137羽:いないこの〝世界”
城塞都市化したフランケンの街の中をゆっくりと進む
街中では急ピッチで道を石畳に改装工事されており、交易商人たちの大型荷馬車もすれ違える程にその道幅は拡張されていた
帝国・皇国・ベール王国の三大国家の街道を最短距離で結ぶ要所として、引っ切り無しに交易商人が訪れていたバザール広場も何倍もの規模で拡張されている
城壁内の建物は建造中の物も多く、至る所で釘をリズミカルに打つ音や大工たちの威勢のいい掛け声が飛び交っていた
見た感じでは街を大きく囲う覆う城壁を先に広めに建設し、その後に内部の街を整備しているように感じた
先に城壁を整備したという事は“外敵”の脅威があったのだろうか
また、交易商人たちは豪華な商館や倉庫を建設し、それに付随する様に宿屋や酒場、靴毛・皮職人、仕立屋、パン屋、運搬屋、馬具職人、鍛冶職人、両替商、娼館など多く商売人や職人たちが近隣から一攫千金を狙いこの街に集まっていた
驚くほど軽税政策をとった事もあり、ここに本館を構えて隣国に進出していく猛者商人も現れまさに発展途上の賑わいと勢いが混在した街である
・・・そんな賑やかな町の中心部にひときわ大きくにそびえるのが、この街の行政の館であり本城の役割を持つ堅牢な建物であった
その館の一室に『魔獣喰い』マジウスことオレは通されていた
・・・
「つまり・・・マジウス様はあの後の“記憶”が無いのですか?」
この街の領主補佐女官クリステルは目を細めてオレに再度訪ねてくる
彼女は先ほど城門の前でオレを見るなり涙を流し感動の再会をしたのだったが、今はその感動も薄れ元の冷静な妹騎士ちゃんに戻っていた
「はっはっは・・・どうやらそうなんだよね・・・」
オレは苦笑いを浮かべながら疑念の目を向けてくる妹騎士クリステルにそう答える
「まあ、班長なら何でも有りだから今更驚く事でもないな」
そのクリステルの隣の椅子に座りボソリと呟くのは森のイケメン剣士改めイケメン副領主だ
こいつとは大森林にいた13歳位から一緒に行動しており、オレの波乱万丈・奇想天外な出来事にも慣れた様子だ
「それにしてもマジウス様がご無事で何より御座いましたわ・・・変わらずお元気そうで私も安心しましたわ」
そう言いながら少し派手目な扇で口元隠しながらオレを見てくるのは、大商会であるケルガー商会の娘でありこの街の出資者でもあるレイアお嬢様だ
「確かに変わりませんね・・・」
「ああ、変わっていないな・・・」
クリステルとイケメン副領主はそう呟きながらもう一度オレの顔をジッと見つめてくる
その視線はどこか痛々しい
「そっかな・・・ハッハッハ・・・」
オレは乾いた笑い声をあげ流れる汗を手で拭いて誤魔化す
「ところで・・・」
オレはどうしても聞きたかった事を・・・勇気を出して言葉にする
「ところで・・・あれから何年経っているの?」
オレのその質問にそこにいた一同は深いため息をつく
☆
「四年か・・・そんなに経っていたんだ・・・」
オレは温くなった水を飲みながらそう呟く
“年月が経っていた”
このフランケンの道中の様子から予想はして覚悟はしていたのだが、実際にその年月の進み具合を具体的に耳にするとオレは驚きを隠す事は出来ない
逆にオレの話を聞いたこの部屋にいるメンバーもそれは同じで、皆一様に驚きの表情を浮かべる
「という事は・・・マジウス様は四年前にこのフランケンの“村”を出発してイスラマ神聖皇都に向かい、その後の記憶が無いという事ですか?」
驚きながらも妹騎士クリステルは冷静に分析を始め確認してくる
羊皮紙にメモを取りながら内容をまとめてもいる
「そうだね・・・皇都に行って、そうしたら北の草原の“北馬族”が侵攻して来て・・・それに中隊の皆と傭兵として参戦して・・・師匠『白狼の尾』と『白猫姫』様が戻って来てくれて・・・それから記憶が無いかな・・・」
オレにとってはついこの間の出来事、他の皆みは四年前の事をそう説明する
皆には内緒にしているが、あの“異空間”に連れていかれ“敵”である“黄麟”と対峙し、自力で抜け出して来た事は誰にも言っていない
『異空間にほんの一瞬行ったら四年も経っていました・・・』
と言っても誰も信じてもらえそうになく、更にオレの今この身体の中にある“敵”と似た“覚醒した力”をどう説明していいか分からなかったからである
(もし知り合いに聞かれても記憶喪失という事で誤魔化しおこう)
ここに来る道中そう決意していた
「四年間・・・結構な年月ですがマジウス様の姿が・・・四年前とお変わりないのは本当に摩訶不思議な出来事でございますわね」
大商人レイアお嬢様はそう呟きオレの顔と、この部屋にいた他の二人の顔を見比べる
本来ならオレの年下であった妹騎士クリステルは今や二十歳を越え、短かった髪は長く伸び一つに結っていた
生真面目な性格や顔つきはそれ程変わりないが、年齢を重ね大人になった彼女は元々持っていた美しさに磨きをかけ大人の色気も醸し出している
一方、イケメン副領主は元々オレより少し年上だった事もありあまり変わりないが、前に見た時より精悍な顔つきにどこか落ち着いた雰囲気も加わっていた
さっき聞いた話では、オレがいない間はクリステルや他の仲間達と協力してこの街の統治に全力を尽くしていたという
また、摩訶不思議と言っていたレイアお嬢様だが、前と変わらず巻髪にフリフリな豪華なドレスを愛用しており、彼女自身も四年前と変わっていない様に感じたのはオレの気のせいではないだろう
だがそんなお嬢ルックが変わらないレイアだが、三年前からここフランケンに巨額の投資を行い、街を囲む城壁や街並みの整備資金などは多くは彼女が出資したのだという
それによりこのフランケンは急激な発展を遂げ、出資者である彼女も莫大な富を得たというのだから、見た目はアレだが商人としての彼女の才覚は侮れないものがある
そして今では実家稼業であるケルガー商会とは別に、自分でもこの街に本館を置くレイア商会を設立しその発展に力を入れているという
(みんなこの四年間で成長し大きくなっているんだな・・・・)
オレは皆の話を聞きながら、自分だけ置いていかれたような・・・そんな置いてけぼり感でふと寂しくなる
「あ、そういえば皇都いたセリーナちゃんは・・・『白猫姫』様たちは元気にしているのかな?大森林の方にも何かあったみたいだし・・・」
こちらこそオレが今回確認したかった本題だ
オレがその言葉を口にすると、それまで久しぶりの再会に和気あいあいとしていたこの場の雰囲気が一気に影を落とす
「・・・・・・」
オレ以外の三人はお互い顔を見合わせ口を紡ぐ
「・・・『白猫姫』様は一応健在だ・・・だが・・・」
しばらくしてイケメンが重い口を開く
「だが、研究軍師セリーナやそして『獅子姫』様たちはもうこの“世界”いない・・・」
その言葉にオレは自分の耳を疑った




