131羽:終りの始まり
※この作品は間違いなく
転生したら森林部族だった【マタギの孫をなめんなよ!伝説】
です。
多少話が飛んでいますがご安心てお読みください。
目が覚めるとそこは小さな部屋だった
寝ていたという訳ではない・・・意識を失っていた感じでもないが気付くとそこにいた
自分の武装を確認する
常時持ち歩いていた弓矢や帯剣・革鎧等は無く、唯一あるのは腰の愛用の手斧だ
小振りで射程範囲が短い代物だがこの状況では頼れる存在だ
(まずはこの部屋を出て状況を確認しよう・・・)
だが部屋と認識したものの、ここは出口さえない真四角の空間だ
今となって狭いのか広いのかさえも分からない
灯りや窓が全くないのにも関わらず部屋全体的にぼんやりと明るく、その空間の真ん中には一個のテーブルと二脚の椅子があるだけだった
“あの世界”の常識・・・いや“前の世界”の常識から考えても明らかに非日常的な空間である
《目を覚ましたのか・・・流石に早いぞな》
油断していた訳ではないが、気付くとその椅子の一方にその声の主が座り自分に語りかけてきた
五感を張り巡らせていたにも関わらず突然現れた謎の人物
「怪しむな」という方が無理な話だが『魔獣喰い』ことオレは、不思議な事に妙な安心を感じ冷静にその声の主の観察する
全身を覆う様に着ているフード付きのローブのお蔭で表情は分からないが、それほど身体は大きくなく強者の戦士に有りがちが雰囲気もない
だがその周囲には何とも言えない強いオーラを感じ、更にこの者が只者でない事はここに突然現れた事と合わせて理解出来ていた
「ここはどこだ?・・・そしてあんたは誰だ?」
段々と何となく理解はしてきた
一番聞きたい事を自分でも恐ろしいほど冷静に目の前の人物に問いかける
まるで自分が自分でない様に客観的に冷静だ
腰の手斧はいつでも振り抜ける様に準備はしておく
目の前の人物が只者ではないとしても、一方的に大人しく従うつもりは今のオレにはなかった
《そう警戒するでないぞな・・・まずワシはお前さんの敵ではない、むしろ仲間だ・・・そしてここはお前さんが住んでいた世界と、“前のお前さん”が住んでいた世界の“狭間の空間”とでも言っておこうか》
そう漠然と説明し、空いているもう一つの席に座るように指さす
《そうそうワシの名は“黄麟”・・・古い名は遠い昔の事なんで忘れてしまったが・・・“ダテ・モンド”ともいう》
そのフードの男はそう二つの銘を名乗った
・・・・・・
オレは勧められた椅子に注意深く座り、目の前の男をもう一度観察する
“黄麟”は下界でも聞いた事がない呼び名だが、似た様な名は聞いたことがあった
“蒼竜王”に“紅鳳王”・・・つまり“敵”の名だ
そう言われるとこの不可思議な空間や、目の前の男の怪しい術の存在が納得できるというものだ
だが・・・
《そう「伊達主水」だ・・・やれやれ、日本語を使うのも本当に久しぶりなのもんで、発音も覚束ないのう》
やはり“ダテ・モンド”とは日本名であった
オレ自身も日本語を聞くのは十数年ぶりだ・・・怪しい相手を目の前にしているとはいえ妙な安心かと連帯感がある
だが警戒は怠らない、何故なら自分の直感がこの男に対して危険信号を放っていたからである
《お前さんとはもっと早くに話をしたかった。まあ、これまではお前さんの封印やら結界やらでここに呼ぶ事も近付くことすら出来なかった・・・ほれ、そのお茶でも飲んで寛いでくれ》
そう言い終わると同時に目の前のテーブルには“湯飲み茶わん”が置かれており、中に茶色液体が入っていた
匂いを嗅いだだけでも思い出す・・・これは緑茶だ
お爺ちゃんっ子だった“前の自分”にとって、それは飲み慣れた日常的な飲み物であり日本人の象徴でもある茶であろう
《永らくこの空間に身を置いていたから、こんな紛い物しかワシの心の寂しさを満たしてくれる物はないぞな。どうじゃ、懐かしいじゃろ?》
そう言いながら自分用の湯呑み茶碗に手をつけ、音と立ててゆっくりと飲み干す
《毒なんぞ入っていないから遠慮はするな・・・まあ、毒なんぞ入っていたとしても、“ここ”に来て最終封印が解けてしまったお前さんには何の効果も有りはしないがな》
そう呟きながら今度は和風なお茶菓子を出しそれを一つまみする
《ああ、何ならお前さんの方から聞きたい事を口に出してみてもいいぞな・・・あまり難しいことはワシにも分からないかもしれんがのう》
そう言いながらホッホッホとワザとらしい笑い声を上げる
(・・・おかしい・・・この“黄麟”という男、嘘は言ってはいないが何かを隠している・・・のらりくらりと時間を伸ばしている様な感じだ・・・)
オレは目の前の男から感じていた“違和感”の正体を探っていた
「“時間”・・・?」
その単語を口に出して瞬間、オレの頭の中に膨大な情報量が流れ込んで来た
(そうか・・・時間稼ぎをしてオレをここに足止めしていたのか・・・大森林が・・・皆が危ない!)
その事に気付いたオレはその席立ちこの空間を抜ける方法を探す
(・・・“門”か・・・こいつ等がいつも出たりはったりしたアレか・・・門を開けたらあの世界に帰れるのか・・・)
自分の頭の中に入っていた情報からここを抜け出す方法を見つけ出す
オレは“門”を開けて下界に繋げる為の術式を頭の中に思い描き展開する
“月と陽の位置関係の制約”は強制的に排除
それにより転移場所は細かく特定出来ないが、これで下界のどこかに“門”で出られるはずだ
術式が完成
自分の目の前に異空間と思しき存在が現れる・・・
これが“門”であろう
(早くここを通り、皆を助けに行かないと・・・)
《まて・・・元の世界・・・“日本”にはワシの力が無いと一生戻る事は出来ないぞ!お前さんもそれを望んでこの空間に付いて来たのじゃろうが!?》
“黄麟”はそう叫び、オレが門を潜るのを呼び止める
完全に封印が解け記憶と情報が錯乱していたがオレは、確かにその「元の世界“ニホン”に帰りたければワシに付いて来い」という言葉に誘われるがまま、この空間に来てしまった
危険な罠かという疑問もあったが“大丈夫だ”という自信があの時はあったのだ
封印が解けて完全に覚醒したからだろうか・・・
現にこうしてオレは自分の力でこの空間を抜ける事も“敵”を排除する力も持ち得ていた
《日本に帰りたくないのか!?》
再度“黄麟”は訪ねてくる
「確かに日本には帰りたいかもしれない・・・だがお前の助けは“ノーサンキュー”だ」
オレはそう言い残し目の前の“門”の中に飛び込む
異空間に続く怪しい術式の“門”
だが自然と恐怖は感じていない
(仲間を助ける・・・)
ただその思いでオレは行動していた
・・・・・・・
異空間の部屋に一人残された “黄麟”はショックのあまり項垂れていた
《くっ、あの力とワシの知識が合わされば現世にワシも戻れたものを・・・だが時間稼ぎは十分出来た。本当ならあと数年はここに縛り付けて置きたかったが、先ほど稼いだ時間ならもう下界に戻ったとしても手遅れであろう・・・不本意だがもう一つのあの方法を実行するしかあるまい・・・》
あの状態のヤツに対して嘘は通じない
のらりくらりと時間稼ぎをしたつもりだったが、途中でそれも看破されてしまいこの有様だ
だが自分の作戦に落ち度はない
例えあの男“特異点”が下界の事変に間に合ったとしても、その後の“崩壊”は防げまい
“崩壊”さえ起ってしまえば帰る手立てはもう一つある
《特異点・・・奴は数百年待ち望んだニホンへワシが帰る鍵なのだからな》
“黄麟”は小さな声でそう呟きこの空間を後にする




