も『魔獣喰い』や他の仲間と共に、大森林での激戦に挑み森から最後に光に包まれ下界に弾き出されたという
その後幾度となく再度森に入ろうとしたがその努力は報われず絶望と共にこのフランケンの村に戻って来たという
そして、あれほど好きだった酒もその日を境に絶っていた
「それから二年間、各国や森の民たちも色々と試したが全てが上手くいかず完全に行き詰っていた・・・そして数か月前に4大国家会議で決定した事は“大森林を焼き払い、これ以上の”魔の森“が広がる前に被害を喰い止める”という事だった・・・それがヴェルネア帝国の兵士達が森を焼いていた理由だ・・・」
最後の方はイケメン自身もあまり語りたくない事なのだろう・・・言葉短く終わる
「・・・・・・」
話し終わった室内は沈黙が続き、また気まずい雰囲気がその場を支配する
決してここに居るみんなも大森林の事を忘れて完全に諦めていた訳ではないだろう
その証拠にレイアお嬢様が中心となりこのフランケンの街を整備発展させ、交通の要所を抑える事により大陸の中で発言権増す事により各国に焦土作戦の中止を今だだ提言しているという
またそれ以外にも過激な行動に出ている者もいた
その中には森を焼く帝国軍に対してゲリラ活動を行う抵抗勢力の戦士達もいる
オレが数日前に帝国の陣地から助けたものの、その後亡くなってしまったあの森の戦士もそうした抵抗勢力の一員だったのだろう
『このまま放置したら、いずれは大森林は全て“魔の森”と化し、その瘴気や混沌は大陸中に広がりやがて人は滅ぶ・・・だが森は焼き払いたくない・・・』
そんな葛藤が数年経ってもまだこの下界を広がっていたのだ
目の前の男も話し終わると余程悔しかったのだろう、自分の拳から血がにじみ出る程強く握り締めている
「それでもマジウス様だけでもこうして戻って来られて・・・それだけが唯一の吉報でございますわ」
この場の重い空気を少しでも和ませようとケルガー商会のレイアはオレの帰還の吉報をわざとらしく喜ぶ
(オレだけが戻って来て・・・・そうか・・・そうだよな・・・)
イケメンの話を聞き終わったオレは複雑に絡まっていた糸が解れたように・・・足りないピースで未完成だったパズルが完成したように・・・
そんなすがすがしい気持ちになる
(何が起き、なぜオレがこの四年後の世界に来てしまったのか・・・)
(オレ自身の存在意義は何だったのだろうか・・・)
この下界に戻って来てから・・・数年経っていたという事に気付いてからそんな葛藤がオレを悩ませていた
だがうじうじ悩むのって・・・
『『魔獣喰い』、どうせ話はいつも聞いていないのだろう?能天気に思うがままに行動する。その方がお前らしいのだ』
幼いが頼れる研究軍師のそんな声が聞こえてくる
『マジウス様は運命の神がこの世界に使わせた勇者であられます。私たちは信じてそれを待ちます』
ただの弓戦士だったオレを勇者と信じてやまない聖女の信頼の想いを感じる
『『魔獣喰い』様は神の勇者でありません。私たちの・・・森の勇者なのです』
そんな聖女様に張り合い反対側からは神官ちゃんの声がする
『マジウス・・・男爵・・・あまり長くは待てないから早く迎えに来てよね・・・』
ワガママで勝気な下界のお姫様のそんな声がする
『お前が助けに来ないのなら、我々だけの力でここを出て行くのじゃ・・・その貸しは大きいぞ・・・それでいいのか?』
森の剣姫のそんな恐ろしい言葉が脳裏に浮かぶ
(そうだよな・・・こりゃ参ったな・・・早く皆を助けに行かないとな・・・さてと・・・・)
「よし、それじゃあ行ってくるか!」
オレは座っていた椅子から立ち上がりそう宣言する
「行くって・・・マジウス様は先ほど帰還されたばかりなのにどちらに行かれるのですか?」
レイアは突然のオレの宣言に驚き聞いてくる
「どちらって・・・行くって言ったら一か所しかないでしょう!」
オレは胸を張り声高々に答える
「いきなり行くって・・・具体的にどうするかちゃんと考えているんですか?」
それまで下を向き暗い顔をしていた領主補佐官クリステルは、パッと顔を上げオレの無策ぶりにチクリと釘を刺す
「ああ、多分・・・大丈夫かな・・・オレ以外にも諦めの悪い奴らがいるみたいだから・・・それを集めて行ったら何とかなるさ!」
無策ではない・・・でも、無謀なのかもしれない
「班長が帰って来たら・・・間違いなくそう言うと思っていた・・・相変わらず班長といると退屈はしなそうだな・・・それなら各国各都市にいる森の諜報部隊のヤツ等に“鳥”を飛ばして連絡しておく」
オレと長い付き合いになるイケメン剣士はそう呟き、連絡用の暗号手紙の準備をしてくれる
「副領主様も補佐官様も、二人とも分かっている様で・・・私には一体何が何やら・・・一体マジウス様はどちらに向かわれるというのですか?」
この場でまだ状況を掴めていないレイアお嬢様は、置いてけぼりをくらった子犬の様な顔で聞いてくる
「行くっていったら一か所しかないでしょう・・・もちろん“大森林”に行って皆を・・・五人を救いに行くんだ!」
『魔獣喰い』マジウスことオレは、昔と変わらない能天気な笑みを・・・だけどもどこか懐かしく頼れる笑顔でそう宣言する




