138羽:イケメン剣士語る 前半 ★イラスト有り:女騎士スザンナ
あとがきに『女騎士スザンナ』イラストがあります。
あくまで書いた方のイメージです。
個人のイメージを大事にする方は閲覧ご注意ください
「だが、研究軍師セリーナや『獅子姫』様たちはもうこの“世界”いない・・・」
部下であるイケメン副領主の口から出たその言葉にオレはしばらく絶句する
「・・・」
その反応にこの部屋にいた領主女補佐官クリステルと大商人レイアも下を向いて言葉がない
「いないって・・・この“世界いない”って・・・それに“たち”って・・・一体どういう事だ!?」
言葉を失いまだ混乱から回復していないオレだが、その言葉に微妙な含みとボヤカしを感じ、イケメンの両肩を強く握り思わず詰め寄ってしまう
(普通に“死んだ”ならそんな言い方はしない・・・そして他にも“誰か”いなくなったのだ・・・)
その返答を聞くには、絶望を含んだ怖さと僅かな希望を知る覚悟が必要だった
オレは心を落ち着かせ様と頭の中を整理する
「すまない・・・班長・・・ここからは少し長い話になる・・・落ち着いて聞いてくれ」
イケメンはそんなオレの反応を予想していたのか、興奮した自分に落ち着いて対応してくれる
その落ち着いた雰囲気はどこか全ての苦労を乗り越えた重みがあった
「ああ分かった・・・」
オレは席に戻り、再びテーブルにあった苦みを感じる水を一口飲み自分を諌める
「いいか・・・では、話を始めるとする」
大森林の剣の使い手でフランケンの副領主『清流の刃』は、補佐官クリステルの補足を受けながら語り始めた
☆
それは三年前に起こった
ある日の突然“魔”が本格的に活動を開始したのだ
大陸各地にに魔の結晶である“魔素”現れ、それにより召喚された凶暴な“魔獣”の群れが下界の人々を襲った
魔獣の群れは農村の無防備な村人たちを次々と襲い、また城壁に囲まれた街に侵入し多くの住民達を喰い荒らす
人々も自衛の為の弓や剣を手に取り反撃するものの、普通の獣より大型な魔獣に通常武器の刃は通り難く、逆に鋭く大型に変化したその爪牙は金属鎧すら軽々と斬り裂いた
そんな阿鼻叫喚な状況から逃げ出し隠れる者も多くいたが、重量級の魔獣の突撃により頑丈な建物や城壁すら破壊され、人間たちの安住の地はどこにもなかった
・・・
だが、人間達も黙って一方的に殺られていた訳ではない
本格的な大反撃を開始したのだ
実はベール王国、ヴェルネア帝国、イスラマ神聖皇国、そして “北馬族”を含む下界の四大国家は、魔獣が溢れる出す前から対抗策の準備を着々と進めていた
森の研究軍師セリーナが中心となり事前に対魔獣用の戦術や対応を各国に伝授し、それぞれの騎士団や戦士団は厳しい訓練を行う
また大森林の奥地に住む独自の製鉄技術を持つ“山穴族”の力も大きい
四年前にフランケンの村に彼らの第一陣が住み着いた事により、 “山穴族”の職人ごと各国に送り込み魔獣にも対抗出来る武具の生産を進めていた
そして何より決定的だったのが、四大国家それぞれ王たちが“魔”の脅威と各国が協力をしてそれに対応していく重要性を事前に理解し側近や騎士兵士団に広めていた事が一番の要因だった
これに関しては『赤髪』ガエルや『弓公子』アベル、王マデレーンや『聖騎士』ヘルマン、そして“北馬族”の大族長と密かに親交を持っていた『白猫姫』たちが各国の皇帝や王たちに真摯に根回しをしておいた賜物であった
それまで長年お互いに牽制し合っていた四大国家同士が、共通の敵を持ちその知識と独自の技術を深め交流を持った事はこれまでの歴史上なかった事だった
そしてその背後に、レイアが属する大陸最大商会であるケルガー商会が暗躍していた事も忘れてはいけない
各国に膨大な金の貸付があるケルガー商会はその影響力を最大限に使い、金策と物流において対魔獣の整備を迅速に進める手伝いをしていたのだった
それにより武器商人でもある商会が莫大な利益を得ていた事は言うまでもない
こうして一時は“魔素”と魔獣の群れの出現によって防戦一方だった下界人たちだったが、本格的に騎士団や兵士団が投入する事により形勢を逆転し魔獣たちを駆逐していくのであった
その戦いの中において、大森林の戦士団やフランケンの村に常駐戦士団が大活躍をした事は容易に想像できるだろう
・・・
「その時の班長は、まさに一騎当千の活躍で魔獣の群れ相手に奮闘していたぞ」
イケメンは話の中でそうオレの行動を説明してくれる
何でも弓の師匠である『白狼の尾』から受け継いだ剛弓と不思議な術を組み合わせ、オレは単騎で魔獣の群れを駆逐していたという
「ああ、そうなんだ・・・」
オレはそう返事をするが勿論そんな記憶は一切ない
むしろ四年前にオレは“黄麟”がいたあの異空間に連れていかれたのにも関わらず、何故か“オレの肉体”がこの下界の世界に残って戦っていた事が驚きだった
イケメンやクリステルちゃんが言うには“その時のオレ”は前と何ら変わらない姿と性格で特に不審な所はなかったという
(という事はあの異空間に行ったのは・・・オレの精神体みたいなモノだけだったのだろうか・・・だけどのその期間は誰かがオレの肉体を操っていたのか・・・いやオレ自身が時間を越えてしまったのか・・・)
考えるだけ纏まらず混乱してくる
諦めてオレは話の続きを聞く事にした
・・・
下界の四大国家と森の戦士団の活躍もあり、膨大な数の召喚されていた魔獣の群れは徐々にその姿を消していく
もちろんその四大国家以外の各国の中には半信半疑で非協力的な国もあり、魔獣に対して有効な抵抗が出来ずに消滅した小国のあったという
だが相対的に数が多く“戦術”という知恵の武器を持った人間たちは強かった
(このままいけば勝てる!)
人間たちの誰もがそう思っていた
だが・・・そんな時・・・
“魔穴”開きはじめ、再び形勢は逆転する
“魔素”の数倍・・・いや数十倍の規模であるその“魔穴”が開きはじめ、それだけで途轍もない瘴気が下界を覆った
天候は乱れ農作物は枯れ人々は生きる気力を奪われていく
しかもよりによって、その扉は大森林の中心部に現れたのであった
大森林自体が徐々に“魔の森”と化し浸食されていった
その最前線に立たされた森の民たちは勇敢に戦った
下界の各国の選ばれた戦士や騎士達も大森林に集結し、これまでにない規模で森の魔獣の群れと激突する
改良した攻城兵器が大型魔獣を砕き、森の戦士と下界の剣士たちの研ぎ澄まされた槍や剣が魔獣の硬皮を貫く
押されていた戦線も押し戻し一進一退へ・・・
だが、問題があった・・・
このまま一進一退で大森林の中で戦い続けてたとしても、いずれは大森林の全てが〝魔”に侵されこの大陸は滅んでしまう
そして人間たちは“決断”する
『大森林ごと“魔穴”を封じ込める事』を・・・
それは森の研究軍師セリーナと彼女の実兄でもあるイスラマ神聖皇国教皇マリオが解読し最後の方法だった
―――――――――――――――――――
遥か遥か大昔
この大陸に大きく多くの『魔』が湧いた
その強き『魔』は大陸中の民を恐怖に陥れ、人々は抵抗も虚しく『魔』に滅ぼされようとしていた
しかしその時
大陸中の各部族の勇者達が勇敢にも立ち上がり、力を合わせ『魔』に立ち向かう
森の民、山の民、海の民、風の民、地の民、そして下界の民
多くの戦士が命を失いながらも激しい戦いの末に、ついに『魔』を元の湧きい出てきた穴に封じ込める
その魔穴を封じ込めるように、“眠りと封印”を加護する精霊神によってこの大森林が誕生し、“森の戦士”はそこを守る為に大村と城を築く
精霊神は森の戦士たちに、少しずつ湧きい出る小さな『魔』に対抗するために『精霊の祝福』を与え、末長く森を守護するようにした
―――――――――――――――――――――
この逸話と更に解読された各国の古代書や聖書によると“魔穴”が開いた事は過去にもあったという
その時と同じ方法を使い再び封印を実行する事になった
それには大古の事例から“五つ柱”の力を必要とした
精霊神官たちの秘術と聖女たちの神託により〝その者達”を集める
下界の騎士団と森の戦士達は大森林で力を合わせ突破口を開き、その“魔穴”の開きかけた核心部にその少数精鋭の男女を送り込む事になった
その作戦は膨大な魔獣の群れをかき分け苛烈を極めたが、何とかその中心部に到達することに成功する
選ばれた精霊神官たちの命を懸けた術式によりその封印が完成し、世界が救われようとしたその瞬間・・・“あの事件”が起きたのであった




